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オリジン
蛟様 後編・一
しおりを挟むここに入るのは二度目になる。
ぐにゃりとねじ曲がった通路には何度通ろうが慣れる事は無いだろうという確信がある。
「こっちこっち」
「痛い、痛いよ。もっとゆっくり歩いて」
「ダメ! ママに見つかっちゃう」
自分より二回りは大きい男に手を引かれて昌は走らされる。
ここは宮殿の中。河伯家の息子に連れられ、昌は一つの部屋に押し込まれた。
「ここは?」
動物柄の壁紙。子供、それも幼稚園か低学年用の可愛らしいデザインのものだ。
大きなベットに勉強机。棚や床に子供用のカラフルな玩具が転がっている。
自分の部屋と河伯家の息子は言う。
四十代半ばかそれ以上か、老け込んだこの男は幼児のように振る舞う。自制の効かない化け物だ。この男の目的や望みを昌は予想する事すらできない。
ただ悍ましい性欲を向けられていることだけはその粘着く樹液のような視線から嫌と言うほど思い知らされた。
「私は何をすればいいの?」
恐る恐る昌はそう聞いた。
自分は何をされるのか。それを聞いてしまわなければ、あまりの恐怖に昌はどうかしてしまいそうだった。
ギラギラとした河伯家の息子の目が昌を見据えた。
「お嫁さんごっこしよ」
唾を散らし興奮した様子で河伯家の息子が言う。
「何、それ……どうすればいいの?」
河伯家の息子は直ぐには答えず、ごそごそと玩具を漁る。
取り出したのはピンク色のエプロンだった。可愛らしい白のリボンのついた幼児向けのおままごとグッズ。
「つけて!」
乱暴に押し付けられたそれを受け取る。
「分かった。やる。だから約束守ってよ」
「うん!」
幼児向けのエプロンは高校生がつけるにはあまりに大きすぎる。
恥ずかしい。それ以前にキツすぎて紐が食い込む。
本当ならヒラヒラとして可愛らしいエプロンは昌の身体に張り付いているようだった。
昌がエプロンをつけると河伯家の息子はキャッキャと笑い喜んでいる。
「帰ってきたぞ!」
その場で突然大声を出した河伯家の息子。
もう始まってる?
河伯家の息子は何も言わない昌をじっと見ている。
「お、おかえりなさいあなた……?」
咄嗟にそう口に出す。
昌の脳裏にはテレビで見た光景が浮かんでいる。古臭いメロドラマの一幕だ。
夫婦間での会話のテンプレート、その中から無難なものを引っ張り出す。
仕草とか演技した方がいいのだろうか。そうも思ったが、昌は体を動かせなかった。
「今日のご飯なに!」
河伯家の息子が言う。
昌は部屋に入った時から入り口で立ったままだ。その場でじっとしている昌に対し、河伯家の息子は床でじたばたと動いている。
「ごはん……。えぇっと。もうすぐできるからね」
「今日はね、公園で綺麗な女の人を見たんだよ」
「え、うん」
「おっぱい大きかったから、触って遊んだんだよ」
この男は、何の話をしているのか。
シチュエーションとしては仕事の話しを聞かせているつもりなのか。
「おっぱい吸いたかったから、おっぱい吸ってもいいって聞いたのにダメって言われちゃったんだよ」
「それでオッパイ隠して! アカチャンは吸ってるのに可笑しいよね!」
「う、うん」
「ねえ!ねえ!」
「アカチャンは吸ってるのに可笑しいよね!!」
河伯家の息子が繰り替えし言う。
これは、反応を求めているのだろうか。
「お、おっぱいは赤ちゃんのものだから……」
ドン!
河伯家の息子が床を叩いた。
怒ったのか?
河伯家の息子の表情は変わらない。ニタニタと不気味な笑みを張りつかせている。
「う、う、浮気になっちゃうよ」
一瞬、自分が何を口走ったか分らなかった。
「奥さんいるのに……他の女の人の胸さわっちゃだめだよ」
河伯家の息子は、少しの間ぼーとしていたが、パンと手を叩き納得したように首を振った。
「そっかー」
「ねぇねぇゴハンまだー」
「え?」
ごはん?
