天明奇聞 ~たとえば意知が死ななかったら~

ご隠居

文字の大きさ
105 / 119

安永のトリカブト殺人事件 ~一橋治済の「反撃」、異なる証言~

しおりを挟む
 翌日よくじつの22日、2月22日に一橋ひとつばし治済はるさだ家老かろう田沼たぬま意致おきむねともない、登城とじょうすると、御側御用取次おそばごようとりつぎ稲葉いなば正明まさあきらかいして将軍しょうぐん家治いえはる面会めんかいもとめた。

 治済はるさだ御三卿ごさんきょう詰所つめしょであるひかえ座敷ざしき稲葉いなば正明まさあきら呼付よびつけ、そこで正明まさあきら将軍しょうぐん家治いえはるへの面会めんかい希望きぼうつたえたことから、やはり御三卿ごさんきょうとしてその陪席ばいせきしていた清水しみず重好しげよしも、

「それなれば…」

 治済はるさだへの対抗心たいこうしんから、治済はるさだとも将軍しょうぐん家治いえはるいたいむね正明まさあきらげたのだ。

 じつを言えば、これこそが治済はるさだの「ねらい」であった。

 重好しげよしまえ治済はるさだ正明まさあきらたいして、将軍しょうぐん家治いえはるへの「取次とりつぎ」を、すなわち、面会めんかい希望きぼうつたえれば、重好しげよしかならずや、治済はるさだへの対抗心たいこうしんから、治済はるさだともに―、治済はるさだかたならべて家治いえはるいたいと、そう言出いいだすにちがいないと、治済はるさだはそうんでいた。

 一方いっぽう正明まさあきら治済はるさだのそんな胸中きょうちゅうには気付きづいていながらも、素知そしらぬかおで、重好しげよし一緒いっしょ面会めんかいでもかまわぬかと、ただした。

 すると治済はるさだかまわぬとこたえたことから、正明まさあきら家治いえはるもとへといそぎ、治済はるさだ重好しげよし両名りょうめい面会めんかい希望きぼう取次とりついだ。

 かくして治済はるさだ重好しげよし御座之間ござのまにおいて、

かたならべて…」

 家治いえはるへの面会めんかいかなった。

 もっとも、重好しげよし場合ばあい治済はるさだへの対抗心たいこうしんから、つまりは、

治済はるさだあに家治いえはるに逢《あ》うなら自分じぶんも…」

 そのよう短絡的たんらくてき動機どうきから家治いえはるいたいとねがったにぎない。

 それゆえ重好しげよしには家治いえはるってはなすべきことなどなにもなかったので、家治いえはるまえにして戸惑とまどってしまった。

 一方いっぽう治済はるさだにはそのよう重好しげよし胸中きょうちゅうようかり、重好しげよしのその「幼児性ようじせい」に内心ないしん苦笑くしょうした。

 ともあれ治済はるさだには重好しげよしとはことなり、家治いえはる具体的ぐたいてき用件ようけんがあったので、重好しげよしかたならべて家治いえはる面会めんかいするや、挨拶あいさつもそこそこ、早速さっそく本題ほんだいはいった。

上様うえさまにおかせられましては、この治済はるさだめがおそおおくも大納言だいなごんさま暗殺あんさつたくらんでいるものと、左様さよううたがいあそばされ、そこで家老かろうとして上様腹心うえさまふくしん水谷みずのや但馬たじまをこの治済はるさだもとへと、監視かんしため送込おくりこまれたのでござりましょうが、なれどその結果けっか如何いかに?」

 治済はるさだ前夜ぜんや水谷勝富みずのやかつとみへの厭味いやみおなじく、家治いえはるにもそう厭味いやみをぶつけた。

「この治済はるさだめになに不審ふしんてんでもありましたでしょうか…」

 治済はるさだのそのいかけに、家治いえはるなにこたえることが出来できなかった。

 成程なるほど治済はるさだには不審ふしんてんは、それこそ家基いえもと暗殺あんさつたくらむその兆候ちょうこうすらもうかがえなかった。

 それは水谷勝富みずのやかつとみからの報告ほうこくからもあきらかであった。なにしろ治済はるさだ寝起ねおきまで水谷勝富みずのやかつとみと、それに田沼たぬま意致おきむねともともにしていた。

