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第一章2人の未来(みく)
伏せられたフォトスタンド(後編) -Chiffonside
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「未来さん、未来さん……」
目覚めた私はすごく汗をかいていた。
「大丈夫?ひどくうなされていたようだけど」
お義母様が心配そうな顔で私を覗き込んだ。
「あ、大丈夫です。変な夢見ただけですから」
ホント、ビックリした。あっちの秀一郎さんと私がいきなり、その……あんなことしちゃうんだもん。考えるだけで顔が真っ赤になっていく。あ、でも私も来年は結婚するんだよねぇ。でも、先に夢で経験するのは何だかなぁ……いろんなことが頭を過っていく。
そんな黙ったままで赤くなってしまっている私を見たお義母様は、
「寝てまた熱が上がったんじゃない?」
と、私のおでこに手を当てた。
「熱は…下がったみたいね」
「ええ、もう大丈夫です」
お義母様、これは熱のせいではないですから。
「でも、もう少ししたら秀一郎が帰って来るから、そしたらあの子と車で病院に行けば良いわ。そのまま家まで送らせるし」
「あれ? 秀一郎さん、定時に帰って来られるんですか?」
私はそれを聞いてびっくりした。秀一郎さんはお義父様が『こき使う』と言われたように、まだまだ新入社員の今、早くに帰れることなんて滅多にない。
「あなたが眠った後、あなたの携帯に休憩時間に電話してきたのよ、あの子。出ないと心配するかと思って出たら、様子を話したら逆に心配しちゃって。『僕が未来さんを病院に連れて行くから。必ず定時に終わって帰るから、母様が連れてったりしないでよ』ですって」
「うわっ、そうなんですか? すいません」
「謝ることなんかないわよ。仕事より親より彼女が大事。それで良いのよ。龍太郎はすぐに仕事を優先させるから、病気がまた出ないかといつも冷や冷やするんだから」
お義父様は、若い頃大病をなさったと聞いている。
私はその時、部屋のシンプルだけどモノの良いドレッサーの上に置かれたそれには似つかわしくない些かチープなフォトスタンドを見つけた。中に入っている写真は、秀一郎さん? ……微妙に顔が違う。人懐こい笑顔はそのままなんだけど、何だか大人びていて、しかも写真がかなり古い。少し変色していた。
「ただいま!」
その時、玄関で元気な声がした。秀一郎さんの妹、ほのかさんが学校から帰って来たのだ。
「じゃぁ、秀一郎が帰って来るまで待ってて頂戴」
お義母様は、私がその写真を不思議そうに眺めているのに気付くと、フォトスタンドを伏せてほのかさんを出迎えに部屋の外へと出て行った。
――あれは、きっとヤナのおじさんだ――
実際に会ったことはないけれど、私はそう思った。彼はママの向こうでの旦那様。
でも、何でヤナのおじさんの写真がお義父様とお義母様の寝室に飾られているんだろう。
私は、もう一度写真を確認したい衝動に駆られたけど、お義母様が戻って来られるかもしれないと思って、そのままベッドの中にいた。
夕方、私は慌てて帰って来た秀一郎さんの運転する車で病院に向かった。
その時、私はふと、秀一郎さんがヤナのおじさんを知っているのか聞いてみたくなった。
「秀一郎さん、梁原健史さんって知ってる?」
「えっ、未来さんも梁原さんを知ってるの?」
やっぱりヤナのおじさんも実在していたの!? 私は聞いておきながら、秀一郎さんの口から梁原さんという名前がすんなり出たことに驚いた。じゃぁ、何で何も話題に出ないのだろう。あちらの世界では、ヤナのおじさんと、お義父様は仕事も一緒で、3人が揃うと必ずお義父様の話になるのに……そう言えばあの写真、かなり古かったけど。
「え、ええ……まぁ……私って、お義父様とお義母様の後輩でしょう? 私の同級生にお義父様たちの同級生の娘さんがいたのよ。
その子のお家に伺った時、『あんたって結城んとこの息子の嫁になるんだってね。そう言えばヤナってどうしてるかなぁ、全然連絡とれないんだけど……』って言ってらしたの。だから、梁原健史さんっていうお名前を聞いて、お義母様に聞こうかなって思ってたら、今日熱出しちゃって……眠ったら忘れてたから」
