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3章 希う大学生編

苦愛にて一喜一憂

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 りっくん同様、静かに部屋へ入ってきた啓吾。りっくんはお風呂に入ると言って、啓吾と交代した。


「啓吾、コーヒー飲んでたの?」

 ふわっと香るコーヒーの苦味が、静かな啓吾をより大人っぽく思わせる。

「うん。ちょっと気持ち落ち着けようと思ってさ」

 そう言って、啓吾は僕の頬を両手で挟み、おでこをくっつけた。そして、とても静かに話し出す。

「いっつも俺のアホな提案に付き合ってくれてあんがとね。今回はいつもとちょい違う意味でしんどいかもだけどさ、こうやって過ごしてみんのも新鮮でいいなーって思うんだよね」

 僕は、少しおでこを押しつけ、温かい気持ちをそのまま言葉にした。

「んへへ。啓吾がいつも色んな事やってみようって言うの、僕は好きだしワクワクしてるよ」

「結人は優しいね。アイツら今回のこれあんまノリ気じゃないみたいでさ、結人犯せねぇとか文句ばっか言うんだもん。流石に心折れかけたっつぅの」

 弱気な啓吾はめっぽう可愛い。お得意の、母性を擽ってくるアレだ。

「はは。ポリエ··ネ、シアン? せ··セックスもね、不安だらけだけど、さっきりっくんとしてみたら思ってたのと全然違ったよ。啓吾とも、幸せであったかい時間が過ごしたいな」

「んーっ♡ 過ごそーぜぇ。まずはお互いの身体の事、もっと知らねぇとだよな」

「だね。あ、ねぇ、感じさせちゃダメだよ?」

「わかってますぅ。莉久に触られて感じなかった?」

「最初はちょっと····でもね、ペタッて触ってくれたから大丈夫だった」

「そっか。んじゃ俺も気ぃつけて触るわ」

 そうして、啓吾も僕の身体の好きな所を饒舌に語り始めた。けれど、それはどこも性感帯で触れられない。
 次第に、欲情した顔を見せ始める啓吾。このままでは初日から挫折してしまいそうだ。

 僕は気を逸らそうと、交代しようと言ってみる。すると、啓吾は深呼吸をして平静を装い、僕の腰に手を置いたまま『どうぞ』と言う。

「啓吾は中学の頃ダンスしてたんでしょ? 他にスポーツとかはしてなかったの?」

「んー··バスケとかバレーとかやってたけど、どれも遊び程度だったなぁ。あぁ、駿哉に誘われてサッカーはめっちゃやった。けど、サッカーって走りっぱなしじゃん? 俺走んの苦手だからキツかったんだよね」

 なるほど、啓吾らしい。サッカーをしている啓吾も見てみたかったな。なんて言ったら、今度猪瀬くん達を呼び出して、庭で一緒にやろうと言い出した。
 見てたいだけで、僕は参加しないよ。と、僕が慌てて言うと、啓吾は『冗談だよ』と言って笑った。

「結人にカッコイイ俺見せたいんだけどな~。スポーツじゃどう頑張っても才能マンゴリラと駿哉には勝てねぇからな~····」

 素直に苦手を認め、それでも僕の為に頑張ろうとする姿が、カッコ良くないわけがない。

「僕は勝ち負けよりね、一生懸命頑張ってるところがカッコイイと思うよ」

 そう言うと、張り切りすぎて頑張りすぎてしまうのが啓吾。そこも可愛いのだが、ムキになり過ぎてしまうのがタマにキズだ。
 無茶をするから心配になるんだもの。まぁ、それも僕的には可愛いと思ってしまうのだけれど。

 他愛もない会話をしながら、手を繋いだり頭を撫でたり、時々優しく微笑んでくれる。僕が笑い返すと、何度目かで啓吾は目を細めて心臓の辺りに手を置いた。

「俺さ、結人の心臓の音聞いてたらめっちゃ快眠できんの」

 そう言って、啓吾はもぞもぞとずり下がり僕の胸に耳を当てた。そして、ずっと秘めていた心の内をさらけ出してくれた。

 啓吾は、夜眠るのが嫌いだったらしい。独りが寂しくて、誰からも求められていないと、誰も求めてはいけないと、そんな事を思っていたんだと言った。『環境が環境だったかんねぇ』と、軽い口振りで話す啓吾。
 それを飄々と話す啓吾が酷く脆弱に見えて、僕は思い切り啓吾の頭を抱き締めた。

 苦しい気持ちを抱えて、それでも僕を求めてくれたんだ。そう思うと、涙が溢れて止まらなかった。
 嬉しかったのか悲しかったのかは分からない。けれど、とにかく感情が溢れて、啓吾をこの腕から離せなかった。

