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「完売御礼。本日の売上、締めさせていただきました」
熱狂の販売会が一段落し、私は人混みを離れてバルコニーへと避難しました。
夜風が火照った頬に心地よく当たります。
手元の手帳には、予約リストがびっしり。
ハミルトン公爵家の家紋入り封筒に詰め込まれた注文書の束は、まるで札束のようにずっしりと重みを感じさせます。
「さて、あとはこれを工場に発注して……クラウス様のブロマイド増刷の手配もしないと」
私は計算機を弾きながら、独りごちました。
クラウス様は現在、国王陛下への挨拶回りで捕まっています。
彼が解放されるまでの間、ここでのんびりと利益計算をするのが至福の時間です。
「……メロメ」
背後から、ねっとりとした声がしました。
振り返らずとも分かります。
この無駄に甘ったるく、そしてどこか頼りない声の主は一人しかいません。
「ギルバート殿下。何か御用でしょうか? 商品の追加注文なら、あちらの受付で……」
「違う! 商売の話ではない!」
振り返ると、そこには肩で息をするギルバート殿下が立っていました。
少し乱れた髪。
充血した目。
そして、手にはなぜか薔薇が一輪(たぶん会場の花瓶から抜き取ったもの)。
「私と話をしろ。二人きりで」
「今、二人きりですが」
「茶化すな! 真面目な話だ!」
殿下はズカズカと歩み寄ってきました。
私は手帳を閉じ、一歩下がろうとしましたが、背後はバルコニーの手すりです。
逃げ場がありません。
「メロメ。さっきの会場での姿……見直したぞ」
殿下は私の顔を覗き込み、うっとりとした表情を浮かべました。
「あの地味で陰気な眼鏡女が、これほど美しく化けるとはな。やはりお前は、磨けば光る原石だったのだ。私の目に狂いはなかった」
「……記憶の改竄(かいざん)がおありのようですね。殿下は私を『可愛げがない鉄仮面』と仰って婚約破棄されましたが?」
「あれは言葉のアヤだ! 本当は、お前のポテンシャルに気づいていた!」
「嘘ですね。目が泳いでいます」
「うるさい! とにかく、私は決めた!」
殿下は薔薇を突きつけました。
「やり直してやろう、メロメ。私の婚約者の座に、もう一度戻ることを許可する!」
「……は?」
許可?
懇願ではなく、許可?
この期に及んで、なぜ上から目線なのでしょうか。この方のプライドはオリハルコンでできているのでしょうか。
「殿下。お言葉ですが、私は現在ハミルトン公爵家の筆頭補佐官として、非常に充実した日々を送っております。年収も三倍になりましたし、残業代も出ます」
「金の話ばかりするな! 私が言っているのは『愛』の話だ!」
殿下は一歩踏み込みました。
「正直に言え。クラウスのような冷血漢の元で働くのは辛いだろう? あいつは氷の彫刻みたいに冷たい男だ。お前のような情熱的な(金への)女には合わん」
「いえ、クラウス様は非常に合理的で、かつ福利厚生も手厚い素晴らしい上司ですが」
「強がるな! お前の目は寂しそうだぞ!」
「眠いだけです」
「いいや、私には分かる! お前はまだ私を愛しているんだ!」
殿下は妄想の世界に突入してしまいました。
こうなると厄介です。
過去の経験上、殿下の思い込みは暴走機関車並みに止まりません。
「メロメ。思い出せ、あの楽しかった日々を。二人で王宮の庭を散歩したこと(私が予算計算しながら歩いただけ)。私の誕生日に手編みのマフラーをくれたこと(市販品です)。私が風邪を引いた時に看病してくれたこと(医者を呼んだだけです)」
「……殿下、思い出がすべて美化されています」
「照れるな。さあ、私の胸に飛び込んでこい!」
殿下は両手を広げました。
私は冷静に計算機を構え、角で殴る角度をシミュレーションしました。
しかし、傷害罪で捕まるのはコストパフォーマンスが悪すぎます。
「お断りします」
