REED

いずみたかし

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5章

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 あいつの怒鳴り散らす声が聞こえてきた。
「健常者でもどうしようもない出来損ないが大勢いるんだ。そんな欠陥品がまともな人間になるはずがないだろう」
 母の泣き声が聞こえてくる中、あいつは続けてこう言った。
「胎ろせ」

* * *

 昼食を食べ終わり、午後の視聴覚室に野球部全員が集まっていた。芦田孝太朗の隣の席で机に突っ伏し、小さないびきをかいて眠っている人間がいる。決勝戦前日のミーティングが始まろうとしているのに。
「起きろ、馬鹿」
「ねえ、深瀬君起きて」
 深瀬透の後ろの席に座っている藤崎克也は深瀬の肩を激しく揺すり、左隣の有村愛は小さな声で何度も起きるように呼び掛けるが、深瀬はピクリともせずに快適な睡眠を貪り続けている。監督の青柳もいるというのに一番前の席で堂々と眠るなんて何という度胸だと芦田はある意味感心する。
「起きないね。深瀬君、疲れがたまってるのかな?」
「いつもの事だよ。授業中に眠っていない深瀬を見ることなんてまずないから」
 愛は心配するような声を上げたが、深瀬と同じクラスである芦田は授業中に深瀬が眠っているところを後ろの席からいつも見ていた。ウチのエースは疲れに関係なく、座学が始まると眠りに落ちる。でもさすがにそろそろ起きてもらわないといけない。
「克也。何とか力ずくで起こして」
 芦田の言葉に対して「まかせろ」と返答し、克也は即座にノートで深瀬の後頭部を思い切り叩いた。
「痛っ」
 短い悲鳴とともにようやく眠りから覚めた深瀬はいかにも寝起きという顔をしており、目が開いていない。
「深瀬君、ミーティングはじまるよ」
「あ、愛ちゃんおはよー」
「おはよーじゃねえんだよ。とっとと目覚ませ」
 克也が後ろから深瀬の頭を手刀で何度も叩く。分かった分かった、ちゃんと起きるからもうやめてくれと深瀬が克也に懇願する。
「じゃあ、ミーティング始めるぞ」
 コホンというわざとらしい咳払いをしてから青柳はミーティング開始を告げる。
「まず深瀬」
 深瀬はさっきまで眠っていたことを怒られると思ったのか、体をビクっとさせた。
「明日はお前が先発だからな。頼んだぞ」
 深瀬の目の色が変わり、「はい」と元気よく返事をする。さっきまで眠たそうにしていのが嘘のように目を輝かせている。明日の決勝を深瀬が万全な状態で投げられるようにするため、準決勝は二年生の中島啓太が先発した。啓太は毎回ランナーを出しながらも、本当によく投げてくれたと芦田は思う。決してピッチングの内容が良かったわけではなかったが、啓太の粘り強く投げる姿勢には絶対に継(つな)ぐという強い気持ちが感じられた。その啓太は芦田の右にある一つ離れた机の一番左側に座っている。啓太は芦田と目が合うとニコリと笑った。明日は頼みますよ、と言われたような気がした。啓太が継(つな)いでくれた明日の決勝。芦田は自分が深瀬の力を最大限に引き出すんだと思いに駆られた。
 青柳がテレビ画面に録画したビデオの映像を映す。ベンチ入りできなかった三年生の部員が撮って来てくれた決勝戦の相手の早大鶴ケ丘高校の試合の映像だった。バックネット裏から撮ったその映像には綺麗なフォームでボールを投げる早大鶴ケ丘高校のエース、早坂俊介が映っている。
「向こうの先発はまず間違いなく、早坂で来る」
 二年前に日本一に輝いた早坂は昨年の秋からは春のセンバツにかけて調子を崩し、マウンドには上がっていなかったが、今大会では二十五イニングを投げ、失点はたったの一点。万全の状態で挑んでくるエースから点を取らなければ勝つことはできない。
「はえーな」
 深瀬が早坂のピッチングを見てつぶやく。技巧派投手である深瀬は本格派の早坂のピッチングに何か感じることがあるのだろうか。
「早坂の持ち球は球威のあるストレートとフォーク、そしてスローカーブだ。そして意外にも変化球を投げる割合が高い」
 監督の青柳が言うように早坂は鋭く落ちるフォークボール、ストレートと球速差があり大きく曲がるスローカーブを多投してくる。もちろん最大の武器であるストレートもキレがあり、コントロールも安定している。
 二年前、つまり早大鶴ケ丘高校が日本一になった時の早坂のピッチングはストレートがほとんどで、球速は今よりも速かったがボールのコントロールは不安定だった。画面に映っている早坂のピッチングは二年前の日本一になった時のものとはイメージが全く違う。この左投手(サウスポー)からどうやって点を取ればいいのかと芦田は頭を悩ませていた。今日の午前中の練習でもピッチングマシンを140km/h台に設定し、左投手の部員にフォークやカーブを投げてもらい、早坂を打つための対策は取ってきた。だが、それでもこの投手から点を取れるイメージが湧いてこない。
「おそらく、この早坂から大量点を取るのは難しいと思う」
 青柳はさらに言葉を続ける。
「芦田はこのピッチャーを見てどう思う?」
 青柳はイエス、ノーで答えられる質問よりも、選手の意見や解釈を求める質問をよくしてくる。おそらく、選手に自分自身の言葉で意見を述べさせることで考える力を養おうという狙いがあるのだろう。
「まず非常に安定感のあるピッチャーだなと思います。ここまでの試合で四球(フォアボール)も少ないようですし、深瀬ほど細かいコントロールまではないでしょうが、ストレートだけじゃなく、フォーク、スローカーブもいいコースに決まっています。正直思い切ったことをやらないとこのピッチャーから点は取れないだろうと感じています」
 チャンスを作って克也に回すというのが三鷹第二高校の最も確率の高い得点パターンだが、そのチャンスをどうやって作ればいいのか。足を絡めた揺さぶり等は試みるつもりだが、それだけでこの投手を崩せるだろうか。
「芦田の言う通り、いつも通りの戦い方では明日は厳しいだろう」
 青柳が芦田の意見に同調する。
「だからまず、明日の試合は打順(オーダー)を変えようと思う」

