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10 妖精の果樹園
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春休みが明けて。
アリスは新しい制服を着て、馬車に乗っている。
隣には、高貴な正装をしたジェラルドが座っている。
あれからジェラルドは、正式な婚約者としてベリー伯爵家に棲み続け、アリスを存分に愛でつつ、事業を再興していた。
滞納していた学園の授業料も一括で支払える事となり、今日ここに、父の代理人として、アリスに付き添っている。
「だからって、学園にジェラルドが来るなんて」
「授業料の支払いだけでなく、利息代わりの寄付と、治癒の未来について、学園長とお話があるのでね」
「神隠しの神童が現れたら、みんなびっくりしちゃうと思うけど……」
アリスの心配を乗せた馬車は学園に着き、ジェラルドはお姫様のようにアリスをエスコートして、学園長室に向かった。
案の定、学園長並びに教師達は全員がジェラルドが現れた事に驚愕し、治癒の未来についての高説を、背筋を正して聞いた。
学園長室を出て、ジェラルドがアリスを教室に送る最中に、廊下は騒然としていた。あの貧乏貴族の落第生のアリスが、まるで春休みデビューを果たしたかのように艶やかなお嬢様になって、しかも有り得ないほど美しい貴公子を連れている。
嬌声の中から、棘のある笑い声が聞こえた。
アリスが振り返ると、そこにはベサニーとビヴァリー姉妹が仁王立ちしていた。苛立ちから、顔が引きつっている。
「ベリー伯爵家は金脈を当てたらしいわね。まるで成金じゃない。お金で男も雇ったのかしら?」
アリスは何がなんでも蔑みたい姉妹の根性に、ある意味感嘆してしまったが、ジェラルドはアリスを庇うように、姉妹の前に歩み出た。姉妹はビクッと目を丸くして、ジェラルドを見上げている。
「失礼。私の大切な婚約者と、お義父様になられるベリー伯爵を侮辱する事は許さない。私はジェラルド・オルブライト。貴方がたのお名前も教えて頂こう」
オルブライトの名は、聖女を目指す生徒なら誰でも知っている。侯爵家の者に悪名として家名を問われるのは、これ以上なく不味い事だ。姉妹は真っ青になると、ジェラルドの軽蔑の眼差しと、周囲の好奇の目に縮むように小さくなって、スゴスゴと後退した。
「あ、あら……ごめんあそばせ……ちょっとした冗談でしたのよ。オホホ……」
尻つぼみの言い訳を残して、退散してしまった。
アリスはジェラルドの腕を掴んで、こちらに向かせる。
ジェラルドは途端に優しい顔に戻っていた。
「愛しいアリス。授業が終わったら、迎えに行くよ」
「帰ったら、ジャガイモのグラタンを作るから。みんなで待っててね」
ジェラルドは嬉しそうに微笑んで、アリスの頬にキスをした。
ベリー伯爵家の庭は豊かな森の果樹園となって、苺や葡萄、オレンジなど、色とりどりの魔法の実を咲かせている。
いつしかここは、幸せを呼ぶ妖精の果樹園と、人々に呼ばれるようになっていた。
おわり
アリスは新しい制服を着て、馬車に乗っている。
隣には、高貴な正装をしたジェラルドが座っている。
あれからジェラルドは、正式な婚約者としてベリー伯爵家に棲み続け、アリスを存分に愛でつつ、事業を再興していた。
滞納していた学園の授業料も一括で支払える事となり、今日ここに、父の代理人として、アリスに付き添っている。
「だからって、学園にジェラルドが来るなんて」
「授業料の支払いだけでなく、利息代わりの寄付と、治癒の未来について、学園長とお話があるのでね」
「神隠しの神童が現れたら、みんなびっくりしちゃうと思うけど……」
アリスの心配を乗せた馬車は学園に着き、ジェラルドはお姫様のようにアリスをエスコートして、学園長室に向かった。
案の定、学園長並びに教師達は全員がジェラルドが現れた事に驚愕し、治癒の未来についての高説を、背筋を正して聞いた。
学園長室を出て、ジェラルドがアリスを教室に送る最中に、廊下は騒然としていた。あの貧乏貴族の落第生のアリスが、まるで春休みデビューを果たしたかのように艶やかなお嬢様になって、しかも有り得ないほど美しい貴公子を連れている。
嬌声の中から、棘のある笑い声が聞こえた。
アリスが振り返ると、そこにはベサニーとビヴァリー姉妹が仁王立ちしていた。苛立ちから、顔が引きつっている。
「ベリー伯爵家は金脈を当てたらしいわね。まるで成金じゃない。お金で男も雇ったのかしら?」
アリスは何がなんでも蔑みたい姉妹の根性に、ある意味感嘆してしまったが、ジェラルドはアリスを庇うように、姉妹の前に歩み出た。姉妹はビクッと目を丸くして、ジェラルドを見上げている。
「失礼。私の大切な婚約者と、お義父様になられるベリー伯爵を侮辱する事は許さない。私はジェラルド・オルブライト。貴方がたのお名前も教えて頂こう」
オルブライトの名は、聖女を目指す生徒なら誰でも知っている。侯爵家の者に悪名として家名を問われるのは、これ以上なく不味い事だ。姉妹は真っ青になると、ジェラルドの軽蔑の眼差しと、周囲の好奇の目に縮むように小さくなって、スゴスゴと後退した。
「あ、あら……ごめんあそばせ……ちょっとした冗談でしたのよ。オホホ……」
尻つぼみの言い訳を残して、退散してしまった。
アリスはジェラルドの腕を掴んで、こちらに向かせる。
ジェラルドは途端に優しい顔に戻っていた。
「愛しいアリス。授業が終わったら、迎えに行くよ」
「帰ったら、ジャガイモのグラタンを作るから。みんなで待っててね」
ジェラルドは嬉しそうに微笑んで、アリスの頬にキスをした。
ベリー伯爵家の庭は豊かな森の果樹園となって、苺や葡萄、オレンジなど、色とりどりの魔法の実を咲かせている。
いつしかここは、幸せを呼ぶ妖精の果樹園と、人々に呼ばれるようになっていた。
おわり
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