いつか愛してると言える日まで

なの

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遠くへ…

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気づいたら僕は1人部屋の病室で横になっていた。

病室には結城先生と誠おじさん、郁人がいた。郁人は目を真っ赤にして「大丈夫?」と言ってくれた。起きあがろうとしたが身体に力が入らない。ただ僕の首には包帯が巻かれているような感じがあった。

あー僕は奏と番になったんだ…行為の最中はあまり覚えていないけど、お互い慣れない行為をしながらも愛し合ったことは確かだ。幸せな行為だったと浸っていたら結城先生から真剣な顔で「純平くんは、奏くんに頸を噛まれて番になったんだけどわかる?」と聞かれた。

「はい…覚えてない事も多いけど。」
恥ずかしかったがそう答えたが結城先生は顔を曇らせながら「奏くんはその…した事、頸を噛んで純平くんを番にした事を覚えていないの…」


頭の中にはてながたくさん浮かんだ。僕とのセックスを忘れたの?捨てないでって言ったのに…何度も捨てないよってオレのオメガだって言ってくれたのに…

「どういう事ですか?」震える手を硬く握りしめて質問した。

「奏くんは初めてのヒートに当てられて興奮状態で意識を失ってたの。でもね…倒れた場所に頭を打ちつけてしまったみたいで…その時の記憶がないの。」
 

「…奏は…大丈夫なんですか?」 

「大丈夫よ。その事だけ覚えていないだけで、あとはなんともないから…これから心配なのは純平くんの方だよ。」

「えっ…」

「純平くんは奏くんと番になったでしょ。オメガは3ヶ月に1度ヒートが来る。薬でコントロールできるかわからないけど…番がいるオメガは番にしか反応しない。他のアルファに触られたりすると嫌悪感けんおかんを起こすの。これから先、番以外の人とセックスできない体なの。ヒートの時には体の興奮は抑えられなくて番とできない場合は自分で処理しないといけなくなるの。いつ奏くんが記憶を取り戻すかもわからないわ…」

何も言えなかった。僕がヒートにならなければ、僕のヒートで奏があの部屋に入らなければ…

「純平…僕、奏の所みてくるよ。きっと純平とのこと思い出すよ。だってずっと純平のこと好きって言ってた奴だよ。それなのに、そんな大事なこと忘れちゃうなんて、そんな事、僕許さないから」そう言って郁人は部屋を出て行った。




◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆





あれから1週間、奏の事が心配になりながらも僕はいつまたヒートが起こるのか心配だった。郁人はあれから何も言ってこない。きっと奏は僕とのことなんて忘れてしまったんだろう。
頸に手を当てると、あの時の事が頭に浮かんでくる。奏に愛されてると思っていたのに…どうして…


「トントントン…」控えめにドアがノックされた。「はい…」誰だろう?と思いながらドアを見つめていると隙間から顔を出した奏がいた。

「元気だった?」「俺も少し入院しちゃってて。」「かっこ悪いだろ?頭打ったみたいなんだぁー覚えてないけどっ」って…笑ってた。


「奏…僕の事、ちゃんと覚えてる?」

「うん?純平の事は覚えるに決まってるだろー何言ってんだよ。」笑って答えてくれた。その言葉に安心してた。それなのに…

僕の頸を指差して
「…純平…?それなに?お前いつの間に誰と番になったの?」

「っ…えっ…」

「いつも来てる、あの先生?純平がおじさんって言ってた…それとも別の人?だからこんな個室にいるの?今まで大部屋だっただろう。俺たちまだ中学生なのに、お前なんで番なんて…おかしいだろ。早すぎるよお前、そんな奴だったなんて信じられない。」 

「その先生がそんなに好きだったのかよ?いつから?いつ番になんかなったんだよ。まだ中学も卒業してないのに…最低だな。」

「純平のバカヤローお前なんていなくなればいい」

怒鳴りながらバタバタと走って部屋から出ていってしまった。僕の言葉を何も聞かないで…
 
奏なのに…僕の番は奏だよ。僕の頸を噛んだのは奏なのに…それなのに…忘れていた涙がいくつもいくつも布団にシミを作っていった。


涙が枯れた頃、僕はそっとベッドから降りた。
奏に忘れられた。最低って、バカヤローっていなくなればいいって言われちゃった…もういいや。どこか知らない所に行こう。奏に会えない場所に…中学も卒業していない僕だけど、きっとどうにかなる。僕がいなくなっても大丈夫。あんなに怒った奏を見たのは初めてだった。

奏と番だよ。そう言ってもきっと信じてもらえない。心がギシギシと音を立てて壊れていくようだ。

とにかくどこか知らない所に行こう。みんなに会えない所に…
結城先生から、たまにはお菓子でも買いなさい。とお小遣いをもらっていたお金を持って、そっと病院を出た。

ドキドキしながら駅に着いた。誰にも会わずに抜け出せた。持ってるお金で遠くまでの切符を買い知らない駅に着いた。駅に着くと海の匂いがした。その匂いを頼りに歩いた。風が冷たくて、身体の芯から冷えてきた。
     

もう生きててもいい事なんかない。お母さんはどうして僕も一緒に連れてってくれなかったの?死んだら楽になるのかな?番なんてやっぱりなるもんじゃなかった。
この海に入ったら楽になれるかな?そう思って一歩を踏み出すと…



「何してるの?もしかして死のうとしてる?」綺麗な男の人が近づいてきた。

「どこからきたの?まだ中学生くらい?」
「オレ健太。そこの施設にいるんだよ。」次から次へと質問された。

「施設…?」

「そう。オレね、番に捨てられて、この海で死のうとしてる所を助けてもらったの」

「…番」

「きみにもあるね。それ噛まれた跡でしょ。まだ赤いからそんなに時間たってないのかな?事故で番になった?それとも何かあるの?」

「違います。僕は…」

「無理に話しなくていいよー言いたくない事なんていっぱいあるから。でもここの施設はそんなオメガがいっぱいいるんだ。もし行くとこないなら一緒に行こう。」

健太さんに手を握られた。
「冷たー。いつからいたの風邪ひくよ。早く早く…」
そう言いながら、引っ張って施設の中に連れてってくれた。

純平は健太に連れられ施設に入ると、みんなは新しい仲間の純平を可愛がってくれた。

ここのみんなは健太のように番に捨てられた人、急にヒートになって知らない人に番にされた人、番が亡くなって本当なら噛み跡も消えるのに、消えないで残ってしまった人…
色んな思いをみんな抱えて、でもみんなヒート以外の時には幸せそうに笑っていた。
ここの施設長も番に捨てられた1人だった。運命の番に会って結婚したのに幸せになれなかった…と話してくれた。

施設に来てからすぐに純平の2回目のヒートがきた。ヒートを軽減する薬も効きづらく、グスグスになった蕾に指を入れても、腫れ上がるまで陰茎を擦っても、番を求めて埋まることのない疼きに1人で耐えるしかなかった。会いたい…でも会えない…そう思いながらヒートを耐えていた。
白濁を出しても出しても収まらず自分ではどうにもならなく、毎回自分の身体を掻きむしったりして傷を作っていった。

「また今回も大変だったね?」
「薬塗るよ」
健太に声をかけられた。僕のヒートが酷いのを知ってる健太は毎回来てくれ、ヒート中も水分や食事を持ってきてくれる。

「はい。終わったよ」
「今回も派手に傷つけたね」そう言って笑ってた。
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