【完結】獣王の番

なの

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第八章:真の獣王と番

第三十一話:新しい国の形

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第八章:真の獣王と番
第三十一話:新しい国の形

ライオネルとユリアンが、互いの命を賭して愛を確かめ合ってから、一月が過ぎた。
獣王国には、以前とは全く違う、新しい国の形が生まれつつあった。

力を失ったライオネルは、もはやかつてのように恐怖と絶対的なカリスマだけで国を支配する王ではなかった。彼は、玉座から降り、ユリアンや宰相グレン、そして時には若手の大臣たちとも円卓を囲んで議論を交わした。
その対話を重んじる姿勢と、長年の経験に裏打ちされた深い知性をもって国を導く姿は、まさに賢王と呼ぶにふさわしいものだった。

一方、ユリアンは、王の番として、そして実質的な国の共同統治者として、その能力を遺憾なく発揮していた。

彼の発案した、被災地への複数年にわたる減税措置や、これまで敵対していたセレスタとの間に、互いの特産品を交換する新しい交易路を開拓する計画は、民の生活を豊かにし、国に新たな活気をもたらした。
その穏やかで慈愛に満ちた人柄は、民衆から絶大な支持を集め、「聖なる番君」として、ライオネル以上の敬愛を集めるようになっていた。

「どうやら、俺よりも、お前の方が、よほど王に向いているらしいな」

ある日の午後、政務室で書類の山と格闘するユリアンの隣で、ライオネルは楽しそうにそう言って笑った。

「そんなことはありません。僕がこうして迷わずにいられるのも、あなたが隣で道を示してくれるからです」

ユリアンは、はにかみながら答える。二人の間には、もう何の壁もなかった。彼らは、王と番として、そして最高のパートナーとして、互いを支え合い、この国を導いていた。

ライオネルが、その深い知識と経験で国の大きな指針を定め、ユリアンが、その細やかな気配りと、常識にとらわれない斬新な発想で具体的な政策を実行していく。それは、力と慈愛、理性と感情が完璧に融合した、理想的な統治の形だった。


そんなある日、二人の元に、大神官セラフィオが訪れた。

「陛下、ユリアン様。お二人の魂を、正式に結びつける『誓約の儀式』の準備が整いました」

それは、ライオネルが戦地へ赴く前に、ユリアンに約束した、古の儀式。
神殿の聖獣たちの前で、二人の魂を永遠に結びつけ、ユリアンが名実ともに、この国の王妃となるための、最後の儀式だった。

「いよいよ、だな」

ライオネルは、ユリアンの手を固く握りしめた。ユリアンもまた、愛しい人の顔を見上げ、こくりと頷く。その青い瞳は、期待と、少しばかりの緊張にきらめいていた。

儀式は、三日後の満月の夜に、執り行われることになった。
その報せは、瞬く間に国中に広まり、獣王国は、まるで建国祭が再び訪れたかのような、祝祭の喜びに包まれた。

儀式の前日。
ユリアンは、一人で城のバルコニーに立っていた。
初めてこの城に来た日、ライオネルに冷たく拒絶された、あの謁見の間を静かに見下ろす。床に磨かれた大理石が、夕陽を反射して物悲しく光っていた。

(……あの時は、こんな未来が来るなんて、夢にも思わなかったな)

人質として、政略の駒として、絶望の中で始まった日々。
だが、あの冷徹な王の隠された優しさに触れ、その孤独を知り、そして、いつしか、どうしようもなく惹かれていた。

「何を、考えている?」

不意に、背後から温かい腕で抱きしめられた。その腕が、まるで世界で一番安全な場所のように感じられる。振り返るまでもない。愛しいライオネルの香りだ。

「……ここに来た、最初の日のことを……。
あなたが、僕を『番など認めぬ』と、拒絶した時のことを、思い出していました」

その言葉に、ライオネルは、ユリアンの肩に顔を埋め、苦しそうに息を吐いた。

「……すまなかった。あの時の俺は、愛することに臆病な、ただの子供だったんだ」

「いいえ。あの拒絶があったからこそ、今の僕たちがいるのです。だから、もう謝らないでください」

ユリアンは、ライオネルの腕の中で、そっと振り返ると、その唇に優しくキスをした。

「……明日の儀式が終われば、お前は、もうどこにも行けなくなるぞ。この国の王妃として、俺の番として、永遠に縛り付けられる」

ライオネルが、悪戯っぽく笑いながら言う。

「望むところです。
僕は、あなたという名の世界で一番甘い牢獄に永遠に囚われていたい」

ユリアンも、幸せそうに微笑み返した。
二人は、どちらからともなく、互いを強く抱きしめた。
明日、自分たちの魂は、永遠に一つになる。

拒絶から始まった、すれ違い続けた二人は今、ようやく揺るぎない幸せな日々を迎えようとしていた。

その夜、二人は、初めて出会った、あの深夜の書庫を訪れた。
月明かりだけが差し込む静寂の中、古いインクと羊皮紙の匂いに包まれながら、二人は互いの過去、現在、そして未来について、夜が明けるまで静かに語り合った。

それは、明日からの新しい人生を前にした、二人だけの、ささやかで、そして何よりも大切な、誓いの儀式だった。


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