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2章 覚悟の高3編

束の間の休息

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 嵐のような一日から一夜明け、僕たちはいつも通りのまったりとした時間を過ごしていた。
 ひとつだけ違うのは、真尋対策の会議が行われている事だ。

「とりあえず、次会う予定は納骨ん時だな」

「僕、その日ここに泊まるよ」

「いいのか? そんな日に泊まりに来れんのかよ。なんなら、俺が泊まってやろっか?」

 不敵な笑みを浮かべる八千代。瞬時にお泊まりを想像して、跳ね上がるように胸が高鳴った。そして、深く考えずに返事を返す。

「お泊まり····来る?」

「「「「えっ?」」」」

 マズい。あまりにも安易に聞いてしまった。こんなの、絶対に揉めるじゃないか。

「俺も泊まるぅ!!」

「俺も泊まりてぇ」

 啓吾と朔が名乗りを上げた。小さい頃ではあるが、泊まったことのあるりっくんはお得意の勝ち誇った顔を晒している。

「いっぺんには無理だよぉ。部屋狭いし、ベッドも小さいし。1人ずつね」

「よし、じゃぁジャンケンだね。ゆいぴは誰がいいとかある?」

「そ、そんなのないよぉ····」

「おい、結人を困らせるな。つぅか、莉久は泊まったことあるんだろ。今回は譲れよ」

 朔の目が本気だ。僕の事になると、本当に皆みみっちいんだから。

「小さい頃だもん。恋人としてはハジメテだよ」

「えっと、喧嘩しないでね? あのさ、順番に泊まりに来たらいいんじゃないかな。僕、逃げないよ?」

「誰が逃がすかよ。くっそ可愛いな」

「八千代、怖いのかバカなのか分かんないよ····」

「バカは放っといてジャンケンしようぜ~」


 こうして、泊まる順番が決まった。まずは、納骨の日。勝って拳を掲げたのは朔だった。



 僕を責めはしないものの、皆が不安を胸に秘めたまま数日が経ったある日。啓吾が、ふと疑問を投げかけてきた。

「結局結人はさぁ、真尋の事どう思ってんの?」

「可愛い弟みたいな従兄弟だよ」

「だけ? こないだ抱かれて心境の変化とかなかった?」

「ないもん。啓吾のばぁか」

「ごめんごめん。一応聞いときたくてさ」

 やはり、不安にさせてしまっているのだろう。僕があんな事を口走ったばかりに、皆に嫌な思いをさせているんだ。全然憶えてないけど。

「俺らはお前の正直な気持ちが聞きてぇんだ。俺らに遠慮とかするなよ」

「朔····。ホントにね、真尋の事は弟みたいに思ってるよ。でもね、えっちしてる時はワケわかんなくなっちゃって····」

「そりゃ今更だろ。無理矢理じゃなかったらお前、気持ち良けりゃなんでもいいって感じだもんな」

「ご、ごめん··なさい····」

 不意に着弾した言葉に、耳よりも心臓が痛くなった。

「場野、言い方! それじゃゆいぴを責めてるみたいでしょ」

「んぇ····違うの?」

「別に責めてねぇわ。ただの事実だろうが。そこまで堕としたんも俺らだぞ。ァんで責めれんだよ」

「結人がンな事思うわけないじゃん。バカじゃねぇ?」

「場野は言い方が悪いな。あれじゃ結人じゃなくても責められてると思うぞ。俺らが躾た所為で感度がバカになってるって言ってやらねぇと分かんねぇだろ」

「バカに······。ねぇ、僕の身体····変なの?」

「変じゃないよ。俺ら好みにしちゃったってハナシ♡」

 久々に見る啓吾のウィンク。少し安心した。····いや、安心していいのだろうか。

「それより、よく降るねぇ。ちょっと冷えるけど、ゆいぴ大丈夫?」

「大丈夫だよ。ありがと。これじゃ、どこにも行けないね」

 今日は朝から強い雨が降り続いている。おかげで、学校から八千代の家に来るまででびしょ濡れになった。
 朔は八千代の柄シャツを、りっくんは啓吾の派手な服を着せられている。いつもと違う装いに、直視できないくらいドキドキしているのは内緒だ。
 因みに僕は、元々置いてあった自分の服を着ようとしたのだが、何故だか啓吾のパーカーを着せられた。そして、何故だかズボンは履かせてもらえなかった。

 それはさて置き、だ。部屋に並べて干してあると、僕の制服の小ささが際立つ。僕、足短いんだよなぁ····。

「ゆいぴ? どうしたの?」

「制服····。僕のだけ小さいなぁって」

「「「「あぁ····」」」」

 本当に今更だが、皆大きいんだ。ふとした時に考えてしまうが、それは体格の差だけではない。

「皆、僕より大きいなぁって思うんだよね」

 僕がしみじみと言うと、啓吾が気を遣ってフォローにつとめてくれる。

「寝る子は育つって言うじゃん? 俺すげぇ寝てたよ。小学生の頃なんかさ、マジでコアラみたいにずーっと寝てたもん」

「けど、それで言ったら結人もよく寝るよな。よく食うし。ん? ······なんで育たねぇんだ?」

 朔は、悪気もなく聞いてくるから怒るに怒れない。これが八千代や啓吾なら、確実に嫌味だろうから怒れるのに。

「なんでだろうね。僕が聞きたいよ」

「なんで朔は追い討ちかけんだよ」

 八千代が呆れて言うと、朔はハッと気づいた様子で慌てて詫びてくれる。

「ん? ····あぁ、わりぃ。そんなつもりじゃなかったんだ」

「あははっ、朔らしいねぇ。大丈夫だよ。あのね、背はもう見たまんまなんだけどさ。それ以外でもさ、皆は精神的にも大人だなぁって思うんだよね」

「結人は幼女だもんな」

「そうじゃないもん! て言うか、小5くらいって言ったくせに。啓吾のばかぁ····」

「んははっ。冗談だってぇ」

「いいけどさっ。····なんかね、僕の前に立ってくれる皆の背中が大きいんだ。甘えてるのは分かってるんだけど、頑張ってるつもりなんだけど、皆が居てくれる安心感が凄いんだよ」