* * *

 決勝戦前日のミーティング前、坂上大輔の耳には大きく息を吸う音と吐く音が聞こえてきた。早坂俊介は休憩時間にもストレッチを行っていた。短い休憩時間も無駄にせず、体の手入れは決して欠かさない。その表情は鬼気迫るものがあり、気軽に声を掛けられないような雰囲気が出ている。そんな雰囲気が出ていても実際に声を掛ければ、早坂はいつもの柔らかい笑顔で応じてくれるのだが。シャドウピッチングや筋力トレーニングをしている時など、一人でいる時の早坂からはうかつに近寄ってはいけないようなオーラが出ている。
「早坂、ミーテンング始まるよ」
 自分の世界に深い所に浸っていた早坂が少しの間を置いてから坂上の方を振り返るといつも通りの笑顔で返してきた。
「今行くよ。もうすぐストレッチ終わるところだから」
 早坂のストレッチが終わると二人でミーティングルームへと向かう。坂上は早坂の体をふと見てみると、身長は177cmと投手としてずば抜けて高い訳ではないが、筋肉の付き方のバランスが良く、引き締まっている。
「いよいよ決勝だね」
 感慨深そうに話す早坂は過去二年の夏の予選の決勝も経験している。甲子園がかかっている地区予選の決勝は高校野球の公式戦の中で最もプレッシャーのかかる試合と言ってもいいだろう。例え相手が全国的に無名の都立校であってもグラウンドに立つ選手にかかるプレッシャーは計り知れないものがあるはずだと坂上は思う。
「そうだね。今年もここまで来たな、って感じがするよ」
 二年連続で夏の甲子園に出場できているのは早坂の存在が大きかったと坂上は思っている。一年生の時の予選では坂上達の二つ年上のエース大森に次ぐ存在としてマウンドに上がり、チームに勝利を呼び込んできた。甲子園では大森の故障以降一人で三試合を投げ抜き、四千校を超える高校の内、一校しか手にすることができない甲子園優勝を飾った。二年生の時も早坂は夏の甲子園のベスト4までチームを導いた。そして今三年目も迎えているわけだが、ここまでの道のりは決して平坦ではなかった。

 去年の秋の都大会の最中、早坂はイップスにかかりまともにボールを投げることができなくなった。イップスとは精神的な原因で普段通りのプレーができなくなる運動障害のことである。発症の原因は分からなかったが、早坂のそれはとてもひどい症状だった。ピッチャープレートからホームベースまでの18.44メートルの距離を捕手を立たせて投げてもボールは遥か手前でワンバウンドしてしまう。早坂は自分の状態が信じられないような顔で、焦って何度も何度も捕手に向かってボールを投げたのだが、結果は何度やっても同じだった。
 早坂はいつも弱音を吐かず、落ち込んでいる様子を決して人に見せない人間だが、イップスにかかっている時に一度だけ坂上は早坂の弱音を聞いたことがある。あれは夜の十一時ぐらいだったと思う。
 合宿所の外のアスファルトの上に早坂がうずくまっていた。坂上は即座に早坂に呼び掛けたが、早坂はうつむいたままで一向に顔をあげない。うずくまっている早坂の側には週刊誌が投げ捨てられており、そこには早坂のことが書かれていた。投げ捨てられていた週刊誌を拾い、ページをパラパラとめくってみると、早坂についての記事を見つけた。記事の内容は全く根拠のないデタラメだった。早坂俊介がイップスになり投げられなくなったのは一年生の夏の甲子園優勝に慢心して冬場の走り込みをサボっていたから。監督から特別扱いを受けいつも早めに練習を切り上げる。早坂俊介のピークは終わった等の好き勝手な文章が並んでおり、とても目を当てられなかった。
 実際の早坂は夏の甲子園で優勝した後も元々持っていた練習熱心な性質は変わらず、むしろ練習量は増えていた。冬場の走り込みの量はとてつもなく、早坂が一番多かっただろう。レギュラーに対しても控えの選手に対しても平等に優しく接する態度も一年生の時から変わってなかった。
「もう無理だよ」
 早坂から力ない独り言が発せられた。坂上は何て声を掛けていいか戸惑ったが、何か声
を掛けなければという思いが体を巡り口を動かした。
「早坂、こんなデタラメな記事は気にするなよ。俺達は皆、お前が誰よりも練習してることを知ってるよ。それにイップスだって必ず治るさ」
 坂上が声を掛けても早坂は体育座りで顔を膝にうずめている状態を変えなかった。だが、翌日になるといつもの早坂の姿が見られ、イップス克服に向かって練習に励んでいた。

