文字の大きさ
大
中
小
11 / 17
第四章 優しさのその先で、きみに触れる
過去の痛みが繋いだ想い
「……俺は捨てられたんだ」
ぽつりと落とされたその言葉に悠真の心臓がひとつ跳ねた。
「親にな。家も金も全部なくなった」
苦笑しながら語る鷹臣は、どこか遠く過去を見つめているようだった。
そして急に立ち上がり部屋の引き出しから色あせた写真を1枚取り出した。その写真には俺と出会ったころの鷹臣の姿と、若い男――鷹臣よりも目は鋭くも穏やかそうな顔をしている人だった。
「……これ、誰……?」
思わず訪ねた声は自分でも驚くほど小さかった。
「……兄貴だ。血は繋がってねぇけどな」
「え?」
鷹臣がゆっくりと煙草に火をつけた。まるで何かを誤魔化すように。
「あんときの俺を拾ってくれたのが兄貴だった。あの人がいなかったら俺は多分……今ごろどこかで野垂れ死んでた。血の繋がりはねぇけど俺にとっては本物の兄貴だった」
「……その人、今は?」
重い沈黙が流れて、やがて鷹臣はかすれた声で答えた。
「もう、いねぇ……俺を庇って死んだ。守れなかった。守りてぇって思った人だった。いつも俺のこと「弟」って言ってくれてさ「お前は変われる」って毎日言ってくれた。厳しくて、でも理不尽なところもあった人だったけど、いつも、どんなときも俺を「弟」として扱ってくれた。
手の出し方も、優しさの出し方も分かんねぇ俺に「痛みを知ってる奴ほど人に優しくなれるんだ」と教えてくれた人だった。
ケンカはしてもいい。でも殺すな。どんな相手でもお前が壊れたら終わりだ。お前がいなくなったら、俺はまたひとりになるからってさ。
家族ってのは血じゃねぇ……失いたくないって思ったときに初めて絆が生まれるんだ……って。その言葉が今でも心に残って兄貴の声が耳に焼きついて離れねぇ」
煙が、ゆっくりと天井へ立ちのぼっていくのを、どこか遠くを見ていている横顔は悠真の知らない目をしていた。
「……」
「兄貴が死んで、自分を責めた。俺のせいで兄貴が死んだって……
ヤクザなんて、やっぱりろくな世界じゃねぇって思った。だけど結局は、そこしか俺の居場所はなかった。
だからお前の前から姿を消した。でも本当はさ……会いたくて、会いたくて、どうしようもなかったんだよ。
忘れらんなかった。忘れたく……なかった。笑ってる顔も、泣いてた顔も……全部。
だけど俺が入った世界は汚れてる。
誰かを守ろうとしても守りきれないことのほうが多い。そんな場所にお前を巻き込みたくなかった。
あの頃の俺は誰かを守れるほど強くなかった。自己満足で、お前を引きずり込むのが怖かった。
だから、せめて、お前が笑っていられる場所にいてくれたらって……ただ、見てることしかできなかった。
けど……
だんだんお前が壊れかけていくのを見て、そんな言い訳通じなくなった。放っておくことなんてできなかった。
遠くから見てただけの俺に、お前を救う資格なんてあるのかって思ったよ。やっぱりあの時、ずっとそばにいればよかったって何度も後悔した。
守りたかった。お前を……独りにさせたくなくて……でも結局、あんときのお前をほっとけなくて自分の側に置いちまった。悪い」
その言葉にどれだけの葛藤や孤独を抱えて生きてきたのか痛いほどに伝わってきた。罪悪感も後悔も俺への愛しさも全部背負って……
悠真は気づけば手のひらに爪を立てていた。自分がずっと責めていた相手は自分を守るために消えたんだとわかったから。
「バカだよ……鷹臣……」
悠真の震える声が漏れた。
「そんなの……最初から全部言ってくれたらよかったのに……っあんたのこと忘れたことなんてなかった」
