冷徹弁護士は甘い罠を張る

邉 紗

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証拠調べ

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いつから付き合ったんだっけ?
告白はどちらから?

七生は、アパートに来たことあると言っていただろうか。

焦燥にかられた。
入社後からずっと住んでいた自宅へと向かう。
七生が暫く帰っては駄目だというから、退院してから戻っていなかった。

都心の高層マンションではなく、住宅街に窮屈に建てられた三階建てのアパートだ。
バッグに入れっぱなしだった鍵を差し、玄関を開ける。
すると、扉を開く前に声をかけられた。

「旭川さん」

「ひっ……!」

まったく周囲を気にしていなかったため、突然の声に飛び上がった。
振り向くと賢がいた。

パーティーの時とは全然違い、覇気がなかった。無精髭を生やし、目の下には隈ができている。

「っお、大山さん……」

数メートル先とはいえ、あの賢だ。今度も何をしてくるかわからない。
心臓をバクバクとさせながら、逃げる算段をとった。
走ってもいないのに、恐ろしさで呼吸が苦しくなった。

(逃げなくちゃ)

家の中に急いではいって、鍵を閉める?
ううん。もし賢が入ってしまってふたりきりになったらそれが一番危ない。
じりじりと廊下をさがる。

「そう警戒しないでよ。何もしやしないよ。あの男、刑事告訴はしないとか言っていたくせにしっかり接近禁止命令の手続きなんてとってやがってさ」

賢は疑いを晴らすように両手を挙げた。

七生がいつの間にか動いていたらしい。そんなことをしていたとは知らなかった。

「じゃあ……な、何をしに……」

そんなこと簡単に信じられない。
強引で、危険な人だ。
いやらしい手の感触を思いだして、気持ちが悪くなった。

「あいつが居ないうちに旭川さんに渡したい資料があってさ。マンション前で待ってたら、今日は違う場所に向かっているって連絡入ったから」

七生が出張していることを知っているようだ。
結局、待ち伏せをしているではないか。
接近禁止命令とは、家や職場に来ては駄目なはずではないのか。

「連絡って、誰からですか?」

「興信所」

「ーーーーはい?」

(興信所って、身元調査だよね……?)
(つけられていたってこと?)

ゾクッとして、周囲を見回したが、とくにそれらしい人はいなかった。

「どういうことですか? 」

「間宮さんだよ。いつもいつも人を見下した目を向けてきて。まったく、本当にいけ好かない。ムカつくから、弱みでも握ってやりたくてね。

君もさ、いつまでも恋人ごっこなんかしてないで、目を覚ましたほうがいいよ。許嫁がいるくせに、遊んでいるのは一緒じゃないか。馬鹿にしやがって」

賢は封筒を投げてきた。
滑りながら足元に来て、クリップで留められた書類が少し出る。

「婚約者とか、それ本当? パーティーより前に、ふたりが付き合ってた形跡なんてひとつも無かったけど」

賢は文を嘲ると、すぐに背を向けた。


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