そう言えば最初にそう言っていた気がする。
でも、どうしろと言うのか。食べ物なんて持っていない。
昌が何も出来ないでいるのを見ると河伯家の息子は「ンー!」と目で合図する。その目の先にはおもちゃ箱がある。そのにはオムライスやパンといった食べ物の形をした知育用の玩具が入っている。マジックテープでくっ付いたやつだ。
昌はそれをつまみ上げた。セットでついていたプラスティックのトレイの上にパンの玩具を乗せ、河伯家の息子の前に差し出した。
「どうぞ、召し上がれ」
「イタダキマース!」
河伯家の息子はトレイの上からパンの玩具を掴み上げそれに思いっきり噛みついた。
「ひっ」
ガジガジとプラスティック製の玩具を齧る。
何度も噛みつかれたパンの玩具がみるみる凹んでいく。
ひとしきり噛み終わると満足したのか河伯家の息子はパンの玩具を置いた。
「お腹イッパイ!」
そう言ってぐるりと首を動かして昌を見た。
「ゴハンの後はオフロ!」
「お風呂?」
嫌な予感がした。そしてそれは直ぐに的中する。
「オフロ入るんだから! 服脱がないと」
昌を真っ直ぐ見たままケタケタと笑う。
泣き出しそうになるのをグッと堪え、昌はシャツのボタンに手を掛けた。
その手は震えていてゆっくりとしか動かなかった。
「オフロ! オフロ!」
昌を急かすように河伯家の息子がはしゃぐ。
シャツが脱ぎ捨てられた素肌が露わになる。日焼けした手足との比較により一層白く見える。
薄いピンクのブラジャーが胸の膨らみを隠している。
次に手をかけたのはスカートだ。ボタンを全て外す必要のあるシャツとは違い、ホックを外すとするりと足元へ落ちた。
ブラジャーとセットのピンク色のパンティ。日焼けした太腿。きゅっと絞られた腰。
若く瑞々しい肉体を前に河伯家の息子はペロリと舌を出す。
「ねぇもうこれでいい?」
涙を浮かべながら昌は懇願する。しかし河伯家の息子はドンと床を叩きそれを一蹴した。
「ダメ!」
「おっぱい! おっぱいから!」
昌は従うしか無かった。昌の顔は羞恥心から来る赤では無く恐怖によって青白く染まっている。
ブラジャーのホックが外された。
ハリのある二つの乳房が支えを失い揺れ動く。
同年代の中では決して大きいわけではないがそれでも両手で覆える程には膨らんでいる。
「おっぱい!」
喝采の拍手。河伯家の息子がギャァギャァとはしゃぐ。
次だ。河伯家の息子がそう望んでいるのが分かる。
昌の震える手がパンティに触れる。これを下ろしてしまえばもうお終いだと、そんな予感を昌は感じていた。
躊躇い。
今なら逃げ出せるんじゃないかと、そんな考えが浮上する。
この男に捕まった時に諦めたはずの思いだ。
それが今になって昌の頭を埋めている。
「まんこ!」
河伯家の息子は身を乗り出し昌のパンティを掴んだ。
「え? ちょっと……」
ぶちん。
強引な力でゴムが引きちぎられパンティが剥がれた。
女性器が露わになる。
日焼けした太ももの間、白い桃のように盛り上がって見える。
潤んで充血した肉弁がピッタリと閉じ、薄らと毛で覆われいる。
「まんこー!」
河伯家の息子は笑っている。昌は力なくその場に座り込んだ。
身体を小さく畳み、身を隠した。
幸いにもそれを咎められる事は無かった。
河伯家の息子は奪いとったパンティに夢中なようで匂いを嗅いだり舐めたりしている。
その股間が膨らんで行くのを昌は嫌でも意識させられた。
飽きたのか、ぽいっとパンティが捨てられる。
再び昌の方を見た河伯家の息子の表情は……。
「夫婦だからね」
河伯家の息子の手が昌の腕を捕らえ、力強く握った。
「アカチャン作らなきゃ! つくろ!」
「きゃ?!」
昌はベットに連れ込まれ押し倒された。咄嗟のことで抵抗も出来なかった。
全体重でのし掛かられ、潰れたカエルのような音が喉から漏れる。
