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婚約破棄を望む
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少しの間、その場で待っていたがマリス様は戻る事がなかった。
私は誰にも気づかれぬ様にこの場を離れ、テラスへと向うことにした。ただそこに私がいるだけで、皆が恐れるような顔をしていたからだ。
テラスには誰も居なかった、此処なら迷惑にはならないだろうと思いながら、そこから見える庭を眺めた。
美しく手入れをされた庭の花々が、ランプの揺れる灯に照らされている。
「きれい……」
黒いシミなどない花々が羨ましく思えた。
私も明るい色のドレスを、今流行りの肩を出すドレスを着ることができたなら、一度くらいはキレイだと言って貰えただろうか……。
いや、それは贅沢だわ……。
今日、嫌な顔をせず手を差し伸べて貰えただけでも、私には充分よ……。
ふと、会場内が騒がしくなった。
振り返り見てみると、アーサー王太子様と婚約者のカミラ公爵令嬢が踊っているのが見えた。美しい二人が踊る姿を皆見ていたのだ……。
そして、マリス様とクレア令嬢も見つめ合い楽しそうに踊っている姿もそこにあった。
彼女が着ていたドレスはマリス様と対なす様な美しい青色だった。
私を置いて彼女の元へ行かれていたのね……。
ダンスを踊る二人は誰が見てもお似合いだと思う。
回るたびにフワリと揺れるドレスもキレイだ。
私は婚約者でありながら、彼とまだ一度も踊った事がなかった。
社交界を避けて出ていないのだから当たり前だ……
それに私は、あんなに上手く踊れない……
ダンスの練習も父親としかした事がない……
……ああ、私は彼女を羨ましく思っているのね。
呪いは体だけでなく心も黒くしてしまったようだ。
自分の醜い気持ちに気が付き、二人を見ているとクレア令嬢が私を見て口角を上げた。
美しく勝ち誇った笑みが、私の心に突き刺さるようだった。
……婚約破棄をするのなら早くして欲しい……
そうしたら此処から帰れるのに……。
「あら、こんな所に呪われた方がいらっしゃるわ」
二人が踊る姿を見ていると、アイリス侯爵令嬢とその取巻きの方々が、少し離れた場所から声を掛けてきた。
「ふん、呪われている方は挨拶も出来ないのねぇ、声がでないのかしら?」
クスクスと笑いながら、目は鋭く私を見ている。
私はその場で頭を下げた。
「申し訳ございません、私は……」
そこまで言うと、パシャっと赤い飲み物をかけられた。お酒のようだ、アルコールの匂いがする……
……どうしよう……
私が顔を上げると、飲み物をかける為側に寄っていた令嬢が「きゃあ、感染ってしまうわ」と言って慌ててアイリス令嬢の後ろに隠れた。
「あの、私の呪いは感染ることはありません……」
そう伝えても聞いてもらえず、きゃあきゃあと騒いでいる。
……困ったわ……まだ婚約破棄を告げられていないのに……
紺色のドレスのお陰で飲み物の染みはそう目立つものではない様だが、やはり濡れたドレスは冷たかった。
「あなたの様な方はマリス王子様に相応しくないわ!」
「さっさと帰っておしまいなさい!」
「いっそ、呪いで死んでしまえば良いのにねぇ」
「そうよ、そうしたらクレア様とマリス様はやっと思いを遂げられるわ」
「お二人の方がお似合いですものねぇ」
少し離れた場所から、私を罵り楽しそうに笑う令嬢達。周りの者達も誰一人止めることはしない。
騒ぎに気づいたアーサー王太子様とカミラ令嬢が私達の元へ来られた。
「何を騒いでいる」
王太子様は騒ぎの中で立ちすくむ私をみて、ハッと驚いた顔をした。
「君は……リゾレット嬢か……マリスは、ああ」
何やら申し訳なさそうな顔で私を見ている。
今日、婚約破棄が行われる事を知っているようだ。
「このままでは体が冷えてしまうわ、早くしないと……」
カミラ令嬢が濡れたドレスを着ている私を見て、心配そうに言ってくれた。
それでも、誰一人私に近づく者はいない。拭くものも、羽織る物もない。時間が過ぎると、どんどんドレスの染みも広がっていく。
……染みだらけだわ……私……
ここまで来るともう、泣くことを通り越してしまった。
早く婚約破棄してもらって帰ろう。
そう思った時、ようやくマリス様がクレア令嬢と共に現れた。クレア嬢は私の姿を見てなぜか満足そうに微笑んでいた。
「リゾレット……その格好は……」
マリス様は私に手を差し出そうとしたようだったがアーサー王太子様がそれを制止した。
「ちゃんとしないと」
ボソリとマリスに告げる。
「ああ……そうだった」
マリス様はなぜだか悔しそうな顔をしていたが一度グッと目を閉じ、開くと鋭い眼差しで私を見つめた。
「リゾレット・ダラス伯爵令嬢、私は君との婚約破棄を望む」
「……はい、お受けいたします」
私に婚約破棄を告げた彼の緑色の目は、なんだか悲しそうに見えた。
優しい方だ、きっと今まで仕方なく婚約を継続されていたのだろう……。
私は深くお辞儀をするとその場から立ち去った。
昨日もあんなに泣いたのに、目には涙が浮かび、溢れそうになる。ここでは泣いてはいけないと足早に会場を出た。
「リズ」
後ろで、私を呼ぶマリス様の声がしたような気がしたが、聞こえてきたのはアーサー王太子様の
「ここに、マリス王子とクレア令嬢の婚約を認める」と言う声だった。