私はきっぱりと言いました。
「私は今の生活に満足しています。それに、殿下にはミミ様がいらっしゃるではありませんか」
「ミミか……あいつは最近、私のことよりプロテインのことばかり考えているんだ……」
殿下は遠い目をしました。
「抱きしめようとしたら『筋肉が圧迫されるからやめて』と言われた。キスしようとしたら『タンパク質の摂取中だから』と断られた。……私は寂しいんだ、メロメ!」
「それは……ご愁傷様ですが、私には関係ありません」
「関係ある! お前が私を甘やかしてくれていた頃が、一番幸せだったんだ!」
殿下は再び私に迫りました。
その瞳が、怪しく光ります。
「そうだ。言葉で言っても分からぬなら、行動で示すしかないな」
殿下はニヤリと笑いました。
最近流行りの恋愛小説で読んだことがあるのでしょう。
強引なアプローチが女性に受けると思い込んでいる顔です。
「メロメ、覚悟しろ」
殿下は右手を振り上げ、私の顔の横にある柱に向かって勢いよく叩きつけようとしました。
いわゆる『壁ドン』です。
「ハッ!」
掛け声とともに、殿下の手が迫ります。
私は反射的に動きました。
スッ。
半歩、横にズレます。
ドゴォォォォォッ!!
鈍い、いや、かなり痛そうな衝撃音が響き渡りました。
殿下の拳は、私の顔があった空間を切り裂き、そのまま大理石の柱に直撃しました。
「……ぎゃああああああああっ!!」
殿下の絶叫が夜空に吸い込まれていきます。
「い、痛い! 痛い痛い! 折れた! 指が! 指がぁぁ!」
殿下はその場にうずくまり、右手を抱えて転げ回りました。
大理石は硬いのです。
しかも王宮の柱は、防御魔法で強化されています。
生身の人間が殴ればどうなるか、計算するまでもありません。
「……殿下、何をしているのですか?」
私は冷ややかに見下ろしました。
「な、避けるな! なぜ避けた! そこはときめいて顔を赤らめる場面だろうが!」
「いえ、反射的に。……それに」
私は柱を指差しました。
「そこに手をつかれると、私のドレスに石の粉がかかります。クリーニング代、高いんですよ?」
「お前……私の手よりドレスの心配か……!」
「当然です。これはクラウス様からお借りしている大切な商品(ドレス)ですから」
「くそぉぉぉ……!」
殿下は涙目で私を睨みつけました。
雰囲気もへったくれもありません。
ただの自爆事故です。
「もういい! 力づくでも連れて帰る! お前は王宮の所有物だ!」
殿下は痛む手を庇いながら、左手で私の腕を掴もうとしました。
その形相は必死で、もはや狂気すら感じます。
「来い! 命令だ!」
その手が私の腕に触れそうになった、その瞬間。
ピシリ。
空気が凍りつきました。
殿下の動きが止まります。
私も、背筋に悪寒が走りました。
「……私のパートナーに、何をしている?」
地獄の底から響くような低音。
バルコニーの入り口に、クラウス様が立っていました。
その表情は、笑っていません。
能面のように無表情。
しかし、全身から立ち上る怒りのオーラは、物理的な圧力を伴って空間を歪ませているように見えます。
「ク、クラウス……」
殿下がヒッと息を呑みました。
「宰相閣下。おかえりなさいませ」
私はホッとして駆け寄ろうとしましたが、クラウス様は手でそれを制し、ゆっくりと、しかし確実に殿下へと歩み寄りました。
コツ……コツ……。
足音が死へのカウントダウンのように聞こえます。
「殿下。私は言いましたよね? 『気安く触れるな』と」
「い、いや、これは誤解だ! 私はただ、元婚約者として挨拶を……」
「挨拶? 壁を殴り、女性を脅すのが王家の挨拶ですか?」
クラウス様は、殿下が殴った柱を見ました。
そこには、うっすらとひび割れと、殿下の血痕が残っています。
「……王宮の器物損壊ですね。修理費は請求させていただきます」
「そ、そこか!?」
「そして」
クラウス様は、一瞬で距離を詰め、殿下と私の間に割って入りました。
