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4 独眼の貴公子

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 宮廷から出ていくルイザは涙で視界が霞んで、
 ドン!と、思い切り人にぶつかった。

「ふがっ!」

 令嬢らしからぬ声を上げてしまって、慌てて相手を見上げた。
 それは見かけた事の無い、背が高く端正な体付きの男性だった。高貴な装いをしているが、まるで軍人のような身体だ。
 逞しい胸に抱きついた状態から焦って離れようと腰を反らすと、目前には赤く燃えるような切れ長の瞳が、こちらを見下ろしていた。だが、片目は黒髪の下に黒い眼帯をしていて、独眼だ。

「し、失礼しました!」

 ルイザは今まで出会った事の無い、ワイルドな風貌の貴公子に、照れと恥ずかしさで真っ赤になって駆け出そうとしたが、すぐにガッシリと、両肩を掴まれていた。

「いた……ルイザ!君はルイザだろう!?」
「え!?」
「俺は君を探しに来たんだ!俺だよ、俺!」

 いや、俺と言われても、ルイザには初対面としか思えなかった。

 逞しい貴公子は切れ長の瞳を嬉しそうに緩ませて、笑顔になった。

「ほら、子供の頃に、宮廷で飯にがっついてた俺を、後ろからぶっ飛ばしただろ!?」

 ルイザは頭が真っ白になった。あのトラウマが蘇る。
 あの時に何メートルもぶっ飛ばして、気絶をさせた少年……。
 ルイザは即座に土下座をしたい衝動に駆られたが、肩をガッシリと掴まれていて、動けない。

「も、も、申し訳ございません!わ、私がやりましたぁ!」

 まるで懺悔するように泣き叫んで、さらに彼の独眼にハッとする。

「そ、その眼はまさか、私のせいで!?」

 逞しい貴公子はキョトンとした後、豪快に大笑いした。

「わはは!違うよ!これは魔獣退治で不覚にもやられた傷だ!」

 ひとしきり笑った後、キリッと顔を引き締めて、ルイザを見下ろした。

「失礼。俺はクライド・バリントン。辺境で魔獣退治をしている」

 ルイザは蒼白な顔を真っ青にした。
 バリントン家といえば、我が国の境界を魔獣の地から守護する、ブラックフォレスト辺境伯の一家だ。代々強大な魔法力を持つ武闘派である。そんな位の高い辺境伯のご子息をぶっ飛ばしたのだとは、当時5歳のルイザは知らなかった。
 地面に額を擦り付けて土下座したかったが、依然、肩は掴まれたままの上に、さらに力強く、ハグされていた。

「ルイザ!会いたかった……!俺は君にぶっ飛ばされてから、ずっと君を想っていた。だけど厳格な父に、ぶっ飛ばされて情けないままの自分で、想い人に会いに行ってはいけないと言われた。だから父との約束通り、魔獣を100匹倒したんだ。俺はルイザに会っても恥ずかしくないくらいに、鍛えてきたよ」

 自分をぶっ飛ばした女の子を想うのは変だし、お父様の理屈と約束も変だし、抱きしめられて上せているしで、ルイザは沈黙のまま固まってしまった。
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