馬車に乗った私はそのまま王都を後にした。
流れる涙と共にマリス様を想う気持ちもなくなればいいのに、と思いながら……。
私は誰にも気づかれぬ様にこの場を離れ、テラスへと向うことにした。ただそこに私がいるだけで、皆が恐れるような顔をしていたからだ。
テラスには誰も居なかった、此処なら迷惑にはならないだろうと思いながら、そこから見える庭を眺めた。
美しく手入れをされた庭の花々が、ランプの揺れる灯に照らされている。
「きれい……」
黒いシミなどない花々が羨ましく思えた。
私も明るい色のドレスを、今流行りの肩を出すドレスを着ることができたなら、一度くらいはキレイだと言って貰えただろうか……。
いや、それは贅沢だわ……。
今日、嫌な顔をせず手を差し伸べて貰えただけでも、私には充分よ……。
ふと、会場内が騒がしくなった。
振り返り見てみると、アーサー王太子様と婚約者のカミラ公爵令嬢が踊っているのが見えた。美しい二人が踊る姿を皆見ていたのだ……。
そして、マリス様とクレア令嬢も見つめ合い楽しそうに踊っている姿もそこにあった。
彼女が着ていたドレスはマリス様と対なす様な美しい青色だった。
私を置いて彼女の元へ行かれていたのね……。
ダンスを踊る二人は誰が見てもお似合いだと思う。
回るたびにフワリと揺れるドレスもキレイだ。
私は婚約者でありながら、彼とまだ一度も踊った事がなかった。
社交界を避けて出ていないのだから当たり前だ……
それに私は、あんなに上手く踊れない……
ダンスの練習も父親としかした事がない……
……ああ、私は彼女を羨ましく思っているのね。
呪いは体だけでなく心も黒くしてしまったようだ。
自分の醜い気持ちに気が付き、二人を見ているとクレア令嬢が私を見て口角を上げた。
美しく勝ち誇った笑みが、私の心に突き刺さるようだった。
……婚約破棄をするのなら早くして欲しい……
そうしたら此処から帰れるのに……。
「あら、こんな所に呪われた方がいらっしゃるわ」
二人が踊る姿を見ていると、アイリス侯爵令嬢とその取巻きの方々が、少し離れた場所から声を掛けてきた。
「ふん、呪われている方は挨拶も出来ないのねぇ、声がでないのかしら?」
クスクスと笑いながら、目は鋭く私を見ている。
私はその場で頭を下げた。
「申し訳ございません、私は……」
そこまで言うと、パシャっと赤い飲み物をかけられた。お酒のようだ、アルコールの匂いがする……
……どうしよう……
私が顔を上げると、飲み物をかける為側に寄っていた令嬢が「きゃあ、感染ってしまうわ」と言って慌ててアイリス令嬢の後ろに隠れた。
「あの、私の呪いは感染ることはありません……」
そう伝えても聞いてもらえず、きゃあきゃあと騒いでいる。
……困ったわ……まだ婚約破棄を告げられていないのに……
紺色のドレスのお陰で飲み物の染みはそう目立つものではない様だが、やはり濡れたドレスは冷たかった。
「あなたの様な方はマリス王子様に相応しくないわ!」
「さっさと帰っておしまいなさい!」
「いっそ、呪いで死んでしまえば良いのにねぇ」
「そうよ、そうしたらクレア様とマリス様はやっと思いを遂げられるわ」
「お二人の方がお似合いですものねぇ」
少し離れた場所から、私を罵り楽しそうに笑う令嬢達。周りの者達も誰一人止めることはしない。
騒ぎに気づいたアーサー王太子様とカミラ令嬢が私達の元へ来られた。
「何を騒いでいる」
王太子様は騒ぎの中で立ちすくむ私をみて、ハッと驚いた顔をした。
「君は……リゾレット嬢か……マリスは、ああ」
何やら申し訳なさそうな顔で私を見ている。
今日、婚約破棄が行われる事を知っているようだ。
「このままでは体が冷えてしまうわ、早くしないと……」
カミラ令嬢が濡れたドレスを着ている私を見て、心配そうに言ってくれた。
それでも、誰一人私に近づく者はいない。拭くものも、羽織る物もない。時間が過ぎると、どんどんドレスの染みも広がっていく。
……染みだらけだわ……私……
ここまで来るともう、泣くことを通り越してしまった。
早く婚約破棄してもらって帰ろう。
そう思った時、ようやくマリス様がクレア令嬢と共に現れた。クレア嬢は私の姿を見てなぜか満足そうに微笑んでいた。
「リゾレット……その格好は……」
マリス様は私に手を差し出そうとしたようだったがアーサー王太子様がそれを制止した。
「ちゃんとしないと」
ボソリとマリスに告げる。
「ああ……そうだった」
マリス様はなぜだか悔しそうな顔をしていたが一度グッと目を閉じ、開くと鋭い眼差しで私を見つめた。
「リゾレット・ダラス伯爵令嬢、私は君との婚約破棄を望む」
「……はい、お受けいたします」
私に婚約破棄を告げた彼の緑色の目は、なんだか悲しそうに見えた。
優しい方だ、きっと今まで仕方なく婚約を継続されていたのだろう……。
私は深くお辞儀をするとその場から立ち去った。
昨日もあんなに泣いたのに、目には涙が浮かび、溢れそうになる。ここでは泣いてはいけないと足早に会場を出た。
「リズ」
後ろで、私を呼ぶマリス様の声がしたような気がしたが、聞こえてきたのはアーサー王太子様の
「ここに、マリス王子とクレア令嬢の婚約を認める」と言う声だった。
馬車に乗った私はそのまま王都を後にした。
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