REED

いずみたかし

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3章

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 体の中から悲鳴が上がっていた。不安定で不安定で仕方がない。あれをしないと。
 深夜、俺は誰にも見られないように細心の注意を払いながら、学校の中庭にある飼育小屋に忍び込んだ。飼育小屋に掛かっている南京錠はピッキングが可能なタイプであることは分かっており、ピッキングの方法も調べがついていた。そして、本番で失敗しないように南京錠のピッキングは何度も練習を重ねていた。
 安全ピンを使って南京錠を外すと、飼育小屋の中にいる一匹のウサギを餌でおびき寄せ優しく抱き上げてから南京錠を施錠した。指紋はもちろん残していない。
 飼育小屋から離れ、もう一度周囲に誰もいないことを確認すると、俺はポケットからカッターナイフを取り出し、思い切りウサギに突き刺した。ウサギの体からは赤黒いドロドロした液体が大量に流れ出し、ウサギはピクリとも動かなくなった。
 しばらく時間が経過した後、ウサギの体に刺さったカッターナイフを引き抜き、もう一度ウサギに突き刺した。それを何度も何度も何度も繰り返す。
 狂っているのは分かっている。最低なのも分かっている。でも、これをしないともう自分を保っていられなかった。

* * *

「辛くて、苦しくて、嫌なことからは逃げたっていいのよ」
 黒崎始が野球部を辞めることを母に告げると母はあっさりと受け入れ、こう答えた。
 七月二十三日の午後、黒崎は三鷹駅前の書店をブラブラしながら、一か月と少し前の母とのやり取りを思い返していた。三鷹駅南口のペデストリアンデッキの南側に設置されているエスカレーターを下り、さらに進んだ十字路の交差点を右に曲がった二軒目にあるその書店には週刊誌、小説、漫画、ビジネス書、児童書とありとあらゆる本が並べられている。客層も小さな子供連れの家族や若者、高齢者と幅広かった。書店で騒いでいる子供をたしなめている親もいれば、周りには目もくれず、まるで本の中の世界に逃避するかの様に熱心に立ち読みをしている女性もいる。
 本当に母には迷惑ばかり掛けてしまっていると黒崎は思う。黒崎が小学校四年生の頃、黒崎の母は父と離婚した。黒崎という姓は母親の姓だ。黒崎は離婚後一度も顔を合わせていない父のことは思い出したくもなかったし、何よりあんな最低な男を父親とは認めていなかった。母はあいつと別れてから、女手一つで自分を育ててくれたのだ。
 黒崎が小学校六年生の頃、「野球がやりたい」と母に告げると、母は嫌な顔ひとつせずに承諾してくれた。野球というスポーツをやるにはお金がかかる。グローブ、スパイク、バット等、道具代が他のスポーツとは比べものにならないぐらいに高いのだ。
 決して楽でない家計の中で野球をやらせてくれたのにもかかわらず、自分の都合で野球を放り出し、挙句の果てには学校もサボりがちになっている。クズの中のクズだな、俺は。じりじりと罪悪感が押し寄せてくるが、黒崎は母の言葉に甘え、辛くて、苦しくて、嫌なことから逃げ、現実と向き合うことを放棄してしまっている。書店に入ったのは気まぐれでもあったが、何か現実を忘れさせてくれるような本があるのではないかという期待もあった。
 書店をうろうろしていると、黒崎はまるでこの世の終わりの様な暗い表情で、本を眺めているスーツ姿の若い男に目が留まる。体型は相撲取りのように太っており、あまりおしゃれではない丸眼鏡の奥の目は淀んでいるように見える。おそらく就職活動中の大学生なのだろう。社会人が醸し出す世慣れしたオーラは出ておらず、この夏真っ盛りの季節に体に馴染んでいないように思われる上下黒のスーツを身に纏い、きっちりとネクタイを締めている。
 スーツ姿の若い男が読んでいる本は「人間力アップで内定獲得」というタイトルだった。黒崎の目に映る男の表情は覇気がなく、積極性に欠けるように見え、世間で言うところの「人間力のある人材」にはとても見えない。そして、黒崎は「人間力」という言葉の存在が気にいらないと思っている自分に気づく。「人間力」「女子力」「コミュニケーション能力」等、○○力という言葉は誰かの能力を正当に評価する時にも使うが、その能力を持っていない人間をふるいに掛けて、蹴落とし、嘲笑うことにも使われる。今までずっと蹴落とされ続けてきた側の人間として、黒崎はその言葉が気に入らなかった。おそらくこの男もそのふるいにかけられてもがき苦しんでいるのだろう。
 こんな所にいたら気が滅入る。そう思って、若い男のいた就職活動関連本コーナーを離れると今度はスポーツ関連書籍の野球のコーナーに目が行っていた。
 黒崎はニュースで知った昨日の三鷹第二高校の試合結果を思い出し、そういやベスト4になったんだよな、早く負けちまえばいいのに、と心の中で毒づきながら、ある本に目が留まり、手に取ってみる。その本は「早坂俊介の軌跡」というタイトルだった。