* * *

 渋谷区にある東京都の高野連本部には異様な雰囲気が流れていた。その原因はその日、七月二十七日の午前十時頃に届いた一通の文書だった。
「この間西東京の高校で不祥事が起きたばかりだってのに、一体何なんだ」
 東京都の高野連会長の高山(たかやま)は激しい口調でわめき散らしていたが、あの文書を見れば無理もないだろうと尾野(おの)は思う。書かれていた内容は脅迫状そのものなのだから。
「全く最近の若い奴は」
 脅迫状を送りつけた人間が若者かどうかは分からないのだが、高山は口癖になっている若者へのぼやきを言い始める。六十五歳程の年齢であり、バーコードのような頭髪をしている高山は高度経済成長期やバブルの時代を振り返り、「あの頃はよかった」「それに比べて今の時代、そして今の若者は駄目だ」というような事を毎日のように口にする。高山のその口振りは若者への愛の鞭ではなく、今の若者を見下すことで自分達の若い頃の方が優れていたという優越感に浸りたいだけに見える。そこには自分達の若い頃の生き方が人間としてあるべき姿であるという傲慢さが感じられた。尾野は高山とは十歳も離れていないのだが、そんな高山の考え方は受け入れられなかった。確かに今の若者は自分達が若い頃とは気質も行動特性も違うが、環境が変われば人間も変わるのが当たり前だ。現代の若者も今の社会の中で自分なりに懸命に生きようとしているのではないかと尾野は思う。
「やっぱり警察に言った方いいんじゃないでしょうか?」
「この間不祥事が起きたばかりでまた何か発覚したら、俺の立場はどうなるか分かるだろ?。事を荒立てたくないんだよ。どうせただのいたずらだろ。それに明日は西東京の決勝、明後日は東東京の決勝だ。皆が楽しみにしている決勝戦に水を差す訳にはいかないだろ」
 インターネット上に殺人予告を書き込むだけで逮捕される今の時代、今回送られてきた文書はいたずらでは済まされないんですよ、という言葉を尾野は飲み込んだ。高山の言葉にはどうせ何も起きないのだから面倒な事はしたくないという真意が感じられる。確かにこの手の脅迫状が届いても何も起きないことの方が多いのだが、万が一にも何かあったらどう責任を取るのだと尾野は思わずにはいられなかった。だが、会長である高山の意見に反対するだけの気概を尾野は持ち合せていなかった。東京都の高野連会長である高山の決定には逆らえない。

 尾野が高野連の職員となったのは今から一年程前のことだ。尾野は高山と同様に東京都の高校で校長を務めているのだが、昔野球部の顧問をしていた経験もあり、高野連の職員に推薦されたのだ。推薦を受けた時は面倒くさそうだという感情しか湧いてこなかったのだが、推薦してくれた先生を無下にする訳にもいかず、渋々ながらも高野連での仕事に携わることを了承した。高野連での業務は高校野球という注目度の高いスポーツということもあり、繁忙期になるととても忙しい。大会の運営はもちろん、マスメディアへの対応、クレーム処理等、やらなくてはいけないことは山程あり、高校での業務との掛け持ちで行うのは非常に骨が折れた。
 今年の夏の大会の最中に桜第三高校の野球部員が喫煙をしているという事を訴える匿名での電話を受けたのも尾野だった。
【あいつら煙草吸ってるんですよ】
 電話口からの低い声は中年男性のものだった。
【清く正しき高校球児がこんなことしてていいんですか?当然厳罰ですよね?】
 電話をかけてきた男は証拠の写真を送ると言って、一方的に電話を切った。電話があってから二日後に匿名の封筒が送られてきて、中を見ると桜第三高校の制服を着た、坊主頭の高校生がコンビニの駐輪上の前で煙草を吸っている瞬間を捉えた写真が入っていた。ここまでの証拠を揃えるのは並の熱意ではできない。男はよっぽど桜第三高校の野球部に恨みでもあるのかとさえ尾野は思った。そして尾野はこの件を高野連の職員に相談し、高野連で会議を行った。会議の後に桜第三高校側にその事実を伝えると、今大会の出場辞退を申し出てきた。

