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第5話 Iron bottom Sound
Chapter-43
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10月2日。
『我々は────』
レングード中央駅北側、首相官邸前。
『我々はぁ!! グレン内閣の弱腰な戦争指導を糾弾するものである!!』
チハーキュ帝国、帝都レングード。
“赤いアマテ”と“青いラス”、二連恒星が晩冬の日和をもたらしている中、そんなうららかな機構とは対象的に、鋭い声が響いていた。
何台かの自動車が路肩に停車し、その中では目立つ大きさの、小型バス、レイアナー重工業『カヴォリア』の屋根上にバカでかいスピーカーが乗せられている。新学暦204年に発売されたばかりのクラス初のキャブオーバー、といいつつ車外側点検口兼ラジエータースペースとして鼻先が少しばかり膨らんでいるデザインで、発売以降地方のバス会社に飛ぶように売れている車種だったが、残念ながらレイアナーの革新的設計と量産能力はこのような政治活動にも使われてしまっているようだ。
リーダー格と思しき人物が、マイクに向かって声を上げている。
『アメリカ合衆国なる地球世界の国家は、畏れ多くも皇太女殿下の座乗艦を旗艦とする艦隊に攻撃を仕掛け、不幸中にも殿下は御無事であらせられたが、練習戦の沈没と空母の損傷に伴い少なからぬ者が命を落とした。それも、彼女達の多くは将来のチハーキュの守りを担いうる練習生であった! これが国家そのものに対する破壊行為であると言わずしてなんと言うべきであろうか!!』
彼のアジテーションに対し、首相官邸前に集まった群衆は「そうだ!」「そうだ!!」と口々に声を上げる。
『我が国の当然の謝罪・賠償要求に対し厚顔無恥にもこれを退けたアメリカに対して、我が国として宣戦布告は行ったものの、事件発生よりすでに3ヶ月半が過ぎたにも関わらず、地球での我が帝国陸海軍の活動は非常に限定的である! 世界に誇る最強の海軍、その機動力を以てしてどの大陸国家よりも精強な陸軍、そう喧伝し帝国臣民1人に至るまでその実力を矜持としてきたこれまではいったい何であったのか!? 軍備へ注がれた血税は意味のないものであったのか!?』
「そうだ!」
「軍は何をしている!? 政府は何を手をこまねいている!?」
「恥を知らぬ君主なき国に思い知らせてやれ!」
群衆の方でも、声を上げつつ口惜しさで強く握りしめた拳が振り上がる。
『国家の根幹に害意を向けられてこれに断固たる対応をしないのであれば、これは国家として去勢されたに等しい! ましてや、科学同盟の実質的盟主たる我が国がそのような体たらくであれば、同盟全体が危険に脅かされる! 親愛を向ける者には親愛を以て報い、害意を向ける者には鉄槌を以て報いる、これが我が国の外交上の国是であり、また外交の大原則のひとつである! それとも、セルゲリオス・グレン首相は旧暦300年に及ぶ屈辱の被支配時代を忘れてしまったとでも言うのか!』
「そうだ!」
「今こそ強靭な現代の我が国の力を見せろ!」
「直ちに艦隊の増派を!」
「アメリカ合衆国、許すまじ!!」
「まったくもう……」
双眼鏡を下ろしながら、皇太女ヒカル・エヴァンジェリン・ブレイク・チイイニ・チハーキュ・レムゼンは、呆れ混じりの苦笑を浮かべながらため息を吐いた。
チハーキュ皇宮は、全体的には地球の西洋の城の趣を持っていたが、元々戦城であり、天守閣を持っている。高層建築の制限をしていないので、今や皇宮より高いビルは珍しくもないが、それでもそれなりの光景を見渡すことができる。
レングード中央駅北側の、衆議院議場と首相官邸・内閣府が並んでいる広場は、簡単な双眼鏡があれば手に取るように見える。ヒカルは、そこを伺っていた。
アンプ・スピーカーで拡声されているアジテーターの声はともかく、群衆の声までは届いてこないが、だいたい何を言っているのか解る。
バイハイ戦役の時などもそうだが、チハーキュ帝国の国民は基本的に国家間の危害に対してナイーブだ。先程アジテーターが言った、「親愛を向ける者には親愛を以て報い、害意を向ける者には鉄槌を以て報いる」、この一言に現れている。
