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田島が痴漢冤罪の報酬を受け取った経緯についての俺の推理
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「だが…、高橋課長は上からの命令にもかかわらず…、国見たちの不正蓄財には触れるなとの命令にもかかわらず、きっちりとモニターしていたわけですよね?だからこその、その特別管理A事案なんでしょ?」
俺が取り成すようにそう言うと、高橋査察管理課長は救われたような表情でうなずくと、驚くべき情報を打ち明けた。
「国見たちの口座…、オーストラリア・ニュージーランド銀行にあります国見たちの共有名義の口座ですが、3日前に動きがありました」
「動き?どんな動きです?」
俺は身を乗り出して尋ねた。
「日本円にして2千万が別の口座へと送金されました」
「2千万…、それも3日前ってことは…」
俺がそう言いかけると、「痴漢冤罪の2日前だ」との押田部長の補足が入った。
「ってことは…、草壁忍への報酬の100万の出所は国見たち、ってことですか…」
やっぱり、との思いが込み上げてきた。
「でしょうね…」
「それじゃあ…、送金先は勿論、田島の口座ですか?三つ葉中央銀行にある…」
「ちょっと違いますね」
「と言うと?」
「確かにその2千万は三つ葉中央銀行の口座へと送金、移し替えられましたが、しかし、口座の名義人は田島ではありません」
「それなら…」
「小山文明です…」
「えっ…、警視総監の?」
「ええ」
「小山は三つ葉中央銀行にも口座を持っていたんですか?」
俺は驚いて尋ねた。それは押田部長にしても同様で驚いた表情を浮かべていた。それはそうだろう。押田部長にしても高橋査察管理課長からは小山の資産状況について、小山は警視庁職員信用組合の他には種村証券との取引があるだけと、そのようにしか報告を受けていない様子であったからだ。
「それが急なことでして…」
「急なことって…、もしかして急に口座が開設されたとか?」
「ええ。4日前に…」
「4日前に急に三つ葉中央銀行に小山文明名義の口座が開設された…」
「ええ」
「そしてその翌日に2千万が送金されたと…、オーストラリア・ニュージーランド銀行にある国見たちの共有名義の口座から…」
「ええ。小山自身は4日前、口座開設の折には5万の新規預け入れを行ったのみでして…」
「それじゃあ小山から田島へと金が渡ったと?小山は2千万もの金を引き出して、それを田島に渡したと…」
「小山が送金された金を引き出して田島に渡したという点はその通りでしょうが、但し、その額は2千万ではありません…」
「もしかして…、小山が中間搾取したとか…、つまりはピンはねしたと?」
「その通りです。小山が引き出したのは送金額の半額…」
「つまり1千万だけ田島に渡し、残り1千万は小山がわたくししたと?」
「そういうことになりますね。小山のその口座からは1千万しか引き出されなかったわけですから…」
「ちなみに1千万が引き出されたのは…、小山から田島へと1千万の金が渡ったのは…」
「2日前のことです」
「つまり痴漢冤罪の前日だと…」
「そういうことになりますね…」
「それにしても…、急に小山が口座を開設したとなると、それはもう、痴漢冤罪の報酬のため…、報酬をやりとりするためだけに口座を開設したと、そう考えるべきでしょうね…」
俺がそんな感想をもらすと、押田部長も高橋査察管理課長もうなずいた。
「吉良君」
押田部長が俺の名を呼んだ。
「はい」
「吉良君はどう思う?小山が急に、口座を開設した経緯について…」
「どうと問われても…」
「小山の意思と思うか?それとも…」
「ああ…、それなら恐らく…、ですが…」
「構わない」
「田島に要求されてのことだと思いますね」
俺がそう答えると押田部長は実に満足気な表情を浮かべた。どうやら俺が期待通りの答えをよこしたからだろう。
それでも押田部長はすぐに真顔に戻ると、「どうしてそう思う?」と質問を重ねた。
「結論から先に申し上げれば保険だと思いますね」
「保険…」
「ええ。田島は恐らく、国見たちからの浅井さんの処置命令を警視総監の小山を通じて命じられたんだと思います」
「ふむ」
「で、田島としては勿論、小山からその…、浅井さんの処置命令、もっと言えば浅井さんを痴漢冤罪で嵌めるようにとの依頼主が誰であるのかを問い質したはずです…」
