ここまでお膳立てしてあげたのに、どうして恋に落ちないの!?

*菜乃

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第3章

ダンスタイム

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もうすぐ、ダンスの時間が始まる。

「ルシアは…来ていないのか……」
「はい?何かおっしゃいましたか?王太子殿下」
「いや、なんでもない」

煌びやかなシャンデリアの下、たくさんの生徒が楽しそうに話している。
王太子であるルークは、他の生徒より数段高い席に座っていた。

要するに、ルークは今玉座にいるのだ。
ルークの隣には、王太子妃のための席が一つ設けられている。
相手と楽しそうに話しをしながらも、王太子に熱い視線を送るのを忘れない令嬢たち。

正直、鬱陶しい以外の何ものでもない。
令嬢たちが見ているのは地位であり、ルークではない。ルークを通して、玉座に座っている自分を妄想しているのだ。

そんな令嬢たちに笑顔を振りまくのも疲れ切っていた頃。

「王太子殿下、ごきげんよう」
「ああ……ユリア嬢ではないか。是非、楽しんでいってくれ」
「はい!」

この会場に来たら、まず王太子に挨拶をする。
といっても、王太子は皆より遅れて登場するから、挨拶をするために長蛇の列ができるのだけれども。

「…ルシア嬢はまだ来ていないのか?」
「お姉様は、後少ししたら来るそうですよ」
「そうか…」

ユリア嬢とルシアの声は、よく似ていた。
それ故に、期待してしまったのだ。

ルシアがきたのではないか、と…

「あの、どうかしましたか?」
「いや、何でもない」

気遣わしげに遠慮なく見つめてくるユリア嬢。
普通、無遠慮に見ることを咎めるべきなんだろうが、ユリア嬢はルシアに少し似ているので、それもできない。

どうしてか、ルシアのことが気になってしょうがない。
もちろん、お化け屋敷の一件で気になっていることもそうだが、それを省いても、ルシアが頭から離れない。そんなことを考えていると。

「殿下、そろそろダンスのお時間ですよ」
「……ああ」

ソルが控えめにそう告げてきた。

そうか、もうそんな時間だったか。

気付くと、側にいたはずの騎士、フォレストの姿がない。
きっと、どこぞの令嬢たちにでも詰め寄られているのだろう。

仕方なく席を立つと、期待に満ちた目が一気に向けられる。
自分と踊ってくれるんだろうか?と考えているに違いないが、僕は玉座に目が眩んでいる奴らには興味なんかないし、一緒に踊るのもごめんだ。

ただ、いまだ心に決めている人もいないのは心配だと、陛下ーー父が考え、今宵一緒に踊った令嬢たちを、王家主催のお茶会に招待することになっている。
そこでよく相手を知り、王太子妃候補、つまり未来の自分の嫁を見つけろということなのだろう。
ダンス=婚約といっても過言ではないのだ。

まったく、いらないことをしてくれる。

そんなことを知ってか知らずか、ずっと見つめてくる令嬢たち。

こうなったら、一緒に踊るのは--ユリア嬢しかいない。
彼女は玉座になんか興味がないだろうし、正直、他の令嬢と踊るくらいだったら、ユリア嬢の方が数倍ましだとさえ思えてくる。

「ユリア嬢」
「はい、王太子殿下」

誰とも踊らず、壁の花になりかけていたユリア嬢に声をかける。

「今宵、僕と一緒に踊っていただけないだろうか?」
「……はい」

ユリア嬢は、少し考えた後、僕が差し出した手に自分の手を重ねる。

「それでは、行きましょう」

ダンスの輪の真ん中へ。
皆がそこには近づかないのは、王太子がそこで踊るという、暗黙の了解があったからだ。

音楽に合わせてダンスを始める。
ユリア嬢は、終始ずっと浮かない顔をしていた。

「ユリア嬢、つまらぬか?」
「あっ、いえ、そんなことは…」

ダンスを踊り終わった頃、ふとそんなことを聞いてみた。

「お、王太子様と踊れたなんて、光栄ですわ」

光栄だという割には、全然そうは見えなかった。

「その、一つだけお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「ああ、なんだ?」
「お姉様は、王太子様にとってどのような存在ですか?」
「……どう、か…」

突然そんなことを直球でいうものだから、少し驚いた。

「そうだな…一緒にいて気が楽な存在だ」

他の令嬢のように愛想笑いを振りまかなくて済むし、気をつかう必要もない。

「そうですか…わかりました、ありがとうございました」
「ああ…」

そういうと、ユリア嬢は去っていってしまい、自分は元の席へと戻る。

なんだったんだ、あれは……

終始浮かない顔をしていたかと思えば、突然よくわからない質問をぶつけてきた。
本当に、何がしたかったのかわからないが、今ここで考えてもしょうがない。

玉座に座り、ずっと出入り口用の扉を見つめていた。
それは開かないまま、夜会が終わってしまった。

結局、ルシアは夜会には来なかった。

❄︎ ❄︎ ❄︎ ❄︎ ❄︎ 

「王太子様…ルーク様は、間違いなくお姉様に惹かれている」

誰もいなくなった廊下で、彼女はそんなことを口にした。

『ルシアはルークにとってどんな存在か』という問いかけに対して、注目していたのは答えよりも、表情だった。
その表情が、全てを物語っていた。

好きという気持ちに気づいていなくとも、間違いなくルーク様の中でお姉様の存在は大きく、惹かれている。

それだけでも収穫があったので、夜会にきてよかったのかもしれない。
好きな人とは…踊れなかったけど。

「まあ、しょうがないか」

もう少しの辛抱だ。

そう自分に思い込ませ、彼女ーーユリアは、夜会の会場を後にしたのだった。
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