再独立したとは言っても、この世界においては孤独な科学技術国。自ら技術を研鑽し高め、それを同じように抑圧されていた国家や地域にプレゼンし、助け、今日の科学同盟圏を形成するまでの必死に過ぎた150と余年。再独立し現皇朝が建てられてからの長さで言えばアメリカとは同程度と言えるが、その中身が濃すぎて、現代世代もそれが拔けていない。ついでにダークエルフやデミ・ドワーフにとってはその時代を知っている世代も健在だ。地球派遣艦隊南太平洋支隊指揮官、カティナ・チアカ・フロメラス中将なども、生まれは独立後だが、国家の強度を上げるために我武者羅だった時代を知っている世代である。
そこへ持ってきての誤攻撃事件は、チハーキュ国民のナショナリズムを強烈に刺激してしまった。
7月31日、開戦の決定が国民に知らされた時、グレン内閣の支持率は7割を越えていた。枢軸側呼称『第一次ソロモン海戦』の大戦果は、国民を熱狂させた。
だが、実態として戦力の小出しが続いていると、国民の不満がたまり始め、グレン内閣の支持率は9月中頃に50%割れになった。ただし、継戦すべきか否かについては相変わらず7割弱が「継戦すべき」であり、もっとも多い意見は「アメリカ合衆国が要求を受け入れるまで継戦すべき」の45%内外となっているが。
実際には主戦派の意識を持っているヒカルだが、軍の階級も持っている立場でもあり、現状で兵力の小出しが続いている理由は解っている。そして、皇帝に奏上された軍事行動計画の内容も知っている。
──まぁ、政治家連中と参謀本部の連中がしっかりしていれば、慌てることはないと思うけど……
ヒカルは、声に出さずに呟く。
──立憲制っていうのも、場合によっては厄介よね……
ヒカルはいい加減そうな苦笑を浮かべた。
エボールグでは、チハーキュの再独立と科学技術国化によって、地球で言うところの“ジョン・ロックの社会契約論”(統治二論)が萌芽し、自らも立憲君主議会制に移行した。ただ、“ジャン=ジャック・ルソーの社会契約論”に基づいた“民主主義”(市民の、市民による、市民のための政治)には至っていないため、その単語も誕生していない。
ついでに、文官制が望ましいとしつつも武官の政治参加を禁じていない。
話を戻すと、民選議会が国家の運営方針を決める制度は、必ずしもそれが“絶対的・普遍的正義”であるとは限らない決定をする事になる。今のチハーキュがまさにそうだ。国民が「アメリカ許せん!」となっているうちは、アメリカが全部の要求を飲む以外、戦争を継続せざるを得ないのである。────もっとも、ヒカル自身は、この国民の意思が正義から逸脱した物だとまでは考えていないし、立憲議会制が不適切な体制だとも思っていなかったが。
早くもチハーキュの戦時増産体制は立ち上がっていっている。だから、ヒカルもあまり心配はしていなかった。季節工員に動員がかかり、停まっていたエリアIe9『セイレーン』艦上戦闘機の海軍向けラインがいくつか動き始めた。レイアナーRe4重爆撃機のラインの増設も予定通りに進んでいた。
義勇艦隊法という法律がある。これは、チハーキュ籍の船舶に対し、平時において国家が一定の補償制度を提供する代わりに、それを受けている船舶は戦時において軍の徴用に応じるというものだ。この法律の制定は議会制への以降以前だが、現在も有効だった。
また、「軍の国内徴用・徴発における相当品提供の規則」、つまりある品物を軍が徴発しようとする際に、所有者がその品物を手放せない場合、その相当品で代用してもいいという規則もある。
この両者を組み合わせて、海軍は、建造中で機関据付段階の海運協会推奨規格25,000トン型貨物船を6隻ほど徴発した。これを空母に変更して完成させる計画だった。
この段階の船が選ばれたのは、チハーキュの外洋型大型船はほとんどが外輪船なので、スクリューに変更する必要があるためだ。進水前の機関据付の工程時が一番ちょうどよかったわけだ。
本来搭載する予定のボイラと複式ユニフロー蒸気エンジン発電機に、陸上用内燃機からのフィードバックを受けて高い完成度を誇るレイアナー重工業製船舶用ユニフロー2ストロークディーゼルエンジンによる発電機を追加し、電動機でスクリューを駆動する。
速度は19ノット程度が限度だし、防御力にも難があるが、とりあえず主力の空母が地球に派遣されている間の留守番程度はできると考えられていた。
その一方、直後の補正予算でノルザレイア級大型空母4隻が決済され、起工の準備が進められていた。ノルザレイア級はトヨカムネア級代艦として2隻が建造中だったものが、追加されたものである。
…………が、この4隻はチハーキュ帝国海軍の艦籍番号が割り当てられていない。
どういうことか?