「小山自身が依頼主だと嘘をつく可能性もあるのではないか?」
「確かにそのリスクもあるでしょうが、しかし、それならどうして小山は浅井さんを痴漢冤罪で嵌めることに思い至ったのか、そのことも…、動機も田島から突っ込まれるに違いない…、小山はそう見越して国見たちの名を告げ、その動機についても教えたのかも知れない。いや、あるいは押田部長が指摘された通り、小山は最初は田島に対して嘘を…、依頼主は自分だと嘘をついたものの、結局、田島に突っ込まれて何もかも白状に及んだか…、ともあれ田島は浅井さんを痴漢冤罪で嵌めるようにとの依頼主が国見たちであることを知った…」
「うむ」
「田島は勿論、引き受ける条件として高額の報酬を要求したはずです」
「それこそが1千万だと?」
「ええ。但し、小山から手渡しをすること、これが条件だったと思いますね」
「指掌紋か?」
「ええ。田島が痴漢冤罪の報酬として小山経由で1千万の報酬を受け取った…、その場合、その1千万に小山の指掌紋が付着していたら…、いや、全額でなくても良い、札束の上と下だけでも良い、ともあれ小山の指掌紋が付着していれば、仮に田島が痴漢冤罪を仕組んだ虚偽告訴の疑いで逮捕されるようなことにでもなった場合…、今が正にその場合でしょうが、小山の指掌紋が付着している札束を抱えていれば、それは田島にとっては保険、小山にとってはさしずめ爆弾のようなものでしょう…」
「と言うことは小山の指掌紋が付着している札束…、一万円札は田島が所持していると?」
「だと思いますね。無論、田島が1千万全額をわたくししたはずがない…、何しろ草壁忍には100万の報酬を支払ったわけですから…、また共犯者の近野や杉山に対しても勿論、報酬を支払ったはずです…、といってもそれがいくらなのかはまだ俺にも分かりませんけど、それでも一つだけ、言えることがあります…」
「それこそが小山の指掌紋が付着している札束…、一万円札と言うんだな?」
「そうです。田島は小山の指掌紋が付着している一万円札は手元に留め、草壁忍たちに対しては小山の指掌紋が付着していない、いや、付着しているのが分からず、期待できない札束を渡したものと思われます」
「田島が草壁忍に対して渡した100万も正にそれだと?小山の指掌紋付着が期待できない100万円を渡したと…、そういうことかね?」
「ええ。恐らくは…」
「そしていざ、自分が…、田島自身が逮捕された場合には総監の小山をも道連れに、か?」
「いえ…、確かに小山の指掌紋が付着した札の存在は小山にとっては正に爆弾…、小山を道連れにできる道具にできましょうが、しかし田島としてはそう簡単には爆弾を炸裂させないのではないかと…」
「つまり小山を道連れにする気はない、と?」
「ええ…、いや、正確にはそう簡単に道連れにする気はない、と…」
「そう簡単に?」
「ええ」
「どういう意味だね?」
「田島としては小山から浅井さんを嵌めるようにと…、痴漢冤罪で嵌めるようにと指示された時点で自分が逮捕されるリスクも当然、考慮に入れたものと考えます」
「うむ」
「そうであれば、逮捕された後のことも考えたのではないかと…」
「逮捕された後のこと?」
「ええ。仮に、現職警官である自分が民間人を、それこそ無辜の民を、かつて自分が世話した女を手先に使い、痴漢冤罪で嵌めたとなれば勿論、懲戒免職は避けられず、いや、それどころか虚偽告訴で実刑判決も免れないでしょう」
「だろうな」
「そうなった場合…、田島が退職金も出ずに警視庁本部を追われ、それどころかムショにぶち込まれた、となればこのご時世だ。出所後には仕事を探すのも一苦労、ってことでホームレスになるのは避けられないかも知れない…」
「だが、田島には大友グループという金主がいるだろう?」
押田部長がそう反論すると、「金主?大友グループ?」と高橋査察管理課長が聞き返した。
「ああ、そうか…、高橋課長はご存知ありませんでしたね…」
俺はそう応じると、押田部長の方を見た。高橋査察管理課長にも事情を打ち明けて良いか…、俺は押田部長に対してそう許可を求めるかのような視線を注ぎ、一方、押田部長も俺の視線を受け止めるとその許可を与えるかのようにうなずいてみせたので、俺は高橋査察管理課長に事情を打ち明けたのであった。
すなわち、5年前に発生した英国人の元客室乗務員にして六本木のクラブで働いていたエリー・ホワイト失踪事件について、大友グループの御曹司…、総帥の大友龍三郎の孫の龍二が三浦半島にある別荘でエリー・ホワイトを殺害し、その遺体の処理を田島がしてのけたのではないか…、その事情、いや、疑惑を打ち明けたのであった。
