天明繚乱 ~次期将軍の座~

ご隠居

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徳川家基毒殺トリック解明篇 1

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「残る問題は…、家基いえもとがことぞ…」

 家治は思い出したように声を、それもしぼるようにして出した。

 如何いかにして家基いえもと毒殺どくさつ…、毒キノコであるシロタマゴテングタケ、あるいはドクツルタケを混入こんにゅうさせた食事、それも夕食を家基いえもとに食べさせたのか、それがいまだに分からなかった。

 いや、一橋ひとつばし家と縁のある西之丸にしのまる小納戸こなんど瀧川たきがわ久助きゅうすけとその縁者えんじゃにして同じく小納戸こなんど落合おちあい郷八ごうはちが関与しているのはほぼちがいないだろう。

 すなわち、瀧川たきがわ久助きゅうすけ落合おちあい郷八ごうはち小納戸こなんどとしての職分しょくぶん…、御膳ごぜんかかりとして宿直とのいおりには将軍、いや、次期将軍の夕食の毒見どくみになう、その職分しょくぶんを利用、いや、悪用、濫用らんようして、本来、行うべき毒見どくみを行わずに、それどころかシロタマゴテングタケ、あるいはドクツルタケを夕食に混入こんにゅうした疑いがあるのだ。

 だがここで一つ問題が、それも大きな問題があった。それは、

西之丸にしのまる御膳ごぜん奉行ぶぎょうは皆、一橋ひとつばし家とは無縁むえん…」

 ということであった。

 そうであれば西之丸にしのまる御膳ごぜん奉行ぶぎょう一橋ひとつばし治済はるさだ姦計かんけいすなわち、

「次期将軍たる家基いえもとを殺害、毒殺どくさつし、己が実子じっし豊千代とよちよ家基いえもとに代わる次期将軍位にける…」

 その姦計かんけいに手を貸すはずがなかった。

 だが、家基いえもと毒殺どくさつ…、それも食事にシロタマゴテングタケ、あるいはドクツルタケを混入こんにゅうするという芸当げいとう西之丸にしのまる御膳ごぜん奉行ぶぎょうの協力がないことには絶対に不可能であった。

 それと言うのも仮に小納戸こなんど瀧川たきがわ久助きゅうすけ落合おちあい郷八ごうはち毒見どくみと称して夕食にシロタマゴテングタケ、あるいはドクツルタケを混入こんにゅうしようにも、御膳ごぜん奉行ぶぎょう小納戸こなんど毒見どくみの様子をしっかりと監視かんしするために、瀧川たきがわ久助きゅうすけ落合おちあい郷八ごうはちが夕食にシロタマゴテングタケ、あるいはドクツルタケを混入こんにゅうしようにも彼ら御膳ごぜん奉行ぶぎょうの目が光っていては無理というものであり、まして、

御膳ごぜん奉行ぶぎょうの目をぬすんで…」

 夕食にシロタマゴテングタケ、あるいはドクツルタケを混入こんにゅうするなどと、そのような芸当げいとうは不可能であった。

 すると直熙なおひろが「突破とっぱこう」を口にした。

「そは…、おそれ多くも大納言だいなごん様が中奥なかおくにてお食事をおしあがりになられし場合にて…」

 直熙なおひろがそう口にしたので、家治は大いに興味をかれ、「続けよ」と命じた。

「ははっ。さればおそれ多くも大納言だいなごん様にあらせられましては…、上様うえさまにも同じことが申せましょうが、つね中奥なかおくにてお食事をおしあがりになられますわけではなく…」

