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2章 覚悟の高3編

sweetday・前編

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 話は少し遡る。
 夏休みが始まって少し経った8月2日。僕の誕生日。特に予定は立てていなかった。りっくんですら静かに過ごしていたから、てっきり忘れているのかと思っていた。
 て言うか、僕自身が忘れていたんだけどね。思い出したのは前夜。母さんに、ケーキはチョコと生クリーム、どちらがいいかと聞かれた時だった。
 
 だから、朝8時丁度に連絡がきた時は凄く驚いたんだ。母さん達が起きているかと聞かれたので、寝惚けながらも慌てて確認する。
 意味もわからず、ボケっとしたまま『母さんは起きているし、父さんはもう仕事に行ったよ』と言ったら、直後にインターホンが鳴った。
 電話越しにも聴こえる我が家のインターホン。まさかと思い、僕と母さんはそそくさと玄関へ走る。
 
 そのまさかだった。八千代が、僕をさらいに来たのだ。母さんに『夕飯までには絶対家に帰します』と、僕の肩を抱き寄せながら誓った。ダメだと言ったら、大人しく帰るつもりだったのだろうか。て言うか、必死だからなのか雄みが凄いんだよ····。
 勿論そんな事を言うはずもなく、母さんは顔を赤らめてコクンと頷いただけだった。僕は何も知らされておらず、ビックリしすぎて固まってしまった。
 八千代ったら、手際良く僕の支度を済ませてしまうから、母さんが驚いていたじゃないか。そして、ロクに反応もできないまま、僕は連れ去られてしまった。

 
 八千代の部屋に入ると、盛大にクラッカーが鳴らされた。驚いて、心臓が飛び出るかと思った。そして、朝食として出てきたバースデーケーキ。
 18本立てられた蝋燭の火を吹き消し、4号のケーキを1人で食べきった。皆、朝からケーキは食べられないと、僕に丸投げしてきたのだ。信じられないけど、皆らしくて笑ってしまった。

 ケーキをペロッとたいらげ、今日の予定を聞いてみる。すると、僕次第だと言われた。
 今日は1日、僕の我儘を聞いてくれるらしい。まずは、えっちかデートかの選択を迫られた。えっちもシたいけど、折角なのでここはデートにしよう。
 しかし、急な事で行きたい所も特に思い浮かばない。なので、皆に任せる事にした。プランは用意してあるらしい。


 初めはりっくんのエスコート。最近話題になっている、甘々の恋愛映画を観るらしい。僕も気になっていたやつだ。
 映画が始まる直前、りっくんがプレゼントをくれた。掌に収まるくらいの小さな箱を開けると、中には小さなキーホルダーが入っていた。
 鍵なんて、そんなに持っていないんだけど。とは思ったが、デザインが凄く好みだったし純粋に嬉しい。凄く優しい目で僕を見るりっくんに気づき、上擦った声で『ありがとう』と言った。
 
 外側に座った八千代と啓吾は、恋愛映画に全く興味が無いらしく、開始30分程で爆睡していた。僕の両隣りに座っている朔とりっくんは、ずっと手を繋いだまま離してくれない。
 ジュースは朔が飲ませてくれて、ポップコーンはりっくんが食べさせてくれる。だが、その食べさせ方にいささか問題が生じている。
 たまりりかねて、僕は小声で抗議する。

「りっくん、普通に食べさせてよ」

「なんで? 美味しそうじょーずに食べれてるのに」

 意地悪く、耳元で甘く囁く。

「ん····だって、指····しゃ、しゃぶらせてるみたいなんだもん····」

「塩とか付くんだからしょーがないでしょ? ゆいぴに舐め取ってもらってるだけだよ」

「ひぅ····え、えっちしたくなっちゃうでしょ!」

 りっくんの耳元で、凄く小さく叫んでやった。すると、僕の口にポップコーンを指ごと押し込んでから、めちゃくちゃえっちなキスをされた。
 舌を絡めて、キスを楽しみながらポップコーンを回収される。必死に声を抑えるが、周囲からは小さなざわめきが聞こえた。