鷹臣が目を見開いたときには悠真はその胸に飛び込んでいた。涙がシャツに染み込んでいく。
「ずっと……ずっと、探してたんだ……公園にもあれから毎日行って……でも、いなかった……っ見つけられなくて怖かった。鷹臣に会ったのは夢だったんじゃないかって……!」
「……悠真」
「なんでだよ……なんで、俺のそばにずっと、いてくれなかったんだよ……!」
その問いに鷹臣は悠真の頭をぐいっと引き寄せた。
「……悪い」
抱きしめる腕も声も震えていて悠真は何も言わずに鷹臣の胸に顔をうずめていた。
「でも……今なら、言える」
「……?」
「悠真、お前は……俺にとって初めて“守りたくなった”存在だ」
耳元で囁かれた声に悠真の鼓動が跳ねた。
「だから今度こそ手放さねぇ。もう二度と離れねぇ。お前だけは守る……絶対に」
小さく、けれど確かな決意のこもった言葉だった。
「絶対にもう、どこにも行かないで」
あの頃、言えなかった言葉がこぼれた。
「あたりめぇだ」
こうしてやっと過去の痛みと向き合えたふたりの心には小さな灯がともった。
それは確かに、未来へと続く光だった。
夜の静けさに溶けるように、悠真の涙が静かに鷹臣の胸を濡らしていた。
ぽつりと落とされたその言葉に悠真の心臓がひとつ跳ねた。
「親にな。家も金も全部なくなった」
苦笑しながら語る鷹臣は、どこか遠く過去を見つめているようだった。
そして急に立ち上がり部屋の引き出しから色あせた写真を1枚取り出した。その写真には俺と出会ったころの鷹臣の姿と、若い男――鷹臣よりも目は鋭くも穏やかそうな顔をしている人だった。
「……これ、誰……?」
思わず訪ねた声は自分でも驚くほど小さかった。
「……兄貴だ。血は繋がってねぇけどな」
「え?」
鷹臣がゆっくりと煙草に火をつけた。まるで何かを誤魔化すように。
「あんときの俺を拾ってくれたのが兄貴だった。あの人がいなかったら俺は多分……今ごろどこかで野垂れ死んでた。血の繋がりはねぇけど俺にとっては本物の兄貴だった」
「……その人、今は?」
重い沈黙が流れて、やがて鷹臣はかすれた声で答えた。
「もう、いねぇ……俺を庇って死んだ。守れなかった。守りてぇって思った人だった。いつも俺のこと「弟」って言ってくれてさ「お前は変われる」って毎日言ってくれた。厳しくて、でも理不尽なところもあった人だったけど、いつも、どんなときも俺を「弟」として扱ってくれた。
手の出し方も、優しさの出し方も分かんねぇ俺に「痛みを知ってる奴ほど人に優しくなれるんだ」と教えてくれた人だった。
ケンカはしてもいい。でも殺すな。どんな相手でもお前が壊れたら終わりだ。お前がいなくなったら、俺はまたひとりになるからってさ。
家族ってのは血じゃねぇ……失いたくないって思ったときに初めて絆が生まれるんだ……って。その言葉が今でも心に残って兄貴の声が耳に焼きついて離れねぇ」
煙が、ゆっくりと天井へ立ちのぼっていくのを、どこか遠くを見ていている横顔は悠真の知らない目をしていた。
「……」
「兄貴が死んで、自分を責めた。俺のせいで兄貴が死んだって……
ヤクザなんて、やっぱりろくな世界じゃねぇって思った。だけど結局は、そこしか俺の居場所はなかった。
だからお前の前から姿を消した。でも本当はさ……会いたくて、会いたくて、どうしようもなかったんだよ。
忘れらんなかった。忘れたく……なかった。笑ってる顔も、泣いてた顔も……全部。
だけど俺が入った世界は汚れてる。
誰かを守ろうとしても守りきれないことのほうが多い。そんな場所にお前を巻き込みたくなかった。
あの頃の俺は誰かを守れるほど強くなかった。自己満足で、お前を引きずり込むのが怖かった。
