13 / 28
13
しおりを挟む
王城のジェラルド殿下の執務室は、相変わらず冬の時代を迎えていた。
「金がない……」
ジェラルドが頭を抱えて唸る。
かつては湯水のように使えていた交際費や機密費が、底をついていたのだ。
原因は明白。
ミリューがいなくなったことで、無駄な出費をカットするストッパーが外れ、さらに彼女への慰謝料(仮払い)や、滞った公務の違約金が発生しているからだ。
「ねえ、ジェラルド様ぁ。新しいドレスが欲しいんですけどぉ」
空気を読まずに、リリナが甘ったるい声でおねだりをする。
「無理だ! 今月はもう予算がない!」
「ええーっ? ケチ臭いですぅ。王太子なのに貧乏なんて、信じられなーい」
リリナは頬を膨らませた。
彼女の思考回路は単純だ。
『王太子=お金持ち=幸せ』。
その方程式が崩れた今、彼女の計算高い脳みそ(ただし偏差値は低い)が、新たなターゲットを検索し始めた。
(ジェラルド様、もうダメかも……。顔はいいけど、お金がないなら意味ないしぃ)
リリナはチラリと窓の外を見た。
噂では、ミリューが嫁いだクライシス公爵家は、今や飛ぶ鳥を落とす勢いで資産を増やしているという。
しかも当主のラシード公爵は、ジェラルド様に負けない美形で、独身(正確にはまだ婚約段階)。
(……乗り換えるなら、今?)
リリナの瞳に、俗っぽい野望の炎が灯った。
(ミリュー様みたいな堅物に、公爵様は勿体ないわ。私みたいな可愛くて守ってあげたくなる女の子の方が、公爵様だってお似合いなはず!)
「ジェラルド様、私、ちょっと実家に帰ってきますぅ」
「あ? ああ、そうか。気をつけてな」
ジェラルドは書類と格闘するのに忙しく、適当に返事をした。
リリナはニヤリと笑った。
行き先は実家ではない。
目指すは、王都一番の優良物件、クライシス公爵邸だ。
◇
「……というわけで、門の前に『自称・ミリュー様の妹分』という女性が来ておりますが」
トマスからの報告を聞き、私は計算機を叩く手を止めた。
「妹分? 私に妹はいませんが」
「桃色の髪の、小柄な女性です。『お姉様に謝りたいことがあるのぉ』と、涙ながらに訴えております」
「ああ、リリナ様ですね」
私は合点がいった。
謝罪?
あのリリナ様が?
あり得ない。
地球がひっくり返っても、彼女が自発的に謝罪などするはずがない。
「目的は別にあると推測されます。……ラシード様はどう思いますか?」
向かいのデスクで仕事をしていたラシード様が顔を上げる。
「追い返せ。時間の無駄だ」
「まあ、そう仰らずに。敵の動向を探るのもリスク管理の一環です。それに……」
私は悪戯っぽく笑った。
「彼女、いい『実験台』になるかもしれませんよ?」
「実験台?」
「ええ。我が家の使用人たちが、私の教育(業務改善)によって、どれだけ『無駄な情に流されない鉄のメンタル』を獲得したか。そのテストケースとして最適です」
ラシード様は少し考えてから、ため息をついた。
「……君がそう言うなら。ただし、私の半径三メートル以内には近づけるなよ。あの香水の匂いは頭痛がする」
「承知いたしました。トマス、お通しして」
◇
数分後。
応接室に通されたリリナは、キョロキョロと室内を見回していた。
(へぇ~、意外と綺麗じゃない。もっと古臭い屋敷だと思ってたけど)
リリナは値踏みするように家具を見る。
どれも最高級品だ。
掃除が行き届いており、埃一つない。
(これなら合格ね。よし、まずはミリュー様を油断させて、その隙に公爵様に色目を使って……)
ガチャリ。
扉が開き、私が一人で入室した。
「ごきげんよう、リリナ様。わざわざ謝罪に来てくださるなんて、奇特なことですわね」
「あ、ミリューお姉様ぁ!」