 つまりは治済はるさだ水谷勝富みずのやかつとみ田沼たぬま意致おきむねの2人の家老かろう徹底的てっていてき監視下かんしかかれていたわけで、勝富かつとみ治済はるさだには不審ふしんてん見受みうけられないと、家治いえはるにそう報告ほうこくしていた。

 そんななか家基いえもと昨日きのう、2月21日の鷹狩たかがりの最中さなか、それもひる御殿山ごてんやま花見はなみにおいてたおれたとあらば、すくなくとも家基いえもとたおれたけんについて治済はるさだ無実むじつ一切いっさい関与かんよしていないと判断はんだんせざるをない。

 ましてや、家基いえもとたおれた、まさ元凶げんきょう諸悪しょあく根源こんげんとも言うべきくだん御殿山ごてんやま花見はなみには一橋家ひとつばしけ所縁ゆかりもの誰一人だれひとりとしていなかった。

 となれば、治済はるさだ昨日きのう家基いえもとたおれたこととは無関係むかんけい―、治済はるさだだれかを使嗾しそうして家基いえもとがいしたと、そうかんがえることは出来できなかった。

「その、大納言だいなごんさまたおれあそばされた御殿山ごてんやま花見はなみでござりまするが、一橋家ひとつばしけ…、この治済はるさだ所縁ゆかりもの一人ひとりとしておらず、ひるがえって、清水家しみずけあるいは田沼家たぬまけ所縁ゆかりものめられていたとか…」

 治済はるさだ横目よこめ重好しげよしながめつつ、家治いえはるにそう言上ごんじょうした。

 それは家基いえもとたおれたのは清水しみず重好しげよしあるいは田沼たぬま意次おきつぐ所為せい、もっと言えば重好しげよしあるいは意次おきつぐ家基いえもと一服いっぷくらせたのではないかと、そう示唆しさするものであった。

 治済はるさだ重好しげよし居並いならまえ家治いえはるかる示唆しさをしたく、そこで態々わざわざ重好しげよしまえ御側御用取次おそばごようとりつぎ稲葉いなば正明まさあきらたいして家治いえはるへの面会めんかい取次とりつぎをたのんだのであった。

 そうすれば重好しげよしのその幼児性ようじせい丸出まるだしの性格せいかくからかんがえて、

自分じぶんも…」

 治済はるさだとも家治いえはるいたいと、そう言出いいだすにちがいないと、治済はるさだはそう読切よみきっていたからだ。

 結果けっか見事みごと的中てきちゅう治済はるさだ重好しげよしとなりひかえさせ、家治いえはるたいして、重好しげよしか、あるいは意次おきつぐ家基いえもと一服いっぷくったのではないかと、そう示唆しさしたのであった。