私がお二人の後輩なのは事実だけど、後は口から出まかせ。でも、私がそう言うと、秀一郎さんは顔を曇らせた。
「彼……もう亡くなってるよ。24年前に山で遭難してる」
えっ、ヤナのおじさん亡くなってるの? しかも24年前って言ったら、秀一郎さんが生まれた頃じゃない。
「じゃぁ、顔は知らないの?」
「知らないよ。でも、死んだのは24年前だけど、遺体が見つかったのはそれから20年も経った4年前でね、その時身元引き受けを父様がしたから、僕も同行したんだ。その時、『この方がいなかったらお前は生まれてないんだよ。お前の命の恩人だから、大切に扱って欲しい』って言われて、お骨膝に乗せて運んだし、よく覚えてるよ」
「そっかぁ、もう亡くなってるのね。じゃぁ、そう伝えとくわね」
たぶん、秀一郎さんは、お義母様とヤナのおじさんとの子供。でも、山で遭難した後、お義母様は秀一郎さんの妊娠の事実を知ったのだ。そして、お義父様はそんなお義母様と結婚し、秀一郎さんを自分の実の子として育てた。
だから、私が指輪の事で『血は争えない』と言った時、すごく悲しい遠い目をされていたのね。
だけど後日、私はお義母様に、
『未来さんの同級生ってどなた? 秀一郎から聞いてびっくりしちゃったわ』
と言われて慌てた。ヤナのおじさんとあっちのママが同級生の話をしていたのを急いで必死に思い出す。確か……畔上ルリさんって人が、やっぱり同級生同士で結婚したって!
「あ、駒田……駒田ユリアです。」
「駒田? もしかしたら……お母様の名前なんて分からないわね。どんな方かしら」
「その時、お父様もいらしたんで、お父様が『ルリ』って呼んでたような気がしますけど……たぶん」
実際は彼らが同級生同士で結婚したこと、そして娘の名前を某有名なアニメのヒロインからとったんだって話で盛り上がっていただけらしいが、よほど印象に残っていたのか、あっちの私は夢でこっちに送ってくれていた。おかげで見事につながったんだけどね。はぁ……冷や汗かいた。
「ルリ? 駒田ってことは、コマちゃんとルリも結婚したんだ。そう、ありがとう」
お義母様が同級生の消息を知ってにっこり微笑まれたのを見て、私は胸が痛んだ。
目覚めた私はすごく汗をかいていた。
「大丈夫?ひどくうなされていたようだけど」
お義母様が心配そうな顔で私を覗き込んだ。
「あ、大丈夫です。変な夢見ただけですから」
ホント、ビックリした。あっちの秀一郎さんと私がいきなり、その……あんなことしちゃうんだもん。考えるだけで顔が真っ赤になっていく。あ、でも私も来年は結婚するんだよねぇ。でも、先に夢で経験するのは何だかなぁ……いろんなことが頭を過っていく。
そんな黙ったままで赤くなってしまっている私を見たお義母様は、
「寝てまた熱が上がったんじゃない?」
と、私のおでこに手を当てた。
「熱は…下がったみたいね」
「ええ、もう大丈夫です」
お義母様、これは熱のせいではないですから。
「でも、もう少ししたら秀一郎が帰って来るから、そしたらあの子と車で病院に行けば良いわ。そのまま家まで送らせるし」
「あれ? 秀一郎さん、定時に帰って来られるんですか?」
私はそれを聞いてびっくりした。秀一郎さんはお義父様が『こき使う』と言われたように、まだまだ新入社員の今、早くに帰れることなんて滅多にない。
「あなたが眠った後、あなたの携帯に休憩時間に電話してきたのよ、あの子。出ないと心配するかと思って出たら、様子を話したら逆に心配しちゃって。『僕が未来さんを病院に連れて行くから。必ず定時に終わって帰るから、母様が連れてったりしないでよ』ですって」
「うわっ、そうなんですか? すいません」
「謝ることなんかないわよ。仕事より親より彼女が大事。それで良いのよ。龍太郎はすぐに仕事を優先させるから、病気がまた出ないかといつも冷や冷やするんだから」
お義父様は、若い頃大病をなさったと聞いている。
私はその時、部屋のシンプルだけどモノの良いドレッサーの上に置かれたそれには似つかわしくない些かチープなフォトスタンドを見つけた。中に入っている写真は、秀一郎さん? ……微妙に顔が違う。人懐こい笑顔はそのままなんだけど、何だか大人びていて、しかも写真がかなり古い。少し変色していた。