「じゃあ、この事実は漏らさずに、明日の決勝はこちら側だけで厳重に警戒するという形でいいですか?」
「ああ。そうしてくれ」
 高山へ脅迫状にどう対応するかの確認を取る。果たしてこれで大丈夫なのかという心配が押し寄せてくる中、尾野はもう一度脅迫状に目を通した。
【7月二十八日の西東京大会の決勝戦終了後、一人の人間を殺す。なお、警察への連絡はもちろん、決勝戦の中止、順延は絶対に許さない】
 尾野はワープロで書かれた文書の「一人の人間を殺す」という箇所が気になった。「人を殺す」ではなく「一人の人間を殺す」と書かれていることに。そして誰にもこの文書の内容を漏らされたくないのならば、なぜ高野連にこんな脅迫状を送り付けてきたのか不思議だった。高野連の関係者にのみ知らせたいということなのだろうか。一体この脅迫状を送りつけた人間はどんな人物でどんな狙いがあるのか尾野は気になって仕方がなかった。

* * *

 ミーティングの後の練習を終えると芦田、深瀬、克也、啓太の四人で視聴覚室に戻り、もう一度早大鶴ケ丘高校の試合のビデオをチェックしていた。
「何度見てもあのカーブがすごいよな。ストレートとの球速差が物凄くある上に落差も相当だぞ」
「そうですよね。しかもバックネット裏からの映像でだいぶ離れてるからかもしれませんけど、ストレートとカーブのフォームの見分けが付かないです」
「そうだな。そこに重点を置いて何度も見てみよう」
 早大鶴ケ丘高校のエースである早坂俊介の持ち球は伸びのあるストレートと鋭く落ちるフォーク、そしてこのスローカーブだ。芦田は早坂のピッチングの生命線になっているボールはスローカーブだと思い、そこを徹底的に研究したかった。
「打てそうなイメージは持てるけどな。多少タイミングを外されて泳いでも体を開くことさえ我慢できれば、スローカーブなんて恐れるボールじゃねえよ。それにスローカーブを狙ってるところにスローカーブ投げてきたら、タイミング外されることもねえし絶好球じゃねえか。それから早坂のストレートって最速で140km/hそこそこだろ。大したスピードじゃねえよな。あいつは一年生の頃がピークだったんだよ」
 球速差だけではなく、落差もあると言っているのに相変わらず自信満々な口調で克也はあの早坂俊介を簡単に打てると言ってのける。克也のバッティング理論は確かに間違っていないのだが、それを実践でやるのは難しい。おそらくウチのチームで他の球を待ってスローカーブに対応できるのは克也ぐらいではないかと芦田は思う。そして、球速だけなら早坂は一年生の頃の方が速かったが140km/hを超えるストレートを大したことないと言えるのがこの男のすごい所だ。
「克也君。野球はスピードガンコンテストではないよ。スピードガンの数字だけでストレートを判断するのは素人の考えだよ」
「何かお前に言われるとムカつくな」
 おどけた口調で言う深瀬に対して克也がぼやいているが、確かに深瀬の言う通り投手の投げるストレートはスピードガンの数字だけでその良し悪しは決めつけられない。
「でも確かに速く見えますよね。今の球も電光掲示板では135km/hって出てましたけど、もっと出てるんじゃないかって思いますよ」
 啓太と同様に芦田も早坂のストレートは球速以上の速さを感じさせる何かがあると思っていた。スローカーブを投げることで緩急をつけていることもあるだろうが、それを差し引いても速さを感じさせる何かを持っていると。
「で、お前らはどうやって早坂を攻略するつもりなんだよ?ミーティングでは各自で狙い球をきっちり決めて打席に立つようにっていう程度のことしか決めてないけど」
 克也が芦田と啓太に対して早坂のピッチングにどう対応するのかを尋ねてくる。
「俺は狙い球を絞ってどうこうって言うより足で掻き回すことを考えて打席に立ちますよ。もちろんどんな球種が来るかはある程度想定して打席に立ちますけど、どんな形でも塁に出ることのできるバッティングを第一に考えます」
「なるほどな。まあいいんじゃねえの」
 今日のミーティングで打順昇格を告げられた啓太は自分が何をするべきかをしっかり考えて、自分なりの答えを出しているようだ。
「で、芦田は?」
「今考え中。だからじっくりビデオが見たい」