さすがに高橋査察管理課長は目を丸くしたものの、それでも「大友グループという金主がいるだろう」との押田部長の言葉が飲み込めた様子であった。
「確かに…、田島には大友グループという金主がいるでしょうから、出所後にも金に困ることはないかも知れない。ですが金主は大いに越したこともない…」
「つまり田島は小山を脅す材料に使うつもりだと?その小山の指掌紋が付着しているであろう札を…」
「ええ。もっとも田島としても小山から金を取れるとは思っていなかったでしょうから、間接的に国見たちを脅す材料に使うつもりではないかと…」
「間接的に?」
「ええ。何しろその札…、小山が田島に交付した札…、その際、小山の指掌紋を付着させたに違いないその札は元を辿ればオーストラリア・ニュージーランド銀行にある国見たちの共有名義の口座…、6億もの不正蓄財の一部から小山が新たに三つ葉中央銀行に開設した小山名義の口座へと送金、移し替えられた2千万のうちのさらに半額の1千万の一部なわけでして、田島が逮捕され、仮にその小山が田島に交付した1千万のうちの一部の札、それも田島が自分の取り分として抱えている、小山の指掌紋が付着している札が警察、あるいは検察に押収され、その札に小山の指掌紋が付着していることが判明したら一大事だ。いや、警察ならば仲間でもあることから見逃してくれるかも知れないが、検察の手に渡ろうものなら、今度は検察が警察の大不祥事のネタを掴むことになるわけでして、その場合には、検察は警察に揺さぶりをかけ、警察が掌中に収めたはずのカジノ利権を取り戻そうとするかも知れない。何しろ田島が所持する、痴漢冤罪の報酬の一部と思われる札から警視総監の小山の指掌紋が付着していた、そのことを検察当局が把握すれば、検察としては当然、小山の口座を洗うはずです。それも三つ葉中央銀行のね…」
「田島は…、これみよがしに相変わらず三つ葉中央銀行の帯封をつけたままの状態で札束を保管していると?」
「だと思いますね。その場合には…、そんな札束を検察当局が発見するに至れば、当然、その札束について徹底的に調べ上げ、結果、警視総監の小山の指掌紋が付着していることなどすぐに気付くでしょう。そうなれば検察当局としては三つ葉中央銀行に果たして小山の口座があるか否かをこれまた徹底的に調べ上げ、新規に口座を開設し、さらにその口座に2千万もの送金があり、その送金主たるや、国見たちであることも、これまたすぐに、それこそ芋づる式に判明することでしょう…」
「それでは…、もしかして…、小山が三つ葉中央銀行に新規口座を開設したというのも…」
「恐らくは田島が強く求めたからに他ならないでしょう…」
「その爆弾、いや、保険を手に入れるため、か?」
「その通りです。いや、田島としても保険であるからにはそう易々とその保険、もとい爆弾を検察の手に渡らせるような、そんなヘマはやらないでしょう…」
「あくまで抜かずの宝刀、というわけか?」
「ええ。少なくとも田島はそのつもりで誰にも見つからない場所に保険を隠した、そんな意識でいるものと思われます…」
「なるほど…」
「だが田島にしてみれば隠すのは…、その保険を隠すのはあくまで検察当局からであり、小山を通じて国見たちにはそれとなく保険の存在をちらつかせたものと思われます。そうでなければ保険の意味がありませんから…」
「万が一、俺が逮捕されても、そして運悪く実刑判決を受け、そして出所した暁には生活の面倒をよろしく…、そんなところか?」
「ええ。小山の指掌紋が付着している、痴漢冤罪の報酬の一部を所持している…、そう小山にアピールすれば…、いや、アピールするまでもなく、小山から田島へと報酬が手渡しされたとあらば、当然、小山がそのことを…、自分の手から田島へと、国見たちが送金してくれた2千万のうちの1千万を渡したことは当然、国見たちへと伝えたはずですから、国見たちにしてもそれが何を意味するのか、そして田島が何を求めているのかについても勿論、気付いたものと思われます…」
「なるほど…」
「もっとも、田林主任検事さんらが、それらを見つければジエンドですがね…」
俺がそう言うと、またしても高橋査察管理課長が「ジエンド?田林主任検事?」と聞き返したので、やはり俺は押田部長に対して家宅捜索の件を打ち明けても良いかと目で問い掛け、それに対して押田部長もやはりうなずいたので、俺は事情を説明した。