それは、すでに海軍軍縮条約体制が破棄されている地球と異なり、エボールグではまだラミューズ海海軍軍縮条約が廃止されたわけではない点だ。
この4隻は、名目上、大日本帝国海軍第6001~6004号艦として起工されることになる。現段階ではすでに、『昇鷹』『風鷹』『伯鷹』『雷鷹』の艦名まで内定していた。
この他、護衛のための駆逐艦、軽巡洋艦、潜水艦の発注もすでに各社に飛んでいる。
また戦時増産と直接には関係があるわけではないが、レイアナー重工業は航空機用2,000hp級液冷V型12気筒エンジンLV13を、10月1日を以て生産品としてカタログ入りさせた。
この他、装甲車両、軍用車両、野戦砲、機関銃、小銃、弾薬、軍服、軍用缶詰、携帯浄水器に至るまで、戦時増産計画書に沿って生産ラインの立ち上げが行われていた。
軍事行動計画に基づいた戦略行動は、着実に実行されていた。
大日本帝国、横須賀。
大日本帝国海軍航空技術廠。
修理機体工場。
「じゃあすみません、少し場所お借りします」
チハーキュ帝国海軍高等官4等軍属、レイアナー重工業航空部門第1技術部々員のペンデリン・トルヴィン・マクレアは、日本海軍の要請を受けてここにやってきた。
「お願いします」
日本海軍の真淵基夫技術少尉が、畏まって言う。
「…………」
日本海軍からもう1人、和田操技術中将がこの場にいたが、ペンデリンが挨拶をしても返事もせず、不愉快そうな表情でジロジロとペンデリンを見ていた。
「……じゃあ、失礼しますね」
和田の視線にやりにくさを感じつつ、ペンデリンは床に置かれた木箱に収められていたそれを両手で掴んで、
「よっ」
と、声を上げながら、作業台の上に置いた。
それは、油汚れや煤などだいぶ使用感のある、中島『栄』発動機のシリンダーブロックの1辺だった。それをペンデリンは、シリンダー内側の方を表にして、観察する。
「ありゃ、本当に酷いなこれは……」
ペンデリンが言いつつ、注視したのは、給排気ポート周りだった。組み立てた状態だと、バルブがあたっている「バルブシート」と呼ばれる部分だ。
ポペットバルブが激しく開閉するため、本来は周囲の素材に比べて耐久性の高い金属でできている。
それがだいぶ摩耗している。シートがなくなりかけていると言っても良かった。
バルブシートが摩耗すると、バルブが閉じきれなくなり、圧縮ヌケによる出力低下や筒外燃焼による給気管・排気管焼損などが発生する。
ガダルカナル戦が始まり、日本軍とチハーキュ軍で別々に航空燃料を運んでいたのでは不効率という話になった。
ガソリンにはオクタン価というものがあり、これが大きいほど、自然着火しにくくなる。点火栓による発火できれいに燃えるようになるため、燃焼タイミングがシビアになる高回転エンジンや、圧縮熱が発生する過給器付エンジンの場合、高オクタン価である方が望ましい。
日本海軍は92価、日本陸軍は87価、チハーキュ帝国は陸海軍とも110価。
この場合、チハーキュのエンジンに日本軍の燃料を供給すると、回転数と過給圧の制限が必要になるし、このために出力低下が発生するが、逆にチハーキュの燃料を日本軍のエンジンに供給する分には、重大な問題とはならない────はずだった。
なのでチハーキュの110価航空ガソリンをまとめて供給していたのだが……────当初、零戦のエンジンが吹け上がりやすくなったと、乗員も整備員も喜んでいた。
ところが、9月後半に入る頃から、圧縮ヌケや筒外燃焼が頻繁に発生し、今度は出力が日本海軍の燃料を使っている時より低くなるようになってしまった。
バルブリセッションが発生している事はすぐに分かった。バルブシートはある程度余裕をもった厚みがあり、摩耗した場合、バルブクリアランスを調整することで抑えることができる。
だが、通常の使用では考えられないほどの急速な摩耗をしているように感じられ、さらに、バルブ破損で不動になるエンジンも出始めて、これは一体何が起きているのか、という事になったわけだ。
原因の一因としてチハーキュ製航空燃料の使用が考えられたため、こうしてペンデリンのところに話が来たわけなのだが……
「原因、わかりますか?」
4人目の人物、三菱重工業名古屋発動機製作所の佐々木一夫技師が、ペンデリンに問いかける。
「皆目さっぱり……でも、以前よりも頻繁にこういう事が起こっているんだとしたら、ウチのガソリンが原因の可能性はありますね……」
作業台には、三菱G4M 一式陸上攻撃機などに使われている三菱『火星』の損傷シリンダーヘッド、それに破損したバルブも並べられた。
ペンデリンは、焦ったような深刻そうな、そんな表情でそれらを見ながら、声を低くして言った。
「フンッ!」
突然、部屋の端から声が聞こえてきた。
