痴漢冤罪に遭遇したニートな俺のダイハードな48時間

ご隠居

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越境捜査

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「それと…、田島が最後に脅しのネタに使うつもりであっただろう例の金…、痴漢冤罪の報酬として小山から受け取った、そして小山の指掌紋が付着しているに違いない、たまり…、いえ、金も発見いたしました」

 志貴は思い出したようにそう報告した。

「やはりそれも法科学鑑定研究センターに?」

 押田部長が尋ねると志貴は、「はい」と即答した。

「問題は…、小山の指掌紋をどうやって押さえるか、だな…」

 押田部長がそう言い、俺はこれまで警視総監の小山の指掌紋をどうやって入手するか、入手方法を考えていなかったことに気付かされた。

「司法警察職員の指掌紋はすべて警察のデータベースで管理されているが…」

 押田部長が独り言のようにそう呟くと、俺が先を続けた。

「まさか、警視総監の小山の犯罪を立証したいので、データベースに保存されている小山の指掌紋を開示してくれとも言えませんしね…」

 俺がそう先を続けると押田部長はうなずいた。

 そこで俺は不意にあることを思い出した。

「そういえば…」

 俺がそう言いかけると、押田部長は俺が何か良いアイディアでも思い浮かんだに違いないと、さすがの勘働きを見せて、「何だ?」と身を乗り出すようにして尋ねた。

「小山は確か、4日前に三つ葉中央銀行に口座を開設した…、そういう話でしたよね…」

 高橋査察管理課長からの報告を俺は思い出したのであった。するとそれで押田部長も俺が言わんとしているところに気付いたようだ。

「そうか…、契約書だ…」

「ええ。契約書には小山の指掌紋がベッタリと付着しているものと思われます」

「だが契約書には…」

 志貴がそう反論しかけたので、俺は「分かってる」とそれをさえぎった。

「契約書には他の行員の指掌紋も付着しているだろう。だからその契約書に手を触れた行員のそれを除外した残りの指掌紋こそが…」

 俺がそう言いかけると、押田部長が先回りして結論を口にした。

「小山の指掌紋というわけだな…」

 押田部長がそう結論を口にしたので、俺は「ええ」とうなずいた。

「そうであれば大至急、契約書を押さえる必要があるな…」

 それには色々と面倒な手続が必要であり、マルサの高橋査察管理課長ならば簡単に手に入れられるかも知れない…、押田部長がそう思った矢先、タイミング良く…、正にタイミング良く執務机の卓上電話が鳴った。電話の主は誰あろう、高橋査察管理課長その人であった。

「ああ。高橋さん…、ちょうど今、噂をしていたところですよ…、いえ、その前に高橋さんからのご報告を承りたく…、そうですか、やはり藤川は愛人宅のマンションに…、それでしっかりと脅してくれたわけですね…、そうですか。藤川は慌てふためきましたか…、それは何よりです…」

 どうやら藤川は愛人宅のマンションに乗り込んできた高橋査察管理課長からそのマンションの購入資金について詳しく問い質し、そのマンションの購入資金について雑所得として税金を、それも最高税率の55%を支払わないことには特捜部に横領で告発すると脅しをかけたものと思われる。なるほど、それなら藤川が慌てふためくのも無理はない。

「…それでお願いと申しますのは小山の口座について…、ええ、小山が4日前に開設した三つ葉中央銀行の預金口座でして、我々、特捜部といたしましては何としてでもその口座開設の折に小山が触れたと思われる契約書を押さえたいので…、ええ、正しく小山の指掌紋入手が目的でして…、そうですか、御協力願えますか…」

 どうやら高橋査察管理課長は詳しい事情は聞かずに快く協力してくれるようだ。

「つきましては小山が口座を開設した支店ですが…、そうですか、麹町支店ですか…、住所は…、はい、はい…、ああ、隼町にある総監公舎とは目と鼻の先ですねぇ…、分かりました。それでは明朝午前8時30分にそちらで…、麹町支店で落ち合うということで…、私は鑑定人を…、ええ、民間の鑑定センターの、指紋担当の職員を連れて参りますので…、よろしくお願いいたします。どうも…」