「えぇー。お前どんだけ俺を待たせるつもりなの?俺はこの後の早大鶴ケ丘の打線を見て明日のピッチングについて話合うって聞いたから付いてきたのに」
 まだ三時半だが、芦田が早坂のピッチングを研究する時間が長くなりそうだと察して深瀬が文句をつけてきた。
「大丈夫。じっくりって言ってもそんなに遅くはならないから。それとも早く帰りたいなら先に相手打者の方を見とくか?」
「そんなに時間かからないんだったらいいよ。芦田達が見終わるまで寝てるから」
 深瀬が机に突っ伏して眠りにつく態勢に入る。
「つーかお前もウチの九人の打者の内の一人だろ。他人事みたいな事言ってねーでちゃんと相手投手のビデオも見とけよ」
「大丈夫だ。俺は早坂の全てを見切った」
 克也が深瀬を諫めたが、深瀬は適当な返事をすると瞬く間に寝息が聞こえてきた。
「こいつの能天気さはどうやったら治るんだ?」
「今更治らないだろ。それに治す必要もないと俺は思ってるけど」
「確かに深瀬さんの性格って場が和むというか険悪なムードがなくなりますよね」
 昔は人の欠点を目にすると心の中で冷やかに眺めて馬鹿にしていたのだが、今では色んなタイプの人間がいていいんだと思えるようになった。
「甘っちょろいねえ。それがお前の言う全員野球かよ」
 全員野球という言葉は今から約一年前、芦田達の学年の新チームが始動してからキャプテンの芦田が口にしてきた。選手一人一人の個性を重んじ、誰一人欠けてもチームは成り立たないという想いから、芦田はその言葉を多用してきた。
「全員揃ってないけどな」
 新チームが結成してから、一人だけ辞めてしまった人間がいる。芦田は黒崎始のことを気にかけそう呟く。
「全員揃ってないってお前まだ辞めた奴のことなんか気にしてんのかよ。あいつは自分の意思で辞めたんだし、もうこのチームには関係ねえだろ」
「そんな言い方はないだろ。黒崎だってこの間までこのチームで頑張ってたんだから」
 克也の冷たいもの言いに、芦田の言葉が少し荒くなる。
「ちょっとお二人とも、喧嘩するのはやめて下さいよ。明日は決勝なんですから」
 過去にこの件で二人は喧嘩したこともあり、啓太は嫌な空気を感じ取って心配してくる。
「大丈夫だよ啓太。もう喧嘩なんてしないって」
 本当に喧嘩などするつもりはない。だが、芦田は克也に言っておきたいことがあった。
「なあ、克也。俺はチームって優秀な人間を集めただけじゃ成り立たないと思ってるんだよ。プレーの実力だってそうだし、頭を使えるか使えないかでも野球選手としての評価が決まってくる。でも、試合に出られるのは評価された九人だし、ベンチ入りできるのだってたったの二十人だ。ウチのような人数の多くないチームだってその枠に入れない人間は必ず出てくる。でもその枠に入れないからってチームに必要ない人間なんかじゃないと思うんだよ」
 芦田の言葉を聞いてからしばらく沈黙した後、克也が答える。
「まあ、言いたいことは分かるけどよ。俺だって黒崎の存在を全否定してるわけじゃねえんだよ。ちょっとキツイ事いい過ぎたとも思ってるし、馬鹿にしたこともあるからそれは少し後悔してる。でも明日は決勝なんだぞ。今はそんなこと気にしてる場合じゃねえんじゃねえか?」
 克也の言葉を聞いて芦田は少し安心する。克也はただ野球に取り組む上で、自分にも他人にも厳しいだけで、芦田が中学時代に同じ野球部だった岩田大吾のような人間とは全く違う。
「明日は決勝だから今は気にするなって意見も分かる。でも俺は黒崎のことはこのまま終わらせるつもりはないから」
 芦田が言い切ると、克也は分かったよ、好きにしろよ、と言わんばかりの顔を作って返してきた。その後は集中してビデオを見て研究した。

「芦田さん。もうだいぶ時間経っちゃいましたけど。有村さんのこと待たせておいて大丈夫なんですか?」
 啓太がニヤニヤしながら芦田のことを冷やかしてくる。時計を見るともう5時半を回っていた。深瀬と相手打線のビデオを見て、明日のピッチングについても話合いも終え、視聴覚室に残っているのは啓太と芦田だけだ。
 芦田は有村愛と付き合っていることを敢えてチームの皆には隠していない。隠して付き合う方が変なしこりが残るのではないかと思ったからだ。
「そうだな。チェックしたいとこはチェックできたし、もう少ししたら帰るよ」
 芦田はまだ日の落ちていない外を眺めながら、啓太に返事をした。