すなわち、田林主任検事と志貴がそれぞれ、徳間事務官、村野事務官を引き連れて草壁忍が住まう板橋にあるアパートへと家宅捜索に出向いたことを打ち明けたのであった。
「田島はそのアパートにさらにもう一部屋借りて、そこに大友グループを脅すための材料を、さらには小山を脅すための材料をも隠しているものと思われます…」
「例の防犯カメラのビデオテープですか?」
小山の馬鹿息子がゲームセンターで会社員男性に暴行を加えて死に至らしめたその現場がしっかりと記録された防犯カメラのビデオテープを田島が世田谷警察署から持ち出して、保管しているかも知れないことは高橋査察管理課長も押田部長から聞かされており、把握している様子であった。
「ええ。その通りです」
「それでそこに報酬が…、田島が後生大事に抱えているかも知れない、小山から受け取った痴漢冤罪の報酬の一部、それも小山の指掌紋が付着している札があると?」
「恐らくは…」
「しかし田島のことです。仮にたまりが…、いえ、金が出たところで、それが痴漢冤罪の報酬などとは絶対に認めないのではありませんか?」
「確かに、最初は認めないかも知れません」
「最初は?」
高橋査察管理課長は首をかしげた。
「ええ」
「と言うことはいずれは認めると?」
「だと思いますね」
「その根拠は?」
「やはり田島にとっての最大の金主とも言うべき大友グループを失うことになるからですよ…」
「なるほど…、仮に吉良さんのお見立て通り、田島が大友グループを脅す材料に使っていた、エリー・ホワイトの死体遺棄現場を示す地図の類、あるいは御曹司の龍二がエリー・ホワイトの殺害に使ったと思しき凶器までが見つかった日には当たり前ですが、死体遺棄容疑で田島は元より、龍二も殺人と死体損壊の容疑で逮捕されるわけですから、そうなればもう、田島はこれまでのように贅沢な暮らしを送ることはできないでしょう…」
「確かに…、大友グループとしては田島に対して馬鹿孫を庇ってくれたことの謝礼の意味で大金を注ぎ込んできたわけですから、その馬鹿孫が結局、捕まったとあらば、もはや、田島に対して大金を注ぎ込む義理はない、と…」
「ええ」
「ですが、そうなれば田島としては…、仮に大友グループという金主を失ったとあらば、いよいよ国見たちが頼みの綱となるのではありませんか?」
そなれば田島はいよいよ口を割らないのではないか…、高橋査察管理課長はそう示唆した。
「確かに、そうかも知れませんが、しかしこれで国見たちの資産が大友グループと同程度のものならともかく、実際には国見たちの資産はたかだか6億程度です。無論、6億ははした金ではないでしょうが、しかし、これまでと同様に一生、遊んで暮らせるほどの、それも贅沢三昧の暮らしを送れるほどの大金かと言うと、それは大いに疑問です。いや、その6億にしても既に目減りしておりますから、今は5億以上といったところでしょうか。ですから仮にここで田島が口を割らずに国見たちを救ってやったところで…、国見たちより小山を通じて受け取った痴漢冤罪に対する報酬だと口を割らなかったところで、果たして田島自身にどれほどの利益があるのかどうか…、それに国見たちのことです、田島が出所してきた時にはもう、田島が何を言おうとも知らぬ存ぜぬで押し通すかも知れません」
「知らん存ぜぬで押し通せるものですか?」
「ええ。何しろ田島の保険もとい爆弾が効果を発揮するのは、田島がその爆弾を炸裂させることができる、それが前提だからです」
「と言うと?」
「仮に田島自身、逮捕され、そしてムショにぶち込まれても、大友グループという最大の金主を抱えている上は、出所後にも生活の面倒には困らず、それこそ相変わらず左団扇で暮らせるでしょうから、これも仮にですが、国見たちが田島自身を裏切る格好で知らぬ存ぜぬを押し通そうとしても、田島は大友グループから振り込まれる金でもって、徹底的に反撃を試みることでしょう。例えば、法廷闘争といった手段でもって、あるいは、マスコミのばら撒くという手段でもって…」
「なるほど…、しかし、これで田島が最大の金主である大友グループに去られた日には田島は正しく、尾羽打ち枯らすといった状況で、そんな男が出所後に何を喚き立てようとも怖くはない、と?」
「そういうことです。もはや法廷闘争マ、あるはスコミに訴えるだけの力はないでしょうから、国見たちにしてみれば怖くはないでしょう…」
「なるほど…、それで大友グループという最大の金主を失うことになれば、もう国見たちも相手にしないだろうから、口を割ってしまえとそう田島を攻めれば…」