だから、せめて、お前が笑っていられる場所にいてくれたらって……ただ、見てることしかできなかった。
けど……
だんだんお前が壊れかけていくのを見て、そんな言い訳通じなくなった。放っておくことなんてできなかった。
遠くから見てただけの俺に、お前を救う資格なんてあるのかって思ったよ。やっぱりあの時、ずっとそばにいればよかったって何度も後悔した。
守りたかった。お前を……独りにさせたくなくて……でも結局、あんときのお前をほっとけなくて自分の側に置いちまった。悪い」
その言葉にどれだけの葛藤や孤独を抱えて生きてきたのか痛いほどに伝わってきた。罪悪感も後悔も俺への愛しさも全部背負って……
悠真は気づけば手のひらに爪を立てていた。自分がずっと責めていた相手は自分を守るために消えたんだとわかったから。
「バカだよ……鷹臣……」
悠真の震える声が漏れた。
「そんなの……最初から全部言ってくれたらよかったのに……っあんたのこと忘れたことなんてなかった」
鷹臣が目を見開いたときには悠真はその胸に飛び込んでいた。涙がシャツに染み込んでいく。
「ずっと……ずっと、探してたんだ……公園にもあれから毎日行って……でも、いなかった……っ見つけられなくて怖かった。鷹臣に会ったのは夢だったんじゃないかって……!」
「……悠真」
「なんでだよ……なんで、俺のそばにずっと、いてくれなかったんだよ……!」
その問いに鷹臣は悠真の頭をぐいっと引き寄せた。
「……悪い」
抱きしめる腕も声も震えていて悠真は何も言わずに鷹臣の胸に顔をうずめていた。
「でも……今なら、言える」
「……?」
「悠真、お前は……俺にとって初めて“守りたくなった”存在だ」
耳元で囁かれた声に悠真の鼓動が跳ねた。
「だから今度こそ手放さねぇ。もう二度と離れねぇ。お前だけは守る……絶対に」
小さく、けれど確かな決意のこもった言葉だった。
「絶対にもう、どこにも行かないで」
あの頃、言えなかった言葉がこぼれた。
「あたりめぇだ」
こうしてやっと過去の痛みと向き合えたふたりの心には小さな灯がともった。
それは確かに、未来へと続く光だった。
夜の静けさに溶けるように、悠真の涙が静かに鷹臣の胸を濡らしていた。
感想 1
あなたにおすすめの小説
若頭の溺愛は、今日も平常運転です
なの『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』続編!
過保護すぎる若頭・鷹臣との同棲生活にツッコミが追いつかない毎日を送る幼なじみの相良悠真。
ホットミルクに外出禁止、舎弟たちのニヤニヤ見守り付き(?)ラブコメ生活はいつだって騒がしく、でもどこかあったかい。
だけどそんな日常の中で、鷹臣の覚悟に触れ、悠真は気づく。
……俺も、ちゃんと応えたい。
笑って泣けて、めいっぱい甘い!
騒がしくて幸せすぎる、ヤクザとツッコミ男子の結婚一直線ラブストーリー!
※前作『ヤクザの恋は重すぎて甘すぎる』を読んでからの方が、より深く楽しめます。
強面男子の純情のゆくえ
枯井からい第二王アンリ子の側近であるミシェルは、彼への恋心をひた隠しにしながら生きてきた。
王子を守るために身体を鍛え続け、誰より大きく逞しい男になって一生側にいようと考えていた。
だが、平民出身で優秀なニコが現れたことで状況が変わっていく。
ミシェルの恋はどうなるのか。
完結済みです。
毎日12:00に1話公開となり、8日は最終2話公開します。
読んで少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです!
