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第20話 隣国の立太子の事情に巻き込まれる。
Chapter-22
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その日の夕刻、俺達はシレジアの宮中晩餐会に招かれた。
シレジアの王城は、全体的にはアドラスの皇宮よりは小ぶり、とは以前にも語ったが、そこは客人をもてなす場、晩餐会が行われるホールは、かなり広く、調度品も豪華にできていた。
晩餐会は、そこで、立食パーティーの形で、行われていた。
俺達以外にも、シレジア王家が招いた賓客が、パーティーに参加している。
ファルク王国からも……呼んだか。一応、礼儀の問題になるしな。
「また、ジャック、肉ばかり食ってるな」
俺は苦笑しながらそう言った。食事が振る舞われると、いつも肉ばかり食べている。
俺の結婚式の時もそうだった。
「だって、やっぱりこういう時にはしっかりガッツリ食っておかないとよー」
ジャックが言う。
意地汚いから喋るか食べるかどっちかにしろ。
「それにしても、みんな、ドレス似合ってるなぁ」
俺は、パーティードレス姿の女性陣の姿を見て、そう言った。
ドレスと言っても、主賓を食ってしまわないよう、どちらかと言うとシンプルなものだ。
だが、皆よく似合っている。
「キャロは、……ウェディング衣装姿も良かったけど、そのドレスだと、キャロの……その、魅力が引き立って、いいな」
俺は、一瞬言葉を選んで、言う。
「良いのよ、“可愛い”って言ってくれて」
キャロは、仕方ないわねー、という感じで苦笑しながら、そう言った。
「たはは……読まれちゃうか」
俺の方が、きまり悪そうに苦笑するしかない。
「いいのよ、アルヴィンに“可愛い”って言ってもらえるの、結構嬉しいんだからね」
「ああ、解った。可愛いよ、似合ってる。」
ドレスのシンプルさが、キャロの可愛らしさをうまく引き出している。
「エミも似合ってるし……可愛いよ」
「ありがとう」
俺が言うと、群青色のドレスを着たエミは、口元で笑みを浮かべつつ、そう言った。
「あとはミーラの、そう言う格好って新鮮だな」
「え? そうですか?」
ミーラは普段、「五柱神聖教」の法衣姿で居ることが多いから、ドレス姿というのは、新鮮に感じる。
まぁ、ホーリーシンボルの大きなメダルは、首から下げているんだが。
「あとは……」
俺は、会場を一旦見回すようにしてから、肉料理をがっついているジャックを、肘で突いた。
「なんだよ」
と、振り返るジャックに、俺は顎で、それを指してみせた。
「あ……リリーさん、その、とても似合ってますよ」
「お世辞は良い、私はこういうのを着ても、不釣り合いになってしまうのは解っているからな」
とは言うものの。
シックなワインレッドのドレスに、きつすぎない色のルージュを唇に差した姉弟子の姿は、いつもと違い、どこか大人びても見える。悪くない。
「い、いや、お世辞なんかじゃないです、今日のリリーさん、そ、その、綺麗ですよ」
ジャックは、少し照れたようにしながらも、姉弟子にしっかりと視線を向けて、そう言った。
「そうですよ、姉弟子、素材は悪くないんですから、少し自信を持ってください」
俺からも、姉弟子にそう言った。
「そう言ってもらえると、嬉しいが」
姉弟子は、苦笑気味にではあるが、嬉しそうに笑った。
当然だが槍だのメイスだのは持ち込めていない。
いや、エミがショートソードを脛に括り付けて持ち込もうとしていたのだが、やめさせた。
俺と姉弟子が居るんだ、フィジカル組が武器を持たなくても、大概のことはなんとかなる。
「こちらはアドラーシールム帝国親善使節団の皆さんですかな?」
中年と壮年の境目ぐらいの歳の男性が、俺達に声をかけてきた。
体格はよく、線が太く、がっしりしている。
武人肌のローチ伯爵を思わせる男性だ。
「そうですが……あなたは?」
俺は、素で訊き返してしまっていた。
「おっと、自己紹介が遅れましたな、私がシレジア王国国王、ガスパル・シムノン・シエルラと申します」
え? 今なんつった?