 押田部長は頭を下げながら受話器を置いた。

「高橋課長が協力してくれるので?」

 俺が尋ねると、押田部長は俺の方へと振り返りうなずいた。

「令状は…、令状も取られた方が良いのでは?」

 俺がそう尋ねると、「銀行に契約書を提出させるための、か?」と押田部長から逆に聞き返された。

「ええ…」

「それなら必要ない」

「どうしてです?」

「君も聞いていただろ?高橋課長が協力してくれるからさ…」

「マルサの命令とあらば…、高橋査察管理課長が契約書を出せ、と一言言えば、銀行もそれに大人しく従う、と?」

「そういうことだ」

 押田部長は自信満々にそう言うと、再び、卓上電話に手を伸ばすと、今度は法科学鑑定研究センターに電話を入れて、まずは鑑定状況を聞きだし、その上で、明日の件での協力を求めたのであった。


【午後11時29分】
 俺は特捜部長室でさらにもう一晩、あかすことになった。今、俺は押田部長と二人きりであった。押田部長も今夜は帰らずに執務机に張り付いており、俺は何だか先に休むのが申し訳ない思いを抱きながらも、ソファに寝っ転がった。

 するとそこへ執務机の卓上電話が鳴り、押田部長はすばやく受話器を取り上げた。

「はい…、そうですかっ!発見されましたかっ!」

 エリー・ホワイトの遺体であろうことは俺にも察しがついた。

「それでは直ちにそちらへ…、神奈川県警本部へと人を…、主任検事の田林…、田林知行と事務官の徳間祐輔を向かわせますので…、ええ、徳間はかつて…、5年前にエリー・ホワイト失踪事件に本部事件係の検事付の事務官として特捜本部が置かれていた麻布署に出張っておりましたので事情を知っております。それに田林も私が申し上げるのはあれなんですが、中々に優秀な男ですから…、ええ…、こちらの手持ちの資料を携えさせまして、田林と徳間を向かわせますので、よろしく…」

 押田部長はいったん受話器を置くと、さらにもう一度、受話器を上げて今度は田林主任検事のスマホへと電話を入れた。田林主任検事と徳間事務官は志貴と村野事務官ともども、法科学鑑定研究センターへと足を運んでいたのだ、間もなく、一通りの鑑定が終わるとの連絡を受けてのことである。

「ああ。田林検事、ご苦労様。それでそっちはどうだい…、そうか。いや、たった今、俺の元に神奈川県警の巻島課長から連絡があって、エリー・ホワイトの遺体が発見されたらしい。それで悪いが君と徳間事務官とでこれから神奈川県警本部に向かって欲しいんだ…、そう、田島が残していたノート…、一連のすべての事件…、脅しのネタを書き留めたそのノートを除いて、エリー・ホワイト失踪事件、いや、もう殺人事件と呼んで良いだろう、エリー・ホワイト殺人事件の証拠品、それらをすべて携えて向かって欲しいんだよ…、そう、神奈川県警本部に全面的に協力してやってくれ。勿論、逮捕状請求についてのアドバイスも…」

 逮捕状請求ともなれば検事のアドバイスは欠かせないだろうが、しかし、それなら横浜地検の検事を頼れば良いのではないか、などと俺はそんなことを思ったりしていると、押田部長が驚くべきことを口にした。

「ああ。それから逮捕状が発付されたなら…、大友龍二に対しては殺人と死体損壊、死体遺棄の共謀共同正犯の容疑で、田島康裕に対しては死体遺棄、死体損壊教唆、証拠隠滅容疑でそれぞれ逮捕状が…、横浜地裁から逮捕状が発付されるだろうから、そうしたら直ちに田島の身柄をそっちに…、神奈川県警に送るから…、まぁ、そう驚くな…」

 電話の向こう側にいる田林主任検事はさぞかし驚いているに違いない。それはそうだろう。何しろ田島は特捜部で捕らえた大魚、とまではいかないにしても大事な餌だからだ。これから大魚を釣り上げるための。それをみすみす、神奈川県警本部へとくれてやるとは…。

 そして恐らくは田林主任検事も同じ思いだったのだろう、「まぁ、そう興奮するな」と押田部長が田林主任検事を宥めるような声が聞かれた。

「確かに、田島はうちの大事な容疑者だが、ここまで証拠が固まっていれば田島抜きでも何とかなる。それに田島が克明に綴っていた脅しのネタのノートまでは神奈川県警本部に渡さないから安心しろ…」