* * *

 準々決勝二日目の七月二十三日。神宮球場では本来二試合が行われる予定だったが、桜第三高校の不祥事より、その日唯一の試合が始まろうとしていた。
 早大鶴ヶ丘高校のベンチに入っている記録員(スコアラー)の坂(さか)上大輔(がみだいすけ)はマウンド上の早坂(はやさか)俊介(しゅんすけ)の投球練習を食い入るように見つめていた。バランスの良いフォームで投げるボールは低めに集まっている。
「一回の表、守ります、早大鶴ヶ丘高校。ピッチャー、早坂君」
 早坂の名前がアナウンスされると共に、スタンドからは「早坂―」「早坂くーん」といった高校野球好きの男性の声や黄色い声が聞こえてくる。
 早坂俊介という存在はもはや高校野球に関心のない者でも知っていた。その始まりは二年前の夏だった。

 早坂は一年生の夏の大会から名門早大鶴ヶ丘高校の背番号十番を背負い、予選の西東京大会から、三年生エースの大森(おおもり)に次ぐ投手としてチームの勝利に貢献していた。甲子園でも一回戦、三回戦ともリリーフとして数イニングを投げ、才能溢れる一年生左投手(サウスポー)として注目を集め始める。おそらく、あのハプニングが無ければ、早坂の存在は早大鶴ヶ丘高校に期待できる一年生がいる、という程度の認識で終わっていただろう。
甲子園の三回戦終了後、エースの大森が肘の痛みを訴えたのだ。病院での精密検査の結果、右肘靭帯断裂と診断され、とてもマウンドに立てる状態ではなかった。
 早大鶴ヶ丘高校を長年率いる名将長野(ながの)は苦渋の決断の末、甲子園の準々決勝のマウンドに背番号十番の一年生を送り出した。チームの命運を入部五か月足らずの早坂に託したのだ。
 早坂は一年生にして、MAX149km/hの威力のあるストレートを持っており、打者を睨みつけるかのようなマウンドでの振る舞いは相手を圧倒した。普段の早坂は明るい性格で非常に物腰が柔らかいが、マウンドに上がると別人のように変わり、その雰囲気は近寄りがたさすら感じさせた。現在でも健在のそのマウンドでの振る舞い、そして相手打者を打ち取るごとに上げる凄まじい雄叫びを坂上は鮮明に記憶していた。コントロールは不安定ではあるものの、逆にボールの荒れ具合が功を奏したのか、早坂は準々決勝を二失点で完投し、早大鶴ヶ丘高校は準決勝へと駒を進めた。早坂自身、夏の大会での初完投だった。
 一年生投手による完投勝利という結果から、大きな注目を集めて臨んだ準決勝で早坂はさらに周囲を驚かせた。全国四千校以上の中から勝ち残ってきた強豪校を六安打に抑え、完封。三対〇という結果でチームを甲子園の決勝へと導いたのだ。
 準決勝終了後の早坂のマスコミの取り上げ方は常軌を逸していた。その実力もさることながら、非常に整った顔立ちをしており、インタビューへの返答もそつが無く、愛想もいい。そして、マスコミへのインタビューに応じる早坂とマウンド上の早坂とのギャップといった魅力が、全国民の注目を集める存在へと押し上げた。
 そして注目が最大に高まった中で迎えた甲子園の決勝戦。日本一を決めるその試合でマウンドに上がるプレッシャーは凄まじいものだっただろう。試合は息もつかせぬシーソーゲームとなった。
 追いついては追いつかれを繰り返し、試合は五対四と早大鶴ヶ丘高校の一点リードで九回裏を迎えた。ツーアウト二塁三塁と一打サヨナラの場面。打者をツーナッシングと追い込んでから投じられた高めの148km/hのストレートにバットが空を切る。甲子園球場がどよめき、早大鶴ヶ丘高校は全国制覇を果たした。こうして早坂俊介はチームを日本一に導き、誰もが知るスターとなったのだ。
 早坂は二年生の秋に調子を崩し、今年の春の選抜にも登板していなかったが、春の都大会からエースとして復帰を果たした。西東京の準々決勝が行われている今、ベンチに座っている坂上の目には柔らかくしなやかなフォームでボール投げる左投手(サウスポー)が映っている。
 ツーナッシングと追い込まれた相手打者は早坂の遅い変化球につんのめるような態勢で空振りをしており、ストレートを狙っているのだろう。スイングを見ればそれは演技でも、ストレートを投げさせる誘いでもないことは明らかだ。正捕手の辛島(からしま)太一(たいち)がサインを出すと、早坂は首を振り、二度目のサインが出ると首を縦に動かした。
 おいおい、あの打者の反応を見てまさかストライクゾーンにストレートを要求したんじゃないだろうなと坂上は疑う。辛島は非常に身体能力に恵まれており、その肩の強さ、長打力のあるバッティングから二年生にして早大鶴ヶ丘高校の正捕手に抜擢されている。だが、坂上の目にはリードや気配りといった捕手として重要な要素が欠けているように思えて仕方がなかった。坂上は捕手として早大鶴ヶ丘高校野球部に入部したが、体の小ささや身体能力の無さがネックとなり、全国から選手が集まってくるこの野球部では選手としての出番は訪れることはなかった。そして坂上達の一つ上の上級生が引退し、新チームが結成された時、監督の長野に観察眼や分析力を買われ、マネージャーに転向したのだった。坂上は捕手だった経験から、辛島には様々なアドバイスを送ってきた。
 ツーナッシングからの三球目、相手打者は早坂のストライクからボールになるフォークボールに手を出し、三振を喫した。やれやれ、これではまだ早坂が辛島をリードする状況が続きそうだな。そう思いながら坂上はスコアブックにKの字を書きこんだ。

