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スローライフ編
風に乗った手紙
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春の風が、まだ少し冷たい。
智也は縁側で洗濯物をたたみながら、柔らかな陽差しに目を細めていた。そよぐ木々の音、裏で聞こえる薪を割るリズム、遠くで鶏が鳴く声。どれもが静かに心を満たし、穏やかな日々を実現させてくれる。
そんなとき、風を切って村の少年が駆け足でやってきた。
「ともやーっ!手紙!道に落ちてた~!」
「……手紙?」
智也は眉をひそめつつ受け取った。
でも封筒の裏に記された文字を見た瞬間、胸の奥にざわめきが広がった。見覚えのある筆跡で、こう書かれていた。
「かつての弟子より」
ゆっくりと封を開ける。紙の手触りが、なぜか震える指にそっと馴染んだ。
『先生、ライガ。おふたりは元気にしていますか。
貴方に先生と呼びかける資格が、今の私にあるかはわかりません。それでも、この名で始めることを、どうしても選びたかった。
私はすべてを憎んでいました。人間も、獣人も、そして……先生さえも。
けれど、先生とライガが私に向けてくれた光は、確かに心に届いていました。
あの夜のことを、私は決して忘れません。
光の中で先生が差し伸べてくれた手の温もりを。
ライガが私を見捨てなかった眼差しを。
私のなかの全てが赦されたわけじゃありません。
それでも、あの光に包まれたとき、やっと一歩目を踏み出せた気がしました。
私は今、名を捨て小さな町で人を癒やす術を学びながら、小さな診療所で働いています。
病を癒すことしかできないけれど、それでも、目の前の人の痛みに寄り添うことだけは、できるようになりました。
罪は消えませんし、許されるつもりもありません。
けれど、それでも私は自分自身にだけは嘘をつきたくなかった。あの光が本物だったと証明したい。
先生どうか、あの日の光が貴方の中で消えずにありますように。
過去に奪ったものは、何一つ取り戻せない。けれど今の私は、誰かの「痛い」を癒すことで、もう一度人を信じてみたいと思えるようになりました。
この手紙を書いてるのは、言い訳でも、許しを乞うためでもありません。ただ、先生に伝えたくて書いています。先生があの日、私に差し出してくれた光が確かにここまで届いたということを。
先生が選んだ道に、どうか穏やかな朝が続きますように。ライガが、先生の隣でずっと笑っていられますように。どうかお幸せに。
いつかまた、会えたときには、そのときには、まっすぐに目を見て……ありがとうって言わせてください。
かつての弟子より』
手紙を読み終えた智也は、しばらくそのまま動けなかった。
筆跡ににじむ震え、言葉の端々に滲む孤独と決意。
間違いない。あれは……かつての弟子、セリオスの手だった。
「智也?」
いつの間にか、ライガが隣に立っていた。
「……セリオスからだよ。診療所で……人を癒してるって」
そう言って、手紙を渡した。ライガは黙って最後まで読み通し、静かに息を吐いた。
「……やっと、あいつ、自分の足で立てたんだな」
「うん。でも、きっと簡単じゃない。……誰にも頼らず、ひとりでいるんだから」
「独りじゃないさ。たとえ遠くにいても、もうあいつには繋がりがある。……お前が灯してやったんだ」
ライガの手が、そっと智也の肩を抱いた。
「……俺も、後悔ばっかりだった。あの頃を思い出すと、許されないって思ってた。でも、こうして今、お前がそばにいてくれる。それが……救いになってる。だから信じたい。セリオスにも、そんな今がくるって」
罪は消えない。
過去も消えない。
けれど、それでも……今を大切にできる誰かがいるなら。何度でも、何度でも人は立ち上がれる。
智也とライガは静かに寄り添い、遠い空に想いを馳せた。
いつかきっと、この手紙をくれた弟子と、また笑い合える日が来るように。
春の風が、またふたりの頬を撫でた。
智也は縁側で洗濯物をたたみながら、柔らかな陽差しに目を細めていた。そよぐ木々の音、裏で聞こえる薪を割るリズム、遠くで鶏が鳴く声。どれもが静かに心を満たし、穏やかな日々を実現させてくれる。
そんなとき、風を切って村の少年が駆け足でやってきた。
「ともやーっ!手紙!道に落ちてた~!」
「……手紙?」
智也は眉をひそめつつ受け取った。
でも封筒の裏に記された文字を見た瞬間、胸の奥にざわめきが広がった。見覚えのある筆跡で、こう書かれていた。
「かつての弟子より」
ゆっくりと封を開ける。紙の手触りが、なぜか震える指にそっと馴染んだ。
『先生、ライガ。おふたりは元気にしていますか。
貴方に先生と呼びかける資格が、今の私にあるかはわかりません。それでも、この名で始めることを、どうしても選びたかった。
私はすべてを憎んでいました。人間も、獣人も、そして……先生さえも。
けれど、先生とライガが私に向けてくれた光は、確かに心に届いていました。
あの夜のことを、私は決して忘れません。
光の中で先生が差し伸べてくれた手の温もりを。
ライガが私を見捨てなかった眼差しを。
私のなかの全てが赦されたわけじゃありません。
それでも、あの光に包まれたとき、やっと一歩目を踏み出せた気がしました。
私は今、名を捨て小さな町で人を癒やす術を学びながら、小さな診療所で働いています。
病を癒すことしかできないけれど、それでも、目の前の人の痛みに寄り添うことだけは、できるようになりました。
罪は消えませんし、許されるつもりもありません。
けれど、それでも私は自分自身にだけは嘘をつきたくなかった。あの光が本物だったと証明したい。
先生どうか、あの日の光が貴方の中で消えずにありますように。
過去に奪ったものは、何一つ取り戻せない。けれど今の私は、誰かの「痛い」を癒すことで、もう一度人を信じてみたいと思えるようになりました。
この手紙を書いてるのは、言い訳でも、許しを乞うためでもありません。ただ、先生に伝えたくて書いています。先生があの日、私に差し出してくれた光が確かにここまで届いたということを。
先生が選んだ道に、どうか穏やかな朝が続きますように。ライガが、先生の隣でずっと笑っていられますように。どうかお幸せに。
いつかまた、会えたときには、そのときには、まっすぐに目を見て……ありがとうって言わせてください。
かつての弟子より』
手紙を読み終えた智也は、しばらくそのまま動けなかった。
筆跡ににじむ震え、言葉の端々に滲む孤独と決意。
間違いない。あれは……かつての弟子、セリオスの手だった。
「智也?」
いつの間にか、ライガが隣に立っていた。
「……セリオスからだよ。診療所で……人を癒してるって」
そう言って、手紙を渡した。ライガは黙って最後まで読み通し、静かに息を吐いた。
「……やっと、あいつ、自分の足で立てたんだな」
「うん。でも、きっと簡単じゃない。……誰にも頼らず、ひとりでいるんだから」
「独りじゃないさ。たとえ遠くにいても、もうあいつには繋がりがある。……お前が灯してやったんだ」
ライガの手が、そっと智也の肩を抱いた。
「……俺も、後悔ばっかりだった。あの頃を思い出すと、許されないって思ってた。でも、こうして今、お前がそばにいてくれる。それが……救いになってる。だから信じたい。セリオスにも、そんな今がくるって」
罪は消えない。
過去も消えない。
けれど、それでも……今を大切にできる誰かがいるなら。何度でも、何度でも人は立ち上がれる。
智也とライガは静かに寄り添い、遠い空に想いを馳せた。
いつかきっと、この手紙をくれた弟子と、また笑い合える日が来るように。
春の風が、またふたりの頬を撫でた。
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