リリナは瞬時に「可憐な妹キャラ」の仮面を被り、駆け寄ってきた。
「私、ずっと気にしてたんですぅ! 私がジェラルド様と仲良くしちゃったせいで、お姉様を追い出すことになっちゃって……。ごめんなさいぃ!」
嘘泣きだ。
涙腺のコントロールが見事だ。
目薬でも仕込んでいるのだろうか。
「謝罪は受け取りました。で、用件はそれだけですか? お帰り口はあちらですが」
私は冷たく切り返す。
「そ、そんなぁ! せっかく来たんですから、お茶くらいご馳走してくれてもいいじゃないですかぁ。……それに、公爵様にもご挨拶したいですしぃ」
本音が出た。
「ラシード様は多忙です。面会のアポイントメントは一ヶ月先まで埋まっております」
「えーっ? でもぉ、私、ジェラルド様の婚約者ですよぉ? 将来の王妃ですよぉ? 特別扱いでいいじゃないですかぁ」
リリナは上目遣いで私を見る。
この技で、彼女は数々の男を落としてきたのだろう。
だが、残念ながら私は女だし、私の目には「非効率な媚び」としか映らない。
「特別扱いは、我が家の家訓(効率化)に反します」
「むぅ……。あ! そうだ!」
リリナは何かを思いついたように手を打った。
「私、この屋敷でお手伝いしますぅ!」
「はい?」
「だってぇ、お姉様、お仕事が大変なんでしょう? 私が手伝ってあげます! こう見えても私、気配りできるんですよぉ?」
(……潜入工作、というわけですか)
分かりやすい。
内部に入り込み、ラシード様に接触する機会を狙うつもりだ。
普通なら断る。
だが、私の脳内でそろばんが弾かれた。
(リリナ様を無償労働力として使い、その無能っぷりをラシード様に見せつければ、『ミリュー以外は無理だ』という認識がより強固になる。……リスクよりもリターンが大きいですね)
私はニッコリと微笑んだ。
「素晴らしいご提案です。人手はいくらあっても困りませんから」
「えっ、本当ですかぁ?(やった! チョロいわね!)」
「では、早速働いていただきましょう。トマス!」
私は執事を呼んだ。
「リリナ様がボランティア(無給)で手伝ってくださるそうです。まずは『初級コース』の業務を割り当ててください」
「かしこまりました」
トマスは恭しく一礼し、リリナに向き直った。
「ではリリナ様、こちらへ。制服に着替えていただきます」
「えっ、制服? 可愛いやつですかぁ?」
「ええ、機能的で素晴らしい作業着です」
◇
三十分後。
「な、なんなのよこれぇぇぇ!!」
リリナの悲鳴が、屋敷の裏庭に響き渡った。
彼女に与えられた仕事。
それは『堆肥作り』だった。
「く、臭い! 汚い! なんで私がこんなこと!」
リリナは地味な茶色の作業着に身を包み、スコップで落ち葉と生ゴミを混ぜていた。
「リリナ様、手が止まっております」
監視役のメイド(私の教育を受けた精鋭)が、無表情で指摘する。
「だってぇ! 重いんですものぉ! もっと楽な仕事ないのぉ? お茶汲みとか、公爵様の肩揉みとか!」
「お茶汲みは『温度管理検定一級』が必要です。肩揉みは『人体構造学』の修了が必要です。貴女には資格がありません」
「なによそれぇ!」
リリナは涙目だ。
「それに、これは重要な仕事です。この堆肥が来年の農作物の収穫量を左右します。貴女の働きが、領民の胃袋を支えているのです」
「知るかぁぁぁ!」
リリナはスコップを投げ出した。
「もう嫌! 公爵様に直訴してやる! こんな酷い扱い、許されるわけないわ!」
リリナは作業着のまま、屋敷の中へと駆け出した。
泥だらけの姿で、臭いを漂わせながら。
目指すは執務室。
そこにいるラシード様に泣きつき、「ミリュー様にいじめられました」と訴える作戦だ。
(見てなさいよミリュー! 私の涙と色仕掛けで、公爵様を味方につけてやるんだから!)
