異常姦見聞録

黄金稚魚

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怪人花ラフレシア

野外調査

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 某県某市、○○山。時刻は朝の六時。日がまだ登りきらぬ内とは言え夏の朝日は強い。
 私は手にした写真と目の前の風景を照らし合わせた。

「ここがその場所ですか」

 もう使われていない古い掘建て小屋。写真の中では建物の影に隠れるように赤褐色の花が咲いている。掌にはとても収まりきらない巨大さと特徴的なシルエットは花に詳しくない人が見てもその名前を言い当てる事が出来るだろう。

 花の名前はラフレシア。死体花と渾名される怪花だ。


「発見されたのは一度のみです。痕跡を見つけるのは難しいでしょうね」
「分かっています。ダメで元々ですからね。ひとまず写真の場所を回りましょうか」
 

 私のすぐ後ろに立つ男性、久津三教授がうなずく。津久三教授は生物学を専門としている事務所お抱えの教授だ。
 編集長とは古くからの付き合いらしく当時は二人でUMAを追っかけていたそうだ。
 今回の怪人花の調査も二つ返事で協力してくれた。

 そして見つけたのがここ○○山だ。
 なんとここは三十年前にラフレシアの大量発生が確認された土地だ。

 通常日本には咲かない筈のラフレシアそれが野生でそれも大量に発生したのだ。当時のメディアが殺到してもおかしくない怪奇現象なのだがこの件が大々的に報道される事はなかった。

 その理由は花の寿命だ。
 ラフレシア科の植物は花が咲いている期間が異様に短い。花を咲かすまでに二年は掛かるが三日もすれば枯れてしまう。
 だが、この山で発見されたラフレシアも同様だ。僅か二日で全てのラフレシアが枯れてしまった。ただ枯れるだけでは無いボロボロと崩壊するように崩れてしまったそうなのだ。
 結局サンプルの一つも残す事が出来ず、○○山のラフレシアが存在したという証拠は消え去ってしまったのだ。

 しかし写真は残っていた。私と津久三教授は写真を掻き集め、野外調査フィールドワークに乗り出したのであった。
 
 とめどなく流れる汗を拭い、私達は山道へと足を進めた。










 某県某県ファミレスにて。
 一日かけて山の調査を行ったものの、我々はラフレシアの存在した痕跡一つ見つける事が出来なかった。

「結局、全部駄目でしたね」
「仕方がないよ。地元の人でも見つけられないらしいからね。発見以降、何年かごとに山の調査をするらしいけど一度も見つけられなかったらしいね」
「一度の大量発生。それ以降の目撃情報無し。繁殖に失敗したという可能性はありませんか?」
「あり得るね」

「というより私も同じ事を考えていたんだよ」

 そう言うと津久三教授はテーブルに何枚か写真を並べた。

「見たまえ。この写真だが、確かにこれはどう見てもラフレシアだよ。だがね君から聞かせて貰った話をベースに考えるとね、少し食い違いがあるのだ」
「食い違いですか?」
「体験談によれば、この花には突起が付いている筈じゃないのかね。繁殖に必要な精液を出すための突起が」

 場所が場所である。津久三教授は声を潜めてそう言った。

「確かに。写真のラフレシアには突起は見当たらないですね」
「うむ。このラフレシア、接触受精によって繁殖したのであれば一つの仮説が成り立つ。まず最初の一株。これがおす株であり、体験談にあるように近づいてきためすの動物に子種を仕込んでいのだろう。そして赤子と共に成長したものが時間を掛けて一斉に開花した」

 体験談では後日、蕾を見つけたという。それが花を咲かせるまでに一体どれだけの時間が掛かったのだろうか。

「しかし、それは全て雌株であったのかもしれない」
「つまり、雄株が発生しなかった為、次の繁殖が行われ無かったという事ですか」
「根拠も無い仮説だかね。どのみちサンプルひとつないのであれば好きに考察するしかない。そうだろう?」

 津久三教授はそう仮説を締め括った。確かにその通りだ。
 この件へのこれ以上の調査は難しいだろう、根拠の無い仮説が一つ出た所で打ち止めだ。しかし、それでも良かった。
 この仕事の良いところは真実に辿り着く必要が無いという事だ。

 私は残ってたコーヒーを飲み干し、次の仕事へと思いを巡らせた。
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