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第19話 新米子爵、空を征く。
Chapter-20
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「ま、実際、今回行くシレジア王国と帝国との関係と、俺の師匠がアドラーシールム西方の魔女、と呼ばれている理由とは、ちょっと繋がりがあったりするんだけどな」
「そうなんですか」
俺が、少し苦笑気味に言うと、ミーラが、感心したようにと言うか、そんな感じで、訊き返すように言ってきた。
「シレジア王国とアドラーシールム帝国は、一応友好条約を結んでるだろ?」
「ええ、って言うか、一応じゃなくて、実際にしっかり、友好条約を結んでますけど……」
ミーラが、わざわざ訂正するかのように言ってきた。
まぁ、ミーラは、そのあたりしっかり言われてるだろうから、そうなるんだろうけどな。
「アドラーシールム帝国の西側って、だいたい半分ずつになってるだろ?」
北側が今回親善訪問に向かうシレジア王国、南側がファルク王国だ。
「そうだけど……それがなにか?」
エミが訊き返してくる。
「ファルク王国は、以前領土を拡大しようと、まだあまり開拓されていなかったアドラーシールム帝国領の西側に侵入したことがあってな、それで戦争になったことがあるんだ」
「その話は……訊いたことがあります」
俺が説明すると、ミーラが少し、表情を険しくして、そう言った。
「その時に、うちの師匠が珍しく、帝国に味方して暴れまわってな」
「ああ、それで、アドラーシールム西方の魔女、ですか」
俺が苦笑しながら言うと、ミーラは合点が言った、というように、そう言った。
「で、まぁ、しばらくの間の戦禍になったそうなんだが、その戦禍を収めるため、ファルク北方の……まぁ、今とは王朝が違ったらしいんだが、今のシレジア王国の位置にあった王朝と同盟関係を結んでな、北方から圧力をかけてもらったわけよ」
「それで、帝国との戦争どころじゃなくなったファルクは、矛を収めた」
エミの言葉に、俺は頷く。
「帝国としても、ファルク王国の王都まで攻め上げる価値はなかったらしいからな。とりあえず、帝国が領有を宣言している領域から出ていってくれればよかったわけだ」
「それで、シレジアとは友好条約を結んでいる、って言うこと」
俺が言うと、エミが納得したように、そう言った。
「そういうことも、あるんですね……」
「国同士の関係なんてそんなもんさ。今も昔もな」
そう、昔、もな。
「まるでアルヴィンみたい」
俺がそんな事を言ったら、エミが、クス、と笑いながら、そう言った。
「え? それはどういう意味?」
「さっき、キャロにちょっかい出してたから、今度は私達の方へ来た」
ありゃ。
「い、いや別に、バランスを取ろうとか、そう言う考えを持っているわけじゃないぞ」
「そういうことに、しておきましょうか」
ミーラがくすぐすと笑って、そう言った。
むう……なんかスッキリしない……
「ふぁ!? あ、アルヴィン!?」
俺は、いきなりミーラを、正面から抱きしめていた。
「あ、あの……アルヴィン?」
「うーん……確かに、バランスが崩れてる気はするなぁ」
俺は、ミーラを優しく抱きしめたまま、そう言った。
「キャロはこれぐらいしても、一瞬は動揺するけどいつまでもあたふたしてないもんなぁ」
「そ、それはわかりますが、衆目の中で、こ、これは、その……」
ミーラはそう言うが、別に、親善使節団以外は乗ってないんだ、そんなに気にする必要もない。
ミーラを愛でるように抱きしめていると、今度ははた、と、エミと目があった。
「はふぅ……」
ようやく解放されて、ミーラは逆上せたように目を回したような感じで、多少よろけつつ、姿勢を直した。
「うーん……これはこれで……」
今度は、エミを抱きしめてみる。
まぁ、いきなりじゃない、ってのもあるんだろうけど……
「バランスが崩れてるのはまずいなぁ……」
エミは、抱きしめられても余裕気。
キャロみたいに一瞬驚いたりもしない。
むしろ、口元で微笑んでたりする。
「なにをやってるんだ、お前らは……」
ついこの前、ジャックに抱きついて頬ずりまでしてた姉弟子に言われる筋合いは、ない気がするんだけどなー
まぁ、確かに、俺としては、なんか役得みたいな感じはするんだけどな?