 当然とうぜん重好しげよし猛反撥もうはんぱつした。

たれぃっ、それではまるでこの重好しげよし大納言だいなごんさま一服いっぷくらせたようこえるがっ!?」

 重好しげよしとなり治済はるさだほうへとかおけ、そうこえ張上はりあげた。

かり大納言だいなごんさまやまい所為せいたおれたのでなければ、一服いっぷくられたものとかんがえざるをず、その場合ばあい花見はなみ扈従こしょうせしものが、とりわけ花見はなみため弁当べんとうあつらえしもの下手人げしゅにんかんがえざるをず…、けば…、大目付おおめつけ松平まつだいら對馬つしまもうすところによれば、大納言だいなごんさまにおかせられては御膳所ごぜぜ東海寺とうかいじにて用意よういせし昼餉ひるげには、すなわち、膳奉行ぜんぶぎょう毒見どくみませし昼餉ひるげにはをつけずに、となり御殿山ごてんやまへと御出向おでむきになられ、そこで膳番ぜんばん小納戸こなんど用意よういせし、うらかえさば膳奉行ぜんぶぎょう毒見どくみませておらぬ御重おじゅうくちにしたあとたおれられたとか…、そしてその膳番ぜんばん小納戸こなんどでござるが、清水家しみずけ所縁ゆかりのありし…、宮内卿殿くないきょうどの従弟いとこ三浦左膳みうらさぜんや、あるいは田沼家たぬまけ所縁ゆかりのありし…、田沼主殿たぬまとのもめいめとりし石谷いしがや次郎左衛門じろざえもん、それにおなじく清水家しみずけ所縁ゆかり石場いしば弾正だんじょう田沼家たぬまけ所縁ゆかり坪内つぼうち五郎左衛門ごろざえもんらが用意よういせしものとのことなれば…」

 重好しげよし三浦左膳みうらさぜん石場いしば弾正だんじょう使嗾しそうして、あるいは意次おきつぐ石谷いしがや次郎左衛門じろざえもん坪内つぼうち五郎左衛門ごろざえもんおなじく使嗾しそうして御重おじゅう一服いっぷく盛付もりつけ、それを家基いえもとふくませたのではないかと、治済はるさだはそうも示唆しさしたのであった。

 重好しげよし当然とうぜん猛反撥もうはんぱつした。

 家治いえはるも、「滅多めったなことをくちいたすな」と治済はるさだたしなめた。

家基いえもとどくふくませられたなどと…、かくたるあかしはないのだからな…」

 家治いえはるはそう付加つけくわえた。

たしかに…、さればその、三浦左膳みうらさぜん石谷いしがや次郎左衛門じろざえもんらが用意よういせし御重おじゅうあらためれば、こたえはおのずとあきらかになるかと…」

 治済はるさだがそう提案ていあんすると、家治いえはるこまった表情ひょうじょうかべた。そこで治済はるさだは、

上様うえさま…、如何いかがされましたので?」

 さも、家治いえはる困惑こんわく表情ひょうじょうからぬといった様子ようす家治いえはるにそうこえをかけた。

「それがの…、その、三浦左膳みうらさぜんらが用意よういせし御重おじゅう見当みあたらぬのだ…」

見当みあたらぬとは、またどういう次第しだいで?」

「いや、言葉ことばどおりの意味いみぞ…、されば御重おじゅうえてしむたのだ…」

「そは…、三浦左膳みうらさぜんらが片付かたづけたとか…」

「いや… 三浦左膳みうらさぜん石谷いしがや次郎左衛門じろざえもんらにしても、御重おじゅう片付かたづけしおぼえはないそうな…」

 家治いえはる昨晩さくばん御殿山ごてんやまでの花見はなみ一件いっけんにつき、みずから「関係者かんけいしゃ」を聴取ちょうしゅした。

 そのなかには御重おじゅう用意よういした膳番ぜんばん小納戸こなんど三浦左膳みうらさぜん石谷いしがや次郎左衛門じろざえもん、それに石場いしば弾正だんじょう坪内つぼうち五郎左衛門ごろざえもん、この4人も勿論もちろんふくまれていた。

 彼等かれら勿論もちろん御重おじゅうにはなん問題もんだいはなかったと、家治いえはる愁訴嘆願しゅうそたんがんおよんだ。

 治済はるさだ家治いえはるからそうかされるとおもわず苦笑くしょうした。

「まぁ…、かりなに問題もんだいがあったとしても、ありましたとは、素直すなお申上もうしあげるともおもえず…」

 治済はるさだがそうげると、家治いえはるじつ苦々にがにがしげな表情ひょうじょうのぞかせた。治済はるさだの言うとおりだからだ。

「これでかりに、御重おじゅう現場げんばのこされておりましたならば、御重おじゅうには真実まこと問題もんだいがなかったのかいなか、それをたしかめることもかなもうしたものを…、肝心かんじんかなめ御重おじゅう忽然こつぜんえたとならば…、それもそろいもそろうて、4人が用意よういせし御重おじゅう同時どうじえたとならば、最早もはやたしかめようもなく…」