 直熙なおひろがそう言いかけると、「そうかっ」と家治は大きな声を出すと同時にひざを打ったかと思うと、

「されば、大奥にて食事をることもあったわ…」

 家治は思い出したようにそう口にし、直熙なおひろに、「御意ぎょい…」とうなずかせた。

「してその時の…、大納言だいなごん様が大奥にてお食事をおしあがりになられし時の毒見どくみ体制たいせいは?」

 意知おきともが勢いんで尋ねた。

「されば上様うえさまが大奥にてお食事をおしあがりになられし場合にもまり申すが…」

 直熙なおひろはそうまえきした後、

「やはり中奥なかおくにてお食事を…、この場合はご夕食をおしあがりになられし時と同じく、中奥なかおく台所だいどころにて作られ、それをまず御膳ごぜん奉行ぶぎょう毒見どくみいたし、続いて毒見どくみをせし御膳ごぜん奉行ぶぎょうの手により小納戸こなんどの元へと運ばれ、小納戸こなんど御膳ごぜん奉行ぶぎょう監視かんしもと毒見どくみを行い…」

 ここまでは中奥なかおくにて食事をる場合と同じであり、それはここ本丸ほんまるにてらす将軍であろうとも、西之丸にしのまるにてらす次期将軍であろうとも変わるところがない、と直熙なおひろは説明した。

「されば大奥にてお食事をおしあがりになられし場合には小納戸こなんどによる毒見どくみませた後、その小納戸こなんどの手により大奥へと…、それも廣敷ひろしきおもて御膳ごぜんしょへとそのお食事が運ばれ…」

 大奥の食事はこの廣敷ひろしきおもて御膳ごぜんしょにて作られる。御台所みだいどころの食事も姫君ひめぎみの食事も、そしておく女中じょちゅうの食事も、であった。

 そして御台所みだいどころ姫君ひめぎみの食事についてはこの廣敷ひろしきおもて御膳ごぜんしょにおいて、廣敷ひろしき番之頭ばんのかしらがその出来立できたての食事…、御台所みだいどころ姫君ひめぎみの食事の毒見どくみを行うので、そうであれば、御台所みだいどころ倫子ともこの食事や姫君ひめぎみ萬壽ます姫の食事にシロタマゴテングタケ、あるいはドクツルタケを混入こんにゅうしたのは廣敷ひろしき番之頭ばんのかしら若林わかばやし平左衛門へいざえもん木室きむろ七左衛門しちざえもんではなく、中年寄ちゅうどしよりのおとみの方や高橋たかはしであった可能性が高いとも、直熙なおひろは付け加えた。

 それと言うのもその廣敷ひろしきにあるおもて御膳ごぜんしょにて、廣敷ひろしき番之頭ばんのかしらがその出来立できたての料理…、御台所みだいどころ姫君ひめぎみが食する料理の毒見どくみを行う際には、その料理を作った料理人…、御台みだいさま御膳ごぜんしょ台所だいどころがしらとその配下はいかくみがしら台所だいどころにんあるいは姫君ひめぎみさま御膳ごぜんしょ台所だいどころがしらとその配下はいかくみがしら台所だいどころにん、彼ら料理人に見られながらの「毒見どくみ」となり、そうであれば廣敷ひろしき番之頭ばんのかしらは彼ら料理人の「目」がある中で、とてもではないが、シロタマゴテングタケ、あるいはドクツルタケを料理に…、御台所みだいどころ姫君ひめぎみのために作られたその料理の中に混入こんにゅうするなど不可能と言えた。

 ちなみに、御台みだいさま御膳ごぜんしょ台所だいどころがしらとその配下はいかくみがしら台所だいどころにんたちが御台所みだいどころすなわち、倫子ともこの料理を作り、一方、姫君ひめぎみさま御膳ごぜんしょ台所だいどころがしらとその配下はいかくみがしら台所だいどころにんたちが姫君ひめぎみすなわち、萬壽ます姫の料理を作ったのであった。

 さて、将軍や次期将軍が大奥にて食事をる場合…、通常は御台所みだいどころと食事をる場合であり、御台所みだいどころすでい場合などは側室そくしつと食事をるためということになろうか、ともあれその場合には中奥なかおく役人である、そして毒見どくみを行った二人の小納戸こなんどがその大奥の廣敷ひろしきにあるおもて御膳ごぜんしょへとその毒見どくみませた料理を運び、今度はおく御膳ごぜんしょ台所だいどころがしらとその配下はいかくみがしら台所だいどころにんたちがその小納戸こなんどが運んで来た料理をあたたなおすのであった。それと言うのも大奥の廣敷ひろしきにあるおもて御膳ごぜんしょへと、将軍や次期将軍が大奥にてしょくする料理が運ばれる頃にはすでめていたからだ。