「これだから、女が兵隊やったり技師やったりする国の品物など信用できんのだ」
和田が、吐き捨てるように言うと、面白くもなさそうな様子のまま、
「こんなところで時間を潰している場合ではない。兵站部に掛け合って我が軍の燃料を輸送してもらわなければならないからな。あんなやつらに頭を下げさせられる身にもなってほしいもんだ」
と、腕を振りながら、ペンデリン達に視線を向けずに室外へ去っていく。
「…………あの、お気を悪くなさらないでください……」
申し訳無さそうに、真淵が言う。
「いや、まぁ、…………なんというか、すみません……」
それに対して、ペンデリンは、そう言いつつどこかヘラヘラとした苦笑を浮かべて誤魔化すしかできなかった。
話題を逸らせるかのように、ペンデリンは『火星』のシリンダーヘッドの、損傷バルブシートに視線を向ける。
「あれ?」
それに気が付き、ペンデリンは、まず軍手をはめたままの指でなぞってから、
「すみません、失礼します」
と、軍手を外し、指で直にバルブシートの感触を確かめた。
「なにか……気にかかることが?」
佐々木が訊ねる。
「バルブシート、随分柔らかい金属を使ってますね?」
「そうですか?」
キョトン、とした様子で、真淵が聞き返す。
「ええ、一昔前のうちの製品みたい……な……────」
そこまで言いかけて、ペンデリンは、驚愕の表情になっていった。
「あぁぁぁぁぁっ!! そうか! ノック抑制剤だ!!」
「えっ?」
「チハーキュじゃ一昨年から鉛の添加剤制限してるんです!」
「あっ! そういうことか!」
佐々木もその事実に気が付き、驚きつつも納得したように声を上げた。
ガソリンのオクタン価は、わかりやすく単純化するとその純度であると考えると理解しやすい。したがって、通常は純度100%、100価以上はない。
…………じゃあ110価とはどういうことなんだコノヤロー、という話になるが、単純にガソリンとしてオクタン価を上げる以外に、ガソリンの自然発火を抑制する添加剤を使う方法がある。それを使うと、100価を越えて110価にもできるわけだ。アメリカなどは、140価を航空用ガソリンとして供給している。
ところが、もっとも代表的な添加剤は、その主成分にテトラ・エチル鉛という鉛化合物を含んだ。鉛は、人類も含む生物の体内に取り込まれると、動物であれば末梢神経障害や腎機能障害を引き起こす。植物も高濃度では生育阻害や枯死が発生する。
しかも、生物の体内から排出されにくく、また難溶性のため土壌に蓄積しやすい。その他方、鉛化合物の微粒子は高空まで上がり、長い年月をかけて降下してくることもある。
この時代、まだ環境保護という言葉自体はなかったが、チハーキュは“公衆衛生安全”の項目のひとつとして早くも重んじていた。
というのも、チハーキュ主要4種族のうち、ダークエルフやデミ・ドワーフにとっては、100年後というのは言うほど先ではないからだ。
この為、新学暦198年頃から含鉛燃料追放運動が始まり、帝国議会でも取り上げられるに至り、204年の鉛化合物規制法の成立をもって翌205年4月1日から、
『100価以下のガソリンへの鉛化合物添加を禁ずる』
『100価超のガソリンの場合、10lにつきテトラ・エチル鉛1.1g未満もしくは他の鉛化合物添加の場合は鉛含有量でそれ相当とする』
という規制がかけられた。
日本海軍の92価航空燃料の場合、同じ10lあたり、約8gが含まれているから、チハーキュの110価航空燃料の含有量がいかに低いか解るだろう。
一方で問題なのは、この鉛添加剤の鉛成分が、バルブシートに一時、膜のように蓄積されることで、バルブとバルブシートを保護する効果があった。
この場合、鉛の膜ができてもいいよう、柔らかい素材を使うことが多かった。
だが、鉛添加剤のバルブシート保護効果がない場合、逆に硬質かつ耐久性の高い素材でバルブやバルブシートを製作する必要がある。チハーキュの110価航空燃料は完全な無鉛ではないが、有鉛ガソリン前提のエンジンには充分な量ではない。
そしてこれは────
「流石にチハーキュさんの技術はすごいですな……超硬素材のバルブシートとは……」
「へ?」
その内容をペンデリンに説明されて、佐々木が感心したような声を出してしまうと、ペンデリンは、呆気にとられたような表情になって、間の抜けた声を出してしまった。
「中島さんはともかく、三菱さんなら造れると思いますが…………」
「そ、そうですか?」
お互い意外そうな表情で、ペンデリンの言葉に、佐々木が問い返す。
「はい。ウチもディーゼルエンジンの技術の応用ですから。三菱さん、小型陸用ディーゼル、やられていましたよね?」
「あっ…………」