 治済はるさだ三浦左膳みうらさぜんらが故意こい御重おじゅう処分しょぶんしたのではないかと、そう示唆しさした。

 治済はるさだのその示唆しさたいして家治いえはるはと言うと、真実まこともっしゃくではあったが、みとめざるをなかった。

 無論むろん三浦左膳みうらさぜん石谷いしがや次郎左衛門じろざえもんらが故意こい御重おじゅうどく仕込しこんだなどとは、家治いえはるおもっていなかった。

 だがその御重おじゅう家基いえもとたおれた現場げんばからえたとなれば、如何いか家治いえはる三浦左膳みうらさぜんらをしんじていたとしても、ほかものは、こと治済はるさだはそうはゆくまい。

「やはり御重おじゅうなにか…、どくでも仕込しこまれていたのではあるまいか…」

 治済はるさだにそううたがわせたとしてもいたかたあるまい。

 それでも家治いえはる治済はるさだ反論はんろんこころみた。

「そもそも御殿山ごてんやまでの花見はなみだが、西之丸にしのまる御側御用取次おそばごようとりつぎ小笠原おがさわら信喜のぶよし発案はつあんにて…」

「ほう…、この治済はるさだ大目付おおめつけ松平まつだいら對馬つしまよりは、膳所ぜぜにて西之丸にしのまる小納戸こなんど頭取とうどり新見しんみ正則まさのりがまず、花見はなみ大納言だいなごんさまへとすす申上もうしあげ、それに相役あいやく押田おしだ岑勝みねかつや、それにひらそば大久保おおくぼ忠翰ただなりらが同調どうちょうしたと、斯様かよううかがいましたが…」

「いや、たしかにそのとおりなのだが、その前日ぜんじつ小笠原おがさわら信喜のぶよし新見しんみ正則まさのりたいして、家基いえもと花見はなみすすめてもらいたいと打診だしんいたし、さら大久保おおくぼ忠翰ただなり押田おしだ岑勝みねかつには新見しんみ正則まさのり同調どうちょうしてもらいたいと…」

成程なるほど…」

「されば御重おじゅうについても…」

「やはり…、小笠原おがさわら信喜のぶよし三浦左膳みうらさぜんらに御重おじゅうを…、花見はなみよう御重おじゅうつくようめいじた、と?」

 治済はるさだ先回さきまわりしてたずねると、家治いえはるも「左様さよう…」と首肯しゅこうした。

「して、そのこと小笠原おがさわら信喜のぶよしみとめましたので?」

 治済はるさだがそのてんただすと、家治いえはるふたたしぶ表情ひょうじょうとなった。

 治済はるさだ家治いえはるのそのしぶ表情ひょうじょうるや、

「どうやら…、小笠原おがさわら信喜のぶよしかる事実じじつはないと、否定ひていしたものと御見受おみういたしましたが…」

 家治いえはるにそうみずけ、家治いえはるうなずかせた。

「それでは…、だれ真実まこと花見はなみ主催者しゅさいしゃか、それはからぬ、ということでござりまするな?」

 治済はるさだにそうたずねられた家治いえはる不承不承ふしょうぶしょううなずいた。やはりしゃくでは、それもおおいにしゃくではあったが、そのとおりだからだ。

「されば…、いまたしかなことは、三浦左膳みうらさぜんらが御重おじゅう用意ようい、その御重おじゅう大納言だいなごんさま召上めしあがりになられた途端とたん人事不省じんじふせいおちいり、そしてその御重おじゅう何故なぜ現場げんばから忽然こつぜんえてしまった…、この3てんでござりまするな?」