 それはその通りだろうと、俺は思った。田林主任検事にしてもそうだろう。何しろあの脅しのネタのノートは正しく「宝庫」であるからだ。

「それにここで俺たち特捜部が神奈川県警本部に快く協力してやれば、神奈川県警本部はいよいよ打倒桜田門で燃えてくれる。これから警視総監どころか、元とは言え警察庁長官まで相手にすることになる俺たち特捜にとっては味方は一人でも多い方が良いからな…」

 なるほど、そういうしたたかな計算があってのことかと、俺は納得すると同時に、押田部長のそのしたたかさに舌を巻いた。いや、これぐらいしたたかでないと特捜部長は務まらないかも知れない。

「なるほど…、それにしても逮捕状請求の際のアドバイスですが…、神奈川県警本部ならさしずめ横浜地検では?」

「横浜地検の検事がアドバイスをするもの…、そう言いたいんだろ?吉良君は…」

「ええ」

「確かに神奈川県警本部の捜査一課に逮捕状請求などでアドバイスをするとなると当然、横浜地検のそれも刑事部の本部事件係の検事といことになるだろうが、しかし、刑事部の本部事件係の検事は何かと刑事たちの捜査に難癖をつけては逮捕状請求を認めないことが往々にしてあるからな…」

「ですが逮捕状請求は別に検事の許しがなくても…」

「ああ、勿論、逮捕は警察の領分でもあるから…、検察も逮捕することがあるが…、ともあれ警察の領分である以上、検事の許可など一々、いらないというのが建前だ…」

「建前ってことは実際には…」

「検事の許可を得て逮捕状を請求するのがほとんどだ。とりわけ強行…、殺人事件の捜査ともなると…」

「どうしてです?」

「仮に検事の許可なくして被疑者を勝手に逮捕しようものなら、検事はないがしろにされたと思い、最悪、警察から送検されてきた被疑者の身柄について、証拠不十分で釈放、不起訴にしかねないからだ」

「そんな馬鹿な…」

「確かに馬鹿な話だが、刑事部のそれも本部事件係の検事の中にはその手の馬鹿がいる」

 押田部長は切って捨てるように言った。

「それで…、田林主任検事をアドバイザーに?」

「そうだ。仮に横浜地検が事件を食わないとしても…、ああ、大友龍二と田島康裕の両名に対する逮捕状請求にゴーサインを出さないにしても、俺たち特捜が事件を食う…、そのためだ」

「ですが…、ここまで証拠が揃っていれば横浜地検も事件を食うのでは?」

「いや、もしかしたら神奈川県警本部の方が事件を食わせないかも知れない…」

 押田部長はそう言うと、ニヤリと笑みを浮かべた。

「もしかして…、横浜地検を無視して、積極的に捜査協力してくれた東京地検特捜部との…、ええっと合同捜査を選択すると?神奈川県警本部は…」

「キャリアの本部長は刑事部長はともかく…、この手の事なかれ主義者はともかくとして、現場の刑事たち、とりわけ巻島課長ならそうしてくれるはずだ…」

「ですが…、かつて東京地検と神奈川県警は確か、共産党幹部宅の盗聴事件で何かとやりあったことがあったのではありませんかねぇ…、いえ、聞きかじり程度ですがね…」

 俺はそうエクスキューズをつけて尋ねると、押田部長は驚きの表情を浮かべた。

「良く知ってるなぁ…、ああ、確かに神奈川県警が共産党幹部宅を盗聴していた事件で東京地検特捜部が捜査をしたが、しかし県警といっても警備部だ」

「県警の警備部が盗聴をしていたと?」

「ああ。それも警察庁警備局の命じられて…、その疑いが極めて強かった。もっともお宮入りになった…、いや、させられたがな…」

「そうだったんですか…、ってことは刑事部との…、神奈川県警刑事部との関係は…」

「その通り。悪くはない、どころか県警内でも警視庁本部内と同様でね、刑事部と警備部の仲は最悪だ」

「それじゃあ…、その警備部…、神奈川県警警備部が東京地検特捜部によって捜査されたことは…」

「ああ。県警の同じ仲間であるはずの刑事部も拍手喝采していた。いや、俺も当時は特捜部のヒラ検事だったんだが、刑事部が積極的に捜査に協力してくれる始末だったよ…」

 押田部長はその時の様子を思い出したのか、思わず苦笑した。

「普通なら仲間意識が働くものですがねぇ…」

「ああ。これで例えば交通部とかだったら、刑事部にしても仲間意識、身内意識が働いて、俺たち東京地検特捜部の捜査には絶対に協力してくれなかっただろうが、それが警備部や、あるいは公安部でもそうだろうが…」