* * *

「これが三鷹二高のエース、深瀬透です。明日先発してくるのはほぼ間違いないと思います」
 早大鶴ケ丘高校のミーティングルームにベンチ入りメンバー二十人と監督、コーチ陣が集まる中、マネージャーの坂上は明日の試合相手である三鷹第二高校について分析したことを説明していた。
「右のサイドハンドでコントロールは抜群です。ビデオを見ても分かるように、ほとんどがキャッチャーの構えた所に決まっています」
 集まっている選手達はギラリと光るような野心を持った目で映像を見ており、坂上の説明に熱心に耳を傾けている。
「このピッチャーを分析した結果、外のボール多く、それが生命線になっていることが分かっています。この映像を見てください」
 坂上は深瀬のピッチングの鍵となる部分が映っている場面までビデオを早送りし、リモコンの再生ボタンを押す。
「ここです。今のインコースのボール球はおそらくシュートでしょう。少し右バッターの内側に動いているように見えます。このボールの後の次の球に注目してください。」
 映像の中で深瀬の投じた外角低めいっぱいのストレートに打者のバットが空を切る。
「今の映像の通り、インコースのボール球のシュートを見せ球にして外のボールで仕留めています。これがこのバッテリーの最も得意とする配球パターンでしょう。内角にはストライクはまず投げてきません。見せ球となる内角のボール球を意識せずに、いかに外のボールに対してバットを振りぬけるかが勝負となるでしょう。今日の午前中の練習で行ったようにしっかりと外のストレート、スライダーに踏み込む意識を持ってください。」
 坂上は三鷹第二高校バッテリーの配球を長い時間をかけて研究してきた。チームの皆がうんうんと納得するような表情で頷いているのを見ると少しホッとする。新聞記事に三鷹第二高校の捕手の芦田のインタビューが載っており、その内容は「決勝でも深瀬の最大の武器である外のボールを活かすいつも通りのピッチングをできるように努めます」というものだった。ビデオを見て研究し尽した努力とその記事が坂上の言った深瀬の攻略法を裏付ける根拠となっている。
「それから深瀬にはやっかいな球種であるシンカーがあります。このボールは内野ゴロを狙いたい場面で決め球として良く投げてきますが、低めにきっちり決まると打つのは難しいでしょう。しかしこのシンカーはストレートやスライダーに比べ、高めに抜けてくることも多いので、低めに決まったシンカーは捨てて高めに浮いたシンカーを狙うのも手だと思います。」
「以上が相手投手についての説明です」
「坂上。よく分析してくれた。何か質問がある者はいるか?」
 監督の長野のねぎらいの一言で坂上は何とも言えない達成感に浸ってしまう。そこにキャプテンの吉田翔也が手を上げて発言する。
「球種はストレート、スライダー、シンカー、シュートだったよな。投げる球種の割合とかのデータってあるか?」
「あるよ。ストレートが38%、スライダーが37%、シンカーが19%、シュートが6%」
「すげえな、そこまで調べてくれてるんだ。サンキューな、坂上。助かるよ」
 翔也からも感謝の言葉をもらい、坂上は寝る時間を削って研究した甲斐があったと強く思う。選手としては自分はこの野球部で活躍することはできなかったが、マネージャーに転向して皆の役に立てて本当に良かったと思う。明日の決勝で自分の分析したデータが皆を勝利に少しでも近づけてくれればと切に願う。
「続いて攻撃面の説明に入りますね。一番注意する必要があるのは・・・・・」

* * *

それに芦田君っていつも一生懸命だよね。
 芦田は愛と付き合い始めた時のことを思い出していた。有村愛は三鷹第二高校の唯一のマネージャーであるため、野球部に他に女子生徒はいないのだが、そんな環境に上手く順応し、どの部員とも仲良くやっていた。だから芦田とよく話をするのも特別な意識はなく、他の部員と同様のものだと思っていた。
 芦田が二年生になってから訪れた五月の連休。一日だけ練習の休みがもらえた日の前日に愛に映画に行かないかと誘われた。
「いいよ。他に誰呼ぶの?」
 皆と仲の良い愛のことだから、複数の人間を誘って遊びに行くのだの思っていた。
「いや、二人で行きたいんだけどだめかな?」
 愛が照れを含んだ表情でその言葉を発したことに驚いた。二人で行きたいということは少しでもそういう感情があるということだろうか。芦田は誰に対しても優しく、どんなことにでも一生懸命に取り組む愛に好意を持っていたが、愛の方にそんな気持ちがあるとは思ってもみなかった。
 もちろんその誘いは了承し、翌日に二人で映画を観に行った。ゴールデンウィーク中ということもあり、待ち合わせをした吉祥寺は普段の混み具合にさらに磨きが掛かっていた。吉祥寺の街は友人同士や若いカップル、子供連れの家族等、様々な笑顔が滞ることなく行き交っていて、とてもせわしない。映画館へと向かい、過去にやむを得ない理由で殺人を犯し、その後服役してから立ち直っていく主人公が描いた映画を観た。芦田としては他に恋愛映画等、色んな候補があったのだが、愛はこれが観たい迷わずにと決めたのでその映画を観ることにした。

