【完結】獣王の番

なの

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終章:二人の王、そして未来へ

第三十三話:始まりの朝

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誓約の儀式から一年。
獣王国は、ライオネルとユリアンという二人の王のもと、かつてないほどの平和と繁栄を謳歌していた。

ライオネルは、もはや最前線で剣を振るうことはなくなったが、その卓越した戦略眼と、長年の統治で培ったカリスマで、国のかじ取りを担った。諸外国との交渉や、大規模な内政改革など、彼の決定は常に的確で、国に大きな利益をもたらした。人々は、力ではなく知性で国を導くようになった王を「賢王ライオネル」と呼び、以前にも増して深く敬愛した。

ユリアンは、そんなライオネルを支えながら、民の生活に寄り添う政策を次々と打ち出した。
孤児院や診療所の設立、身分に関わらず誰もが学べる学問所の開設など、彼の慈愛に満ちた政策は、民衆から「聖王ユリアン」と讃えられ、深く愛された。城下では、子供たちが「ライオネル王は太陽、ユリアン王は月」と歌うわらべ歌が流行るほどだった。

力と慈愛。αとΩ。二人の王は、互いの長所を活かし、短所を補い合いながら、完璧なパートナーシップで、この国を導いていた。

その日の午後、二人は、執務の合間に、薬草園を散歩していた。
ここは、ユリアンが初めて、この城で自分の居場所を見つけた場所であり、ライオネルが初めて、ユリアンに心を乱された、思い出の場所だ。色とりどりの花が咲き乱れ、心地よい風が薬草の香りを運んでくる。

「懐かしいですね。あの頃は、一日がとても長く感じました」

ユリアンが、白い花にそっと触れながら微笑む。

「ああ。……ここでお前が、ノアと笑っているのを見た時、俺は、どうにかなりそうだった。執務室に戻って、価値のある壺を八つ当たりで割りそうになったのを、グレンに止められたほどだ」

ライオネルは、今だから言える本音を、照れくさそうに告白した。

「ふふっ、そうだったのですか。あの頃の僕は、あなたに心底嫌われているとばかり思っていましたから、毎日が不安で……夜、眠れないこともありました」

「馬鹿を言え。嫌うどころか……初めて会った、あの謁見の間から、俺の獣は、お前が番だと叫んでいた。だからこそ、必死に目を逸らし、拒絶したんだ[2]。お前という存在を認めてしまえば、俺が俺でなくなってしまうと、本能が告げていたからな」

ライオネルは、ユリアンの腰を優しく抱き寄せ、その耳元で囁いた。

「ただ、愛することも、愛されることも、怖かっただけだ。……だが、もう怖くはない。お前さえいれば、俺は何もいらない」

二人は、どちらからともなく唇を重ねる。
それはもう、誰にも邪魔されることのない、穏やかで、満ち足りた愛の証だった。

遠くで、城の鐘が鳴り響く。
それは、平和な昼下がりを告げる、いつもの鐘の音。
拒絶から始まった、二人の運命。多くのすれ違いと、試練を乗り越え、彼らは、誰もが羨むような、揺るぎない愛と信頼を手に入れた。

「……ライオネル」

「なんだ?」

「僕、とても幸せです。毎日、夢を見ていないかと、自分の頬をつねってしまうくらいに」

ユリアンは、ライオネルの胸に顔をうずめて、幸せを噛みしめるように呟いた。

「……俺もだ、ユリアン。お前と出会う前の自分が、どんな風に息をしていたのか、もう思い出せない。ただ、無味乾燥な日々を送っていたことだけは、覚えている」

ライオネルは、愛しい番を、腕の中に閉じ込めるように、強く抱きしめた。
この温もり、この香り、この存在の全てが、自分のものなのだと、確かめるように。
彼の溺愛は、これからも、永遠に続いていくだろう。この腕の中にある、たった一つの宝物を、守り続けるために。

獅子の王と、その隣で優しく微笑む、聖なる番。
二人の王の伝説は、この後、何百年にもわたって、吟遊詩人たちに歌い継がれていくことになる。
拒絶から始まり、やがて国を救う、真実の愛の物語として――。


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