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3章 希う大学生編

どうしたの、朔

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 見るからに落ち込んでいる朔。僕が心配して見上げると、耳を垂らした仔犬のようにしょぼんとして見せた。

「わりぃ、理性ぶっ飛んでた····」

 とても反省しているようだ。悪いのは、朔だけじゃないのに。

「ううん。受け入れたのは僕なんだし、朔があんな夢中で求めてくれるのが嬉しかったんだ。僕こそ、あの··声··我慢しきれなくてごめんね」

 朔と啓吾が顔を見合わせる。どうやら、他にも気になる事があるらしい。

「俺も反省しなきゃなんだけどさ。それよか、結人めっちゃ見られてたよ。場野と莉久で見えてなかったと思うけど」

「女連れ込んでたのかって聞かれてイラついた」

 焦ったんじゃなくてイラついたんだ。感情がバグってるのかな。騒がしくはなかったから、喧嘩には発展していないのだろうとは思うけれど····。

「なんて答えたんだよ」

「『んなわけねぇだろ』つったら··」

「『誤魔化さなくていいってぇ。めちゃ可愛い声聞こえたんだけど~』だってさ」

 啓吾が、棒読みで彼らを真似ていう。2人とも、たいそうご立腹らしい。

「で、女1人輪姦まわしてんだったら混ぜろって言われて····」

 朔と啓吾が、また顔を見合わせる。一体、何をしたのだろう。

「ンで?」

「····朔がすげぇ威圧して黙らせちゃった☆」

 濁してはいるが、軽い牽制というレベルではないのだろう。後で揉めなければいいが。

「手は出してないんだよね?」

 りっくんが怖々と確認する。

「手は出してねぇ」

「ンなら問題ねぇだろ」

 と、八千代は言うが、そういう問題ではない気がする。何も起きなければいいのだけれど。


 なんてハプニングも旅行の醍醐味という事で、気を取り直して夕飯を楽しむ。正直、僕は温泉よりも夕飯のほうが楽しみだったのだ。
 昨日、見せてもらったパンフレットに載っていた料理の数々に、僕の胸は高鳴っていたのだ。

 机に並べられた豪勢な料理を前に、僕はペラペラと感想を語る。

「お前、飯食いに温泉来たんかよ。さっきとえらい違いだな」

 そう言って微笑む八千代。はしゃぎ過ぎただろうかと、大きく息を吐いて落ち着く。僕だって、もっと大人っぽく振る舞うんだ。

「で? 結人はどれが1番気になってんの?」
 
 ぱぁぁっと表情が晴れてゆくのを自覚した。僕に“大人っぽく”はまだ難しいらしい。ちょっと恥ずかしいけど、皆の優しさの甘えることにしよう。

「えっとね、これ! カニ味噌の··なんだっけ····でもね、説明聞いてて1番食べてみたいなって思ったの。あとね──」

 僕は思う存分語り尽くし、皆は黙ってそれを聞いてくれていた。料理が冷めてしまうと勿体ないので、とても早口で頑張ったんだ。
 さて、一息だけつき、いただきますと心を込めた。

「お前、いただきますっつぅ時の顔が1番幸せそうだな」

「······そ····そんな事ないもん」

「あっはは、タメなっげぇ~」

「そんなゆいぴが好きでしょうがないんだけどね♡」

「待ってよ。1番は皆に好きって言う時だもん」

 なんと恥ずかしい事を口走っているんだか。ムキになって本音を漏らしてしまった直後が、きっと1番恥ずかしい。

「後で失神するまで犯かしてやっから覚悟しとけ」

「のんびり身体癒しに来たはずなんだけどねぇ。ま、しょうがないよね」

「何言ってんだ莉久、結人抱いたら癒されるだろ。目的は果たせるから問題ねぇぞ」

「結人は癒されるか分かんねぇけどな~」

「ゆいぴはヘトヘトになっちゃうもんねぇ」

「僕だって皆に抱いてもらったら癒されるもん!!」

 あぁ、またやってしまった。皆に乗せられて、すぐムキになってしまうのは悪い癖だ。いつまでも子供っぽい所が凄く恥ずかしい。

「ふはっ、アホか。いいから食えよ。楽しみにしてたんだろ」

 八千代がニマニマしながら、剥いた茹で蟹を食べさせてくれる。悔しいけれど、蟹の誘惑には勝てない。甘い匂いに顔が綻ぶ。

「うん! あー····っん~~♡ 美味しぃ····」

 僕は、落ちそうなほっぺを持って、口の中でホロッと解けた蟹に舌鼓を打つ。

「カニにうっとりしやがって。どんだけ可愛いんだよ」 

「んふふ、八千代やひぉ、バカらねぇ」

「てめ··、テキトーにディスってんじゃねぇぞ」

 とか言いながら、次の蟹を剥いてくれている。いつだって八千代は、自分より僕の食事が優先だ。


 たらふく食べた僕は、絶讃睡魔に襲われ激闘中である。

「ゆいぴ、寝ていいんだよ。もう限界でしょ?」

「やだ、寝にゃい····眠くない」

「目ぇ開いてねぇじゃん」

「眠てぇンなら寝ろ。しょーもねぇ意地張ってんじゃねぇぞ。そんで明日体調崩したらつまんねぇだろ」

 八千代に担がれ、布団へと運ばれる。八千代の言う事は尤もだ。だが、夜はこれからなのに、寝ている場合ではない。
 僕はジタバタと抵抗してみせる。ポコポコと、八千代の背中を叩く程度しか動けないが。