「ええ、ええええっ!?」
俺達は、揃って声を上げてしまった。
だって、いきなりこんな気さくな感じで、国家元首が話しかけて来るとは思えないじゃない。
「こ、これは無礼を失礼いたしました」
俺が良い、皆揃って頭を下げている。
姉弟子だけは落ち着いた様子で、ワインを煽っているな。つまり、こういうことをする人だって知ってたな?
「何、別に今日はせっかくの宴席、しゃちこばる必要はありませんぞ」
ガスパル国王は、「ハッハッハ」と笑い飛ばすように言った。
増々ローチ伯爵みたいな人だな。
「ところで、2体のドラゴンを仕留めたという、ドラゴン・スレイヤーのマイケル・アルヴィン・バックエショフ子爵はどちらかな?」
「あ……あーと……一応、俺です」
こんなところにまで話が広がってんのかよ。
「ほう、ドラゴンを2体も葬ったと言うから、どのような勇者かと思いましたが……」
「ああ、自分、そっち方面は魔導師が本業なもので」
ガスパル国王にしてみれば、どんないかつい戦士がドラゴンを仕留めたんだろう、と思っていたのかも知れないが。
「なるほど、そうでしたか。お国ではさぞ名のある魔導師なのでしょうな」
豪快に笑うガスパル国王の様子に、嫌味とか皮肉とかいう種の感情は感じられなかった。
「一応、師匠はディオシェリル・ヒューズ・ディッテンバーガー……なんですが、ご存知ですか?」
「おお、アドラーシールム西方の魔女と言われたあの方ですな。そうでしたか。あの大賢者の弟子でしたか。それならばドラゴン討伐も納得できるというもの」
俺が師匠の名前を出すと、ガスパル国王は一瞬驚いたように、ギョロリとした目を俺に向けて、そう言った。
「と、言っても、1人でドラゴンを倒したわけではありません。ここに居る仲間が、自分を信じてアシストしてくれたからこそ、勝てたのです」
俺は、皆のことを示すように手振りを加えて、そう言った。
「こちらの方々は……リリー・シャーロット・キャロッサ準男爵は、以前もお会いいたしたことがありますが、その他の方々は……」
あ、やっぱり姉弟子とは面識あるんだ。
「リリーは私の姉弟子に当たる人物でして」
「ほう、そうでしたか! リリー殿が魔導師というのは存じ上げていましたが、大賢者ディオシェリルの弟子だったとは。アドラーシールム帝国は魔導師には恵まれておりますな!」
ガスパル国王が、豪快そうに言う。
姉弟子は、余計なことを言うなという感じの視線を、俺に向けてきた。
「そのリリーの婚約者で、私の友人になります、ジャック・ヒル・スチャーズ」
「あ、す、すいません、よろしくお願いします」
俺がジャックを紹介すると、ジャックは少し慌てたように言って、頭を下げた。
「リリー殿の婚約者ですか! いや、リリー殿は婿を取らないのかと案じておりましたが、これはまためでたいことですな!」
「は、はぁ……」
ジャックは、ガスパル国王の勢いに気圧されるようにしつつ、苦笑した。
「それと、私の妻達になります。こちらが正妻のキャロ、それから、序列夫人の、エミと、ミーラになります」
俺がキャロ達を紹介すると、名前を呼ばれた順に、スカートをつまみながら軽くお辞儀をした。
「ドラゴンとの戦いの時の仲間でもあります。彼女らも女性ではありますが、かなり優秀な戦士なんですよ」
俺は、苦笑しながら、そう言った。
「なるほど、なるほど。皆さん、一騎当千の強者でいらっしゃると」
「いやぁ……そこまでは……どうでしょうか」
ガスパル国王が、興味深そうに言うと、キャロが、謙遜したように、そう言った。
シレジアの王城は、全体的にはアドラスの皇宮よりは小ぶり、とは以前にも語ったが、そこは客人をもてなす場、晩餐会が行われるホールは、かなり広く、調度品も豪華にできていた。