背中で私を隠し、殿下を見下ろします。
「メロメは今、私のものです。過去の男が未練がましく付きまとうのは、見苦しいですよ」
「なっ……!」
「彼女が選んだのは、貴方ではなく私(の給料)だ。現実を受け入れたまえ」
クラウス様はそう言うと、私の肩を抱き寄せました。
その手は力強く、そして微かに震えていました。
怒りを抑えているのでしょうか。
「行くぞ、メロメ。空気が悪い」
「はい、閣下」
私たちは殿下に背を向けました。
殿下は呆然と立ち尽くし、痛む右手を抱えたまま、何も言えずにいました。
会場へ戻る途中、クラウス様がポツリと言いました。
「……怪我はないか?」
「はい。殿下が勝手に自爆しただけですので」
「そうか。……ならいい」
クラウス様は私の頭を、ポンポンと撫でました。
その手つきが、先ほどの冷徹さとは裏腹に、とても優しくて。
「少し、妬いたぞ」
「え?」
「君が他の男に言い寄られているのを見て、不快だった」
「……殿下ですよ? あんなの、野良犬に吠えられた程度の事故です」
「それでもだ。君は魅力的すぎる。やはり、首輪でもつけておくべきか?」
「お断りします。金属アレルギーなので」
「ふっ、冗談だ」
クラウス様は小さく笑いましたが、その目はどこか本気に見えました。
私の左手首を握る指先が、離そうとしません。
「今夜は帰さないからな」
「……残業ですか?」
「いいや。祝勝会だ。君の売上と、私の勝利を祝って」
意味深な言葉に、私はまた計算ができなくなりました。
夜会の喧騒の中、私たちは寄り添って歩きました。
背後には、右手を押さえてうずくまる元婚約者と、それを「うわぁ、骨折してるぅ! カルシウム不足ですね!」と嬉しそうに診断する筋肉令嬢の声が響いていました。
熱狂の販売会が一段落し、私は人混みを離れてバルコニーへと避難しました。
夜風が火照った頬に心地よく当たります。
手元の手帳には、予約リストがびっしり。
ハミルトン公爵家の家紋入り封筒に詰め込まれた注文書の束は、まるで札束のようにずっしりと重みを感じさせます。
「さて、あとはこれを工場に発注して……クラウス様のブロマイド増刷の手配もしないと」
私は計算機を弾きながら、独りごちました。
クラウス様は現在、国王陛下への挨拶回りで捕まっています。
彼が解放されるまでの間、ここでのんびりと利益計算をするのが至福の時間です。
「……メロメ」
背後から、ねっとりとした声がしました。
振り返らずとも分かります。
この無駄に甘ったるく、そしてどこか頼りない声の主は一人しかいません。
「ギルバート殿下。何か御用でしょうか? 商品の追加注文なら、あちらの受付で……」
「違う! 商売の話ではない!」
振り返ると、そこには肩で息をするギルバート殿下が立っていました。
少し乱れた髪。
充血した目。
そして、手にはなぜか薔薇が一輪(たぶん会場の花瓶から抜き取ったもの)。
「私と話をしろ。二人きりで」
「今、二人きりですが」
「茶化すな! 真面目な話だ!」
殿下はズカズカと歩み寄ってきました。
私は手帳を閉じ、一歩下がろうとしましたが、背後はバルコニーの手すりです。
逃げ場がありません。
「メロメ。さっきの会場での姿……見直したぞ」
殿下は私の顔を覗き込み、うっとりとした表情を浮かべました。
「あの地味で陰気な眼鏡女が、これほど美しく化けるとはな。やはりお前は、磨けば光る原石だったのだ。私の目に狂いはなかった」
「……記憶の改竄(かいざん)がおありのようですね。殿下は私を『可愛げがない鉄仮面』と仰って婚約破棄されましたが?」
「あれは言葉のアヤだ! 本当は、お前のポテンシャルに気づいていた!」
「嘘ですね。目が泳いでいます」
「うるさい! とにかく、私は決めた!」
殿下は薔薇を突きつけました。
「やり直してやろう、メロメ。私の婚約者の座に、もう一度戻ることを許可する!」
「……は?」
許可?