 治済はるさだがそうまとめると、家治いえはるあわてた口調くちょうで、「あっ、いやしばらくっ」と治済はるさだせいした。

家基いえもとはどうやら御重おじゅうにはをつけてはいないとのこと…」

御重おじゅう御召上おめしあがりにはなられていない、と?」

左様さよう…、されば家基いえもと御重おじゅうばんらへと…」

 家基いえもと花見はなみ警備けいびたっていた、つまりは家基いえもと警備けいびをしていたばんらのためにと、三浦左膳さぜんらがこしらえた御重おじゅうから料理りょうり大皿おおざらへと取分とりわけると、ばんらのもとへとはこんだそうな。

 そして家基いえもとばんらに料理りょうりすすめているうちたおれたのだと、家治いえはる治済はるさだ打明うちあけた。

「ほう…、さればばんらはみな大納言だいなごんさま御重おじゅう召上めしあがりにはなられていないと、左様さようくちそろえて証言しょうげんいたしておるのでござりまするな?」

 治済はるさだはそうではないことをりながら、しかし表面ひょうめんではあくまで素知そしらぬかおでそうたしかめるようたずねた。

 すると家治いえはる治済はるさだ予期よきしたとおり、もうこれで何度目なんどめになろうか、表情ひょじょうくもらせた。

上様うえさまのその御様子ごようす…、尊顔そんがんからさっするに、大納言だいなごんさまにおかせられては御重おじゅう召上めしあがりになられたと、左様さよう証言しょうげんせしものもおるやに拝察はいさつつかまつりまするが…」

 治済はるさだがそうただすと、家治いえはるはこれにも不承不承ふしょうぶしょううなずいてせた。

 治済はるさださっしたとおり、家基いえもと三浦左膳みうらさぜんらが用意よういした御重おじゅうをつけた―、料理りょうりくちにしたと、そう証言しょうげんするものもあった。

 すなわち、西之丸にしのまる書院番しょいんばん宇田川うたがわ平五郎へいごろう西之丸にしのまる供番ともばんとして昨日きのう家基いえもと鷹狩たかがりに扈従こしょうした本丸書院番ほんまるしょいんばん上原金蔵うえはらきんぞう、それにばんではなく、それよりも格上かくうえ従六位じゅろくい布衣ほいやくである西之丸にしのまる目附めつけ小野おの次郎右衛門じろえもんの3人が家治いえはる聴取ちょうしゅたいしてそう証言しょうげんした。

 ちなみにこの3人は小笠原おがさわら信喜のぶよし家基いえもと西之丸にしのまるへとはこばせようとしたさい真先まっさき信喜のぶよしってかかり、力尽ちからずくでそれを阻止そししようとした水原みはら源之助げんのすけ取押とりおさえたものたちでもある。

「ほう…、西之丸にしのまる目附めつけまでが左様さよう証言しょうげんした次第しだいで…」

 家基いえもとはやはり三浦左膳みうらさぜんらが用意よういした御重おじゅうけた―、その証言しょうげんにはおもみが、つまりは信用性しんようせいがあると、治済はるさだ示唆しさした。