リリナは廊下を走り、執務室のドアをバン! と開け放った。
「公爵様ぁぁぁ! 助けてくださいぃぃ!」
そこにいたのは。
眉間に深い皺を寄せ、書類にサインをしているラシードと、その横でストップウォッチを持ってタイムを計測している私だった。
「……なんだ、騒々しい」
ラシード様が顔を上げる。
その目は、ゴミを見るように冷たかった。
「あ、あのっ……ひぐっ、私、酷いことされて……」
リリナは胸元をはだけ(作業着だが)、涙ながらに駆け寄ろうとした。
その時だった。
「止まれ」
ラシード様の声が、物理的な圧力を持ってリリナの足を止めた。
「……臭うぞ」
「えっ?」
「堆肥の臭いだ。……私の執務室に、菌を持ち込むな」
ラシード様はハンカチで鼻を覆った。
「それに、なんだその格好は。汚らしい。ミリューを見習え。彼女はいつだって清潔で、機能的で、美しい」
「え、あ、でも、これはミリューお姉様が……!」
「ミリューの指示なら、それが最適解なのだろう。堆肥作りはお似合いだ。精々、いい肥料になってくれ」
バッサリ。
一刀両断だった。
色仕掛けはおろか、視界に入れる価値すらないと言わんばかりの態度。
リリナは口をパクパクさせ、それから顔を真っ赤にして私を睨んだ。
「お、覚えてなさいよぉぉ! 明日の夜会で、この屈辱を晴らしてやるんだからぁぁ!」
リリナは泣きながら走り去っていった。
パタン、とドアが閉まる。
「……騒がしい客だったな」
ラシード様は何事もなかったようにペンを動かし始めた。
「ええ。ですが、データは取れました」
私はストップウォッチを止めた。
「彼女の忍耐力は三十分。労働適性はゼロ。……やはり、使い道はありませんね」
「肥料にするのも勿体ないな」
「ふふっ。でも、捨て台詞が気になりますね。『明日の夜会』……何か仕掛けてくるつもりでしょう」
私はニヤリと笑った。
「望むところです。あちらがその気なら、完膚なきまでに『論破(駆除)』して差し上げましょう」
次なる戦いの舞台は、王主催の舞踏会。
そこでリリナとの最終決戦が行われる。
私にとっては、ただの「害虫駆除作業」の一環に過ぎないけれど。
「金がない……」
ジェラルドが頭を抱えて唸る。
かつては湯水のように使えていた交際費や機密費が、底をついていたのだ。
原因は明白。
ミリューがいなくなったことで、無駄な出費をカットするストッパーが外れ、さらに彼女への慰謝料(仮払い)や、滞った公務の違約金が発生しているからだ。
「ねえ、ジェラルド様ぁ。新しいドレスが欲しいんですけどぉ」
空気を読まずに、リリナが甘ったるい声でおねだりをする。
「無理だ! 今月はもう予算がない!」
「ええーっ? ケチ臭いですぅ。王太子なのに貧乏なんて、信じられなーい」
リリナは頬を膨らませた。
彼女の思考回路は単純だ。
『王太子=お金持ち=幸せ』。
その方程式が崩れた今、彼女の計算高い脳みそ(ただし偏差値は低い)が、新たなターゲットを検索し始めた。
(ジェラルド様、もうダメかも……。顔はいいけど、お金がないなら意味ないしぃ)
リリナはチラリと窓の外を見た。
噂では、ミリューが嫁いだクライシス公爵家は、今や飛ぶ鳥を落とす勢いで資産を増やしているという。
しかも当主のラシード公爵は、ジェラルド様に負けない美形で、独身(正確にはまだ婚約段階)。
(……乗り換えるなら、今?)
リリナの瞳に、俗っぽい野望の炎が灯った。
(ミリュー様みたいな堅物に、公爵様は勿体ないわ。私みたいな可愛くて守ってあげたくなる女の子の方が、公爵様だってお似合いなはず!)
「ジェラルド様、私、ちょっと実家に帰ってきますぅ」
「あ? ああ、そうか。気をつけてな」
ジェラルドは書類と格闘するのに忙しく、適当に返事をした。
リリナはニヤリと笑った。
行き先は実家ではない。
目指すは、王都一番の優良物件、クライシス公爵邸だ。
◇
「……というわけで、門の前に『自称・ミリュー様の妹分』という女性が来ておりますが」
トマスからの報告を聞き、私は計算機を叩く手を止めた。
「妹分? 私に妹はいませんが」
「桃色の髪の、小柄な女性です。『お姉様に謝りたいことがあるのぉ』と、涙ながらに訴えております」
「ああ、リリナ様ですね」
私は合点がいった。
謝罪?