懇願ではなく、許可?
この期に及んで、なぜ上から目線なのでしょうか。この方のプライドはオリハルコンでできているのでしょうか。
「殿下。お言葉ですが、私は現在ハミルトン公爵家の筆頭補佐官として、非常に充実した日々を送っております。年収も三倍になりましたし、残業代も出ます」
「金の話ばかりするな! 私が言っているのは『愛』の話だ!」
殿下は一歩踏み込みました。
「正直に言え。クラウスのような冷血漢の元で働くのは辛いだろう? あいつは氷の彫刻みたいに冷たい男だ。お前のような情熱的な(金への)女には合わん」
「いえ、クラウス様は非常に合理的で、かつ福利厚生も手厚い素晴らしい上司ですが」
「強がるな! お前の目は寂しそうだぞ!」
「眠いだけです」
「いいや、私には分かる! お前はまだ私を愛しているんだ!」
殿下は妄想の世界に突入してしまいました。
こうなると厄介です。
過去の経験上、殿下の思い込みは暴走機関車並みに止まりません。
「メロメ。思い出せ、あの楽しかった日々を。二人で王宮の庭を散歩したこと(私が予算計算しながら歩いただけ)。私の誕生日に手編みのマフラーをくれたこと(市販品です)。私が風邪を引いた時に看病してくれたこと(医者を呼んだだけです)」
「……殿下、思い出がすべて美化されています」
「照れるな。さあ、私の胸に飛び込んでこい!」
殿下は両手を広げました。
私は冷静に計算機を構え、角で殴る角度をシミュレーションしました。
しかし、傷害罪で捕まるのはコストパフォーマンスが悪すぎます。
「お断りします」
私はきっぱりと言いました。
「私は今の生活に満足しています。それに、殿下にはミミ様がいらっしゃるではありませんか」
「ミミか……あいつは最近、私のことよりプロテインのことばかり考えているんだ……」
殿下は遠い目をしました。
「抱きしめようとしたら『筋肉が圧迫されるからやめて』と言われた。キスしようとしたら『タンパク質の摂取中だから』と断られた。……私は寂しいんだ、メロメ!」
「それは……ご愁傷様ですが、私には関係ありません」
「関係ある! お前が私を甘やかしてくれていた頃が、一番幸せだったんだ!」
殿下は再び私に迫りました。
その瞳が、怪しく光ります。
「そうだ。言葉で言っても分からぬなら、行動で示すしかないな」
殿下はニヤリと笑いました。
最近流行りの恋愛小説で読んだことがあるのでしょう。
強引なアプローチが女性に受けると思い込んでいる顔です。
「メロメ、覚悟しろ」
殿下は右手を振り上げ、私の顔の横にある柱に向かって勢いよく叩きつけようとしました。
いわゆる『壁ドン』です。
「ハッ!」
掛け声とともに、殿下の手が迫ります。
私は反射的に動きました。
スッ。
半歩、横にズレます。
ドゴォォォォォッ!!
