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2章 覚悟の高3編

猪瀬くんは厄介だ

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 猪瀬くんが、冬真は上手いのかと聞いた。何の事だろうかと僕が反応に困っていると、りっくんが『えっちの話だよ』と耳打ちしてくれた。
 僕はこれから、冬真の事が好きな猪瀬くんに、えっちの感想を伝えなければならないのか。

「あぁ~! えぇっ······そういうのって、聞くのヤじゃないの?」

「死ぬほど妬けるけど、それ次第では抱かれる側に····とか····まぁ。あっ、言いたくなかったら無理にとは言わないからさ」

「ねぇりっくん、これって言っていいの?」

 コソコソとりっくんに是非を確かめる。しかし、りっくんは投げやりな答えしか返してくれない。

「ゆいぴがいいならいいんじゃない?」

 どうしよう。言うべきか言わざるべきか、僕が決めるなんて嫌だなぁ。ここで判断を間違えると、今後の2人の関係に影響するのだろうか。

「えっと····、聞いても冬真と仲悪くなったりしない? 僕の事、恨んだりしない?」

「恨むってなんだよ。別に、参考までに聞いてみたいなって思っただけだよ。興味本位ってやつ」

「ならね、ここで話すのもアレだからさ、夜····」

 ダメだ。部屋割りはグループごとに男女別なんだった。僕たちの部屋には冬真も居る。そんな中で話せる内容じゃない。

「夜は冬真も居るから話せないね」

「そんじゃ今度さ、どっか遊びに行かない? 俺、武居と遊んだ事ないし、普通に遊んでみたいんだけど」

「俺ら同伴でいいならね」

「····いいよ。男抱く側の意見ってのも聞いてみたいし」

 こうして、後日異例のメンバーで遊びに行く事となった。きっと、啓吾も参戦すると言い出すのだろう。


 僕たちは、奉仕活動を終え宿舎に入る。
 修学旅行の時はまんまと流されてしまったが、今夜は流石にシないだろう。なにせ、冬真と猪瀬くんが居るのだから。
 あ、フラグを立てたつもりなど毛頭ない。状況を鑑みて、冷静な分析による結論だ。

 夕飯を済ませ、グループごとに入浴する。大浴場とは名ばかりの、こじんまりとしたお風呂だ。

「ねぇ、冬真と猪瀬くんが居るんだから、えっちな事しないでよ。特に八千代と啓吾ね。ホントにダメだよ」

「え、なんで俺ら?」

 頭の後ろで手を組み、のんびりと歩く啓吾が不満そうに言った。

「俺と莉久は人前では自重できるからだろ」

「俺だって自重できるんだけど。んな事言うならバレないように──」

「啓吾、そういうトコでしょ。ゆいぴがダメって言ったらダメだよ」

「お前らには理性がないからな」

 朔はそう言って、僕の肩を抱いた。

「おい、テメェどの口が言ってんだよ」

 朔がドヤ顔をキメるのも無理はない。今回は、事前に注意した上で朔とりっくんに協力を仰いだ。おかげで、噛み跡とキスマークは回避できたのだが、皆フラストレーションが溜まっているようだ。
 八千代と啓吾は特に酷い。何度噛まれそうになって、朔とりっくんが止めに入った事か····。
 冬真は事情を知っているから、最悪見られても問題ないかもしれないが、猪瀬くんに見られる訳にはいかないものね。まぁ、抱かれているのはバレちゃったけど。
 
 このメンバーだと夜は襲われないと思っていたが、もし冬真だけだったら襲われていたのだろうか。そう考えると、猪瀬くんが同じグループで良かった。何より、猪瀬くんが居ると冬真が1人になる事はないだろう。


 啓吾と八千代はやらかすことなく、無事に入浴を済ませた。何もシちゃいけないと言ったのは僕だけど、皆とお風呂に入って何もシないのは変な感じだ。
 
 消灯前の自由時間。冬真と猪瀬くんがトイレに行っている間に、昼間の出来事を話す。すると、啓吾が名乗りを上げた。

「ンなら俺が冬真に探り入れてみるわ。でさ、いけそうだったらそこ2人くっつけりゃいいんじゃね?」

「····そうか。そうしたら結人が狙われることもなくなるもんな」

「あっちはあっちで幸せになりゃハピエンじゃん?」

「わぁ、ホントだね! 啓吾天才だぁ」

「褒めすぎだぞ~。ちゅぅすんぞ~」

「やだぁ。啓吾へんた~い」

「お前ら浮かれてっけどよぉ、そこ2人がいけなかったらどうすんだよ。振り出しどころか、猪瀬が絡んだ分ややこしくなんねぇか?」

「「「······あ」」」

 僕と朔、啓吾は揃って落胆した。けれど、りっくんが一筋の光を差してくれた。が、それはとてつもなく無謀な話だった。

「もしいけないってなったらさ、2人の前でヤッて焚きつけちゃう? で、猪瀬に神谷を襲わせる····みたいな。まぁ突っ込むのは猪瀬でも神谷でもいいけど」

「バカな事言わないでよ····。もう人前でするのヤだよ」

 ゴールデンウィークの旅行の後、冷静になってからの事。凜人さんに見られていたダメージが遅れてやってきて、羞恥心で暫くえっちに集中できなかった。冬真とえっちした修学旅行の後も、暫く冬真の顔を見れなかったっけ。あんなのはもうごめんだ。