 家治いえはるもそのてんみとめざるをなかった。

 しかも、家基いえもと三浦左膳みうらさぜんらが用意よういした御重おじゅうけたと、そう証言しょうげんしているのはこの3人だけではなかったのだ。

「されば…」

 家治いえはるじつに言いにくそうにそう切出きりだすと、ほかの「証言者しょうげんしゃ」についても治済はるさだ打明うちあけた。

 すなわち、西之丸にしのまる小姓組番こしょうぐみばんからは、

叔父おじ実弟じってい清水家臣しみずかしん長田おさだ兵右衛門ひょうえもん正續まさつぐ

いもうと清水館しみずやかたつかえる清水しみず又三郎時親またさぶろうときちか

 この2人が、また西之丸にしのまる供番ともばんとして家基いえもと鷹狩たかがりに扈従こしょうした本丸小姓組番ほんまるこしょうぐみばんからは、

家基附いえもとづき老女ろうじょ初崎はつざき養女ようじょめとっている大田おおた善大夫ぜんだゆう保好やすよし

おとうと清水家臣しみずかしん橋本はしもと喜平太きへいた敬賢ゆきまさ

清水家老しみずかろう本多ほんだ昌忠まさただむすめめと島崎しまざき一郎右衛門いちろうえもん実父じっぷ一郎兵衛いちろべえ忠要ただとしじつおいである松平まつだいら三郎左衛門さぶろうざえもん康淳やすあつ

 おなじく本丸書院番ほんまるしょいんばんからは、

末娘すえむすめ清水家臣しみずかしんとつがせている阿部あべ大膳たいぜん正明まさあきら

 そのほかばんではないが、家基いえもとため茣蓙ござ持参じさんした納戸なんどばん越智おち小十郎こじゅうろう鷹匠たかじょう仙波せんば市左衛門いちざえもん永昌ながまさおなじく、

家基いえもと三浦左膳みうらさぜんらが用意よういした御重おじゅうをつけた…」

 家治いえはる聴取ちょうしゅにそう証言しょうげんしていたのだ。

 ちなみに越智おち小十郎こじゅうろう清水しみず用人ようにん小笠原おがさわら守惟もりこれむすめめとっており、一方いっぽう仙波せんば市左衛門いちざえもんいたってはそもそも清水家臣しみずかしんであった。

 仙波せんば市左衛門いちざえもん鷹匠たかじょうとしてのうで重好しげよしわれ、清水家しみずけ召抱めしかかえられた。つまりは抱入かかえいれであった。

 御三卿ごさんきょう陪臣ばいしん、それも抱入かかえいれもの将軍しょうぐんあるいは次期じき将軍しょうぐん鷹狩たかがりに扈従こしょうさせるなどきわめて異例いれいのことであり、小笠原おがさわら信喜のぶよし進言しんげんによる。

 これがおな御三卿ごさんきょうでも一橋家ひとつばしけ陪臣ばいしんであったならば、家治いえはる家基いえもと鷹狩たかがりに扈従こしょうさせるなどおおよゆるさなかったであろう。

 だが可愛かわいおとうとでもある重好しげよしつかえる鷹匠たかじょうともなればはなしべつであった。

 小笠原おがさわら信喜のぶよしもそのてん見越みこして家治いえはるたいして、

大納言だいなごんさま放鷹ほうよう扈従こしょうさせましては…」

 そう進言しんげんおよんだのであった。

 すると家治いえはるもこれをみとめ、そこでおとうと重好しげよし同意どうい取付とりつけてとく家基いえもと鷹狩たかがりに仙波せんば市左衛門いちざえもん扈従こしょうさせた次第しだいであった。

 かる経緯いきさつから仙波せんば市左衛門いちざえもん花見はなみうたげ相伴しょうばんあずかることがゆるされた。

 その仙波せんば市左衛門いちざえもんまでが、

家基いえもと三浦左膳みうらさぜんらが用意よういした御重おじゅうけた…」

 そう証言しょうげんしている以上いじょう、この証言しょうげんおもなければならない。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記

颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。 ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。 また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。 その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。 この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。 またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。 この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず… 大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。 【重要】 不定期更新。超絶不定期更新です。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

米国戦艦大和        太平洋の天使となれ

みにみ
歴史・時代
1945年4月 天一号作戦は作戦の成功見込みが零に等しいとして中止 大和はそのまま柱島沖に係留され8月の終戦を迎える 米国は大和を研究対象として本土に移動 そこで大和の性能に感心するもスクラップ処分することとなる しかし、朝鮮戦争が勃発 大和は合衆国海軍戦艦大和として運用されることとなる

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

処理中です...