晩餐会は、そこで、立食パーティーの形で、行われていた。
俺達以外にも、シレジア王家が招いた賓客が、パーティーに参加している。
ファルク王国からも……呼んだか。一応、礼儀の問題になるしな。
「また、ジャック、肉ばかり食ってるな」
俺は苦笑しながらそう言った。食事が振る舞われると、いつも肉ばかり食べている。
俺の結婚式の時もそうだった。
「だって、やっぱりこういう時にはしっかりガッツリ食っておかないとよー」
ジャックが言う。
意地汚いから喋るか食べるかどっちかにしろ。
「それにしても、みんな、ドレス似合ってるなぁ」
俺は、パーティードレス姿の女性陣の姿を見て、そう言った。
ドレスと言っても、主賓を食ってしまわないよう、どちらかと言うとシンプルなものだ。
だが、皆よく似合っている。
「キャロは、……ウェディング衣装姿も良かったけど、そのドレスだと、キャロの……その、魅力が引き立って、いいな」
俺は、一瞬言葉を選んで、言う。
「良いのよ、“可愛い”って言ってくれて」
キャロは、仕方ないわねー、という感じで苦笑しながら、そう言った。
「たはは……読まれちゃうか」
俺の方が、きまり悪そうに苦笑するしかない。
「いいのよ、アルヴィンに“可愛い”って言ってもらえるの、結構嬉しいんだからね」
「ああ、解った。可愛いよ、似合ってる。」
ドレスのシンプルさが、キャロの可愛らしさをうまく引き出している。
「エミも似合ってるし……可愛いよ」
「ありがとう」
俺が言うと、群青色のドレスを着たエミは、口元で笑みを浮かべつつ、そう言った。
「あとはミーラの、そう言う格好って新鮮だな」
「え? そうですか?」
ミーラは普段、「五柱神聖教」の法衣姿で居ることが多いから、ドレス姿というのは、新鮮に感じる。
まぁ、ホーリーシンボルの大きなメダルは、首から下げているんだが。
「あとは……」
俺は、会場を一旦見回すようにしてから、肉料理をがっついているジャックを、肘で突いた。
「なんだよ」
と、振り返るジャックに、俺は顎で、それを指してみせた。
「あ……リリーさん、その、とても似合ってますよ」
「お世辞は良い、私はこういうのを着ても、不釣り合いになってしまうのは解っているからな」
とは言うものの。
シックなワインレッドのドレスに、きつすぎない色のルージュを唇に差した姉弟子の姿は、いつもと違い、どこか大人びても見える。悪くない。
「い、いや、お世辞なんかじゃないです、今日のリリーさん、そ、その、綺麗ですよ」
ジャックは、少し照れたようにしながらも、姉弟子にしっかりと視線を向けて、そう言った。
「そうですよ、姉弟子、素材は悪くないんですから、少し自信を持ってください」
俺からも、姉弟子にそう言った。
「そう言ってもらえると、嬉しいが」
姉弟子は、苦笑気味にではあるが、嬉しそうに笑った。
当然だが槍だのメイスだのは持ち込めていない。
いや、エミがショートソードを脛に括り付けて持ち込もうとしていたのだが、やめさせた。
俺と姉弟子が居るんだ、フィジカル組が武器を持たなくても、大概のことはなんとかなる。
「こちらはアドラーシールム帝国親善使節団の皆さんですかな?」
中年と壮年の境目ぐらいの歳の男性が、俺達に声をかけてきた。
体格はよく、線が太く、がっしりしている。
武人肌のローチ伯爵を思わせる男性だ。
「そうですが……あなたは?」
俺は、素で訊き返してしまっていた。
「おっと、自己紹介が遅れましたな、私がシレジア王国国王、ガスパル・シムノン・シエルラと申します」
え? 今なんつった?