 ちなみにこのおく御膳ごぜんしょ台所だいどころがしらとその配下はいかくみがしら台所だいどころにんたちが将軍や次期将軍が大奥にて食事をる際、大奥の廣敷ひろしきにあるおもて御膳ごぜんしょへと、中奥なかおく役人である小納戸こなんどによってはこばれてきた、すっかりめてしまった料理をあたたなおすことをその職分しょくぶんとしていた。

 もっとも、そう度々たびたび、将軍や次期将軍が大奥にて食事をるわけではないので、そうなれば畢竟ひっきょう、彼らおく御膳ごぜんしょ台所だいどころがしらとその配下はいかくみがしら台所だいどころにんたちは普段ふだんひまというわけで、そこで御台所みだいどころ姫君ひめぎみがいる場合には彼女らの料理を作る御台みだいさま御膳ごぜんしょ台所だいどころがしらとその配下はいかくみがしら台所だいどころにんたち、あるいは姫君ひめぎみさま御膳ごぜんしょ台所だいどころがしらとその配下はいかくみがしら台所だいどころにんたちを手伝うことがあり、また、彼女たち、御台所みだいどころ姫君ひめぎみがいない場合には、その他の大勢おおぜいおく女中じょちゅうが食べる料理を作ることに専念せんねんする。

 さて、大奥の廣敷ひろしきにあるおもて御膳ごぜんしょへと、中奥なかおく役人である小納戸こなんどの手によりはこばれ、いでおく御膳ごぜんしょ台所だいどころがしらとその配下はいかくみがしら台所だいどころにんたちの手によりあたたなおされたその料理についてもやはり、廣敷ひろしき番之頭ばんのかしらによる「三度目」の毒見どくみが行われ、それがむと、御台所みだいどころと共に食事をる場合と仮定かていして、御台所みだいどころの食事と共に、大きな「船」に乗せられるのであった。

 大きな「船」とは比喩ひゆ表現ではなしに、実際、大きな船形のそり御台所みだいどころの食事…、御膳おぜんを入れるのであった。それでは何ゆえに大きな船形のそりをしているのかと言うと、それは御台所みだいどころの食事は常に10人前作られるからだ。

 もっとも、廣敷ひろしき番之頭ばんのかしらによる毒見どくみがあるので、毒見どくみ後は料理は9人前に減る。

 いや、その後でさらに中年寄ちゅうどしよりによる毒見どくみが行われるので、料理は8人前へとさらに減る。

 それでも8人前である。御台所みだいどころが一人で食べるには多過ぎるようにも思えるが、無論むろん御台所みだいどころが一人で8人前も食べるはずもなく、実際には御台所みだいどころにしても食べるのは一人前に過ぎず、残りの7人前をおく女中じょちゅうが食するのであった。

 ちなみに将軍や次期将軍の食事にしても御台所みだいどころと同じく10人前が作られ、それでも将軍や次期将軍が食べるのはあくまで一人前であり、さら御膳ごぜん奉行ぶぎょう小納戸こなんどによる毒見どくみが行われ、料理はやはり7人前に減り、その余った7人前の料理は台所役人の「役得やくとく」となった。すなわち、折詰おりづめにして御城おしろづとめの諸役人に売り歩くのであった。

 そして小納戸こなんどが大奥の廣敷ひろしきにあるおもて御膳ごぜんしょへと運ぶ料理は勿論もちろん、一人前であり、それゆえその大きな「船」には御台所みだいどころのために作られた、廣敷ひろしき番之頭ばんのかしらが一人前、毒見どくみをしたために9人前に減ったその料理と共に、その一人前…、将軍、あるいは次期将軍が大奥にて食する一人前の料理が入れられるので、大きな「船」には都合つごう、10人前の料理が「乗せられる」というわけだ。