「ようこそおいでくださいました。親善使節団長、マイケル・アルヴィン・バックエショフ子爵殿と、御一行の皆さん」
イチャついてみたり、ジャックと姉弟子をイチャつかせてみたりしながら、ヒマを潰しつつ、ようやくのことで飛空船はシレジアの王都。シャロンに到着していた。
当然、シャロンにも空港はある。
定期的に、シャロンとヒドリヒスシティの間を往復する便がある。
長身の、武官、と言った感じの青年が、飛空船から降りてきた俺達を出迎えた。
「今回、滞在中の皆さんのお世話を任されました、クロヴィス・アルノワ・コンセプシオン大佐であります。よろしくお願いします」
そう名乗られて、俺はドキリ、とした。
「大佐……という事は、シレジアには国防軍が存在している……ということですか?」
俺は、驚いた様子を隠しきれずに、そう訊ねていた。
「はい」
クロヴィスという大佐は、笑顔でそう言った。
まいったな、シレジアの国防体制は、アドラーシールムより進んでるじゃないか。
「我が国は、常に南方のファルク王国の野心に晒されていますから。どうしても、常設軍を持たなければならないのです」
「なるほど、ファルク王国の野心、ね」
言い得て妙だ。だが────
もし、シレジアがアドラーシールム帝国を信用しきっているなら、どこぞの平和ボケした島国のように、もっと国防に対して、大国であるアドラーシールムに依存しているはずだ。
まぁ、あの国はあの国で、一見平和ボケしてるように見えても、それなりに頑張ってたんだが。
その体制が、帝国より洗練されているというのは、要するに、帝国に対しても決して気は許していない、ということだ。
「大佐ってなに? 爵位とは違うの?」
俺が緊張しているのに気付いてか、少し不安げな様子のキャロが、問いかけてきた。
「軍隊の階級だよ」
「軍隊? 階級っていうのは、位の高さの事?」
俺が短く言うと、キャロはさらに訊き返してくる。
「ああ、シレジアは領主毎に兵団を持つ形じゃなく、国の中央が集中して将兵をまとめているんだよ。それを軍隊っていうんだ」
「へぇ、変わってるのね」
うん、キャロぐらいだと、その認識だろうなぁ……説明するにしても、今はまずいし。
「まずは、皆さん長旅でお疲れでしょう、御宿舎にご案内いたしますね」
「ああ、はい、よろしくお願いします」
クロヴィス大佐に言われて、俺はドキリとしながら、慌てたようにそう言った。
「アルヴィン、なんか深刻そう」
「一体、どうしたというのでしょうか?」
俺を先頭に、クロヴィス大佐に連れられて、俺達は進む。
その俺の直後で、エミとミーラがそんな言葉をやり取りしていた。
「たぶん、アルヴィンのことだから、きっと、前世でのこと」
う。さすがエミはそう言う勘が鋭いな。
空港からは、まだ、馬車で移動しなければならず、俺達は2台の馬車に分乗して、王城のある方へと向かって走る。
シャロンの王城は、アドラスの皇宮よりかは少し小さかったが、空港から出ると、まずその建物が見える程度の大きさはあった。
俺達が連れてこられたのは、王城そのものではなく、その王城に併設するかのように建設された、ゲスト用の宿舎……とでも言えば良いのか? その一角に案内された。
王城に併設された、とは言うものの、王城を取り囲んでいる堀の、外側にある。
その、ホテルのロビーのようなところに、俺達は案内されてきた。
部屋は、自由に使って良いと言う。
「皆様には不自由をかけないようにと、陛下からは仰せつかっております。なにかありましたら、お気軽にお申し出ください」
クロヴィス大佐は、そう言って、深く一礼してから、一旦退室していった。
「そうなんですか」
俺が、少し苦笑気味に言うと、ミーラが、感心したようにと言うか、そんな感じで、訊き返すように言ってきた。