「田島は案外、早くにおちると思いますね」
俺がそう断言すると、落としのプロとも言うべき押田特捜部長もその通りだと言わんばかりにうなずいてみせた。
俺が取り成すようにそう言うと、高橋査察管理課長は救われたような表情でうなずくと、驚くべき情報を打ち明けた。
「国見たちの口座…、オーストラリア・ニュージーランド銀行にあります国見たちの共有名義の口座ですが、3日前に動きがありました」
「動き?どんな動きです?」
俺は身を乗り出して尋ねた。
「日本円にして2千万が別の口座へと送金されました」
「2千万…、それも3日前ってことは…」
俺がそう言いかけると、「痴漢冤罪の2日前だ」との押田部長の補足が入った。
「ってことは…、草壁忍への報酬の100万の出所は国見たち、ってことですか…」
やっぱり、との思いが込み上げてきた。
「でしょうね…」
「それじゃあ…、送金先は勿論、田島の口座ですか?三つ葉中央銀行にある…」
「ちょっと違いますね」
「と言うと?」
「確かにその2千万は三つ葉中央銀行の口座へと送金、移し替えられましたが、しかし、口座の名義人は田島ではありません」
「それなら…」
「小山文明です…」
「えっ…、警視総監の?」
「ええ」
「小山は三つ葉中央銀行にも口座を持っていたんですか?」
俺は驚いて尋ねた。それは押田部長にしても同様で驚いた表情を浮かべていた。それはそうだろう。押田部長にしても高橋査察管理課長からは小山の資産状況について、小山は警視庁職員信用組合の他には種村証券との取引があるだけと、そのようにしか報告を受けていない様子であったからだ。
「それが急なことでして…」
「急なことって…、もしかして急に口座が開設されたとか?」
「ええ。4日前に…」
「4日前に急に三つ葉中央銀行に小山文明名義の口座が開設された…」
「ええ」
「そしてその翌日に2千万が送金されたと…、オーストラリア・ニュージーランド銀行にある国見たちの共有名義の口座から…」
「ええ。小山自身は4日前、口座開設の折には5万の新規預け入れを行ったのみでして…」
「それじゃあ小山から田島へと金が渡ったと?小山は2千万もの金を引き出して、それを田島に渡したと…」
「小山が送金された金を引き出して田島に渡したという点はその通りでしょうが、但し、その額は2千万ではありません…」
「もしかして…、小山が中間搾取したとか…、つまりはピンはねしたと?」
「その通りです。小山が引き出したのは送金額の半額…」
「つまり1千万だけ田島に渡し、残り1千万は小山がわたくししたと?」
「そういうことになりますね。小山のその口座からは1千万しか引き出されなかったわけですから…」
「ちなみに1千万が引き出されたのは…、小山から田島へと1千万の金が渡ったのは…」
「2日前のことです」
「つまり痴漢冤罪の前日だと…」
「そういうことになりますね…」
「それにしても…、急に小山が口座を開設したとなると、それはもう、痴漢冤罪の報酬のため…、報酬をやりとりするためだけに口座を開設したと、そう考えるべきでしょうね…」
俺がそんな感想をもらすと、押田部長も高橋査察管理課長もうなずいた。
「吉良君」
押田部長が俺の名を呼んだ。
「はい」
「吉良君はどう思う?小山が急に、口座を開設した経緯について…」
「どうと問われても…」
「小山の意思と思うか?それとも…」
「ああ…、それなら恐らく…、ですが…」
「構わない」
「田島に要求されてのことだと思いますね」
俺がそう答えると押田部長は実に満足気な表情を浮かべた。どうやら俺が期待通りの答えをよこしたからだろう。
それでも押田部長はすぐに真顔に戻ると、「どうしてそう思う?」と質問を重ねた。
「結論から先に申し上げれば保険だと思いますね」
「保険…」
「ええ。田島は恐らく、国見たちからの浅井さんの処置命令を警視総監の小山を通じて命じられたんだと思います」
「ふむ」
「で、田島としては勿論、小山からその…、浅井さんの処置命令、もっと言えば浅井さんを痴漢冤罪で嵌めるようにとの依頼主が誰であるのかを問い質したはずです…」
「小山自身が依頼主だと嘘をつく可能性もあるのではないか?」
「確かにそのリスクもあるでしょうが、しかし、それならどうして小山は浅井さんを痴漢冤罪で嵌めることに思い至ったのか、そのことも…、動機も田島から突っ込まれるに違いない…、小山はそう見越して国見たちの名を告げ、その動機についても教えたのかも知れない。いや、あるいは押田部長が指摘された通り、小山は最初は田島に対して嘘を…、依頼主は自分だと嘘をついたものの、結局、田島に突っ込まれて何もかも白状に及んだか…、ともあれ田島は浅井さんを痴漢冤罪で嵌めるようにとの依頼主が国見たちであることを知った…」