鈍い、いや、かなり痛そうな衝撃音が響き渡りました。
殿下の拳は、私の顔があった空間を切り裂き、そのまま大理石の柱に直撃しました。
「……ぎゃああああああああっ!!」
殿下の絶叫が夜空に吸い込まれていきます。
「い、痛い! 痛い痛い! 折れた! 指が! 指がぁぁ!」
殿下はその場にうずくまり、右手を抱えて転げ回りました。
大理石は硬いのです。
しかも王宮の柱は、防御魔法で強化されています。
生身の人間が殴ればどうなるか、計算するまでもありません。
「……殿下、何をしているのですか?」
私は冷ややかに見下ろしました。
「な、避けるな! なぜ避けた! そこはときめいて顔を赤らめる場面だろうが!」
「いえ、反射的に。……それに」
私は柱を指差しました。
「そこに手をつかれると、私のドレスに石の粉がかかります。クリーニング代、高いんですよ?」
「お前……私の手よりドレスの心配か……!」
「当然です。これはクラウス様からお借りしている大切な商品(ドレス)ですから」
「くそぉぉぉ……!」
殿下は涙目で私を睨みつけました。
雰囲気もへったくれもありません。
ただの自爆事故です。
「もういい! 力づくでも連れて帰る! お前は王宮の所有物だ!」
殿下は痛む手を庇いながら、左手で私の腕を掴もうとしました。
その形相は必死で、もはや狂気すら感じます。
「来い! 命令だ!」
その手が私の腕に触れそうになった、その瞬間。
ピシリ。
空気が凍りつきました。
殿下の動きが止まります。
私も、背筋に悪寒が走りました。
「……私のパートナーに、何をしている?」
地獄の底から響くような低音。
バルコニーの入り口に、クラウス様が立っていました。
その表情は、笑っていません。
能面のように無表情。
しかし、全身から立ち上る怒りのオーラは、物理的な圧力を伴って空間を歪ませているように見えます。
「ク、クラウス……」
殿下がヒッと息を呑みました。
「宰相閣下。おかえりなさいませ」
私はホッとして駆け寄ろうとしましたが、クラウス様は手でそれを制し、ゆっくりと、しかし確実に殿下へと歩み寄りました。
コツ……コツ……。
足音が死へのカウントダウンのように聞こえます。
「殿下。私は言いましたよね? 『気安く触れるな』と」
「い、いや、これは誤解だ! 私はただ、元婚約者として挨拶を……」
「挨拶? 壁を殴り、女性を脅すのが王家の挨拶ですか?」
クラウス様は、殿下が殴った柱を見ました。
そこには、うっすらとひび割れと、殿下の血痕が残っています。
「……王宮の器物損壊ですね。修理費は請求させていただきます」
「そ、そこか!?」
「そして」
クラウス様は、一瞬で距離を詰め、殿下と私の間に割って入りました。
背中で私を隠し、殿下を見下ろします。
「メロメは今、私のものです。過去の男が未練がましく付きまとうのは、見苦しいですよ」
「なっ……!」
「彼女が選んだのは、貴方ではなく私(の給料)だ。現実を受け入れたまえ」
クラウス様はそう言うと、私の肩を抱き寄せました。
その手は力強く、そして微かに震えていました。
怒りを抑えているのでしょうか。
「行くぞ、メロメ。空気が悪い」
「はい、閣下」
私たちは殿下に背を向けました。
殿下は呆然と立ち尽くし、痛む右手を抱えたまま、何も言えずにいました。
会場へ戻る途中、クラウス様がポツリと言いました。
「……怪我はないか?」
「はい。殿下が勝手に自爆しただけですので」
「そうか。……ならいい」
クラウス様は私の頭を、ポンポンと撫でました。
その手つきが、先ほどの冷徹さとは裏腹に、とても優しくて。
「少し、妬いたぞ」
「え?」
「君が他の男に言い寄られているのを見て、不快だった」
「……殿下ですよ? あんなの、野良犬に吠えられた程度の事故です」
「それでもだ。君は魅力的すぎる。やはり、首輪でもつけておくべきか?」
「お断りします。金属アレルギーなので」
「ふっ、冗談だ」
クラウス様は小さく笑いましたが、その目はどこか本気に見えました。
私の左手首を握る指先が、離そうとしません。
「今夜は帰さないからな」
「……残業ですか?」
「いいや。祝勝会だ。君の売上と、私の勝利を祝って」
意味深な言葉に、私はまた計算ができなくなりました。
夜会の喧騒の中、私たちは寄り添って歩きました。
背後には、右手を押さえてうずくまる元婚約者と、それを「うわぁ、骨折してるぅ! カルシウム不足ですね!」と嬉しそうに診断する筋肉令嬢の声が響いていました。
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2025.9.9追記
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