あのリリナ様が?
あり得ない。
地球がひっくり返っても、彼女が自発的に謝罪などするはずがない。
「目的は別にあると推測されます。……ラシード様はどう思いますか?」
向かいのデスクで仕事をしていたラシード様が顔を上げる。
「追い返せ。時間の無駄だ」
「まあ、そう仰らずに。敵の動向を探るのもリスク管理の一環です。それに……」
私は悪戯っぽく笑った。
「彼女、いい『実験台』になるかもしれませんよ?」
「実験台?」
「ええ。我が家の使用人たちが、私の教育(業務改善)によって、どれだけ『無駄な情に流されない鉄のメンタル』を獲得したか。そのテストケースとして最適です」
ラシード様は少し考えてから、ため息をついた。
「……君がそう言うなら。ただし、私の半径三メートル以内には近づけるなよ。あの香水の匂いは頭痛がする」
「承知いたしました。トマス、お通しして」
◇
数分後。
応接室に通されたリリナは、キョロキョロと室内を見回していた。
(へぇ~、意外と綺麗じゃない。もっと古臭い屋敷だと思ってたけど)
リリナは値踏みするように家具を見る。
どれも最高級品だ。
掃除が行き届いており、埃一つない。
(これなら合格ね。よし、まずはミリュー様を油断させて、その隙に公爵様に色目を使って……)
ガチャリ。
扉が開き、私が一人で入室した。
「ごきげんよう、リリナ様。わざわざ謝罪に来てくださるなんて、奇特なことですわね」
「あ、ミリューお姉様ぁ!」
リリナは瞬時に「可憐な妹キャラ」の仮面を被り、駆け寄ってきた。
「私、ずっと気にしてたんですぅ! 私がジェラルド様と仲良くしちゃったせいで、お姉様を追い出すことになっちゃって……。ごめんなさいぃ!」
嘘泣きだ。
涙腺のコントロールが見事だ。
目薬でも仕込んでいるのだろうか。
「謝罪は受け取りました。で、用件はそれだけですか? お帰り口はあちらですが」
私は冷たく切り返す。
「そ、そんなぁ! せっかく来たんですから、お茶くらいご馳走してくれてもいいじゃないですかぁ。……それに、公爵様にもご挨拶したいですしぃ」
本音が出た。
「ラシード様は多忙です。面会のアポイントメントは一ヶ月先まで埋まっております」
「えーっ? でもぉ、私、ジェラルド様の婚約者ですよぉ? 将来の王妃ですよぉ? 特別扱いでいいじゃないですかぁ」
リリナは上目遣いで私を見る。
この技で、彼女は数々の男を落としてきたのだろう。
だが、残念ながら私は女だし、私の目には「非効率な媚び」としか映らない。
「特別扱いは、我が家の家訓(効率化)に反します」
「むぅ……。あ! そうだ!」
リリナは何かを思いついたように手を打った。
「私、この屋敷でお手伝いしますぅ!」
「はい?」
「だってぇ、お姉様、お仕事が大変なんでしょう? 私が手伝ってあげます! こう見えても私、気配りできるんですよぉ?」
(……潜入工作、というわけですか)
分かりやすい。
内部に入り込み、ラシード様に接触する機会を狙うつもりだ。
普通なら断る。
だが、私の脳内でそろばんが弾かれた。
(リリナ様を無償労働力として使い、その無能っぷりをラシード様に見せつければ、『ミリュー以外は無理だ』という認識がより強固になる。……リスクよりもリターンが大きいですね)
私はニッコリと微笑んだ。
「素晴らしいご提案です。人手はいくらあっても困りませんから」
「えっ、本当ですかぁ?(やった! チョロいわね!)」
「では、早速働いていただきましょう。トマス!」
私は執事を呼んだ。
「リリナ様がボランティア(無給)で手伝ってくださるそうです。まずは『初級コース』の業務を割り当ててください」
「かしこまりました」
トマスは恭しく一礼し、リリナに向き直った。
「ではリリナ様、こちらへ。制服に着替えていただきます」
「えっ、制服? 可愛いやつですかぁ?」
「ええ、機能的で素晴らしい作業着です」
◇
三十分後。
「な、なんなのよこれぇぇぇ!!」
リリナの悲鳴が、屋敷の裏庭に響き渡った。
彼女に与えられた仕事。
それは『堆肥作り』だった。
「く、臭い! 汚い! なんで私がこんなこと!」
リリナは地味な茶色の作業着に身を包み、スコップで落ち葉と生ゴミを混ぜていた。