* * *

 あの早坂俊介の本だ。そう思い、高校野球から遠ざかりたい気持ちであったのにもかかわらず、黒崎は夢中になってその本のページをめくり始める。冒頭には早坂俊介の写真が幼い頃のものから時系列に並べられており、可愛らしい小さな子供から、やや中性的な美少年へと成長する様子が見て取れる。
 二年前の夏、早大鶴ヶ丘高校が日本一になった翌日、黒崎達三鷹第二高校野球部でもその話題で持ちきりになった。顔を合わせると誰もが「すごかったよなー、昨日の決勝」と口々にいい放ち、早坂俊介のピッチングに感嘆した。黒崎の脳裏には早坂の力強い高めのストレートで最後の打者を三振に仕留めたシーンが今でも鮮明に刻まれている。そして、その記憶が残っているのは黒崎だけではないだろう。
 女性人気も高いし、相当売れたんじゃないか、この本。そう思いながら黒崎は本のページをめくっていく。どうやらこの本の文章は早坂俊介の父親が綴っているようだ。早坂俊介の父親は教育熱心であり、時には厳しく、愛情溢れる教育で早坂を育ててきたこと。そして、早坂自身は幼い頃から明るく思いやりのある子だったこと。小学生時代、中学生時代のエピソードがその本には散りばめられている。そしてその本に書かれている早坂俊介の姿は、テレビのインタビューや様々なメディアを通して知られる印象と寸分違わぬものだった。
 黒崎は自分と早坂とのあまりの違いに、強烈な劣等感を覚えながら、やはり人間は環境で決まってしまうのか、と思ってしまった。「早坂俊介の軌跡」から抱く早坂の父親のイメージは黒崎の父親とは180度異なるものであったからだ。
 パラパラと本を読み終えると、黒崎は本を元の場所に戻し、書店を後にした。
 そういえば、と黒崎は書店を出て少し歩いた後に足を止める。西東京大会の準々決勝二日目である今日は早坂俊介のいる早大鶴ヶ丘高校の試合だったことを思い出し、スマートフォンで試合結果を検索する。「西東京 高校野球 試合結果」と検索すると、瞬時に出てきた検索結果の一番上を指でタップする。こんなに瞬時にインターネット検索もでき、様々なアプリケーションも使用することのできるスマートフォンを黒崎はとても重宝していた。少しでも空いた時間ができるとついついスマートフォンに手を伸ばしてしまう。きっとそんな人間は自分だけではないはずだと黒崎は思う。電車やバス等の公共機関に乗っている時や歩道を歩いている時、スマートフォンを一心にいじっている人間を目にしないことはないからだ。
 画面がお目当てのページに辿り着き、試合結果を閲覧すると、黒崎は納得のいった表情をし、スマートフォンの画面のウィンドウを閉じる。
 早大鶴ヶ丘高校は十二対〇の五回コールドで相手を下していた。登板した早坂俊介は五回を投げて打たれたヒットはたったの二本という結果だった。

* * *

 七月二十三日の夕方、芦田孝太郎を含む三鷹第二高校野球部の三年生達は早めに終わった練習の後、グラウンドの端っこの階段を上がり、左右に並ぶ二つの校舎を見上げていた。