「シレジア王国とアドラーシールム帝国は、一応友好条約を結んでるだろ?」
「ええ、って言うか、一応じゃなくて、実際にしっかり、友好条約を結んでますけど……」
ミーラが、わざわざ訂正するかのように言ってきた。
まぁ、ミーラは、そのあたりしっかり言われてるだろうから、そうなるんだろうけどな。
「アドラーシールム帝国の西側って、だいたい半分ずつになってるだろ?」
北側が今回親善訪問に向かうシレジア王国、南側がファルク王国だ。
「そうだけど……それがなにか?」
エミが訊き返してくる。
「ファルク王国は、以前領土を拡大しようと、まだあまり開拓されていなかったアドラーシールム帝国領の西側に侵入したことがあってな、それで戦争になったことがあるんだ」
「その話は……訊いたことがあります」
俺が説明すると、ミーラが少し、表情を険しくして、そう言った。
「その時に、うちの師匠が珍しく、帝国に味方して暴れまわってな」
「ああ、それで、アドラーシールム西方の魔女、ですか」
俺が苦笑しながら言うと、ミーラは合点が言った、というように、そう言った。
「で、まぁ、しばらくの間の戦禍になったそうなんだが、その戦禍を収めるため、ファルク北方の……まぁ、今とは王朝が違ったらしいんだが、今のシレジア王国の位置にあった王朝と同盟関係を結んでな、北方から圧力をかけてもらったわけよ」
「それで、帝国との戦争どころじゃなくなったファルクは、矛を収めた」
エミの言葉に、俺は頷く。
「帝国としても、ファルク王国の王都まで攻め上げる価値はなかったらしいからな。とりあえず、帝国が領有を宣言している領域から出ていってくれればよかったわけだ」
「それで、シレジアとは友好条約を結んでいる、って言うこと」
俺が言うと、エミが納得したように、そう言った。
「そういうことも、あるんですね……」
「国同士の関係なんてそんなもんさ。今も昔もな」
そう、昔、もな。
「まるでアルヴィンみたい」
俺がそんな事を言ったら、エミが、クス、と笑いながら、そう言った。
「え? それはどういう意味?」
「さっき、キャロにちょっかい出してたから、今度は私達の方へ来た」
ありゃ。
「い、いや別に、バランスを取ろうとか、そう言う考えを持っているわけじゃないぞ」
「そういうことに、しておきましょうか」
ミーラがくすぐすと笑って、そう言った。
むう……なんかスッキリしない……
「ふぁ!? あ、アルヴィン!?」
俺は、いきなりミーラを、正面から抱きしめていた。
「あ、あの……アルヴィン?」
「うーん……確かに、バランスが崩れてる気はするなぁ」
俺は、ミーラを優しく抱きしめたまま、そう言った。
「キャロはこれぐらいしても、一瞬は動揺するけどいつまでもあたふたしてないもんなぁ」
「そ、それはわかりますが、衆目の中で、こ、これは、その……」
ミーラはそう言うが、別に、親善使節団以外は乗ってないんだ、そんなに気にする必要もない。
ミーラを愛でるように抱きしめていると、今度ははた、と、エミと目があった。
「はふぅ……」
ようやく解放されて、ミーラは逆上せたように目を回したような感じで、多少よろけつつ、姿勢を直した。
「うーん……これはこれで……」
今度は、エミを抱きしめてみる。
まぁ、いきなりじゃない、ってのもあるんだろうけど……
「バランスが崩れてるのはまずいなぁ……」
エミは、抱きしめられても余裕気。
キャロみたいに一瞬驚いたりもしない。
むしろ、口元で微笑んでたりする。
「なにをやってるんだ、お前らは……」
ついこの前、ジャックに抱きついて頬ずりまでしてた姉弟子に言われる筋合いは、ない気がするんだけどなー
まぁ、確かに、俺としては、なんか役得みたいな感じはするんだけどな?