 この「船」だが、廣敷ひろしき番之頭ばんのかしらの手により、錠口じょうぐちへとはこばれる。いや、正確には引っ張られると言うべきか。

 ともあれ料理が乗せられた「船」が廣敷ひろしき番之頭ばんのかしらの手により錠口じょうぐちへとはこばれると、そこで待機たいきしているおく女中じょちゅうに「選手交代」、今度はおく女中じょちゅうおく御膳ごぜんしょへと運び、そこで料理をあたたなおした後、そのおく御膳ごぜんしょにてひかえていた中年寄ちゅうどしよりがもう一度、毒見どくみをした後、やはりおく女中じょちゅうの手により、それも今度は毒見どくみませた中年寄ちゅうどしよりの手により、御台所みだいどころが待っている御休息之間ごきゅうそくのまへと、その料理の「船」がはこばれる、というのが建前たてまえであった。

 それと言うのも、錠口じょうぐちよりその先、おくまさしく、

「女のその…」

 とも言うべき大奥御殿であり、男子役人、所謂いわゆる廣敷ひろしき役人が自由に動き回れるのは錠口じょうぐち手前てまえにある廣敷ひろしきというスペースのみであった。

 だが実際には9人前もの料理が乗せられた「船」をはこぶなど、女の力では中々なかなかに厳しいものがあった。それが将軍が大奥にて御台所みだいどころと食事をるとなると、10人前に増えるのだから尚更なおさらであろう。

 いや、女であろうとも、やってやれないことはないだろうが、「力仕事」であるために畢竟ひっきょう

「男の力…」

 それをたよりがちとなり、実際には廣敷ひろしき番之頭ばんのかしらが「女のその」とも言うべき大奥御殿ごてんないにあるおく御膳ごぜんしょへと運び、そしておく御膳ごぜんしょにておく女中じょちゅうが料理をふたたあたたなおさましかとどける。

 そしておく女中じょちゅうの手により、ふたたび料理があたたなおされるや、そのおく女中じょちゅうたちをおく御膳ごぜんしょよりいったん退出たいしゅつさせた後、待機たいきしていた中年寄ちゅうどしより廣敷ひろしき番之頭ばんのかしら監視かんしもと、もう一度、毒見どくみを行うのであり、恐らくはこの時に、御台所みだいどころもとい倫子もとこしょくする料理や、あるいは姫君ひめぎみもとい萬壽ます姫がしょくする料理にシロタマゴテングタケ、あるいはドクツルタケが混入こんにゅうされたものと思われる。それも恐らくは中年寄ちゅうどしよりの手により、であろう。

 ちなみに姫君ひめぎみの料理についても、御台所みだいどころの料理と同じく10人前が作られる。

 それゆえ御台所みだいどころである倫子ともことその実娘である姫君ひめぎみ萬壽ます姫が健在けんざいであったおりには、2人の廣敷ひろしき番之頭ばんのかしらがそれぞれの料理を…、御台所みだいどころしょくする料理と姫君ひめぎみしょくする料理をそれぞれ毒見どくみを行うのであった。

 倫子ともこがシロタマゴテングタケ、あるいはドクツルタケが混入こんにゅうしたと思われる料理、それも夕食を口にした時を例にとるならば、廣敷ひろしき番之頭ばんのかしら若林わかばやし平左衛門へいざえもん御台所みだいどころである倫子ともこしょくする料理の毒見どくみを、一方、同じく廣敷ひろしき番之頭ばんのかしら木室きむろ七左衛門しちざえもん姫君ひめぎみである萬壽ます姫がしょくする料理の毒見どくみをそれぞれ行った後、つまりは一人前食べた後、「船」に9人前の料理を入れると、若林わかばやし平左衛門へいざえもん木室きむろ七左衛門しちざえもんはやはりそれぞれ、その9人前の料理を入れた「船」をおく御膳ごぜんしょへと引っ張っていくのだ。途中とちゅう関所せきしょとも言うべき錠口じょうぐちとおけることとなるが、とがめる者はだれ一人ひとりとしていなかった。