 右側の校舎は五年前に建て替えたもので、外観も内装も充実しており、生徒達の評判も良い。特に四十年以上前に建設された左側の古びた校舎に比べ、トイレが格段に綺麗になっており、古い学校特有の薄汚れた感じや臭いが漂ってこない。左側にある旧校舎のトイレは汚い上に和式トイレしかなく、生徒達は使いたがらなかった。新校舎は元々男子高だった三鷹第二高校が男女共学になるに伴って建設されたものだった。おそらく、女子生徒が入ってくることから、学校側の配慮で新校舎が建てられたのだろう。新校舎の方には一年生から三年生までの教室やパソコン実習室があり、左側の旧校舎には図書室や視聴覚室や多目的教室、資料室等が配置されている。
「あー。かったるいなぁ。夏期講習」
 深瀬透は眠たげにあくびをしながらそう言い放ち、芦田達と一緒に旧校舎へと足を進める。
「文句言うなよ。むしろありがたいことなんだから」
 芦田が深瀬をたしなめるが、そんなことは意に介さずに「かったるい。ああかったるい。かったるい」と五・七・五の俳句のようなものを口ずさんでいる。
 進学校である三鷹第二高校は夏休みになると校内で夏期講習を実施する。野球部は現在大会中のため、日中行われる夏期講習に参加できない状況にあり、そんな状況を考慮して、受験生の三年生だけでも、と野球部だけのために夕方に夏期講習を催してくれるという粋な計らいがあったのだ。芦田の聞くところによると野球部の監督である青柳先生が三年生部員の受験を考慮し、他の先生に掛け合ってくれたという。
 そんな先生方の思いを理解せず、俳句とは呼べないお粗末な言葉を口走っているエースを見ると、芦田は開いた口が塞がらなかった。
 深瀬は一年生の頃から成績が悪く、入学後、一番最初に行われた定期試験ではいくつもの赤点を積み重ね、一学年320人の三鷹第二高校の中で、320位という大変不名誉な定期試験の成績を叩き出した。赤点をいくつか取っている生徒は追試験を受ければならないのだが、深瀬は放課後の追試験を放り出し、何食わぬ顔で野球部の練習に参加していると校舎のスピーカーから放送が聞こえてきた。
「一年七組の深瀬透君。至急職員室まで来てください。繰り返します。         」
 その放送を聞いて、さすがにまずいと思ったのか、深瀬は全速力で職員室のある校舎の方へ走っていった。後で聞いた話だが、あの温厚な青柳監督に激怒されたそうだ。そしてその後、青柳先生が他の先生に頭を下げ、追試験を受けさせてもらったらしい。
「ま、めんどくさいのは確かに分かるけどな」
 四番打者の藤崎克也が深瀬に同意し、芦田達は夏期講習の行われる視聴覚室の扉を開けた。
 野球部の三年生がぞろぞろと視聴覚室に入ると、芦田は周りを見回してから、黒板から程良く離れた左側の席に腰を下ろす。この左側の席なら窓の方を向くと、普段使っているグラウンドが見える。芦田は校舎の高い所からグラウンドを眺めるのがとても好きだった。自分たちが普段駆け回っているその場所を遠く離れた所から見ると、懐かしいようなしみじみとした感じがするのだ。
 芦田が座ると、三人掛けのその椅子の隣に深瀬、克也が順番に腰を掛ける。