「警備部や公安部に対しては刑事部も仲間意識、身内意識は芽生えない、と?」

「そういうことだ。だから繰り返すが、東京地検特捜部と神奈川県警のそれも刑事部とは仲は悪くない。それどころか良好といっても良いだろう」

「なるほど…」

「その上、東京地検特捜部と神奈川県警刑事部との合同捜査によって、刑事部がいつも煮え湯を飲まされている横浜地検の刑事部と、さらにはそれ以上に煮え湯を飲まされている、それどころか完全に敵である警視庁本部、この両者を出し抜けるとあっては、神奈川県警刑事部も大いにやる気になるだろう」

「情報漏れの心配もない、とか?」

「ああ。これまでにないほど保秘…、秘密保持が徹底されるだろう…、警察は検察の、それも特捜部に比べて秘密保持が中々、期待できない組織で、それは神奈川県警刑事部にしても同じだろう。だが…」

「今回は横浜地検刑事部と、何より警視庁本部を出し抜けるとあって、つまりは神奈川県警にとってはこれまでにないほどの美味しい捜査ということで、打算から絶対に秘密を漏らさないと、そういうわけですか…」

 俺は半ば呆れ、半ば白けた思いで尋ねた。

「そういうことだよ」

 押田部長も内心では呆れ、白けているような面持ちでそう答えた。

「それで…、神奈川県警刑事部がに大友龍二を逮捕、そして田島を再逮捕させるとして、起訴は一体…」

「俺たちでやる」

「特捜部で?」

「ああ」

「でも…、神奈川県警刑事部が逮捕した被疑者を東京地検特捜部が起訴するなんてことは可能なんですか?」

「法的に、という意味かね?」

「ええ…」

「可能だ。そのための特捜部だからな」

「なるほど…、越境捜査が可能というわけですか…」

「その通りだ」


【午前8時25分】
 俺がまだ特捜部長室のソファで眠りこけている頃、押田部長は三つ葉中央銀行麹町支店前にワゴン車で乗りつけた。ワゴン車には法科学鑑定研究センターの指紋担当の塚原研究員とその部下たちが同乗しており、指紋採取に必要な道具も揃えていた。

 支店前では既に、高橋査察管理課長が待ち受けており、押田部長たちは高橋査察管理課長と落ち合うとそのまま銀行へと直行した。その一行の中には指紋採取のための機材を抱えた研究員も混じっていたので、さすがに警備員に呼び止められた。

 そこで押田部長と高橋査察管理課長はそれぞれ身分証を呈示し、警備員を直立不動にさせると、まだシャッターが降りたままの支店内に入れてくれるよう頼み、警備員は直ちに支店内と連絡を取り、それから待つこともなくすぐに別口から行員が…、支店長との名札を掲げた行員が顔をのぞかせて、押田部長一行を支店内へと招じ入れた。

 こうして押田部長一行が支店長によって支店内へと招じ入れられると、高橋査察管理課長がこれは好都合とばかり、支店長に来意を告げた。

 すなわち、5日前にこの三つ葉中央銀行麹町支店で新規に口座を開設した警視総監の小山文明について、小山が書いた、それも直筆の契約書を開示して欲しいと、高橋査察管理課長は支店長に要求したのであった。無論、令状はないものの、それでも天下の東京国税局査察部査察管理課長からのご指示とあらば、これに従わないわけにはいかないと言わんばかりに、その支店長もまた、先ほどの警備員同様、直立不動で「はい」と応ずると、直ちに契約書を持参した。