「結人と··皆と一緒に暮らしてさ、バカやって俺中心に煩くってさ、気づいたら1人ン時もすげー安心して寝れるようになったんだよね。結人と寝たら超爆睡。夜になんのが嫌じゃなくなったんはさ、結人と皆のおかげだなーって、結構マジで感謝してんの」

 照れくさいのか、啓吾は決して顔を上げることなく、僕の胸に頬擦りをする。口調もいつも通りのおちゃらけたものだ。
 しかし、それが事実で、本音である事は疑いようがない。僕の胸を締め付ける何かが緩んで、啓吾の額に唇を寄せた。

「皆には内緒だよ」

「んは♡ 結人、悪い子だな」

「共犯でしょ?」

「それなー♡」

 啓吾は僕をコロンと転がすと、とても嬉しそうに僕の上へ覆いかぶさり、一転して雄の顔で僕を見下ろす。ゆっくりと耳元に唇を寄せ、ポソッと『俺の為に泣いてくれてありがと』と言った。
 その後は、またお互いに身体の好きな所へ触れて語って、尽きるとくだらない話をして笑い合った。
 そして、八千代たちが来るまで抱き合って過ごした。


 どのくらい経ったのか、ウトウトし始めた頃に八千代と朔が来た。

「あれ、2人いっぺんにすんの? 無理くね?」

「無理くねぇ。お前も莉久も長ぇから待ちきれねぇんだよ。今何時だと思ってんだ。て言うかなんで呼びに来ねぇんだ」

 朔は、随分とご立腹な様子だ。けれど、時計がないのだから時間なんて知りようがない。だからこそ、ゆっくりまったりとお互いを堪能できたのだ。
 だけど、どうやら待たせすぎたようで、八千代と朔の雄みがヤバい。そう、ヤバいという以外の表現が出てこないほど、昂り方がヤバいのだ。
 これの趣旨を忘れてしまっているのではないかと、不安がぎるくらいに。

啓吾お前もさっさと風呂にでも行けよ。莉久がトランプ持って暇そうにしてたぞ」

「マジか。そういや明日のトップバッター賭けて勝負するつってたな····」

「ンならさっさと行け」

 啓吾は、追い出されるように部屋を出ていった。こんな状態の2人と3人きりだなんて怖いんだけど。そう思ったけれど、ベッドに上がった2人は一転して落ち着いた様子で、僕を挟んで寝転がった。
 朔と八千代に挟まれたら圧迫感を感じるからなのか、自分がいつもより小さく思えてくる。けど、2人に守られているような安心感の方が強くて、ついつい気が抜けてしまう。

「2人とも、またおっきくなった? 圧が凄いよ」

「お前、それよく言ってるけど嫌なのか?」

「ううん。なんかね、凄く安心する」

 僕は、もじもじと体勢を変え朔に抱きついた。
 すると、八千代が背中に嫉妬を描く。指ですぅっと、腰から項まで背筋をなぞった。

「ひゃぁっ」

「感じんな。エロい声出すな。触れねぇだろ」

 なんて横暴なんだ。

「え、えっちな触り方しないでよぉ」

「えっちくねぇ。俺、お前の背筋好き。すげぇ綺麗」

 静かに言い放った八千代は、僕の訴えなど意に返さず触り続ける。お尻に手を添え、キュッと一揉みして『ちぃせぇ』と呟く。
 負けじと朔も、僕の腰に手を添えて『相変わらず細いな』と甘い声で囁いた。これは何かの拷問なのかな。

 りっくんや啓吾と違い、僕を感じさせないというコンセプトはないらしい。きっと、僕が感じるのを我慢するシステムなんだ。

 それぞれに好きな箇所を言い尽くす頃には、僕の身体は感度がバグっていた。そんな僕に構うことなく、朔は僕の左肩を押した。八千代が左側の腰を引き寄せ、僕は半回転させられる。
 八千代は僕を抱き寄せ、胸に収めると『好き』と言って頭にキスを落とした。
 そして、八千代は僕をずいっと上へ引き上げ、頭を揃えると唇が触れそうなほど顔を寄せる。

「だ、ダメだよ八千代ぉ····今日はちゅーしないんだよ····」

「ふっ····してやんねぇよ」

 と、意地悪をしてきた。悔しいから、八千代の口を両手で塞ぎ、その上からキスをしてやった。
 眉をひそめ、目だけで雄を剥き出しにする八千代。僕だって、今日はキスしてやらないんだから。

 僕がへへんと笑うと、八千代はこめかみに青筋を浮かべる。そして、八千代は僕の両手首を片手で掴み、自らの口を解放した。

「お前、最終日覚悟しとけよ。それまでは優しくしてやっけどな、最後にお前壊すんは俺だからな」

 僕のお尻がヒクッとして、お腹の奥がキュンと甘イキしたのは、バレていないだろうか····。

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