そう、燃料を混合気に変えて送り込むわけではない上に、シリンダー容積あたりに噴射する燃料の量も少ないディーゼルエンジンでは、燃料経由でバルブ保護剤を入れることができない。この為、自然と硬質バルブシートが採用されることになった。
チハーキュでは元々、レイアナーを最大手として陸上用高速ディーゼルエンジンの普及が早かったので、硬質バルブシートのノウハウがすでにあり、ガソリンエンジンの無鉛化・低鉛化もすんなりと決まったのだ。
「とりあえず、チハーキュには鉛添加剤規制前の自動車用の、無鉛バルブ保護添加剤があります。軍に報告して、まずはこれを送ってもらいましょう。それと、一時的に日本製エンジンのバルブシートとバルブを製造できる工場がないか、本社に探してもらいます」
「よ、よろしくお願いします」
『我々は────』
レングード中央駅北側、首相官邸前。
『我々はぁ!! グレン内閣の弱腰な戦争指導を糾弾するものである!!』
チハーキュ帝国、帝都レングード。
“赤いアマテ”と“青いラス”、二連恒星が晩冬の日和をもたらしている中、そんなうららかな機構とは対象的に、鋭い声が響いていた。
何台かの自動車が路肩に停車し、その中では目立つ大きさの、小型バス、レイアナー重工業『カヴォリア』の屋根上にバカでかいスピーカーが乗せられている。新学暦204年に発売されたばかりのクラス初のキャブオーバー、といいつつ車外側点検口兼ラジエータースペースとして鼻先が少しばかり膨らんでいるデザインで、発売以降地方のバス会社に飛ぶように売れている車種だったが、残念ながらレイアナーの革新的設計と量産能力はこのような政治活動にも使われてしまっているようだ。
リーダー格と思しき人物が、マイクに向かって声を上げている。
『アメリカ合衆国なる地球世界の国家は、畏れ多くも皇太女殿下の座乗艦を旗艦とする艦隊に攻撃を仕掛け、不幸中にも殿下は御無事であらせられたが、練習戦の沈没と空母の損傷に伴い少なからぬ者が命を落とした。それも、彼女達の多くは将来のチハーキュの守りを担いうる練習生であった! これが国家そのものに対する破壊行為であると言わずしてなんと言うべきであろうか!!』
彼のアジテーションに対し、首相官邸前に集まった群衆は「そうだ!」「そうだ!!」と口々に声を上げる。
『我が国の当然の謝罪・賠償要求に対し厚顔無恥にもこれを退けたアメリカに対して、我が国として宣戦布告は行ったものの、事件発生よりすでに3ヶ月半が過ぎたにも関わらず、地球での我が帝国陸海軍の活動は非常に限定的である! 世界に誇る最強の海軍、その機動力を以てしてどの大陸国家よりも精強な陸軍、そう喧伝し帝国臣民1人に至るまでその実力を矜持としてきたこれまではいったい何であったのか!? 軍備へ注がれた血税は意味のないものであったのか!?』
「そうだ!」
「軍は何をしている!? 政府は何を手をこまねいている!?」
「恥を知らぬ君主なき国に思い知らせてやれ!」
群衆の方でも、声を上げつつ口惜しさで強く握りしめた拳が振り上がる。
『国家の根幹に害意を向けられてこれに断固たる対応をしないのであれば、これは国家として去勢されたに等しい! ましてや、科学同盟の実質的盟主たる我が国がそのような体たらくであれば、同盟全体が危険に脅かされる! 親愛を向ける者には親愛を以て報い、害意を向ける者には鉄槌を以て報いる、これが我が国の外交上の国是であり、また外交の大原則のひとつである! それとも、セルゲリオス・グレン首相は旧暦300年に及ぶ屈辱の被支配時代を忘れてしまったとでも言うのか!』
「そうだ!」
「今こそ強靭な現代の我が国の力を見せろ!」
「直ちに艦隊の増派を!」
「アメリカ合衆国、許すまじ!!」
「まったくもう……」
双眼鏡を下ろしながら、皇太女ヒカル・エヴァンジェリン・ブレイク・チイイニ・チハーキュ・レムゼンは、呆れ混じりの苦笑を浮かべながらため息を吐いた。
チハーキュ皇宮は、全体的には地球の西洋の城の趣を持っていたが、元々戦城であり、天守閣を持っている。高層建築の制限をしていないので、今や皇宮より高いビルは珍しくもないが、それでもそれなりの光景を見渡すことができる。
レングード中央駅北側の、衆議院議場と首相官邸・内閣府が並んでいる広場は、簡単な双眼鏡があれば手に取るように見える。ヒカルは、そこを伺っていた。
アンプ・スピーカーで拡声されているアジテーターの声はともかく、群衆の声までは届いてこないが、だいたい何を言っているのか解る。
バイハイ戦役の時などもそうだが、チハーキュ帝国の国民は基本的に国家間の危害に対してナイーブだ。先程アジテーターが言った、「親愛を向ける者には親愛を以て報い、害意を向ける者には鉄槌を以て報いる」、この一言に現れている。