「やだぁ! 寝ないもん! おーろーしーてー!」

「子供かよ~、めっちゃ可愛い」

「あぁ♡ ゆいぴが天使。俺らの理性が生きてるうちに寝てぇ」

 啓吾はキュッと目を瞑って天井を仰ぎ、りっくんが顔を覆って転げ回っている。おバカだ。そして、朔の理性はご臨終したらしい。

「場野、結人寄越せ。寝ねぇつってんだからいいだろ。抱く」

 なんて雄々しい顔で言うんだ。『抱く』が耳に届いた瞬間、下腹の辺りがキュンとして軽くイッてしまった。慌てて口を塞いで声を抑える。

「おー··、お前の理性が最弱かよ。まさかだわ」

「あぁ? ····さっき、中途半端だったからな。出してぇ」

 朔が、八千代から僕を奪い取る。『出したい』だなんて、雄剥き出しのハァハァした顔で言われるとちょっと怖いや。
 けど、僕だって途中だったんだ。苦しいのは分かる。

 朔は、僕をお姫様抱っこしたまま胡座に収めた。そして、極甘のキスで口内を犯す。
 必死に僕を貪る朔。余裕が無いのか、いつもより舌の絡め方が急いているように思う。それでも気持ちイイんだけどね。
 息継ぎのタイミングを見計らい、朔に聞いてみる。

「おちんちん、苦しいんだよね?」

「ん? あぁ、苦しいな。お前のナカにぶち撒けてぇ」

 耳に流し込まれる甘ったるい声。それだけで、トロッと先走りが滲む。

「僕もね、朔のザ··ザーメン、ナカにぶち撒けて欲しい、な··」

 一生懸命、目を開けて朔を見上げる。朔は眉間に皺を寄せ、熱の篭った瞳で僕を見下ろす。この後、どうされてしまうのだろう。
 期待と不安を孕んだ目で朔を見つめる。

 朔が僕のアナルに指を挿れる寸前、りっくんと啓吾がそれを止めた。

「ねぇ、ゆいぴ寝ないんだったらさ、遊びに行かないの?」

「外の温泉巡りもしねぇの?」

「······は? このタイミングで言うか? なんなんだお前ら、ワザとか?」

「いや、さっくんがサカって始めようとするからよ? 俺らタイミング超悩んだんですけど」

「だってほら、ゆいぴが昼間さ、『射的したーい』とか言ってワクワクしてたでしょ? だから····いいのかなぁって。ゆいぴが遊ぶより抱かれたいんならいいんだけどね」

 朔は暫く黙り、グッと何かをこらえて深呼吸する。

「····結人、どうする? 遊びに行くか、俺に抱かれるか、どっちがいい?」

 と、僕の頬に手を添え、ジッと僕の目を見つめて聞く。選ばせる気があるのだろうか。

「朔に抱かれたい。遊ぶの明日でいいから、早く朔のおちんちん欲しいよぉ」

 たまらず、朔に手を伸ばして抱きつく。

「だそうだ。お前らだけで遊びに行ってきてもいいぞ。俺が責任もって抱き潰しとくからな」

「ふっざけんなっつぅの! 誰が結人置いて行くかよ」

「マジそれな。ゆいぴが行かないのに行くわけないじゃん」

「おい朔、あんま調子こいてっと──」

「調子こいてっとなんだよ。暫く結人は渡さねぇぞ。もう寸止めは勘弁だ。とりあえず1回抱くから大人しく待ってろ」

 何故だか朔がキレている。こんなに理性の壊れた朔は初めてかもしれない。ましてや、皆に喧嘩を吹っ掛けるような事、普段はしないんだけどな。

「どうしたの、朔。····怒ってる?」

 僕の不安げな顔を見て、朔がハッと我を取り戻す。大きく息を吐いて、静かに話し始めた。

「わりぃ、大丈夫だ。怒ってるわけじゃねぇ。さっき寸止めだったから、ヤレると思ったら焦っちまった。····結人との旅行が楽しみすぎて、ここ数日ずっとテンションがおかしかったんだ。で、いざ来てみたら楽しくて····、浮かれすぎてたかもしれねぇ」

 いつだって冷静沈着で、感情が表情かおに出にくい朔。隠していたとはいえ、朔のテンションがおかしい事にも気づけなかった。僕が、嫁として至らないんだ。

 朔は、僕をりっくんに預けると、何も言わないまま半纏はんてんを羽織った。そして、ドアの前で立ち止まり、少し振り返って静かに言葉を落とす。

「お前らも、喧嘩売ったみたいで悪かったな。ちょっと頭冷やしてくる」

 言い終えるなり、部屋を出ていこうとする。僕は慌てて駆け寄り、朔を引き止めた。

「朔待って! 行っちゃやだ」

 腕を掴んで止めると、朔は困った顔をする。けれど、せっかく旅行へ来たのに、離れるなんて絶対嫌だ。

「ちょっと頭冷やしてくるだけだ。すぐに戻るから····」

「やだっ」

 朔の腕にしがみついて言った。困らせているのかもしれないけれど、それでも、朔を1人にしたくないんだもん。力尽くで止めてみせるんだ。

「ゆいぴがヤダって言ってるんだしさ」

「俺らも気にしてねぇわ」

「さっさと抱いてあげれば? いっつも俺らのが勝手シてんだしさ。朔も好きにすりゃいーじゃん。んで、朔が1回抱いたら遊びに行けばいいんじゃね?」

「ま、そん時に俺らが我慢できたらだけどな」

「「それな~」」

 格好がつかず耳まで赤くする朔。覚悟を決めたのか、僕を抱えて布団へ戻る。
 そんな朔が可愛くて、愛おしくて堪らない。僕は朔の首に腕を回し、夢中で朔の唇を食む。

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