「うむ」
「田島は勿論、引き受ける条件として高額の報酬を要求したはずです」
「それこそが1千万だと?」
「ええ。但し、小山から手渡しをすること、これが条件だったと思いますね」
「指掌紋か?」
「ええ。田島が痴漢冤罪の報酬として小山経由で1千万の報酬を受け取った…、その場合、その1千万に小山の指掌紋が付着していたら…、いや、全額でなくても良い、札束の上と下だけでも良い、ともあれ小山の指掌紋が付着していれば、仮に田島が痴漢冤罪を仕組んだ虚偽告訴の疑いで逮捕されるようなことにでもなった場合…、今が正にその場合でしょうが、小山の指掌紋が付着している札束を抱えていれば、それは田島にとっては保険、小山にとってはさしずめ爆弾のようなものでしょう…」
「と言うことは小山の指掌紋が付着している札束…、一万円札は田島が所持していると?」
「だと思いますね。無論、田島が1千万全額をわたくししたはずがない…、何しろ草壁忍には100万の報酬を支払ったわけですから…、また共犯者の近野や杉山に対しても勿論、報酬を支払ったはずです…、といってもそれがいくらなのかはまだ俺にも分かりませんけど、それでも一つだけ、言えることがあります…」
「それこそが小山の指掌紋が付着している札束…、一万円札と言うんだな?」
「そうです。田島は小山の指掌紋が付着している一万円札は手元に留め、草壁忍たちに対しては小山の指掌紋が付着していない、いや、付着しているのが分からず、期待できない札束を渡したものと思われます」
「田島が草壁忍に対して渡した100万も正にそれだと?小山の指掌紋付着が期待できない100万円を渡したと…、そういうことかね?」
「ええ。恐らくは…」
「そしていざ、自分が…、田島自身が逮捕された場合には総監の小山をも道連れに、か?」
「いえ…、確かに小山の指掌紋が付着した札の存在は小山にとっては正に爆弾…、小山を道連れにできる道具にできましょうが、しかし田島としてはそう簡単には爆弾を炸裂させないのではないかと…」
「つまり小山を道連れにする気はない、と?」
「ええ…、いや、正確にはそう簡単に道連れにする気はない、と…」
「そう簡単に?」
「ええ」
「どういう意味だね?」
「田島としては小山から浅井さんを嵌めるようにと…、痴漢冤罪で嵌めるようにと指示された時点で自分が逮捕されるリスクも当然、考慮に入れたものと考えます」
「うむ」
「そうであれば、逮捕された後のことも考えたのではないかと…」
「逮捕された後のこと?」
「ええ。仮に、現職警官である自分が民間人を、それこそ無辜の民を、かつて自分が世話した女を手先に使い、痴漢冤罪で嵌めたとなれば勿論、懲戒免職は避けられず、いや、それどころか虚偽告訴で実刑判決も免れないでしょう」
「だろうな」
「そうなった場合…、田島が退職金も出ずに警視庁本部を追われ、それどころかムショにぶち込まれた、となればこのご時世だ。出所後には仕事を探すのも一苦労、ってことでホームレスになるのは避けられないかも知れない…」
「だが、田島には大友グループという金主がいるだろう?」
押田部長がそう反論すると、「金主?大友グループ?」と高橋査察管理課長が聞き返した。
「ああ、そうか…、高橋課長はご存知ありませんでしたね…」
俺はそう応じると、押田部長の方を見た。高橋査察管理課長にも事情を打ち明けて良いか…、俺は押田部長に対してそう許可を求めるかのような視線を注ぎ、一方、押田部長も俺の視線を受け止めるとその許可を与えるかのようにうなずいてみせたので、俺は高橋査察管理課長に事情を打ち明けたのであった。
すなわち、5年前に発生した英国人の元客室乗務員にして六本木のクラブで働いていたエリー・ホワイト失踪事件について、大友グループの御曹司…、総帥の大友龍三郎の孫の龍二が三浦半島にある別荘でエリー・ホワイトを殺害し、その遺体の処理を田島がしてのけたのではないか…、その事情、いや、疑惑を打ち明けたのであった。
さすがに高橋査察管理課長は目を丸くしたものの、それでも「大友グループという金主がいるだろう」との押田部長の言葉が飲み込めた様子であった。