再独立したとは言っても、この世界においては孤独な科学技術国。自ら技術を研鑽し高め、それを同じように抑圧されていた国家や地域にプレゼンし、助け、今日の科学同盟圏を形成するまでの必死に過ぎた150と余年。再独立し現皇朝が建てられてからの長さで言えばアメリカとは同程度と言えるが、その中身が濃すぎて、現代世代もそれが拔けていない。ついでにダークエルフやデミ・ドワーフにとってはその時代を知っている世代も健在だ。地球派遣艦隊南太平洋支隊指揮官、カティナ・チアカ・フロメラス中将なども、生まれは独立後だが、国家の強度を上げるために我武者羅だった時代を知っている世代である。
そこへ持ってきての誤攻撃事件は、チハーキュ国民のナショナリズムを強烈に刺激してしまった。
7月31日、開戦の決定が国民に知らされた時、グレン内閣の支持率は7割を越えていた。枢軸側呼称『第一次ソロモン海戦』の大戦果は、国民を熱狂させた。
だが、実態として戦力の小出しが続いていると、国民の不満がたまり始め、グレン内閣の支持率は9月中頃に50%割れになった。ただし、継戦すべきか否かについては相変わらず7割弱が「継戦すべき」であり、もっとも多い意見は「アメリカ合衆国が要求を受け入れるまで継戦すべき」の45%内外となっているが。
実際には主戦派の意識を持っているヒカルだが、軍の階級も持っている立場でもあり、現状で兵力の小出しが続いている理由は解っている。そして、皇帝に奏上された軍事行動計画の内容も知っている。
──まぁ、政治家連中と参謀本部の連中がしっかりしていれば、慌てることはないと思うけど……
ヒカルは、声に出さずに呟く。
──立憲制っていうのも、場合によっては厄介よね……
ヒカルはいい加減そうな苦笑を浮かべた。
エボールグでは、チハーキュの再独立と科学技術国化によって、地球で言うところの“ジョン・ロックの社会契約論”(統治二論)が萌芽し、自らも立憲君主議会制に移行した。ただ、“ジャン=ジャック・ルソーの社会契約論”に基づいた“民主主義”(市民の、市民による、市民のための政治)には至っていないため、その単語も誕生していない。
ついでに、文官制が望ましいとしつつも武官の政治参加を禁じていない。
話を戻すと、民選議会が国家の運営方針を決める制度は、必ずしもそれが“絶対的・普遍的正義”であるとは限らない決定をする事になる。今のチハーキュがまさにそうだ。国民が「アメリカ許せん!」となっているうちは、アメリカが全部の要求を飲む以外、戦争を継続せざるを得ないのである。────もっとも、ヒカル自身は、この国民の意思が正義から逸脱した物だとまでは考えていないし、立憲議会制が不適切な体制だとも思っていなかったが。
早くもチハーキュの戦時増産体制は立ち上がっていっている。だから、ヒカルもあまり心配はしていなかった。季節工員に動員がかかり、停まっていたエリアIe9『セイレーン』艦上戦闘機の海軍向けラインがいくつか動き始めた。レイアナーRe4重爆撃機のラインの増設も予定通りに進んでいた。
義勇艦隊法という法律がある。これは、チハーキュ籍の船舶に対し、平時において国家が一定の補償制度を提供する代わりに、それを受けている船舶は戦時において軍の徴用に応じるというものだ。この法律の制定は議会制への以降以前だが、現在も有効だった。
また、「軍の国内徴用・徴発における相当品提供の規則」、つまりある品物を軍が徴発しようとする際に、所有者がその品物を手放せない場合、その相当品で代用してもいいという規則もある。
この両者を組み合わせて、海軍は、建造中で機関据付段階の海運協会推奨規格25,000トン型貨物船を6隻ほど徴発した。これを空母に変更して完成させる計画だった。
この段階の船が選ばれたのは、チハーキュの外洋型大型船はほとんどが外輪船なので、スクリューに変更する必要があるためだ。進水前の機関据付の工程時が一番ちょうどよかったわけだ。
本来搭載する予定のボイラと複式ユニフロー蒸気エンジン発電機に、陸上用内燃機からのフィードバックを受けて高い完成度を誇るレイアナー重工業製船舶用ユニフロー2ストロークディーゼルエンジンによる発電機を追加し、電動機でスクリューを駆動する。
速度は19ノット程度が限度だし、防御力にも難があるが、とりあえず主力の空母が地球に派遣されている間の留守番程度はできると考えられていた。
その一方、直後の補正予算でノルザレイア級大型空母4隻が決済され、起工の準備が進められていた。ノルザレイア級はトヨカムネア級代艦として2隻が建造中だったものが、追加されたものである。
…………が、この4隻はチハーキュ帝国海軍の艦籍番号が割り当てられていない。
どういうことか?
