最強賢者のスローライフ 〜転生先は獣人だらけの辺境村でした〜

なの

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隣国から来た騎士と、壊れかけた記憶

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……その声を聞いた瞬間、心臓が強く、軋んだ。

「辺境の村に、人間の賢者が現れたと聞いたもので」

その男は、白銀の甲冑を纏い、完璧すぎるほど整った立ち居振る舞いで現れた。
背筋は真っ直ぐ、だが視線は冷たく澄んでいた。

「私は、ルクシア王国近衛騎士団所属、ハルト=ヴェルグ。国王陛下の命で、こちらにご挨拶を」

……なんで、お前がここにいるんだよ。

心の奥に、冷たい雨のような記憶がぶわっと広がった。
報告書の山、夜明け前の電車、目の下のクマ。パソコンを叩く隣に、いつも無表情で座っていた男。 

「……佐伯……陽斗……?」

ぼそりとこぼれた名前に、ハルトの瞳が一瞬だけ揺れた。

「……その名で呼ばれたのは、随分と昔のことですね」

「……お前も、転生してたのか」

「まさか君も、こっちに来ていたとは思わなかったよ」

にこりともしない笑顔。けれどその言葉の端には、皮肉とも、寂しさともつかない感情が滲んでいた。

*** 

話を聞けば、ハルトは王都からの命令で、周辺の村々の安全確認と、領地拡張の打診に来たらしい。
だが……明らかに、俺に用がある目をしていた。

「君は……変わったね。昔よりもずっと、柔らかい顔をしてる」

夕方の村の広場。二人で並んで腰掛けた切り株の上。
ライガが不在の今、俺は妙に落ち着かなかった。

「ここは……あたたかい。俺みたいな奴でも、生きていける」

「……羨ましいな、君は。いつだって、どこにいても正解みたいな顔をして」

「そんなことない。俺は、何もわかってなかったよ……生きるってことも、笑うってことも」

言葉にした瞬間、胸の奥がほんの少し軽くなった。
けれど、隣のハルトは、俯いたまま黙っていた。

「君は、ずるいよ」

ぽつりとこぼされたその言葉は、どこか子供のようだった。

「俺は、ずっと君に勝ちたかった。追いつきたかった。でも君は、どこへ行っても先にいて、笑っていて……」

「……それが悔しかったんだな」

「そうだよ。悔しかった。ずっと、ずっと……」

俯いたままの彼の手が、わずかに震えていた。

「でも……もういい。君の邪魔はしない。ただ知りたかった。君が、この世界で、ちゃんと生きてるのかどうか」

その目に映った俺は、果たしてどうだったんだろう。
でもきっと、少なくとも今は、笑えてる。前よりずっと、素直に。

「……今度は、君も誰かに笑ってもらえるといいな」

ハルトはその言葉に、ほんの少しだけ眉を下げた。その表情は、初めて見る陽斗の顔だった。

*** 

ハルトは一晩だけ村に滞在し、翌朝には静かに立ち去った。
見送りに来たライガが、俺の隣に立ってぽつりと呟いた。

「……昔の仲か?」

「うん。会社の同僚だった。……お互い、壊れかけてたけど」

「……それでも、今のお前は、悪くない顔してる」

「……ありがとう」

背中にあった痛みが、少しだけ和らいだ気がした。
この世界は、過去から逃げられないけど、過去を越えていくことは、できるのかもしれない。

俺の日常は、静かに、それでも確かに続いていく。

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