「ただいま!」
その時、玄関で元気な声がした。秀一郎さんの妹、ほのかさんが学校から帰って来たのだ。
「じゃぁ、秀一郎が帰って来るまで待ってて頂戴」
お義母様は、私がその写真を不思議そうに眺めているのに気付くと、フォトスタンドを伏せてほのかさんを出迎えに部屋の外へと出て行った。
――あれは、きっとヤナのおじさんだ――
実際に会ったことはないけれど、私はそう思った。彼はママの向こうでの旦那様。
でも、何でヤナのおじさんの写真がお義父様とお義母様の寝室に飾られているんだろう。
私は、もう一度写真を確認したい衝動に駆られたけど、お義母様が戻って来られるかもしれないと思って、そのままベッドの中にいた。
夕方、私は慌てて帰って来た秀一郎さんの運転する車で病院に向かった。
その時、私はふと、秀一郎さんがヤナのおじさんを知っているのか聞いてみたくなった。
「秀一郎さん、梁原健史さんって知ってる?」
「えっ、未来さんも梁原さんを知ってるの?」
やっぱりヤナのおじさんも実在していたの!? 私は聞いておきながら、秀一郎さんの口から梁原さんという名前がすんなり出たことに驚いた。じゃぁ、何で何も話題に出ないのだろう。あちらの世界では、ヤナのおじさんと、お義父様は仕事も一緒で、3人が揃うと必ずお義父様の話になるのに……そう言えばあの写真、かなり古かったけど。
「え、ええ……まぁ……私って、お義父様とお義母様の後輩でしょう? 私の同級生にお義父様たちの同級生の娘さんがいたのよ。
その子のお家に伺った時、『あんたって結城んとこの息子の嫁になるんだってね。そう言えばヤナってどうしてるかなぁ、全然連絡とれないんだけど……』って言ってらしたの。だから、梁原健史さんっていうお名前を聞いて、お義母様に聞こうかなって思ってたら、今日熱出しちゃって……眠ったら忘れてたから」
私がお二人の後輩なのは事実だけど、後は口から出まかせ。でも、私がそう言うと、秀一郎さんは顔を曇らせた。
「彼……もう亡くなってるよ。24年前に山で遭難してる」
えっ、ヤナのおじさん亡くなってるの? しかも24年前って言ったら、秀一郎さんが生まれた頃じゃない。
「じゃぁ、顔は知らないの?」
「知らないよ。でも、死んだのは24年前だけど、遺体が見つかったのはそれから20年も経った4年前でね、その時身元引き受けを父様がしたから、僕も同行したんだ。その時、『この方がいなかったらお前は生まれてないんだよ。お前の命の恩人だから、大切に扱って欲しい』って言われて、お骨膝に乗せて運んだし、よく覚えてるよ」
「そっかぁ、もう亡くなってるのね。じゃぁ、そう伝えとくわね」
たぶん、秀一郎さんは、お義母様とヤナのおじさんとの子供。でも、山で遭難した後、お義母様は秀一郎さんの妊娠の事実を知ったのだ。そして、お義父様はそんなお義母様と結婚し、秀一郎さんを自分の実の子として育てた。
だから、私が指輪の事で『血は争えない』と言った時、すごく悲しい遠い目をされていたのね。
だけど後日、私はお義母様に、
『未来さんの同級生ってどなた? 秀一郎から聞いてびっくりしちゃったわ』
と言われて慌てた。ヤナのおじさんとあっちのママが同級生の話をしていたのを急いで必死に思い出す。確か……畔上ルリさんって人が、やっぱり同級生同士で結婚したって!
「あ、駒田……駒田ユリアです。」
「駒田? もしかしたら……お母様の名前なんて分からないわね。どんな方かしら」
「その時、お父様もいらしたんで、お父様が『ルリ』って呼んでたような気がしますけど……たぶん」
実際は彼らが同級生同士で結婚したこと、そして娘の名前を某有名なアニメのヒロインからとったんだって話で盛り上がっていただけらしいが、よほど印象に残っていたのか、あっちの私は夢でこっちに送ってくれていた。おかげで見事につながったんだけどね。はぁ……冷や汗かいた。
「ルリ? 駒田ってことは、コマちゃんとルリも結婚したんだ。そう、ありがとう」
お義母様が同級生の消息を知ってにっこり微笑まれたのを見て、私は胸が痛んだ。
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