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本編
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しおりを挟むぼくの毎日は変わらない。
男爵領から学院に通うにはちょっと距離があるから、ぼくは学院の寮に入ってる。
それなりの広さの個室。
あまり疑問に思わなかったけど、なんかグレードが高い気がする。
貴族の子供に対しては全部こういう部屋かと思っていたんだけど、どうやら違うようで。
それに気づいたのは去年。
なんで男爵家の次男があの部屋に住めるんだ……って陰口をきいてから。
よくよく調べたら、ぼくが住んでるお部屋は、学院寮の中で一番いいお部屋だったんだ。
寄付額も高いのになんでだろう。
お部屋が広いから、王都にお屋敷のあるアベルも、当然王宮から通っているレイも、よくぼくの部屋にいる。
たまに泊まっていったりもする。
ベッドが大きいんだ。三人で寝てもまだ余裕があるくらい。
ぼくは小さいから、ぼくだけなら六人くらい寝れそうな広さ。
うん。このベッドも、なんでこんなに大きいんだろう。
簡易キッチンもついてて、広いお風呂場もついてる。
部屋、っていうか、もうお家だよね。
寮には大浴場があるのだけど、ぼくは二人から、絶対大浴場には行かないように釘を刺されてて、どんなものなのか見たこともない。
お部屋のお風呂にシャワーも付いてるし、湯船は大きいしで、行く必要もない。
洗髪剤とか香油とか石鹸とか、必要なものは何故か二人がちょこちょこ持ってきてくれる。すごくいい香りがするし、髪も肌もしっとりだ。
そんな快適な部屋で過ごして、ちょっと居心地が悪いなと思いながら授業を受けて、でも放課後には大好きな二人と一緒に過ごせる毎日。
ぼくはそんな毎日が好き。
「セレス、今日は俺もアベルも放課後迎えに行けないんだ」
「お仕事?」
「うん…。レイの家のことと、僕の家のことが重なっちゃって」
「そっかぁ」
たまにある、一人の時間。
ちょっと寂しいけど、家の事情なら仕方ないよね。
レイは王太子で、アベルは公爵家の跡取りなんだから。
「明後日は休みだから、明日はセレスのとこに泊まるから」
「美味しい夕飯準備するからね」
「うん」
教室の前で、二人が頭を撫でてくれて。
ちゅ、って、額にキスをしてくれる。
「くすぐったいってば」
「んー……、一人にするの不安で」
「学校終わったらすぐ部屋に行くんだよ?」
「わかってるよ」
じゃあね、って、手を振って二人と別れて教室に入る。
その途端、凄い視線を感じたけど、いつものことだし。
いいや。
いつもと変わらない授業を受ける。
先生の説明でよくわからないところは付箋を貼っておく。後でレイとアベルに教えてもらうから。
午前中の授業を終えてすぐ、レイとアベルは学校を出たらしい。
お昼…、寂しいけど、用意しておいたパンを一人で食べる。
ちょっと行儀は悪いけど、読みかけの本を開きながら。
お昼休みも視線が刺さる。
ぼくのことなんて、睨んでたって意味ないのに。
「カレスティアって子、いる?」
放課後。
全部終わって荷物を片付けていたら、いきなり呼ばれた。
戸口に立った子は、きょろきょろと教室内を見回して、ぼくと目が合う。
「あの…?」
「お前がカレスティア?」
「は、い……」
青銀色の長髪を一纏めにして、澄んだエメラルドグリーンの瞳の子。
「あのさ」
そのこは教室の中に入ってきて、ぼくの目の前まで来る。
すらりとしていて、ぼくよりは少し背が高い。
「レイナルド殿下とアベルシス様に付き纏うのやめてくれないかな?」
「…え」
「僕、レイナルド殿下の婚約者候補なんだけど。お前が身分違いも理解しないで付き纏ってるせいで、全然話が進まないんだよね。それに、殿下の側近候補のアベルシス様だって、お前に付き纏われて迷惑してるんだ」
足元から、ヒヤッとしたものを感じた。
迷惑……なんだ。
付き纏ってるつもりはなかったけど、そっか…。ぼくが、二人に頼り切ってるから。二人は優しいから、迷惑だなんて、言えなくて。
「僕は侯爵家の次男で、殿下のお子を授かれる。家柄も十分で、魔力だって高いし、知識もある。何もかも、お前は僕の足元にも及ばないんだ。いい加減、殿下とアベルシス様に付き纏うのやめて。二人を解放してほしいんだよね」
「………」
ぼくは、何も言うことができなかった。
目の前の侯爵家の次男だという子は、綺麗な顔立ちで。
候補……って言ってたけど、もう決まってるようなものなんじゃないかな。そうじゃなきゃ、こんなに自信に満ち溢れていないと思う。
きっと、レイが、首を縦に振れば――――決まる話。
「…………わかり、まし、た」
わかってたことだよ。
卒業式のあとの話だと思っていたことが、今このタイミングだったっていうだけで。
「言っとくけど、腹いせに僕に何かしようとしても無駄だからね。僕は王族の子を身籠るんだから。僕になにかしたら、侯爵家が――――殿下が、お前の家ごと潰すんだから」
……レイが、ぼくの家を、男爵家を消してしまうの……?
学院に入る前から、何度も遊びに来ていたのに。
両親とも、兄様とも、とても楽しそうにお話してたのに。
「……しま、せん」
「その言葉、忘れないでよね。ここにいる全員が証人なんだからね」
『レイの婚約者』は、満足そうに笑うと、教室を出ていった。
ぼくはその場で立ち尽くしてしまう。
「やっぱりな」
「ファニート様が婚約者になるのか」
「妥当でしょ?侯爵家だし」
「まあ、殿下も平民に近い存在が面白かっただけじゃない?」
……そんな会話が、聞こえてきたけど、ぼくは、もうどうでもよくて。
なんだかぐるぐるし始めたお腹をさすりながら、カバンを手に取った。
クラスメイトたちからの慰めの言葉もなにもない。当然。慰められるような関係じゃないし、むしろ、ニタニタ笑ってる雰囲気がわかるくらいだし。
でも、いい。
ほんと。
どうでも、いい。
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