ヴァールス家 嫡男の憂鬱

よつば 綴

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狂行

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──カタンッ、カタカタッ 、カチャッ

 今夜は風が強い。ノウェルは自室に篭もり、学院の課題を進めていた。
 すると、突然窓が開き蝋燭の火が消えた。それと同時に、首筋にチクッとした痛みを感じた。その途端、ノウェルはふわっと意識を飛ばしてしまった。

 次にノウェルが目を覚ました時、両の手脚が麻紐でベッドに繋がれていた。もがけばもがく程きつく絞まり、擦れて痛みが伴う。

「なんだ、これは····」

 警戒しながら辺りを見回すノウェル。すると、脚元に人影が見えた。

「だ、誰だ! 何故こんな事を!?」
「ふぅ····。静かにしてください。あまり騒がれると都合が悪いので。言う事を聞いてもらえないなら、力づくで黙らせますよ」

 そこに居たのは、黒いローブを身に纏ったヴァニルだった。これまでに見せたことのない、冷徹な目をしている。
 普段は笑顔の仮面を被っているかのような男の、おそらく本性であろう瞳に怯えるノウェル。

「なっ、貴様····。どうやって入った。何故こんな事をする」
「ふふ、声が震えていますよ。····この狂行きょうこうの理由は、貴方がヌェーヴェルをたぶらかそうとするからですよ」
「誑かしているのはお前らだろうが! 俺の可愛いヌェーヴェルを!」
「貴方の? いいえ、違います。ノーヴァと私のモノです。勘違いしないでくださいね」

 声のトーンが下がり、ヴァニルは苛立ちを顕にする。怯えるノウェルが、睨みつけるようにヴァニルを見上げる。凍てつくような無機質な瞳を、窓から差し込む月明かりが輝かせていた。
 背の高いヴァニルに見下されるのは、尋常ではない恐怖を感じる。ましてや静かに怒る彼は、何人も塵と化してしまいそうな危うさを孕んでいる。
 しかし、ノウェルも容易に引く男ではない。ことヌェーヴェルに関しては尚更である。

「なんだ、俺を殺しに来たのか」
「ははっ、違いますよ。それならとっくにっています」
「じゃあ、一体何なんだ」
「ん~、これからアナタを犯してみようかと思いまして」
「······ん?」
「何か?」
「いや、貴様がくだらん事をかすから、頭がイカれているのかと思ってな」
「ははは、私はイカれてもいませんし、これは冗談じゃないですよ」
「どういう経緯でこうなっているんだ? わけがわからんぞ」
「そうですねぇ。簡潔に言いますと、アナタがヌェーヴェルを忘れられるように、協力して差し上げようと思ったまでですよ。私も楽しめますし」

 ウキウキとしながらヴァニルは、作られたようなにこやかな顔でノウェルの服を脱がし始めた。

「貴方は本当にヌェーヴェルにそっくりですね。顔も体つきも、ここも」

 ヴァニルはノウェルのイチモツを強く握った。

「うっ、痛いだろ! やめろ! 何と淫猥な化け物だ!」
「本当はヌェーヴェルにもこんな風に酷くしたいのですが、ノーヴァに叱られますからね。ああ見えて、ノーヴァはヌェーヴェルを大切に扱っているのですよ。私はついついヤり過ぎてしまって。ですから今、実はとても興奮しているんですよ」

 恍惚な表情かおで彼が瞳に写しているものは、眼前のノウェルではなくヌェーヴェルだった。

「私は別にね、貴方を傷つけたいわけじゃないんですよ。ですから、ちゃんと解してあげますし、くしてあげますからね」

 ヴァニルはノウェルの中を掻き乱し、自分のモノを収めんがため拡げた。ノウェルの苦痛に歪む顔は、ヴァニルをさらに高揚させた。

「も、やめてくれ····これ以上は、んぅ····おかしく、なってしまう」
「そうですか····。早く欲しいですか。指では物足りないと? いいでしょう。では、いただきます」

 心積りなどさせる間もなく、ずっぽりと半分ほど押し込んだ。
 
「ん゙あ゙あ゙あぁぁぁっ!! 待てっ! 大きいっ····それ以上は、入らな·····んぐぅぅ····」

 ノウェルの静止など無視して、ヴァニルは容赦なく根元までねじり込んだ。
 
「本当に煩い口ですね」

 そう言って、ヴァニルは煩わしそうにノウェルの口を手で塞いだ。

「ヌェーヴェルはそんな獣のように喘いだりしませんよ? いつも健気に声を殺して、周囲にバレないようにしているんですから。まぁ、全然我慢できてないんですけどね。そこがまた愛らしいんです」
「ん゙ん゙っ! ····ぷはぁっ····貴様、どこまで····んっ、外道なのだ」
「酷い言われようですねぇ。そんなに憎いですか? ヌェーヴェルを支配している私達が」