「ええ、ええええっ!?」
俺達は、揃って声を上げてしまった。
だって、いきなりこんな気さくな感じで、国家元首が話しかけて来るとは思えないじゃない。
「こ、これは無礼を失礼いたしました」
俺が良い、皆揃って頭を下げている。
姉弟子だけは落ち着いた様子で、ワインを煽っているな。つまり、こういうことをする人だって知ってたな?
「何、別に今日はせっかくの宴席、しゃちこばる必要はありませんぞ」
ガスパル国王は、「ハッハッハ」と笑い飛ばすように言った。
増々ローチ伯爵みたいな人だな。
「ところで、2体のドラゴンを仕留めたという、ドラゴン・スレイヤーのマイケル・アルヴィン・バックエショフ子爵はどちらかな?」
「あ……あーと……一応、俺です」
こんなところにまで話が広がってんのかよ。
「ほう、ドラゴンを2体も葬ったと言うから、どのような勇者かと思いましたが……」
「ああ、自分、そっち方面は魔導師が本業なもので」
ガスパル国王にしてみれば、どんないかつい戦士がドラゴンを仕留めたんだろう、と思っていたのかも知れないが。
「なるほど、そうでしたか。お国ではさぞ名のある魔導師なのでしょうな」
豪快に笑うガスパル国王の様子に、嫌味とか皮肉とかいう種の感情は感じられなかった。
「一応、師匠はディオシェリル・ヒューズ・ディッテンバーガー……なんですが、ご存知ですか?」
「おお、アドラーシールム西方の魔女と言われたあの方ですな。そうでしたか。あの大賢者の弟子でしたか。それならばドラゴン討伐も納得できるというもの」
俺が師匠の名前を出すと、ガスパル国王は一瞬驚いたように、ギョロリとした目を俺に向けて、そう言った。
「と、言っても、1人でドラゴンを倒したわけではありません。ここに居る仲間が、自分を信じてアシストしてくれたからこそ、勝てたのです」
俺は、皆のことを示すように手振りを加えて、そう言った。
「こちらの方々は……リリー・シャーロット・キャロッサ準男爵は、以前もお会いいたしたことがありますが、その他の方々は……」
あ、やっぱり姉弟子とは面識あるんだ。
「リリーは私の姉弟子に当たる人物でして」
「ほう、そうでしたか! リリー殿が魔導師というのは存じ上げていましたが、大賢者ディオシェリルの弟子だったとは。アドラーシールム帝国は魔導師には恵まれておりますな!」
ガスパル国王が、豪快そうに言う。
姉弟子は、余計なことを言うなという感じの視線を、俺に向けてきた。
「そのリリーの婚約者で、私の友人になります、ジャック・ヒル・スチャーズ」
「あ、す、すいません、よろしくお願いします」
俺がジャックを紹介すると、ジャックは少し慌てたように言って、頭を下げた。
「リリー殿の婚約者ですか! いや、リリー殿は婿を取らないのかと案じておりましたが、これはまためでたいことですな!」
「は、はぁ……」
ジャックは、ガスパル国王の勢いに気圧されるようにしつつ、苦笑した。
「それと、私の妻達になります。こちらが正妻のキャロ、それから、序列夫人の、エミと、ミーラになります」
俺がキャロ達を紹介すると、名前を呼ばれた順に、スカートをつまみながら軽くお辞儀をした。
「ドラゴンとの戦いの時の仲間でもあります。彼女らも女性ではありますが、かなり優秀な戦士なんですよ」
俺は、苦笑しながら、そう言った。
「なるほど、なるほど。皆さん、一騎当千の強者でいらっしゃると」
「いやぁ……そこまでは……どうでしょうか」
ガスパル国王が、興味深そうに言うと、キャロが、謙遜したように、そう言った。
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