「確かに…、田島には大友グループという金主がいるでしょうから、出所後にも金に困ることはないかも知れない。ですが金主は大いに越したこともない…」
「つまり田島は小山を脅す材料に使うつもりだと?その小山の指掌紋が付着しているであろう札を…」
「ええ。もっとも田島としても小山から金を取れるとは思っていなかったでしょうから、間接的に国見たちを脅す材料に使うつもりではないかと…」
「間接的に?」
「ええ。何しろその札…、小山が田島に交付した札…、その際、小山の指掌紋を付着させたに違いないその札は元を辿ればオーストラリア・ニュージーランド銀行にある国見たちの共有名義の口座…、6億もの不正蓄財の一部から小山が新たに三つ葉中央銀行に開設した小山名義の口座へと送金、移し替えられた2千万のうちのさらに半額の1千万の一部なわけでして、田島が逮捕され、仮にその小山が田島に交付した1千万のうちの一部の札、それも田島が自分の取り分として抱えている、小山の指掌紋が付着している札が警察、あるいは検察に押収され、その札に小山の指掌紋が付着していることが判明したら一大事だ。いや、警察ならば仲間でもあることから見逃してくれるかも知れないが、検察の手に渡ろうものなら、今度は検察が警察の大不祥事のネタを掴むことになるわけでして、その場合には、検察は警察に揺さぶりをかけ、警察が掌中に収めたはずのカジノ利権を取り戻そうとするかも知れない。何しろ田島が所持する、痴漢冤罪の報酬の一部と思われる札から警視総監の小山の指掌紋が付着していた、そのことを検察当局が把握すれば、検察としては当然、小山の口座を洗うはずです。それも三つ葉中央銀行のね…」
「田島は…、これみよがしに相変わらず三つ葉中央銀行の帯封をつけたままの状態で札束を保管していると?」
「だと思いますね。その場合には…、そんな札束を検察当局が発見するに至れば、当然、その札束について徹底的に調べ上げ、結果、警視総監の小山の指掌紋が付着していることなどすぐに気付くでしょう。そうなれば検察当局としては三つ葉中央銀行に果たして小山の口座があるか否かをこれまた徹底的に調べ上げ、新規に口座を開設し、さらにその口座に2千万もの送金があり、その送金主たるや、国見たちであることも、これまたすぐに、それこそ芋づる式に判明することでしょう…」
「それでは…、もしかして…、小山が三つ葉中央銀行に新規口座を開設したというのも…」
「恐らくは田島が強く求めたからに他ならないでしょう…」
「その爆弾、いや、保険を手に入れるため、か?」
「その通りです。いや、田島としても保険であるからにはそう易々とその保険、もとい爆弾を検察の手に渡らせるような、そんなヘマはやらないでしょう…」
「あくまで抜かずの宝刀、というわけか?」
「ええ。少なくとも田島はそのつもりで誰にも見つからない場所に保険を隠した、そんな意識でいるものと思われます…」
「なるほど…」
「だが田島にしてみれば隠すのは…、その保険を隠すのはあくまで検察当局からであり、小山を通じて国見たちにはそれとなく保険の存在をちらつかせたものと思われます。そうでなければ保険の意味がありませんから…」
「万が一、俺が逮捕されても、そして運悪く実刑判決を受け、そして出所した暁には生活の面倒をよろしく…、そんなところか?」
「ええ。小山の指掌紋が付着している、痴漢冤罪の報酬の一部を所持している…、そう小山にアピールすれば…、いや、アピールするまでもなく、小山から田島へと報酬が手渡しされたとあらば、当然、小山がそのことを…、自分の手から田島へと、国見たちが送金してくれた2千万のうちの1千万を渡したことは当然、国見たちへと伝えたはずですから、国見たちにしてもそれが何を意味するのか、そして田島が何を求めているのかについても勿論、気付いたものと思われます…」
「なるほど…」
「もっとも、田林主任検事さんらが、それらを見つければジエンドですがね…」
俺がそう言うと、またしても高橋査察管理課長が「ジエンド?田林主任検事?」と聞き返したので、やはり俺は押田部長に対して家宅捜索の件を打ち明けても良いかと目で問い掛け、それに対して押田部長もやはりうなずいたので、俺は事情を説明した。
すなわち、田林主任検事と志貴がそれぞれ、徳間事務官、村野事務官を引き連れて草壁忍が住まう板橋にあるアパートへと家宅捜索に出向いたことを打ち明けたのであった。
「田島はそのアパートにさらにもう一部屋借りて、そこに大友グループを脅すための材料を、さらには小山を脅すための材料をも隠しているものと思われます…」