 ノウェルはヴァニルを睨みつけた。その目には溢れんばかりの涙を浮かべ、何かを言いたげに訴えている様子た。
 そんなノウェルになど構わず、ヴァニルは満足のゆくまで容赦なく犯し続けた。それは永遠と思われる程長く続き、夜が開ける前にノウェルの身体だけは快楽に堕ちていた。

「貴様にどれほど犯されても、私の心は····ヌェーヴェルの····ものだ······」
「やれやれ、まだ足りませんでしたか? もしくは、貴方の心はそれほどまでにヌェーヴェルを······」

 ヴァニルは身なりを整えながら呟いた。
 失神したノウェルを綺麗に拭き、ベッドを整え拘束を解いたヴァニル。タイを締め直すとローブを纏い、再び窓から飛び立った。



 屋敷に戻ったヴァニルは、まっすぐヌェーヴェルの部屋へ向かった。そして、寝ぼけ眼のヌェーヴェルを、自らの穢れを拭うように一心不乱に犯した。ヴァニルはあまりにも夢中で、制止を懇願する声も耳に届かなかった。

「ヴァニル! ヴァニル!! もっ、やめっ、て、くれ····死んじゃ····う····」
「ダメです。まだまだこれからですよ。ふふっ、こんな事で死にゃしませんよ」
「イキ····っぱなしで····息、できなっ······」
「仕方ありませんね。ほら、休憩させてあげますから息してくださいね」

 そう言ってヴァニルは、ヌェーヴェルの血を啜った。

「んっ····」
「甘い声を漏らしてないで、呼吸を整えてくださいよ」
「なんっなんだよ、お前。どうした、何かあったのか?」
「貴方はどうして、そう他人の事ばかり気にするのですか? 今、貴方が何をされているかわかってるんですか?」
「え、なんで俺怒られてんの?」
「はい、じゃぁ再開しますね」

 ヴァニルは再びリズム良く、かなり早いテンポで腰を打ちつけ始めた。
 ヌェーヴェルが失神してもなお、腰を止めることができず犯し続けた。ヌェーヴェルは意識を飛ばしながらも嬌声が零れ、枯れることなく潮を吹き続けた。

 朝食を求めて部屋を訪れたノーヴァがそれを発見する。ノーヴァの来訪にも気づかず腰を振り続けるヴァニルは、重い一撃を顔面に喰らい漸く正気を取り戻した。ヌェーヴェルはヴァニルの回復魔法で何とか復活したが、非常に危ういところだった。
 夕方になりヌェーヴェルが目を覚ますまで、ヴァニルは傍を離れなかった。


***


「ヌェーヴェル、大丈夫ですか? その、すみません。私は、アナタを殺してしまうところでした」
「······まったくだ。このバカタレが。反省してるようだし、俺は生きてるから今回は許す。だが、次は無いぞ」
「ヌェーヴェル、ありがとうございます。本当にすみませんでした」
「ちょっと。お前、本当にわかってんの? 偶々たまたまボクが来なかったら、間違いなく死んでたんだよ? それなのに、そんなにあっさり許すの? バッカじゃない!?」
「はは····。いいんだよ、今は」

 俺自身、怒ってないのが不思議だ。それだけ気持ち良かったからなのか? 違う。朦朧とする意識の中で見た、ヴァニルの冷ややかな目や容赦ない攻めに興奮したのだ。あのまま死んでもいいと思ってしまうほど、俺は快楽に溺れていた。
 そんな自分を知りながら、ヴァニルだけを責める事などできない。

「なぁ····。お前らさぁ、もしも俺にヴァールスの能力が無かったら、俺に興味持ったか?」

 何を、らしくない質問をしているのだろうか。

「そんなこと知らないよ。くだらない。体質は偶々都合が良かっただけ。今はお前に興味があるんだからいいでしょ」
「ヌェーヴェル、貴方が思っているほど私達は無情ではないのですよ。もしもの話は不毛です。私達は今、貴方に惹かれてここに居るのですから」

 何を不安に思ったのかも、何故こんな事を聞いたのかもわからない。それでもこいつらの想いを感じるようになってからは、それを失くしてしまうのが嫌だってことはわかる。この気持ちに名前はつけられないのだろうか。なんだかずっとモヤモヤしているんだ。
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