お嫁に行けないワケあり令嬢は辺境伯に溺愛される

石丸める

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3 お嫁に行けない

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 舞踏会の日。

「なんて美しい……」

 フレドリックは息を飲んだ。白い頬が薔薇色になって、ますます中性的だ。
 ルイザは丁寧にドレスを摘んで、優雅に挨拶をした。

「ルイザ・アシュバートンです。お会いできて光栄ですわ」

 互いに何度か見かけた事はあるが、フレドリックとルイザは親密に会話をした事は無い。婚約者として今日この日に顔を合わせたが、出だしは好印象のようだった。
 シックで落ち着いたドレスはルイザの毅然とした美しさを引き立たせて、凛とした麗しい薔薇のようだ。

 その姿を、両親も他の貴族に挨拶をしながら、遠くから見守っていた。

 生活魔法を封印したルイザは穏やかに舞踏会を過ごした。
 視界には、他の令嬢達がスマートにシャンパンを冷やしたり、パイを温めたりと、甲斐甲斐しく振る舞っている姿がある。素敵なお嬢様である事をアピールする場であるが、ルイザはにこやかに眺めるだけにした。生活魔法を封じた以上、フレドリックがぬるいシャンパンを飲んでいても、見ないフリをするしかない。それでもフレドリックは、ルイザの美しさに見惚れているようだった。

 無難にお淑やかな会話をしながら、令嬢達が作ってくれたシャーベットを手に、ルイザは何気なく、タワーのように大きなケーキを眺めた。その瞬間。テーブルの足元で、子供がドレスを踏んで転び、台座に衝突した。

「あっ!!」

 という間にタワーケーキは不気味に揺らめいて、貴婦人達の頭上に倒れ掛かっていた。重量のあるケーキはまるで落石のように降り注ぎ、生活魔法で浮かせるには、それは重すぎた。

 ドシィ!ビシィ!

 轟音が鳴って、誰もが身を屈めて、頭を抱えた。
 続いて地割れのような音が響いて鳴り止み、全員がそっと、タワーケーキの行方を見上げた。

 そこには恐ろしい景色があった。

 まるで怪物の牙のように、巨大な氷柱がタワーケーキを貫き、テーブルを凍らせ、舞踏会の半分が氷で覆われていた。
 ケーキは斜めの状態で時を止めて、幾本もの氷柱で遮られていた。

 その直下にいた貴婦人達は「ヒイッ」と声を上げて、氷柱を凝視している。
 全員が、次いでルイザを振り返った。
 掌を翳しているルイザの、もう片方の手にあったシャーベットが爆発し、巨大な氷を作り出していた。

 ……やっ……ちゃった……。

 そっと隣のフレドリックを見ると、そこにはおらず、地面にへばりついて、腰を抜かしていた。蒼白の涙目で、首をブルブルと振っている。

「ヒイィ、無理だ……こんな婚約者、無理……」

 蚊の鳴くような婚約破棄に、ルイザは動揺を隠したまま毅然と優雅な挨拶をして、踵を返した。これ以上、怪物を見るような好奇な目に晒されるのは、耐え難かった。明日のゴシップはもっと盛り上がるだろう。こんな暴力令嬢はもう、お嫁になど行けない。

 急激に絶望と孤独が押し寄せて、颯爽と舞踏会を後にしながら、瞳には涙が滲んでいた。
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