「リリナ様、手が止まっております」
監視役のメイド(私の教育を受けた精鋭)が、無表情で指摘する。
「だってぇ! 重いんですものぉ! もっと楽な仕事ないのぉ? お茶汲みとか、公爵様の肩揉みとか!」
「お茶汲みは『温度管理検定一級』が必要です。肩揉みは『人体構造学』の修了が必要です。貴女には資格がありません」
「なによそれぇ!」
リリナは涙目だ。
「それに、これは重要な仕事です。この堆肥が来年の農作物の収穫量を左右します。貴女の働きが、領民の胃袋を支えているのです」
「知るかぁぁぁ!」
リリナはスコップを投げ出した。
「もう嫌! 公爵様に直訴してやる! こんな酷い扱い、許されるわけないわ!」
リリナは作業着のまま、屋敷の中へと駆け出した。
泥だらけの姿で、臭いを漂わせながら。
目指すは執務室。
そこにいるラシード様に泣きつき、「ミリュー様にいじめられました」と訴える作戦だ。
(見てなさいよミリュー! 私の涙と色仕掛けで、公爵様を味方につけてやるんだから!)
リリナは廊下を走り、執務室のドアをバン! と開け放った。
「公爵様ぁぁぁ! 助けてくださいぃぃ!」
そこにいたのは。
眉間に深い皺を寄せ、書類にサインをしているラシードと、その横でストップウォッチを持ってタイムを計測している私だった。
「……なんだ、騒々しい」
ラシード様が顔を上げる。
その目は、ゴミを見るように冷たかった。
「あ、あのっ……ひぐっ、私、酷いことされて……」
リリナは胸元をはだけ(作業着だが)、涙ながらに駆け寄ろうとした。
その時だった。
「止まれ」
ラシード様の声が、物理的な圧力を持ってリリナの足を止めた。
「……臭うぞ」
「えっ?」
「堆肥の臭いだ。……私の執務室に、菌を持ち込むな」
ラシード様はハンカチで鼻を覆った。
「それに、なんだその格好は。汚らしい。ミリューを見習え。彼女はいつだって清潔で、機能的で、美しい」
「え、あ、でも、これはミリューお姉様が……!」
「ミリューの指示なら、それが最適解なのだろう。堆肥作りはお似合いだ。精々、いい肥料になってくれ」
バッサリ。
一刀両断だった。
色仕掛けはおろか、視界に入れる価値すらないと言わんばかりの態度。
リリナは口をパクパクさせ、それから顔を真っ赤にして私を睨んだ。
「お、覚えてなさいよぉぉ! 明日の夜会で、この屈辱を晴らしてやるんだからぁぁ!」
リリナは泣きながら走り去っていった。
パタン、とドアが閉まる。
「……騒がしい客だったな」
ラシード様は何事もなかったようにペンを動かし始めた。
「ええ。ですが、データは取れました」
私はストップウォッチを止めた。
「彼女の忍耐力は三十分。労働適性はゼロ。……やはり、使い道はありませんね」
「肥料にするのも勿体ないな」
「ふふっ。でも、捨て台詞が気になりますね。『明日の夜会』……何か仕掛けてくるつもりでしょう」
私はニヤリと笑った。
「望むところです。あちらがその気なら、完膚なきまでに『論破(駆除)』して差し上げましょう」
次なる戦いの舞台は、王主催の舞踏会。
そこでリリナとの最終決戦が行われる。
私にとっては、ただの「害虫駆除作業」の一環に過ぎないけれど。
20
あなたにおすすめの小説
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
「美しい女性(ヒト)、貴女は一体、誰なのですか?」・・・って、オメエの嫁だよ
猫枕
恋愛
家の事情で12才でウェスペル家に嫁いだイリス。
当時20才だった旦那ラドヤードは子供のイリスをまったく相手にせず、田舎の領地に閉じ込めてしまった。
それから4年、イリスの実家ルーチェンス家はウェスペル家への借金を返済し、負い目のなくなったイリスは婚姻の無効を訴える準備を着々と整えていた。
そんなある日、領地に視察にやってきた形だけの夫ラドヤードとばったり出くわしてしまう。
美しく成長した妻を目にしたラドヤードは一目でイリスに恋をする。
「美しいひとよ、貴女は一体誰なのですか?」
『・・・・オメエの嫁だよ』
執着されたらかなわんと、逃げるイリスの運命は?