「ゴールデンウィーク中の練習試合、芦田君で良く出てたよね。このまま行けば夏までにレギュラー取れるんじゃない?」
 映画を観た後にカフェに入り、二人でご飯を食べていた。これは完全にデートじゃないかと芦田は浮き足立っていた。
「どうかなあ?確かに練習試合にはだいぶ出れるようにはなったけど、あくまでキャッチャーのレギュラーは金城(きんじょう)さんだからね」
 金城とは芦田の一つ上の先輩で三鷹第二高校の正捕手だった。その頃三鷹第二高校の芦田達の学年でレギュラーを取っていたのはショートの克也だけだった。抜群の身体能力を誇っている克也はその頃からクリーンナップを打っていた。
「確かに金城さんは体が大きいし、バッティングもいいけど、キャッチャーとしては芦田君の方が上だと思うな」
 金城は長打力のあるバッティングが持ち味だが、捕手としてのリードや気配りは上手い方ではないと芦田も思っていた。ここ最近は金城がバッティングの調子を崩し、練習試合で芦田がマスクを被ることも増えてきたが、それでも芦田は自分の方が上だと思ったことはなかった。
「それに芦田君っていつも一生懸命だよね」
 愛の突然放った一言が芦田の心を動かす。
「いつも一生懸命皆と向き合ってるなって思うよ」
 自分の心臓がドクンドクンと波打っているのが分かった。何で俺なんかにこんな言葉を掛けてくれるんだろう。確かに芦田は中学時代に起きた事件の後、何かを馬鹿にしたり、人を見下したりすることをやめ、一生懸命前を向いて生きてきたつもりだった。だが、その日に見た映画の主人公と同様に罪を犯した後にどれだけ頑張っても、過去に犯した自分の罪が消えるわけではない。誰もその罪を知らなくても、心の中に残っている過去の罪は芦田に罰を与えるのだ。
 幸せを掴んでもいいのかなと思う気持ちとそんなことは許されないという気持ちで芦田の心は揺れていた。結局、針は芦田の正直な気持ちの方へ傾き、その日の暮れに芦田は愛に告白し、二人は付き合うことになった。

「だいぶ待たせたよね。悪かったな」
「全然大丈夫だよ。色々やることあったし」
 視聴覚室から部室に戻り、ドアを開けると愛が部室の片付けをしていた。こんな汚い部室を嫌な顔一つせずに整理整頓している姿はとても健気だ。
「これ見て。私達が一年生の時の試合のスコアブックとか出てきたよ」
「うわー、懐かしいな。一年生だけのメンバーで戦った練習試合のだろ?初めて出た試合だし、そのスコアよく読み返した記憶あるよ」
 入部して二か月程、一年生だけのチームで行った練習試合のスコアブックだ。あの試合は全員試合に出ることを前提に行ったので、途中から黒崎も出場していた。
「ちょっと見てもいいか?」
「いいよ。はい」
 手垢で汚れボロボロになったスコアブックを受け取る。一年生だけのメンバーで挑んだあの試合、途中出場した黒崎が極度の緊張で守備では大暴投を連発し、打席では震えてバットを振ることすら出来なかったのを覚えている。俺はあの頃を懐かしく振り返ることはできるが、このまま何もせずに時間が過ぎ去ってしまえば黒崎にとって高校野球は思い出したくもない嫌な記憶と化してしまうのではないかと思った。そんな風に思って欲しくはない。
「俺の高校野球初ヒットのスコアとか見つけたよ。黒崎のスコアも載ってるし」
「覚えてるよ。会心のセンター前ヒットでしょ。いい当たりだったよね。黒崎君もあの試合出てたもんね。すごく緊張してガチガチだったの覚えてる」
「よくそんなはっきり覚えてるね。でもこの試合のスコア付けたの愛だったからそりゃ覚えてるか」
 字が愛の書くものだったので分かったが、芦田はあの試合の記録員(スコアラー)が誰だったかまでは記憶していなかった。それだけプレーすることでいっぱいいっぱいだったのだ。
「そうだよ。一年生だけのメンバーだったから記録員(スコアラー)も私がやったの。高校野球で初めて付けたスコアだったから緊張したよ。皆のプレーを間違わずに正確に記録しないとって思って。間違えて書いてるところあるかもしれないけど」
 今大会でも記録員(スコアラー)としてベンチ入りしている愛も一年生の頃はスコアの付け方はそれほど理解していなかった。先輩のマネージャーから手取り足取り教わり、よく勉強し続けてスコアの知識を身に付けた結果、今では誰よりもスコアを上手く書くことができる。そして芦田は捕手として試合を振り返りたい時にはそのスコアを熟読する。
「今やってる夏の大会も何年かしたら、こんな風に振り返れるといいね」
「そうだね。明日は気持ちよく振り返れるような試合にしないとな」
 明日の相手はあの名門早大鶴ケ丘高校だ。今までも西東京の強豪と言われる高校と当たり、勝ち上がってきた三鷹第二高校だが、早大鶴ケ丘高校はそれらの高校と比較しても桁違いの実力だ。おそらく誰もが早大鶴ケ丘高校が大差で勝利すると思っているだろう。だが、そんな試合には絶対にしない。負けてたまるか。
「ねえ、コウ。この後バッティングセンター行かない?」
 愛は小学校中学校と選手として野球をやっていた。今はマネージャーでプレーできない事もあり、うずうずしているのだろう。
「いいよ。行こう。俺は打たないで見てるだけにするけどそれでもいい?」
「うん。いいよ。マシンのボールに慣れたくないんでしょ?私今打ちたくて仕方ないの」
 芦田はピッチングマシンのボールがあまり好きではなかった。人の投げるボールとは回転数が違うからなのかその球筋が気持ち悪く感じられるのだ。
「もうすぐ出られるからちょっと待ってて」
「うん。急がなくていいからな」
 時刻は六時過ぎ。夏真っ盛りの今はまだ日も落ちておらず、気温もさほど下がっていない。芦田は部室の外に出てグラウンドを眺める。またここに帰って練習することができますようにという願いを持って。