「ぁはっ♡ もっとえっちシたくなった? ごめんねぇ?」

「んぅっ··ひっく····り、りっくんのばかぁ····」

 僕のささやかな仕返しに、りっくんは特大の意地悪で返してきたのだ。まったく、場所を弁えられないのだろうか。
 おかげで、映画なんて殆ど観ていない。そんな余裕ないんだもの。結局、誰もちゃんと観ないまま上映が終わってしまった。
 満席とまではいかずとも、それなりに人がいたのだ。案の定、朔に怒られるりっくん。
 朔のお小言を聞きながら腹拵えに向かう。お昼は、りっくんオススメのハンバーガー屋さんへ。肉厚のバーガーで満腹だ。

 
 次は朔の番。目的地に着くと、凄く不安そうな顔をして聞いてきた。

「今更なんだけどな、爬虫類苦手じゃねぇか?」

「大丈夫だよ。触るのは怖いけど、見るのは好きなんだ。トカゲとかカッコイイよね」

 入館チケットを渡しながら聞いてくるのが、朔らしくてほっこりする。特に何も聞かないで朔についてきたら、こちらも今話題になっている爬虫類展に連れてこられたのだ。皆も、意外だなって顔をしていた。
 誰も知らなかったのだが、朔は爬虫類が好きなんだそうだ。それで、僕にオススメを紹介したかったらしい。
 名前は覚えられなかったけど、朔のイチオシは小さい恐竜みたいなカッコイイ子だった。生態とかが僕に似ているからとかで、最近のお気に入りなんだと言っていた。カッコイイって事でいいのかな?

 そして、凄く大きな蛇の前で朔がプレゼントをくれた。なんでここで? なんて朔に聞いたところで、だ。きっと、なんとなくなのだろう。
 これまた小箱で、開けると鍵が2つ入っていた。どこの鍵だろう。

「俺ん家と、場野ん家の鍵だ。莉久ん家は流石に渡せねぇから、莉久と大畠がキーホルダーを選んだんだ」

「そうだったんだ····えぇっ!? 家の鍵なんて貰っていいの!? 朔ん家は凜人さんも住んでるでしょ?」

「凜人の事は気にしなくていい。ただ、2人きりにはならないように気をつけてくれ。もっと早く渡したかったんだけどな、タイミング····カッコつけたくて誕生日にしたんだ。困った時は使え」

「さっくーん、カッコつけたかったの言わないで? 俺らが恥ずかしくなんでしょ~」

「お、わりぃ」

「えへへっ。ありがと。寂しくなったら行くね」

「ばっ····迎えに行くから待ってろ」

 朔は顔を真っ赤にして僕を抱き締めた。さっき、散々りっくんに怒っていたのに。
 これだから、直情的な彼氏を持つと困る。人の往来がそれなりにある中で何をしてくれているんだ。まぁ、拒まない僕も僕だけど。

「それじゃ、鍵貰った意味ないでしょ····。ねぇ朔、めちゃくちゃ見られてるよ?」

「おっ、わりぃ····」

 ガバッと僕を離すと、朔は黙ってキーホルダーに鍵を付けてくれた。それを僕のカバンに繋げて完了だ。

「いつでも来ていいつったけど、1人で出歩くのはやっぱり危ねぇな。迎えに行くから、寂しくなったら何時いつでも呼んでくれていいからな」

「そんな事言ったら····ホントに呼んじゃうよ? 僕、最近いつでも寂しいんだからね」

「お、あぁ····早く一緒に住まねぇとな」

 朔は真剣に考え込んでしまった。本当に、良くも悪くも真面目なんだから。

「うん。早く住みたいね。ずーっと一緒に居たいもんね」

 そして、再び人前でのキスをくらう。舌こそ絡めなかったが、僕を捕食する様な甘く鋭利なキスだ。
 蛇に食われるのって、こんな感じなのだろうか。このまま丸呑みにされてしまいそうだ。なんてバカな事を思ってしまった。

 ざっと観て周り、最後にあったカフェでお茶をする。亀やイグアナ型のクッキー、カメレオンをモチーフにした綺麗なジュースがあった。どれも美味しくて、ここでも満腹になってしまった。
 お次は啓吾の番だ。なんだかワクワクしているようだが、お化け屋敷じゃない事を願おう。

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