婚約破棄された瞬間、不人気の呪いが解けてモテモテに!?

夏乃みのり

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「では、お一人ずつお話をさせていただきます」

翌朝。

私は庭で待ち構えていた三人の男たちに向かって宣言した。

「三人同時に愛を叫ばれても、私の耳は二つしかありませんので。順番にお呼びします」

「なるほど、面接方式か」

「ふん、勿体ぶるな」

「一番手は誰だ?」

三人がゴクリと唾を飲む。

私はリスト(という名のメモ帳)を見て、名前を呼んだ。

「ジェラルド・アイアンサイド様。……ついて来てください」

「うむ!」

ジェラルドが勢いよく立ち上がり、他の二人に勝ち誇ったような視線を送った。

「見ていろ。私の『直球』で、彼女のハートをストライクにしてくる!」

「野球ですか? 乱暴しないでくださいよ」

サイラスの野次を背に、私たちは庭園の奥、静かな東屋へと向かった。



東屋に着くと、ジェラルドは私に向かい合った。

朝日に照らされた彼は、無精髭こそ生えているものの、彫刻のように整った顔立ちと、圧倒的な体躯を持っていた。

黙っていれば、絵になる男なのだ。黙っていれば。

「……さて、リーフィー嬢」

ジェラルドが口を開く。

いつもの大声ではなく、少し緊張したような、低い声だ。

「改まって二人きりとなると……何を話すべきか、言葉が見つからん」

彼は照れくさそうに頬をかいた。

「いつも通りで構いませんわ。筋肉の話でもしますか?」

「いや、今日は筋肉の話は封印する! ……いや、少しするかもしれないが」

「するんですね」

ジェラルドは咳払いを一つして、真剣な眼差しで私を見つめた。

「リーフィー嬢。単刀直入に言おう」

彼は一歩踏み出し、私の両肩をガシッと掴んだ。

力強いが、痛くはない。壊れ物を扱うような慎重さだ。

「私は、君が好きだ」

「……はい」

「だが、それは君が『絶世の美女』になったからではない。いや、今の君も最高に美しいが、私が惚れたのはそこじゃない」

ジェラルドの瞳が、熱を帯びる。

「私が君に惹かれたのは……学園時代、君がアラン殿下を叱責していた、あの瞬間だ」

「叱責していた時?」

意外なポイントだ。

あんな鬼のような顔で説教していた姿を見られていたなんて、穴があったら入りたい。

「普通、王子相手にあそこまで正論をぶつけることはできん。皆、保身に走るか、媚びを売るかだ。だが君は違った」

ジェラルドは懐かしそうに目を細めた。

「君は、国のために、そして殿下本人のために、嫌われることを恐れず立ち向かっていた。その背中は……どんな屈強な騎士よりも、凛として強かった」

「……買い被りですわ。私はただ、口うるさい女だっただけです」

「いいや! あれこそが『強さ』だ!」

ジェラルドが力を込める。

「君には『呪い』がかかっていたそうだな。周囲から嫌われ、魅力を封じられる呪いが。……だが、私の目は誤魔化せなかったぞ」

彼は私の目を見つめ、断言した。

「君の魂の輝きまでは、呪いでも消せなかった。私はずっと見ていたんだ。君の、その折れない心を」

「ジェラルド様……」

胸がドキンと跳ねた。

呪いのせいで、誰からも理解されず、孤独に戦ってきたあの日々。

それを「見ていた」と言ってくれる人がいたなんて。

「私は武人だ。難しい言葉は知らんし、洒落たエスコートもできん。君を怒らせることもあるだろう」

ジェラルドは、私の手を包み込むように握りしめた。

その掌は分厚く、マメだらけで、温かかった。

「だが、君が辛い時、敵に囲まれた時、私が必ず前に立つ。君の最強の『盾』になり、君の道を切り開く『剣』になる」

彼は真っ直ぐに私を見て、ニカッと笑った。

「だから、私の背中に隠れていてくれ。……いや、君なら私の背中を任せられるな。共に戦ってくれ、リーフィー!」

「戦うことが前提なんですね」

私は思わず苦笑したが、目頭が熱くなるのを感じた。

なんて不器用で、暑苦しくて、そして……誠実な人なんだろう。

「……貴方は、本当にズルい方です」

「えっ? ズルいか? 反則技は使ってないぞ?」

「そういうところです」

私は彼の手を握り返した。

「貴方の言葉、しっかりと受け止めました。……私の心に、深く刺さりましたわ」

「本当か!? ストライクか!?」

「ええ。ど真ん中の直球でした」

ジェラルドはパァッと顔を輝かせ、私を抱きしめようとして……ハッと止まった。

「いかん。まだ返事を聞いていないのに、抱きしめるのはフライングだな」

彼は理性を総動員して手を引っ込めた。

「待っているぞ、リーフィー嬢! 全員の話を聞いた後、一番に私の名を呼んでくれ!」

ジェラルドは敬礼のようなポーズを決め、くるりと回れ右をして走り去っていった。

「うおおおおお! 緊張したァァァ!!」

走りながら叫んでいる。

「……ふふっ」

私はその後ろ姿を見送った。

頼もしい背中。

もし彼と一緒になれば、私は二度と孤独を感じることはないだろう。

物理的にも精神的にも、最強の守護者がいてくれるのだから。

「……さて」

私は熱くなった頬を両手で冷やした。

「次は、変化球の番ね」

リストの二番目の名前を見る。

宮廷魔導師、サイラス。

彼がどんな言葉で私を口説くのか。

私は深呼吸をして、次なる「戦場」へと向かった。
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