 ぽっこりとお腹が出て、頭髪が薄くなっている男性教諭が視聴覚室に入ってくると、その日一科目目の数学の講習が始まった。この日は数学、英語の二科目の講習を行う予定となっている。
「ねえ、克也。何言ってるのか全然分かんないよ」
 三人掛けの席の真ん中に座っている深瀬が克也に呟く。
「たすき掛けって何だっけ?忘れちゃった。もう眠いや」
「お前よくこの高校入れたな。裏口入学でもしたのか?」
 深瀬の発言に克也は唖然とした表情をした後、言葉を返す。仮にも三鷹第二高校は進学校である。
「集中しねーから眠くなるんだよ。手動かせよ」
 克也は数学教師が板書する内容をノートに書き込みながら、眠たげな深瀬に注意を促す。
「分かったよ」
 深瀬はそう言うと配布されたプリントを折り曲げて紙飛行機を作り始める。芦田は「そういうことじゃない」とツッコミたくなったが、もう無視することにした。
「なあ、お前らさ。進路ちゃんと決めた?」
一科目目の授業が終わり、二科目目の授業が始まるまでの休憩時間に克也が二人に話しかけてきた。
「俺は国公立の法学部に行こうと思ってるよ。漠然とだけど、法律関係の仕事に就きたいと思ってるから。克也は?」
「甲子園出たら推薦で大学行けるかもしんねーし、セレクションも受けてみようと思ってる。とりあえず、行けるところまで野球に関わって生きていきたい。指導者になるのもいいかなってちょっと考えてる」
「俺は大学で野球続けるかどうかは分かんないな。今は目の前の大会のことで精一杯だし」
 どんなに長くても、甲子園の決勝まで行ったとしても、あと一か月もすれば高校野球生活は終わる。八か月ちょっと経てば、高校も卒業して皆それぞれの道を進んでいく。芦田はそう遠くない将来に想像を巡らせる。
「お前は?」
 紙飛行機を作ることにも飽きて、ボーッとしている深瀬に克也が訪ねる。
「俺は二人みたいにちゃんと考えてないよ。そもそも大学行くかどうかもまだ決めていないし。でも俺、今がすごく楽しいから、大学行くにしてもそうじゃないにしても今みたいに楽しいって思える、生きてるって実感できる方向に進みたいな」
「野球も社会もそんな考えで渡って行けるほど甘くねえよ」
 進路か。二人のやり取りが聞こえてくる中、芦田は窓の外に映るグラウンドを眺め、自分の中学時代に思いを馳せていた。あの出来事の後、進もうと決めた路(みち)を俺は真っ直ぐに進めているのだろうか。

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