「例の防犯カメラのビデオテープですか?」
小山の馬鹿息子がゲームセンターで会社員男性に暴行を加えて死に至らしめたその現場がしっかりと記録された防犯カメラのビデオテープを田島が世田谷警察署から持ち出して、保管しているかも知れないことは高橋査察管理課長も押田部長から聞かされており、把握している様子であった。
「ええ。その通りです」
「それでそこに報酬が…、田島が後生大事に抱えているかも知れない、小山から受け取った痴漢冤罪の報酬の一部、それも小山の指掌紋が付着している札があると?」
「恐らくは…」
「しかし田島のことです。仮にたまりが…、いえ、金が出たところで、それが痴漢冤罪の報酬などとは絶対に認めないのではありませんか?」
「確かに、最初は認めないかも知れません」
「最初は?」
高橋査察管理課長は首をかしげた。
「ええ」
「と言うことはいずれは認めると?」
「だと思いますね」
「その根拠は?」
「やはり田島にとっての最大の金主とも言うべき大友グループを失うことになるからですよ…」
「なるほど…、仮に吉良さんのお見立て通り、田島が大友グループを脅す材料に使っていた、エリー・ホワイトの死体遺棄現場を示す地図の類、あるいは御曹司の龍二がエリー・ホワイトの殺害に使ったと思しき凶器までが見つかった日には当たり前ですが、死体遺棄容疑で田島は元より、龍二も殺人と死体損壊の容疑で逮捕されるわけですから、そうなればもう、田島はこれまでのように贅沢な暮らしを送ることはできないでしょう…」
「確かに…、大友グループとしては田島に対して馬鹿孫を庇ってくれたことの謝礼の意味で大金を注ぎ込んできたわけですから、その馬鹿孫が結局、捕まったとあらば、もはや、田島に対して大金を注ぎ込む義理はない、と…」
「ええ」
「ですが、そうなれば田島としては…、仮に大友グループという金主を失ったとあらば、いよいよ国見たちが頼みの綱となるのではありませんか?」
そなれば田島はいよいよ口を割らないのではないか…、高橋査察管理課長はそう示唆した。
「確かに、そうかも知れませんが、しかしこれで国見たちの資産が大友グループと同程度のものならともかく、実際には国見たちの資産はたかだか6億程度です。無論、6億ははした金ではないでしょうが、しかし、これまでと同様に一生、遊んで暮らせるほどの、それも贅沢三昧の暮らしを送れるほどの大金かと言うと、それは大いに疑問です。いや、その6億にしても既に目減りしておりますから、今は5億以上といったところでしょうか。ですから仮にここで田島が口を割らずに国見たちを救ってやったところで…、国見たちより小山を通じて受け取った痴漢冤罪に対する報酬だと口を割らなかったところで、果たして田島自身にどれほどの利益があるのかどうか…、それに国見たちのことです、田島が出所してきた時にはもう、田島が何を言おうとも知らぬ存ぜぬで押し通すかも知れません」
「知らん存ぜぬで押し通せるものですか?」
「ええ。何しろ田島の保険もとい爆弾が効果を発揮するのは、田島がその爆弾を炸裂させることができる、それが前提だからです」
「と言うと?」
「仮に田島自身、逮捕され、そしてムショにぶち込まれても、大友グループという最大の金主を抱えている上は、出所後にも生活の面倒には困らず、それこそ相変わらず左団扇で暮らせるでしょうから、これも仮にですが、国見たちが田島自身を裏切る格好で知らぬ存ぜぬを押し通そうとしても、田島は大友グループから振り込まれる金でもって、徹底的に反撃を試みることでしょう。例えば、法廷闘争といった手段でもって、あるいは、マスコミのばら撒くという手段でもって…」
「なるほど…、しかし、これで田島が最大の金主である大友グループに去られた日には田島は正しく、尾羽打ち枯らすといった状況で、そんな男が出所後に何を喚き立てようとも怖くはない、と?」
「そういうことです。もはや法廷闘争マ、あるはスコミに訴えるだけの力はないでしょうから、国見たちにしてみれば怖くはないでしょう…」
「なるほど…、それで大友グループという最大の金主を失うことになれば、もう国見たちも相手にしないだろうから、口を割ってしまえとそう田島を攻めれば…」
「田島は案外、早くにおちると思いますね」
俺がそう断言すると、落としのプロとも言うべき押田特捜部長もその通りだと言わんばかりにうなずいてみせた。
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