婚約破棄された瞬間、不人気の呪いが解けてモテモテに!?

夏乃みのり

文字の大きさ
23 / 28

23

しおりを挟む
「次は、サイラス・ヴァーミリオン様。……お願いします」

「はい、お待たせしました」

私が名前を呼ぶと、茂みの影からサイラス様がぬっと現れた。

「待機していましたよ。空間転移でいつでも行けるように」

「歩いてください。健康のために」

私は彼を連れて、屋敷の温室へと移動した。

***

ガラス張りの温室。

色とりどりの花が咲き乱れるその場所で、サイラス様は興味深そうに周囲を見回した。

「ふむ。この花の配置、光合成の効率を無視していますね。もっと魔法で品種改良すれば、今の3倍は咲くのに」

「自然のままでいいんです。……さて、サイラス様」

私は彼に向き直った。

「貴方の番です。何か言いたいことは?」

サイラス様は眼鏡の位置を直し、薄い唇に笑みを浮かべた。

「そうですね。……では、少し実験にお付き合い願いましょうか」

「実験?」

彼が杖を軽く振る。

すると、温室の空気が一変した。

フワッ……。

無数の光の粒子が舞い上がり、周囲の花々が一斉に輝き出したのだ。

ただ輝くだけではない。花びらが宙に舞い、私の周りで螺旋を描く。

それは幻想的で、息を呑むほど美しい光景だった。

「わぁ……」

思わず声が漏れる。

「『幻影魔法』と『植物活性化』の複合術式です。君の魔力波長に合わせて、色彩を調整しました」

サイラス様が私の目の前に歩み寄る。

その瞳は、いつもの冷徹な観察眼ではなく、どこか熱っぽい光を帯びていた。

「リーフィー嬢。正直に言いますと、最初は君の『中身』にしか興味がありませんでした」

「……知っています。魔力とか、呪い耐性とかですよね」

「ええ。強力な呪いを受けながら、自我を保ち続けた君の精神構造。そして、呪いが解けた瞬間に放出された膨大な魔力。研究者として、これほど魅力的な素材はない」

彼は私の髪を一房すくい、口付けた。

「ですが……データを集めれば集めるほど、計算が合わなくなるんです」

「計算?」

「君が笑うと、僕の心拍数が異常上昇する。君が他の男と話していると、思考回路にノイズが走る。君がピンチになると、論理的判断を無視して体が動く」

サイラス様は困ったように眉を下げた。

「これは『恋』という化学反応だと定義するしかありません」

「……随分と理屈っぽい告白ですね」

「魔導師なもので。……でもね、リーフィー嬢」

彼は私の手を取り、自分の胸に当てた。

ドクン、ドクン。

彼の鼓動が、驚くほど速く脈打っているのが伝わってきた。

「この鼓動は、魔法で制御できないんです。どんな高度な術式を使っても、君を前にした僕の動揺は止められない」

「サイラス様……」

「君は僕に、『新しい世界』を見せてくれた。研究室に引きこもっていた僕を、外の世界へ引っ張り出してくれた」

彼は真剣な眼差しで私を見つめた。

「僕は、君という『最大の謎』を解き明かしたい。一生をかけて、君の隣で」

それは、彼なりの精一杯のプロポーズだった。

「僕を選んでくれれば、君の生活を魔法で完全サポートしますよ? 家事は全自動、移動は転移、美容もアンチエイジング魔法で永遠の若さを保証します」

「……条件が良すぎて怖いです」

「それに、君が望むなら……世界中のどんな珍しい景色も、魔法で見せてあげられる」

サイラス様が指を鳴らすと、周囲の景色が変わった。

満天の星空、深海の底、オーロラの空。

次々と移り変わる光景。

「どうです? 僕と一緒なら、退屈なんてさせませんよ」

「……ふふっ」

私は笑ってしまった。

「本当に……貴方は、変化球ばかり投げるんですね」

「直球は騎士団長の領分ですから。僕はテクニックで攻めないと」

「でも、その不器用な鼓動は……直球でしたよ」

私が言うと、サイラス様は耳まで赤くした。

「……分析されるのは苦手だなぁ」

「お互い様です」

私は彼の手を離した。

「貴方の気持ち、確かに受け取りました。……魔法のような、素敵な時間でしたわ」

「光栄です。……で、合格ラインは越えましたか?」

「それは、あと一人のお話を聞いてからです」

「やれやれ。焦らしますね」

サイラス様は苦笑し、魔法を解いた。

景色が元の温室に戻る。

「では、僕は研究室に戻って、結果を待つとします。……良い返事を期待していますよ、僕の『ミューズ(女神)』」

キザな台詞を残し、彼は空間転移でシュンと消えた。

後に残ったのは、キラキラと輝く光の粒だけ。

「……もう」

私は胸を押さえた。

ドキドキしている。

理論武装した彼の、計算外の感情。

それがこんなにも可愛らしく、愛おしいものだなんて。

「……さて」

私は深呼吸をして、温室を出た。

次が最後だ。

最も強引で、最も俺様な男。

帝国皇太子、レオナルド。

彼がどんな「剛速球」を投げてくるのか。

私は覚悟を決めて、最後の場所へと向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大好きなあなたが「嫌い」と言うから「私もです」と微笑みました。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
私はずっと、貴方のことが好きなのです。 でも貴方は私を嫌っています。 だから、私は命を懸けて今日も嘘を吐くのです。 貴方が心置きなく私を嫌っていられるように。 貴方を「嫌い」なのだと告げるのです。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

【完結】旦那は堂々と不倫行為をするようになったのですが離婚もさせてくれないので、王子とお父様を味方につけました

よどら文鳥
恋愛
 ルーンブレイス国の国家予算に匹敵するほどの資産を持つハイマーネ家のソフィア令嬢は、サーヴィン=アウトロ男爵と恋愛結婚をした。  ソフィアは幸せな人生を送っていけると思っていたのだが、とある日サーヴィンの不倫行為が発覚した。それも一度や二度ではなかった。  ソフィアの気持ちは既に冷めていたため離婚を切り出すも、サーヴィンは立場を理由に認めようとしない。  更にサーヴィンは第二夫妻候補としてラランカという愛人を連れてくる。  再度離婚を申し立てようとするが、ソフィアの財閥と金だけを理由にして一向に離婚を認めようとしなかった。  ソフィアは家から飛び出しピンチになるが、救世主が現れる。  後に全ての成り行きを話し、ロミオ=ルーンブレイス第一王子を味方につけ、更にソフィアの父をも味方につけた。  ソフィアが想定していなかったほどの制裁が始まる。

【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい

高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。 だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。 クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。 ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。 【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~

由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。 両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。 そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。 王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。 ――彼が愛する女性を連れてくるまでは。

処理中です...