お腹の上に座られた。
肺が、臓器が、男の巨体に纏わりついた重い脂肪によって圧迫される。
河伯家の息子がパンツごと短パンを脱ぎ捨てた。動くたびに重心がずれ、昌の身体に鈍い痛みを覚えさせた。
ずいっと胸元まで移動してきた河伯家の息子が、大きくそり立ったそのペニスが昌へと突きつけられた。
目を閉じることが出来ず、昌は目の前のそれを見てしまった。真っ黒に汚れた皮膚に小さなひび割れが広がっている。泥に浸かったように汚れたそれは先端から飛び出した亀頭のみがピンク色をしていた。皮と亀頭の隙間に白いカスがびっしりと詰まっている。
それは大きくて太くて、何より不潔だった。
その汚物のようなペニスが昌の頬に触れた。
ぐにゅ。
「あっぁぁあっ! 嫌ぁ……イヤ!嫌ぁああああ!! もうやめてよ!」
あまりの生理的嫌悪に我慢など出来るはずも無い。昌はペニスから逃れようと顔を全力で逸らす。その表情は強ばり引き攣っていた。
しかし逃げ出すことは出来ず、首の動きには限界があった。反対の頬をベットのシーツに押しつけるも、それ以上は逃げられない。
先端から漏れた白濁液が頬へとへばり付く。河伯家の息子はそれを昌の頬へ塗りたくるようにペニスを動かす。
にちゃ……にちゃ……。
次第にペニスの動きが変わって行く。激しく強く押し当てられ、ぐりぐりと先端を擦る。
より強い刺激を求めていた。
パチンパチンと叩きつけるようにペニスが動く。
頬が赤く卑猥な形に腫れる。
「痛いの。おねがい……やめて下さい」
肌を伝う痛みに昌が声を上げると河伯家の息子の動きが止まったように思えた。
しかし、昌の言葉を聞いたからでは無い。
「うっふぅ……ふーっふーっ」
河伯家の息子は荒くなった息を整えようと深呼吸をしている。
「ダメダメ、お腹に入れなきゃアカチャン出来ないもんね」
絶望的な言葉だ。その言葉の意味を想像し、昌は呼吸が止まりそうな程の動悸を覚えた。
頬の感触を堪能し終わるとペニスは糸を引きながら頬を離れていく。
河伯家の息子が昌の腹の上から退いた。昌の内蔵を圧迫していた重りが消える。
息苦しさから解放された途端、生臭い先走り液の臭いを肺に吸い込んでしまう。
人間の身体がこれを発しているとは思えないほど臭い。
「ごほっ!ごほっ!」
「アカチャン!」
咽せ込んでいた昌の腰が掴まれる。持ち上げられた腰の位置は河伯家の息子の股間のペニスに合わせられていた。
もうそれは直ぐそこまで迫っていた。
なんの前戯もなく、それは行われようとしていた。
「嫌ッ!」
抵抗する間もなくペニスが差し込まれた。太い男のそれが槍のように昌の膣穴を裂き、赤い血が股を伝って布団へしたり落ちた。
刀で切り裂かれたかのような痛みが下半身に走る。昌の感覚は自分の中に入ってきた物が鋭利な刃物だと訴え、鋭い痛みがバチバチと広がっていく。
昌はもう声が出なかった。代わりに溢れ出した涙が雫となってぽろぽろと落ちる。
こうなる事は分っていた。と、走馬灯じみた独白。
初めて遭遇した時から、河伯家の息子から向けられている感情は、女である昌には理解出来てしまっていた。だから避けようとした。そして避けられなくなった時、昌は諦めた。
お貢ぎに選ばれれば、その時点で助からない。それがどういった形で訪れるのかは分らないが、結局は死ぬのだろうと昌は考えていた。だから諦める事にした。綺麗な体で死ねなくても構わないと。
頭でそう決意していた昌だが、現実に襲い来る苦しみにその心は折れ始めていた。
引き伸ばされた時間の中で精一杯、後悔の感情を味わっていた昌は河伯家の息子が腰を動かしたことで現実に引き戻された。
「ふっ!ふっ!ふっ!」
河伯家の息子は短く息を吐く。そのリズムに合わせて腰を振る。
膣の血とペニスの分泌液が合わさり潤滑液となって腰振りをスムーズにする。