よろしくお願いいたします。
公爵家令息の想い人
なこ公爵家の次男リュシエルは、婚約者である王太子ランスロットに全てを捧げていた。
それは目に見える形の献身ではなく、陰日向に尽くす甲斐甲斐しいものだ。
学園にいる間は多くの者と交流を図りたいと言うランスロットの申し出でさえも、リュシエルは素直に受け入れた。
ランスロットは側近候補の宰相令息と騎士家系の令息、そして平民から伯爵家に養子縁組されたリオルに囲まれ、学園生活を満喫している。
彼等はいつも一緒だ。
笑いに溢れ、仲睦まじく、他者が入り込める隙間はない。
リュシエルは何度もランスロットに苦言を呈した。
もっと多くの者と交流を持つべきだと。初めにそう告げてきたのは、ランスロットではないかと。
だが、その苦言が彼等に届くことのないまま、時は流れ卒園を迎える。
学園の卒業と共に、リュシエルは本格的に王宮へと入り、間も無く婚姻がなされる予定だった。
卒業の式典が終わり、学生たちが初めて迎える公式な社交の場、卒業生やその親族達が集う中、リュシエルは誰にもエスコートされることなく、一人ポツンと彼等と対峙していた。
「リュシエル、其方との婚約解消を陛下も公爵家も、既に了承済みだ。」
ランスロットの言葉に、これまで一度も毅然とした態度を崩すことのなかったリュシエルは、信じられないと膝から崩れ落ちた。
思い付きで書き上げました。
全3話
他の連載途絶えている方も、ぼちぼち書き始める予定です
書くことに億劫になり、リハビリ的に思いつくまま書いたので、矛盾とか色々スルーして頂けるとありがたいです
弟の未来と引き換えに、恋人を捨てたはずだった
由香伯爵家長男レオンハルトには、誰にも言えない恋人がいた。
だが父に関係を知られた彼は、弟の恋を守る代償として恋人との別れと政略結婚を選ぶ。
数年後。
王家の養子となった公爵家嫡男として現れたのは、かつて自ら手放した最愛の人エリオットだった。
これは弟のために愛を諦めた男と、捨てられたと思い込んだ男が、失われた恋を取り戻す物語。
ベータだった俺が後天性オメガになったら、幼馴染アルファがもっと過保護になりました
一ノ瀬麻紀ごく普通のベータとして生きてきた村井圭太(むらいけいた)は、ある日突然、希少な「後天性オメガ」に転化してしまう。
不安な日々が始まる……かと思いきや、幼馴染アルファの白河泰雅(しらかわたいが)とはまさかの両思い。早々に『番(つがい)』となり、幸せな日々を送っていた。
「オメガになっても俺は俺」と持ち前のポジティブさで新しい生活に向き合っていく圭太。だが、晴れて番となった泰雅は、今まで以上に過保護になっていく。
どんなトラブルも二人なら大丈夫! ポジティブで男前な元ベータ受けと、過保護で執着強めなスパダリ幼馴染攻め。明るくて幸せいっぱいオメガバース!
初日(6/2)は、7:00に2話、21:00に2話の、計4話更新
月〜木は1日2回 7:00 21:00
金〜日は1日3回 7:00 12:00 21:00
6/19(金)の21:00完結です。
全45話。約11万文字です。
私の大好きなオメガバース。
愛をたくさん詰め込んだので、みなさまにも楽しんでいただけますように🥰
借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます
なの父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。
そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。
「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」
脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……!
高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!?
借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。
冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!?
短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。
『2度目の世界で、あなたと……』 ― 魔法と番が支配する世界で、二度目の人生を ―
なのΩとして生まれたリオナは、政略結婚の駒として生き、信じていた結婚相手に裏切られ、孤独の中で命を落とした。
――はずだった。
目を覚ますと、そこは同じ世界、同じ屋敷、同じ朝。
時間だけが巻き戻り、前世の記憶を持つのは自分だけ。
愛を知らないまま死んだ。今度こそ、本物の愛を知り、自ら選び取る人生を生きる。
これは、愛を知らず道具として生きてきたΩが、初めて出会った温もりに触れ、自らの意思で愛を選び直す物語。
「愛を知らず道具として生きてきたΩが転生を機に、
年上αの騎士と本物の愛を掴みます。
全6話+番外編完結済み!サクサク読めます。