「お前を守る為に、俺らだってずげぇ必死だぞ? 余裕なんてねぇし、まだまだガキだなって思い知らされる事ばっかだ。····っておい、結人?」

「あれ? ゆいぴ寝ちゃったよ」

「な~んか最近疲れてたっぽいもんな。真尋の事、すげぇ気にしてたんだろうね」

「ゆいぴの性格じゃぁねぇ。て言うかホントさ、いつも言いたい事だけ言って寝るよね。こっちは恥ずかしくていたたまれないんだけど」

「「「それな」」」


 ***


「にしても気持ち良さそうに寝てんなぁ」

 小一時間寝ている結人の頭を、八千代が優しく撫でる。

「や··ちぉ····」

「ん? ····あ? 寝てんのかよ」

「ねぇ、場野代わって」

 続いて、莉久が結人の頭を撫でた。

「ん··りっくぅん····」

「はぁぁぁっ····ゆいぴンぅっ」

 啓吾が慌てて莉久の口を塞ぐ。

「バッカ! 起きんだろ。次俺な」

 啓吾は、莉久の口を塞いでいるのとは反対の手で、結人の頭を撫でた。

「んにゅぅ····けぇ··ご······」

「すげぇな。俺もやってみてぇ」

 朔が興味津々に、結人の頭に手を伸ばす。

「んぅ··朔ぅ····」

「なんだよコイツ。なんで寝ながら分かんだよ。有り得ねぇだろ」

「え、マジで凄くない? こんなんわかんの?」

「いや、普通わかんないでしょ。ゆいぴ、どんだけ俺らの事判別できんの····」

「おぉ。すげぇ特技だぞコレ」

「今度さ、起きてる時に後ろから撫でて当てれるかやってみねぇ?」

「「「やる」」」

 またもや遊びにしてしまう啓吾。満場一致でくだらないゲームの開催予定が立ったところで、結人が目を覚ました。


 ***


「ん····? はぁっ!! ごめんね、僕寝ちゃってた····」

「んふっ····結人、ほっぺた涎の痕すげぇ」

「んぇ? やっ、顔洗ってくる──」

 僕がベッドから降りようとしたら、りっくんに手を引かれてベッドに投げ倒された。

「んわぁっ!?」

「ゆいぴ、俺が綺麗にしてあげる」

 そう言って、りっくんが僕の頬に吸いつく。舐めていると言うより、吸い取っている感じだ。皆、ドン引きしている。

「ひぅっ····やぁ······」

 腰の辺りから、ゾワゾワとしたものが込み上げる。吸っている頬と反対側の耳を指で弄られ、どうにも下半身が落ち着かない。

「莉久、もうやめてやれよ。それ、キモくて泣いてるんじゃねぇか?」

「えぇっ!? ゆいぴ、そうなの?」

「ふぇ··違····うと思う。なんかゾワゾワしたけど、大丈夫だよ。それより、りっくんテンション変じゃない?」

 僕が寝ている間の出来事と、それに付帯したゲームの話を聞いた。自分の事ながら、撫で方で分かるものなのだろうか。ましてや寝ているのに。甚だ怪しい。
 僕が首を捻っていると、啓吾が僕を膝に乗せて話し始めた。

「めっちゃ話戻すけどさぁ、真尋が相手じゃいつまでも避けてらんねぇだろ。早めに決着つけねぇとなぁ」

「アレ相手に決着····か。骨が折れそうだな」

 僕も、真尋のメンタルの強さには驚いた。昔からテンションの浮き沈み激しく、よく情緒のバグる子だったのに。だから、諦めさせるのもそう難しくはないと思っていたのだ。

「だね。でも、ゆいぴは死んでも渡さないから」

「当然だわ。二度と抱かせるかよ。しっかし····真尋との関係悪くしねぇでってのがな····」

「それ必須だもんな。難易度跳ね上がんだよな~」

 なんだかんだ真尋を脅していたけど、僕と真尋の関係を大切に思ってくれているんだ。
 悩ましげな啓吾が、僕の肩に顎を乗せてダレている。可愛い。思わずほっぺを撫でてしまった。

「結人ぉ、キスしてぇ。そしたら俺頑張れる~」

「えぇ~。しょうがないなぁ」

 僕は向かい合うように座り直し、啓吾のほっぺを持った。啓吾のキラキラした瞳に僕が映る。期待して待っているのは分かるんだけど、恥ずかしいから目は瞑っていてほしい。

「啓吾、目瞑ってよ····」

「やだ。照れてる結人も見たい。結人が瞑ったらいいじゃん」

「もぉ····我儘なんだから····」

 僕はキュッと目を瞑り、そっと唇を重ねた。

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