 それから塚原研究員が部下と共にその契約書から指紋採取を試みるべく、作業を開始した。

 その間、高橋査察管理課長は支店長に対して、今度は小山に応対した、つまりはこの契約書に触れたと思しき行員を連れて来るよう命じたのであった。

 その命令に対しても支店長はやはり直立不動で応ずると、これまた直ちにその行員を…、女子行員を連れてきたのであった。

 すると押田部長にバトンタッチ、押田部長はその女子行員に対してまずは小山の対応をしたのか、念の為にまずそれを確かめた上で、契約書に触れた可能性のある者についても心当たりがあればとの前置きで尋ねたのであった。

 それに対して女子行員は相手が警視総監だというので、契約書にしても真新しい契約書を差し出すべく、契約書の束の中から引き抜いてそれを小山に差し出したとのことであり、仮にその契約書に誰か別の人間の指掌紋が付着していたとしても引き抜いた際に、綺麗にふき取られたか、あるいはそこまではいかないにしても、それでも鑑定が不可能なほどに指掌紋が破壊されたことに間違いはなく、女子行員と小山の二人だけがその契約書に触れたとあらば、指掌紋が上書きされたはずであり、すなわち、二人分の指掌紋が検出されるはずであった。

 そして押田部長による女子行員からの聞き込みを終えたちょうどその時、塚原研究員たちは契約書からすべての指掌紋を検出し終え、そこで押田部長はその女子行員の指掌紋を採らせて欲しいと頼んだ。無論、任意である以上、拒否することは可能だが、その場合には改めて身体検査令状を持参の上、強制的に採取することになるがと、若干の脅しを込めて頼んだところ、女子行員は直ちに快く指紋採取の協力に応じてくれた。

 そうして塚原研究員たちはさらにその女子行員からも指掌紋を採取の上、先ほど、契約書から採取した指掌紋とその女子行員から採取した指掌紋とを照合し、契約書に付着していた女子行員の指掌紋を見つけると、それを除外して残った指掌紋、すなわち、小山の指掌紋をさらに、既に前日に採取し終えていた、例の田島が後生大事に隠し持っていた、痴漢冤罪の報酬としての札束、その真上の札に残されていた指掌紋とを照合したところドンピシャであった。ちなみにその真上の札にはその他にも田島の指掌紋も残されていたが、田島の指掌紋については特捜部が身柄を拘束した時点で容易に検出することができたので、特捜部では田島から十指とそれに掌紋を台紙に複写の上、それを法科学鑑定研究センターに持ち込んで、真上の札に残されていた複数の…、田島と小山、どちらの指掌紋か、それを判別する際の資料として使ってもらったのであった。そして結果、田島の指掌紋を弾いた残りの指掌紋、すなわち小山の指掌紋の検出に成功していたのだ。

 ともあれ、これで田島が痴漢冤罪として受け取った報酬の札束は小山から手交されたことが証明されたわけで、押田部長は直ちに、警視総監の小山に対して痴漢冤罪…、虚偽告訴教唆の容疑で逮捕状請求の準備に取り掛かることに決めた。


【午前8時25分】
 同じ頃、神奈川県警本部では刑事部捜査一課の巻島課長の指揮の下、エリー・ホワイト失踪事件、改め殺人・死体損壊・遺棄事件の捜査が大詰めを迎えていた。

 早暁に徳間事務官の運転する乗用車でもって神奈川県警本部へと移送された田島康裕が県警刑事部捜査一課のそれも腕利き刑事の取調べの結果、何もかも自供したのであった。

 捜査一課では田島の自供を元に、田島に対しては死体損壊教唆と死体遺棄、さらに証拠隠滅容疑で逮捕状を請求すべく、そのための疎明資料を揃えると同時に、大川龍二に対しても殺人と死体損壊、死体遺棄の共謀共同正犯の容疑で逮捕状を請求すべく、そのための疎明資料を揃えた。

 すなわち、徳間事務官の運転する乗用車に同乗してきた田林主任検事が持参した、大友龍二と田島康裕がエリー・ホワイトの殺しとそれに死体損壊、遺棄にかかわった証拠を疎明資料としたのであった。尚、法科学鑑定研究センター作成の鑑定結果も勿論、疎明資料として添付され、それに田島の供述が…、捜査一課の刑事に対してなした田島の供述調書が加われば、疎明資料としてはこれ以上ないと言っても過言ではないほどに頑丈なそれであり、裁判所…、横浜地裁が逮捕状を発付するのは間違いない。
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