前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)
miy
恋愛
(※長編なため、少しネタバレを含みます)
ある日目覚めたら、そこは見たことも聞いたこともない…異国でした。
ここは、どうやら転生後の人生。
私は大貴族の令嬢レティシア17歳…らしいのですが…全く記憶にございません。
有り難いことに言葉は理解できるし、読み書きも問題なし。
でも、見知らぬ世界で貴族生活?いやいや…私は平凡な日本人のようですよ?…無理です。
“前世の記憶”として目覚めた私は、現世の“レティシアの身体”で…静かな庶民生活を始める。
そんな私の前に、一人の貴族男性が現れた。
ちょっと?訳ありな彼が、私を…自分の『唯一の女性』であると誤解してしまったことから、庶民生活が一変してしまう。
高い身分の彼に関わってしまった私は、元いた国を飛び出して魔法の国で暮らすことになるのです。
大公殿下、大魔術師、聖女や神獣…等など…いろんな人との出会いを経て『レティシア』が自分らしく生きていく。
という、少々…長いお話です。
鈍感なレティシアが、大公殿下からの熱い眼差しに気付くのはいつなのでしょうか…?
※安定のご都合主義、独自の世界観です。お許し下さい。
※ストーリーの進度は遅めかと思われます。
※現在、不定期にて公開中です。よろしくお願い致します。
公開予定日を最新話に記載しておりますが、長期休載の場合はこちらでもお知らせをさせて頂きます。
※ド素人の書いた3作目です。まだまだ優しい目で見て頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。
※初公開から2年が過ぎました。少しでも良い作品に、読みやすく…と、時間があれば順次手直し(改稿)をしていく予定でおります。(現在、146話辺りまで手直し作業中)
※章の区切りを変更致しました。(9/22更新)
十年間虐げられたお針子令嬢、冷徹侯爵に狂おしいほど愛される。
er
恋愛
十年前に両親を亡くしたセレスティーナは、後見人の叔父に財産を奪われ、物置部屋で使用人同然の扱いを受けていた。義妹ミレイユのために毎日ドレスを縫わされる日々——でも彼女には『星霜の記憶』という、物の過去と未来を視る特別な力があった。隠されていた舞踏会の招待状を見つけて決死の潜入を果たすと、冷徹で美しいヴィルフォール侯爵と運命の再会! 義妹のドレスが破れて大恥、叔父も悪事を暴かれて追放されるはめに。失われた伝説の刺繍技術を復活させたセレスティーナは宮廷筆頭職人に抜擢され、「ずっと君を探していた」と侯爵に溺愛される——
投資の天才”を名乗る臣民たちよ。 その全財産、確かに受け取った。 我が民のために活かそう』 〜虚飾を砕く女王の経済鉄槌〜
しおしお
恋愛
バブルに沸くアルビオン王国。
「エルドラド株」を持たぬ者は時代遅れ――
そう嘲笑いながら、実体のない海外権益へ全財産を注ぎ込む貴族たち。
自らを“投資の天才”と称し、増税に苦しむ民を見下す日々。
若き女王リリアーナは、その狂騒を静かに見つめていた。
やがて始まる王室監査。
暴かれる虚偽契約。
崩れ落ちる担保。
連鎖する破綻。
昨日まで「時代の勝者」を気取っていた特権階級は、一夜にして無一文へ。
泣きつく彼らに、女王はただ微笑む。
――“皆様の尊いご投資、確かに受け取りましたわ”
没収された富は国庫へ。
再配分された資源は民へ。
虚飾を砕き、制度を再設計し、王国を立て直す。
これは復讐譚ではない。
清算と再建の物語。
泡沫の王国に、女王の鉄槌が下される。
辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~
香木陽灯
恋愛
「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」
実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。
「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」
「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」
二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。
※ふんわり設定です。
※他サイトにも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる