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種付呪法
種付呪法
しおりを挟む立花梨沙は自分が万人受けする女では無いと知っていた。
人一倍気が強く、強い女性だった。
他人と衝突する事も多く、昔から目をつけられては下らない嫌がらせを仕掛けれる事も多々あったが、毅然とした態度で堂々とそれを受け流してきた。
だが、今回ばかりはそうもいきそうになかった。
それを見つけた時、梨沙はすらりと芯の通ったその美貌を不快感で歪める事となった。
アパート。梨沙の住む部屋の前にピンク色のシリコンドールが落ちていた。女性の下腹部と尻の形をした玩具。
おおかた近所の子供が見つけて蹴飛ばしでもして遊んでいたのだろう。
深刻になる必要なんて何処にもないと自嘲の笑みを洩らす。
ちょっと大きめの虫が出たようなものだ。さっかっと片付けて明日の笑い話にでもしてしまおう。
丁度よく持っていたビニール袋を取り出す。ビニール袋を手袋に見立て、梨沙は玩具を退かそうと手を伸ばした。
「え?」
ビニール越しの手でそれに触れ、持ち上げた時、梨沙は玩具の腹部に書かれた文字を目にした。
『立花梨沙』
ひぃと、絞り出すような声にならない悲鳴。思わず投げ飛ばした玩具が床を跳ねて転がる。その入り口からどろりとした白濁液が漏れ出て来た。
全身を怖気が走る。梨沙は思わず両手で身体を抱いた。
ふと、足元にぬるりとした感触。梨沙が履いているウェッジヒール。露出した足の甲に液体が付着していた。
すぅーと表情が消える。
素早く部屋に入りると梨沙は風呂場へ直行した。
スポンジタオルにボディソープをこれでもかと掛けて泡立てる。
ごしごしごし。
足を泡で覆い隠す勢いで擦る。
あぁ、もうこのタオルは捨てないといけない。
出来るだけ熱いお湯で泡を洗い流した。
赤く熱った足に汚物の痕跡は無く、綺麗さっぱり流れ落ちたように見える。
しかし匂いが消えない。つんとした生臭い気配が残っていた。
いや、それどころか匂いはむしろ強くなっている。漂う精臭が浴室に充満している。
もう一度洗おう。
そう思い伸ばした手が滑りボディソープを落としてしまう。
シャワーを一度止め、ボディソープを拾おうとした。
その時、梨沙は気づいた。
ごぼごぼと音を立て排水溝から何かが溢れ出ていた。半透明で粘り気がある液体。それが浴槽に溜まっている。
浴室に漂う精臭の原因はこれだった。ただならぬ事態に梨沙は狼狽し、咄嗟に逃げる事ができなかった。
液体は梨沙に落ち着く為の時間を与えてはくれなかった。
液体は過冷却水のように一瞬でその全容を様変わりさせた。色は半透明から白く濁り、ごぼごぼと泡立ち膨れ上がる。
今、浴槽にいるモノ。それは例えるならそれはドロドロの白いヘドロの塊だ。
ビチビチと跳ねる音がヘドロの中から聞こえて来る。ヘドロは剥き出しの筋肉のように体を震わせ、やがて一つの意識を持って動き出した。
ずぞぞぞぞと音を立ててヘドロが立ち上がった。ヘドロの塊は天井に届きそうな程伸びた。照明の光を遮り大きな影が梨沙を覆う。
悪夢の中で次に起こる事が分かる感覚に近い。どうしようもない嫌な予感を梨沙は感じた。
ヘドロが梨沙にのし掛かりその身体を押し倒した。
白い粘液は硬く腕で襲うが蹴り上げようが表面を少し凹ませるだけでびくともしなかった。それだけではない。溶けた蝋かバターのようにゆっくりと梨沙の身体を埋め込んでいく。
ヘドロの怪物は梨沙の身体を固定してまった。
浴室のタイルに倒れたまま、両足を大きく開いた恥ずかしい格好を取らされている。
声を出す事が出来れば有らん限りの力で絶叫していただろう。この汚らしいヘドロの怪物に罵声を浴びせていただろう。
ベロを押さえ込まれた梨沙にはそれすら出来ない。
例えそれが最後の抵抗だったとして、それすらさせて貰えない女の自尊心を酷く傷つけた。
無力への嗚咽が涙となってこぼれ落ちる。
ぬちゃり。ぬちゃり。
足裏へ触れた気色の悪い感触に身体を震わす。
触れるごとに崩れ、中に詰まった汚物が肌に練り込まれていくような、ぐずぐずに腐った果実を押し付けられているような感触だ。
不快な感触は徐々に広がり、足裏のから始まり踵や指の一つ一つをゆっくりと時間をかけて飲み込んでいく。
ぬちゃり。ぬちゃり。
地獄のような時間は永遠に続くかと思う程長く続いた。
足に広がる感覚はやがで痒みに近いもどかしさを伴うようになっていた。同時に梨沙の足は異様なほど敏感になっていた。
「ふーッふーッふーッ」
空気に触れているだけで電気が弾けたような刺激を肌に感じる。
なにより足に触れる例の感触だ。足を伝うそれは何度も何度も梨沙の足を往復している。性器を愛撫される何倍もの刺激、いや快楽が梨沙を襲う。そしてそれは次第に威力を強めている。
それを押さえ込もうと全身に力を込める。一度でもその刺激に身を委ねてしまえば取り返しがつかないと梨沙の本能が告げていた。
「んぁっ……はぁっ!」
口から漏れ出た甘い嬌声に梨沙はハッとする。気づけば口の中に入り込んでいた粘液が消えていた。
その事を考えるまもなく急に梨沙の身体が起き上がった。粘液がその形を変えたのだ。
身体を起こされた梨沙はようやく自分の足に何が起きたのかを知る事となる。
足に纏わり付くもの。
粘液から首が伸びていた。人の頭に似たシルエットだ。目も鼻もない粘液で出来だのっぺらぼうがその顔面からペニスを生やしていた。
生々しい皮を被ったペニスが梨沙の足をその亀頭で舐めまわしていた。亀頭はぴったりと梨沙の肌に密着させ、余った皮の隙間から白濁液が止めどなく溢れている。
「あっっ、あッ!」
快楽の絶頂が梨沙を襲う。恐怖で凝り固まった思考を吹き飛ばした。
声を我慢する事も忘れ断末魔のような嬌声を浴室に響かせた。
「あっあっ、あっああッ! イクッッ! あッあッあッアアアアッ!」
絶頂は途絶える事なく連続した。
梨沙は脚を触られているだけだ。けして挿入されているわけでも女性器を触られている訳でもなかった。
それでも梨沙は何度も仰け反り、絶頂を繰り返しながら快楽に溺れていった。
気づいた時には梨沙は意識を失っていた。
白いヘドロの怪物はとっくに梨沙を解放していた。余韻に身体を痙攣させ放心している。
ヘドロは梨沙の周りから離れると泡のように溶け元の半透明の液体に変態する。
再び液体となったヘドロは現れた時と同じようにごぼごぼと音を立て排水口の中へ消えていく。
虚な目でその様子を眺めていた梨沙はこの日の出来事を夢だと思い込む事にした。
梨沙は微睡に身をまかせ、ゆっくりと目を閉じた。
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