 こうして若林わかばやし平左衛門へいざえもん木室きむろ七左衛門しちざえもん、この2人の手によりおく御膳ごぜんしょへとはこばれた、いや、引っ張られた9人前の料理はそこでおく女中じょちゅうの手によりあたたなおされた後、再び、それも今度はおく女中じょちゅうの手によりぜんりつけなおされ、そしておく女中じょちゅうにはいったんおく御膳ごぜんしょから退出たいしゅつを願い、そうして中年寄ちゅうどしより廣敷ひろしき番之頭ばんのかしら…、御台所みだいどころ倫子ともこづき中年寄ちゅうどしよりであったおとみの方と姫君ひめぎみ萬壽ますづき中年寄ちゅうどしよりであった高橋たかはし廣敷ひろしき番之頭ばんのかしら若林わかばやし平左衛門へいざえもん木室きむろ七左衛門しちざえもんの4人きりとなったところで、おとみの方はまず、一人前をしょくして9人前の料理を8人前に減らすと、その8人前の料理の中から御台所みだいどころ倫子ともこしょくするぜん、それも恐らくは山菜さんさい料理がりつけられたぜんにシロタマゴテングタケ、あるいはドクツルタケを混入こんにゅうしたものと思われ、それを高橋たかはし若林わかばやし平左衛門へいざえもん木室きむろ七左衛門しちざえもん黙認もくにんしたものと思われる。

 そうして8人前の料理のうち、倫子ともこしょくするぜんにシロタマゴテングタケ、あるいはドクツルタケが混入こんにゅうされた一食分は他の7人前の料理と共にもう一度、今度は中年寄ちゅうどしよりの手により「船」に乗せられるのであった。おとみの方はきっと、シロタマゴテングタケ、あるいはドクツルタケを混入こんにゅうさせたぜんがどれであったか、分からなくなってしまうのを防ぐべく、気をつけたはずである。

 そして御台所みだいどころ倫子ともこ姫君ひめぎみ萬壽ます姫が待つ御休息之間ごきゅうそくのままでは、今度こそおく女中じょちゅうが料理を…、8人前に減った料理を運ぶことになる。おく御膳ごぜんしょから御休息之間ごきゅうそくのままでは近いからだ。

 その際、中年寄ちゅうどしよりが、つまりはおとみの方と高橋たかはしがそのおく女中じょちゅうの案内役をつとめ、のみならず給仕きゅうじになう。

 おとみの方はきっと、どれがシロタマゴテングタケ、あるいはドクツルタケを混入こんにゅうさせたぜんであったか、ちがえぬよう慎重しんちょうに思い出し、そしてそのぜんを取り出して、倫子ともこの前に置いたものと思われる。

 それは高橋たかはしについても同じことが言えるだろう。すなわち、高橋たかはしも、今度は木室きむろ七左衛門しちざえもんと二人きりとなったおく御膳ごぜんしょにおいて、萬壽ます姫がしょくするぜんにシロタマゴテングタケ、あるいはドクツルタケを混入こんにゅうさせ、そしておとみの方がそうであったように、高橋たかはしもまた慎重しんちょうに思い出しながら、そのぜんを取り出して、萬壽ます姫の前に置いたものと思われる。

 そして家基いえもとである。仮に家基いえもとがシロタマゴテングタケ、あるいはドクツルタケを摂取せっしゅしたと思われる2月18日、それも夕方と思われるので、つまりは夕食、その夕食を大奥…、西之丸にしのまるの大奥にてったのだとすれば、毒見どくみ体制たいせいはここ本丸ほんまる大奥のそれとたがわず、つまり、中年寄ちゅうどしよりが…、家基いえもと婚約こんやくしゃであった種姫たねひめ附属ふぞくしていた中年寄ちゅうどしより廣敷ひろしき番之頭ばんのかしら監視かんしもと、いや、廣敷ひろしき番之頭ばんのかしらまもられながら、家基いえもとぜんにシロタマゴテングタケ、あるいはドクツルタケを混入こんにゅうしたものと思われる。
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