「ようこそおいでくださいました。親善使節団長、マイケル・アルヴィン・バックエショフ子爵殿と、御一行の皆さん」
イチャついてみたり、ジャックと姉弟子をイチャつかせてみたりしながら、ヒマを潰しつつ、ようやくのことで飛空船はシレジアの王都。シャロンに到着していた。
当然、シャロンにも空港はある。
定期的に、シャロンとヒドリヒスシティの間を往復する便がある。
長身の、武官、と言った感じの青年が、飛空船から降りてきた俺達を出迎えた。
「今回、滞在中の皆さんのお世話を任されました、クロヴィス・アルノワ・コンセプシオン大佐であります。よろしくお願いします」
そう名乗られて、俺はドキリ、とした。
「大佐……という事は、シレジアには国防軍が存在している……ということですか?」
俺は、驚いた様子を隠しきれずに、そう訊ねていた。
「はい」
クロヴィスという大佐は、笑顔でそう言った。
まいったな、シレジアの国防体制は、アドラーシールムより進んでるじゃないか。
「我が国は、常に南方のファルク王国の野心に晒されていますから。どうしても、常設軍を持たなければならないのです」
「なるほど、ファルク王国の野心、ね」
言い得て妙だ。だが────
もし、シレジアがアドラーシールム帝国を信用しきっているなら、どこぞの平和ボケした島国のように、もっと国防に対して、大国であるアドラーシールムに依存しているはずだ。
まぁ、あの国はあの国で、一見平和ボケしてるように見えても、それなりに頑張ってたんだが。
その体制が、帝国より洗練されているというのは、要するに、帝国に対しても決して気は許していない、ということだ。
「大佐ってなに? 爵位とは違うの?」
俺が緊張しているのに気付いてか、少し不安げな様子のキャロが、問いかけてきた。
「軍隊の階級だよ」
「軍隊? 階級っていうのは、位の高さの事?」
俺が短く言うと、キャロはさらに訊き返してくる。
「ああ、シレジアは領主毎に兵団を持つ形じゃなく、国の中央が集中して将兵をまとめているんだよ。それを軍隊っていうんだ」
「へぇ、変わってるのね」
うん、キャロぐらいだと、その認識だろうなぁ……説明するにしても、今はまずいし。
「まずは、皆さん長旅でお疲れでしょう、御宿舎にご案内いたしますね」
「ああ、はい、よろしくお願いします」
クロヴィス大佐に言われて、俺はドキリとしながら、慌てたようにそう言った。
「アルヴィン、なんか深刻そう」
「一体、どうしたというのでしょうか?」
俺を先頭に、クロヴィス大佐に連れられて、俺達は進む。
その俺の直後で、エミとミーラがそんな言葉をやり取りしていた。
「たぶん、アルヴィンのことだから、きっと、前世でのこと」
う。さすがエミはそう言う勘が鋭いな。
空港からは、まだ、馬車で移動しなければならず、俺達は2台の馬車に分乗して、王城のある方へと向かって走る。
シャロンの王城は、アドラスの皇宮よりかは少し小さかったが、空港から出ると、まずその建物が見える程度の大きさはあった。
俺達が連れてこられたのは、王城そのものではなく、その王城に併設するかのように建設された、ゲスト用の宿舎……とでも言えば良いのか? その一角に案内された。
王城に併設された、とは言うものの、王城を取り囲んでいる堀の、外側にある。
その、ホテルのロビーのようなところに、俺達は案内されてきた。
部屋は、自由に使って良いと言う。
「皆様には不自由をかけないようにと、陛下からは仰せつかっております。なにかありましたら、お気軽にお申し出ください」
クロヴィス大佐は、そう言って、深く一礼してから、一旦退室していった。
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