それは、すでに海軍軍縮条約体制が破棄されている地球と異なり、エボールグではまだラミューズ海海軍軍縮条約が廃止されたわけではない点だ。
この4隻は、名目上、大日本帝国海軍第6001~6004号艦として起工されることになる。現段階ではすでに、『昇鷹』『風鷹』『伯鷹』『雷鷹』の艦名まで内定していた。
この他、護衛のための駆逐艦、軽巡洋艦、潜水艦の発注もすでに各社に飛んでいる。
また戦時増産と直接には関係があるわけではないが、レイアナー重工業は航空機用2,000hp級液冷V型12気筒エンジンLV13を、10月1日を以て生産品としてカタログ入りさせた。
この他、装甲車両、軍用車両、野戦砲、機関銃、小銃、弾薬、軍服、軍用缶詰、携帯浄水器に至るまで、戦時増産計画書に沿って生産ラインの立ち上げが行われていた。
軍事行動計画に基づいた戦略行動は、着実に実行されていた。
大日本帝国、横須賀。
大日本帝国海軍航空技術廠。
修理機体工場。
「じゃあすみません、少し場所お借りします」
チハーキュ帝国海軍高等官4等軍属、レイアナー重工業航空部門第1技術部々員のペンデリン・トルヴィン・マクレアは、日本海軍の要請を受けてここにやってきた。
「お願いします」
日本海軍の真淵基夫技術少尉が、畏まって言う。
「…………」
日本海軍からもう1人、和田操技術中将がこの場にいたが、ペンデリンが挨拶をしても返事もせず、不愉快そうな表情でジロジロとペンデリンを見ていた。
「……じゃあ、失礼しますね」
和田の視線にやりにくさを感じつつ、ペンデリンは床に置かれた木箱に収められていたそれを両手で掴んで、
「よっ」
と、声を上げながら、作業台の上に置いた。
それは、油汚れや煤などだいぶ使用感のある、中島『栄』発動機のシリンダーブロックの1辺だった。それをペンデリンは、シリンダー内側の方を表にして、観察する。
「ありゃ、本当に酷いなこれは……」
ペンデリンが言いつつ、注視したのは、給排気ポート周りだった。組み立てた状態だと、バルブがあたっている「バルブシート」と呼ばれる部分だ。
ポペットバルブが激しく開閉するため、本来は周囲の素材に比べて耐久性の高い金属でできている。
それがだいぶ摩耗している。シートがなくなりかけていると言っても良かった。
バルブシートが摩耗すると、バルブが閉じきれなくなり、圧縮ヌケによる出力低下や筒外燃焼による給気管・排気管焼損などが発生する。
ガダルカナル戦が始まり、日本軍とチハーキュ軍で別々に航空燃料を運んでいたのでは不効率という話になった。
ガソリンにはオクタン価というものがあり、これが大きいほど、自然着火しにくくなる。点火栓による発火できれいに燃えるようになるため、燃焼タイミングがシビアになる高回転エンジンや、圧縮熱が発生する過給器付エンジンの場合、高オクタン価である方が望ましい。
日本海軍は92価、日本陸軍は87価、チハーキュ帝国は陸海軍とも110価。
この場合、チハーキュのエンジンに日本軍の燃料を供給すると、回転数と過給圧の制限が必要になるし、このために出力低下が発生するが、逆にチハーキュの燃料を日本軍のエンジンに供給する分には、重大な問題とはならない────はずだった。
なのでチハーキュの110価航空ガソリンをまとめて供給していたのだが……────当初、零戦のエンジンが吹け上がりやすくなったと、乗員も整備員も喜んでいた。
ところが、9月後半に入る頃から、圧縮ヌケや筒外燃焼が頻繁に発生し、今度は出力が日本海軍の燃料を使っている時より低くなるようになってしまった。
バルブリセッションが発生している事はすぐに分かった。バルブシートはある程度余裕をもった厚みがあり、摩耗した場合、バルブクリアランスを調整することで抑えることができる。
だが、通常の使用では考えられないほどの急速な摩耗をしているように感じられ、さらに、バルブ破損で不動になるエンジンも出始めて、これは一体何が起きているのか、という事になったわけだ。
原因の一因としてチハーキュ製航空燃料の使用が考えられたため、こうしてペンデリンのところに話が来たわけなのだが……
「原因、わかりますか?」
4人目の人物、三菱重工業名古屋発動機製作所の佐々木一夫技師が、ペンデリンに問いかける。
「皆目さっぱり……でも、以前よりも頻繁にこういう事が起こっているんだとしたら、ウチのガソリンが原因の可能性はありますね……」
作業台には、三菱G4M 一式陸上攻撃機などに使われている三菱『火星』の損傷シリンダーヘッド、それに破損したバルブも並べられた。
ペンデリンは、焦ったような深刻そうな、そんな表情でそれらを見ながら、声を低くして言った。
「フンッ!」
突然、部屋の端から声が聞こえてきた。
「これだから、女が兵隊やったり技師やったりする国の品物など信用できんのだ」
和田が、吐き捨てるように言うと、面白くもなさそうな様子のまま、
「こんなところで時間を潰している場合ではない。兵站部に掛け合って我が軍の燃料を輸送してもらわなければならないからな。あんなやつらに頭を下げさせられる身にもなってほしいもんだ」
と、腕を振りながら、ペンデリン達に視線を向けずに室外へ去っていく。