昌は歯を食いしばって耐えようとしたが、直ぐに我慢できず声にならない声で泣き叫ぶ。痛みよりも、喪失感の方が大きかった。
「あらあら、何をしているのかしら」
その声は突然聞こえた。
昌の視界に、部屋の扉が僅かに開いていたのが見えた。
その隙間から黒ずくめの女が覗いていた。
河伯婦人だ。
「ママ!」
河伯家の息子の動きが止まった。
「お願い……約束したよね」
一瞬、静かになった部屋の中で昌が言葉を溢した。
無意識の内に出た言葉だった。
「私を……お貢ぎに……弟には何もしないで」
「うん!」
河伯家の息子が元気よく返事をした。
「あのねママ」
「うふふ、何かしら」
河伯婦人は何ごともないかのよう答える。昌と息子の性交を果たしてどのような目で見ているのか、痛みと苦しみに苛まれた昌にはそんな事を考える余裕もない。
「ボクね。この子をね、お貢ぎにしたいの、ねぇいいでしょ」
「あらあらそうなの。どうしようかしら」
「おねがい!おねがい!」
駄々をこねる河伯家の息子。彼が身体を動かすと、繋がったままの昌は苦悶の声を漏らした。
河伯婦人が「あらあら」と嗤った。
「でもダメじゃ無い。お貢ぎに成るなら処女じゃないと。もうその子はお貢ぎには成れないわよ」
「え?」
思わず顔を上げた昌は河伯婦人のベールに覆われた口元がまるで笑っていない事を知った。
狼狽える昌に河伯婦人はとどめ刺すように言う。
「もう貴方、お貢ぎにはなれないのよ」
それは昌に向けた言葉だ。
「そうね。もう貴方を外に出すわけにはいかないわね。こんな事になってしまっているもの」
こんな事?
「うふふ、ごめんなさいね。大事な処女を頂いちゃって」
ケーキのお裾分けでも貰ったかのような軽い調子。
「や、やだ! あぁぁぁあああああ! いやぁあああああああ!! ングッ?!」
絶叫。
しかしそれは、煩いと感じた河伯家の息子によって強引に止められた。
「うふふふ」
さてどうしましょうかと。
腕を組み考える仕草をした河伯婦人に河伯家の息子が慌てて口を開いた。
「お嫁さん! お嫁さんにする!」
ズドンとその身体が動き、昌の膣を衝撃が駆け抜ける。
根元まで突き刺さったペニス。昌は内臓を持ち上げたかのように感じた。
「うぇっ……ごっ……」
ビチャビチャと水音が響く。
嘔吐。空っぽの胃が胃液を吐き出した。薄黄色の水溜りがシーツの上に出来上がる。
酸っぱい匂いが立ち込めたが、河伯家の息子が放つ悪臭の方が混じっていた。
「お嫁さんにする!」
「あらそう。それはいいわね」
「ホント!」
親子は仲良さげに会話する。その間で一人の少女が地獄を見ていた。
だらし無い弛緩しきった顔で河伯家の息子は懸命に腰を振る。
初めての少女が受け入れるには大きすぎるそれは昌に苦痛だけを与え続けた。
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河伯家の息子が息を荒げて言う。
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その声に昌は反応した。無我夢中だった。きっと昌にもそれが無駄な事だ分かるはずだった。
「助け……」
それでも手を伸ばした昌の頭を河伯家の息子が押さえつけた。べしゃっと水音を立てて自分で吐いた吐瀉物に顔を埋めた。
「あぁ……」
「あああああ!」
昌の吐息を河伯家の息子がかき消した。ドクドクと音を立てて送り込まれてくるそれを、熱い温度がお腹の中へと伝わるのを感じた。
破瓜の痛みも、性行為の苦しみも、もう昌は感じていなかった。
長い余韻が昌を絡めとり、深く沈んでゆく。
昌は自分の人生が終わった事を自覚した。
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