 三鷹駅前のバッティングセンターで左打席に入っている少女はさっきからヒット性の当たりを連発し、周囲のお客さんの目を引いている。女の子でこれだけのバッティングができる子はなかなかいないので、バッティングセンターで愛が打つといつもこうなる。右投げ左打ちである愛のバッティングフォームはとても綺麗だ。女の子は男性に比べて筋力が少ないので、体の軸がブレて前に突っ込んでしまうことが多いが、愛のフォームは体の軸がしっかりしている。そこから振り抜かれるバットは軟式ボールを芯で捉えて快音を響かせる。
「ふうー。気持ち良かった」
「ナイスバッティン。久しぶりなのによくバット振れてたね。」
 一打席である二十球を打ち終わり、愛が打席から出てくる。暑い中で体を動かしたため、額からは汗が吹き出し、肩まで届かない短い髪も少し濡れている。
「もう一打席だけやろうかな」
「好きなだけ打ちなよ」
 愛がとても楽しそうだったので、芦田はそれをずっと見ていたかった。
 タオルで汗を拭きながらゲージに向かう愛がハッと何かに気付いたようで足を止める。愛の見ている方向を見ると、キャップを深くかぶった男がベンチに座って俯いている。
「ねえ、あれ黒崎君じゃない?」
 キャップを深く被っているので目元がだいぶ隠れていたが、低い鼻とやや厚めの唇は黒崎のように思える。
「多分黒崎だ。ちょっと声掛けてくる」
 芦田は黒崎の座っているベンチの方に向かう。
「黒崎」
 はっきりと聞こえるように大きな声で黒崎を呼ぶ。ベンチに座って俯いていた男が芦田の呼ぶ声に反応し、目線を上げて振り向いた。男と目が合って瞬間に確実に黒崎だと判断できた。
 黒崎は芦田と目が合うと、気まずそうに目を逸らし、駐輪場のある方向へと駆けていく。
「黒崎、ちょっと待てって」
 逃げる黒崎に芦田は慌てて呼び掛けるが、声は黒崎の心には届かなかったようで、黒崎は即座に自転車を漕ぎ出す。猛スピードで自転車を走らせる黒崎の背中はどんどん遠くなっていった。芦田は唖然と立ち尽くしていた。

バッティングセンターから駅までの道のりを二人で歩く。日は完全に落ちているが、夏の暑さはこれでもかというくらい残っている。通り過ぎる仕事帰りのサラリーマンや主婦達もその暑さにうんざりしているように見える。
「黒崎君、もう野球部には関わりたくないのかな」
 あの逃げ出し方を見ると、本当に黒崎はそう思っているのかもしれない。だが、芦田はまだ諦めてはいなかった。
「確かにそうかもしれない。でも、このまま嫌なしこりが残ったままでは絶対終わらせないから」
 ちゃんと一人一人と向き合って生きていく。あの時決めた事は絶対に曲げたくなかった。
「あのさ、愛」
 だから、誰にも話していないあの出来事の事も話さなければ、愛ともちゃんと向き合っているとは言えないんじゃないかと芦田はずっと思っていた。
「明日の試合が終わってから、話したいことがあるんだ」
 芦田がやっとの思いで発することができた言葉を聞き、愛は一瞬きょとんとした顔をしたが、少しの間を置いてから口を開く。
「明日の試合が終わってからじゃなくて」
 少し角度を下げていた顔を上げ芦田を真っ直ぐに見つめて言う。
「甲子園行きを決めてからがいいな」
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