「…………あの、お気を悪くなさらないでください……」
申し訳無さそうに、真淵が言う。
「いや、まぁ、…………なんというか、すみません……」
それに対して、ペンデリンは、そう言いつつどこかヘラヘラとした苦笑を浮かべて誤魔化すしかできなかった。
話題を逸らせるかのように、ペンデリンは『火星』のシリンダーヘッドの、損傷バルブシートに視線を向ける。
「あれ?」
それに気が付き、ペンデリンは、まず軍手をはめたままの指でなぞってから、
「すみません、失礼します」
と、軍手を外し、指で直にバルブシートの感触を確かめた。
「なにか……気にかかることが?」
佐々木が訊ねる。
「バルブシート、随分柔らかい金属を使ってますね?」
「そうですか?」
キョトン、とした様子で、真淵が聞き返す。
「ええ、一昔前のうちの製品みたい……な……────」
そこまで言いかけて、ペンデリンは、驚愕の表情になっていった。
「あぁぁぁぁぁっ!! そうか! ノック抑制剤だ!!」
「えっ?」
「チハーキュじゃ一昨年から鉛の添加剤制限してるんです!」
「あっ! そういうことか!」
佐々木もその事実に気が付き、驚きつつも納得したように声を上げた。
ガソリンのオクタン価は、わかりやすく単純化するとその純度であると考えると理解しやすい。したがって、通常は純度100%、100価以上はない。
…………じゃあ110価とはどういうことなんだコノヤロー、という話になるが、単純にガソリンとしてオクタン価を上げる以外に、ガソリンの自然発火を抑制する添加剤を使う方法がある。それを使うと、100価を越えて110価にもできるわけだ。アメリカなどは、140価を航空用ガソリンとして供給している。
ところが、もっとも代表的な添加剤は、その主成分にテトラ・エチル鉛という鉛化合物を含んだ。鉛は、人類も含む生物の体内に取り込まれると、動物であれば末梢神経障害や腎機能障害を引き起こす。植物も高濃度では生育阻害や枯死が発生する。
しかも、生物の体内から排出されにくく、また難溶性のため土壌に蓄積しやすい。その他方、鉛化合物の微粒子は高空まで上がり、長い年月をかけて降下してくることもある。
この時代、まだ環境保護という言葉自体はなかったが、チハーキュは“公衆衛生安全”の項目のひとつとして早くも重んじていた。
というのも、チハーキュ主要4種族のうち、ダークエルフやデミ・ドワーフにとっては、100年後というのは言うほど先ではないからだ。
この為、新学暦198年頃から含鉛燃料追放運動が始まり、帝国議会でも取り上げられるに至り、204年の鉛化合物規制法の成立をもって翌205年4月1日から、
『100価以下のガソリンへの鉛化合物添加を禁ずる』
『100価超のガソリンの場合、10lにつきテトラ・エチル鉛1.1g未満もしくは他の鉛化合物添加の場合は鉛含有量でそれ相当とする』
という規制がかけられた。
日本海軍の92価航空燃料の場合、同じ10lあたり、約8gが含まれているから、チハーキュの110価航空燃料の含有量がいかに低いか解るだろう。
一方で問題なのは、この鉛添加剤の鉛成分が、バルブシートに一時、膜のように蓄積されることで、バルブとバルブシートを保護する効果があった。
この場合、鉛の膜ができてもいいよう、柔らかい素材を使うことが多かった。
だが、鉛添加剤のバルブシート保護効果がない場合、逆に硬質かつ耐久性の高い素材でバルブやバルブシートを製作する必要がある。チハーキュの110価航空燃料は完全な無鉛ではないが、有鉛ガソリン前提のエンジンには充分な量ではない。
そしてこれは────
「流石にチハーキュさんの技術はすごいですな……超硬素材のバルブシートとは……」
「へ?」
その内容をペンデリンに説明されて、佐々木が感心したような声を出してしまうと、ペンデリンは、呆気にとられたような表情になって、間の抜けた声を出してしまった。
「中島さんはともかく、三菱さんなら造れると思いますが…………」
「そ、そうですか?」
お互い意外そうな表情で、ペンデリンの言葉に、佐々木が問い返す。
「はい。ウチもディーゼルエンジンの技術の応用ですから。三菱さん、小型陸用ディーゼル、やられていましたよね?」
「あっ…………」
そう、燃料を混合気に変えて送り込むわけではない上に、シリンダー容積あたりに噴射する燃料の量も少ないディーゼルエンジンでは、燃料経由でバルブ保護剤を入れることができない。この為、自然と硬質バルブシートが採用されることになった。
チハーキュでは元々、レイアナーを最大手として陸上用高速ディーゼルエンジンの普及が早かったので、硬質バルブシートのノウハウがすでにあり、ガソリンエンジンの無鉛化・低鉛化もすんなりと決まったのだ。
「とりあえず、チハーキュには鉛添加剤規制前の自動車用の、無鉛バルブ保護添加剤があります。軍に報告して、まずはこれを送ってもらいましょう。それと、一時的に日本製エンジンのバルブシートとバルブを製造できる工場がないか、本社に探してもらいます」
「よ、よろしくお願いします」
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