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(お兄ちゃんを殺して、その血を浴びるのが一番だけれど、私の血でお兄ちゃんを染められるのもそれはそれでそそるかも~)

「ねぇ・・・くっ」

 慎一は楓の首を絞める。

「だまれっ」

(そう、そう、お兄ちゃんはどんなに繕ってもそこの浅い人。そうだよ、欲望のまますればいい―――)

 理性が飛ぶ・・・という突発的な物ではなく、徐々に徐々に理性が消えてくると、眠いような気持ちよさが襲う。

「・・・っ」

(あぁ、声も出ない・・・)

 瞬きをして、目を閉じるとそのまま意識が飛びそうになる。

(最後の言葉は「愛してる」が良かったな)

 楓は言葉が伝えられないため、別の方法を考えた・・・というよりは、本能的に動いた。
 そっと、楓は慎一の顔へ手を伸ばす。慎一は楓が自分に反撃するのだと思って、肘を伸ばす。
 さすがに180センチを超える慎一の腕は長く、150センチ前後の楓の腕では届かない。

(撫でることもできないか・・・じゃあ)

 楓は白目を向きそうになりながら、顔も真っ赤になりつつあって恥ずかしいと思いつつ、一生懸命できる満面の笑みで両手を前回に伸ばす。

(抱きしめて・・・死んだ後でもいいから)

「ああっ、ああっ・・・っ」

「かは・・・っ」

 急に慎一が手を緩めて、楓の脳に酸素を含んだ血液が一気に上がって来て、同時に頭がはっきりし出して、苦しさがやってきた。

「げほっ、ごほっ、ごほっ・・・おぅっ」

(あーやばい・・・失禁しかけた・・・)

 吐きそうになりながらも、なんとか正常へと帰ってくる。

「ん?」

 自分のことで精いっぱいだった楓だったが、顔が濡れるのを感じて目を開けると、焦点がなかなか合わない。

「っくっ、っくっ・・・っ」

 何度も顔に生ぬるい水滴が落ちてくるを不快に感じながらも、瞬きすると、ようやく原因がわかった。

(かわぁいい・・・)

「ほーんと、兄妹だよね・・・私たち・・・っ。おいで」

「うわああん、あんあん・・・っ」

「よーし、よしよし」

 ちょっと重いと思いながらも、身体を委ねてくる兄の慎一。
 それを優しくしたから抱きしめて背中を摩る楓。

 学生だからと言うのもあるが、普段の立ち振る舞いが影を背負っているように見える楓。
 社会人として人から何を言われても笑ってかわせるように見える慎一。

 だが、実際は少し異なる。
 楓も慎一も闇を抱える気質のある人間だが、楓はそれを認めつつ上手く飼いならしており、思ったよりは常識人。逆に、慎一は闇持つことを否定し、無理やり心の奥に住まわせているから、魔物の存在は本人すらどうなっているかわからず、制御は困難であった。当然、刺激しておびき出したのは楓だ。

 楓は、母にも妻にも見せずに苦しんでいる慎一の姿を見たのを思い出す。

「まったく、お兄ちゃんって本当に馬鹿だよね」

 100%の善意でやっているわけではない。母親からは兄のようにしなさいと注意される原因にもなっているし、恨みもしている。でも、同類嫌悪でありつつも、理解している楓。

「ねぇ・・・なんか当たってるけど・・・」

「どうせ・・・僕は醜い野獣だぁ・・・」

「はいはい」

 楓はボーっとしながら、再び背中を摩り、慎一が泣き止むまで慰めた。




 
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