「えー、でも結人さぁ、見られてたら興奮すんじゃん? すげぇエロくなるし」

「な、ならないよ! それは啓吾でしょ。僕はあんなのもうヤだもん」

「でもお前、凜人から貰ったデータはちゃっかり見れるようにしろって渡してきたよな」

「朔ぅ!!? なんで言うの!? 皆には内緒にしてって言ったでしょ!」

「お····。そうだった。わりぃ」

「「へぇ~~~」」

 りっくんと啓吾がしたり顔で僕を見る。

「ねぇゆいぴ、見たの?」

「見てない」

「俺らが貰ったんとは違うんだろ? 俺らの特集みたいなんだって、凜人さん言ってたよな」

「ねぇ、誰が1番カッコよかった?」

「皆おんなじくらいカッコよかっ······」

「「見たんだ~」」

「ふぇっ····啓吾とりっくんのばかぁっ!!」

 羞恥に耐えきれなくなった僕は、部屋を飛び出してトイレに駆け込んだ。すると、途中すれ違った冬真と猪瀬くんが、心配して追いかけてきてくれた。


「おい結人、どうしたんだよ」

「啓吾とりっくんがイジワル言ってくるから逃げてきたの」

「なんだ、また痴話喧嘩かよ」

「痴話····そんなんじゃないもん! 一方的に意地悪されたの!」

 僕が1人で怒りを撒き散らしていると、啓吾とりっくんがトイレに飛び込んできた。

「おまっ、1人で飛び出すなよな。よりにもよって冬真の居るトコとかさぁ」

「ゆいぴ、神谷に何もされてない?」

「お前らなぁ、失礼すぎんだろ。俺、今回マジで純粋に心配したんだけど」

「前科持ちは信用なんねーの。あれ? 駿哉しゅんや?」

 俯いて具合の悪そうな猪瀬くんを見て、啓吾が声をかけた。続けて冬真も心配そうに問いかける。

「駿? どした?」

「や、別になんもないよ。先に部屋戻ってるから」

 猪瀬くんはふわっと笑顔を見せて、先にトイレを出ていった。それを放っておけなかったりっくんが追いかけて行く。
 僕も啓吾からお説教を受けながら部屋に戻る。道中、冬真は疑われた事にブツクサと不満を垂れていた。案外しつこいんだ。

 部屋に戻ると、猪瀬くんはいつも通りの爽やかな様子で『心配かけてごめんな』と笑った。吹っ切れたような、清々しさを感じる。りっくんと、何か話したのだろうか。

 室長の猪瀬くんと委員代表の冬真が、それぞれ先生の所に行っている間に僕たちは布団を敷く。

「ゆいぴも委員代表でしょ? 行かなくていいの?」

「先生が一人でいいって言ってたから、冬真が行ってくれたの。それより、さっきりっくんが言ってたのって、ホントにするの? 今日するの?」

「いやいや。シねぇだろ。だってさ、どっちにしても初めてだし。準備とか色々あんだろ? 俺ら、結人の分しか持って来てねぇし」

「えっ、持ってきてるの!? 嘘でしょ····。冬真と猪瀬くんが居るのにする気だったの?」

「念の為だってぇ。なぁ?」

 啓吾が皆に話を振るが、3人はフィッと目を逸らした。

「皆も持ってきてるの?」

「念の為····だよねぇ?」

「あぁ、チャンスがあればと思って」

「バレねぇようにするってのもスリルあっていいんじゃねぇ?」

 八千代はチャレンジャーだなぁ。なんて、放心状態で思った僕はバカだ。

「スリル····八千代、バカだね」

「あ? お前、今ちょっとイイかもとか思っただろ」

 八千代が耳元で囁き、しつこく深いキスをする。

「んん····ふぁ····お、思ったぁ····」

「思ったんだ。そっか。んじゃ、冬真と駿哉が寝たら····シよっか」

 啓吾が後ろから抱き締めてきて、これまた耳元で囁く。

「おい、2人が戻ってくんだろ。それ以上蕩けさせん──」

 朔が本気で注意し始めた途端、扉が開いた。2人が戻ってきたのだ。

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