42 / 77
第三巻 Éternité
第5話「模倣と創造」②
しおりを挟む
会議室を出て、エレベーターに向かうとセナ君が付いてくる。
「奏!送ろうか?」
「ありがと!でも、ちょっと南條さんと話をしてから帰りたくて」
今まで教わったこと、ちゃんとお礼を言って改めて自分なりのアレンジに向き合いたいと思った。
「おい……ちょっと待てよ……」
「何?」
セナ君の言葉を聞かずにエレベーターに乗り、スタジオの階に移動する。
「マジであの女子高生、Aether-Mini持って来てくれたの!?」
「マジマジ。NovaTone Inc.の令嬢っぱないわ」
エレベーターを降りたとたん、奥の喫煙所から笑い声が聞こえた。
「で、どうなの?アレンジまだ教えてんの?」
「は?教えるわけねーし」
「ぶはっ、Aether-Mini持って来てくれたのに酷くね?」
「あんなガチの天才に職場荒らされたら迷惑以外の何者でもねーよ」
……え?それって……
私の、こと……?
「……あのヤロ……っ!」
怒りに任せて飛び出そうとするセナ君に、思わず抱き着いて止める……
「さっきのアレンジも、俺の丸パクリ。あれじゃ俺に頼むのと変わんねーよ。絶対OK出ねーって」
「お嬢様はおとなしく作曲ごっこしてりゃいいんだって」
「ちっとはNovaToneとコネ作れたらと思ったけど、期待できそうにねーし」
聞こえてくるのは、私を貶す言葉ばかりだった。
セナ君が、小さく、でも確かに言った。
「……お前、悔しくねーのかよ?」
悔しい?
……うん。悔しい。
でも、それはあんな人たちに悪く言われたことよりも、一瞬でも南條さんを“尊敬”してしまったこと。
アレンジの能力は尊敬していた……でも……人として……これはあんまりだ……
その勢いで、これが初恋かも……なんて、浮かれてた自分が恥ずかしい……
気づけば、セナ君に抱きしめられていた。
涙を我慢していたはずなのに、その腕の中で、気持ちが溢れていく。
「奏……あんなやつ、お前の曲で見返してやれ」
「……!」
……その一言が、胸に深く刺さった。
セナ君はまだ私を信じてくれるんだ……あんなアレンジをしてしまった私を……
ちゃんとこの人の期待に応えなければ……セナ君は、まだ私を信じてくれるんだから……
頷いた私の肩を、そっと抱きしめ直してくれた。
帰宅後。
キーボードの前に座っても、心の中にはまだいろんな感情が渦巻いていた。
さっきまでの悔しさも、恥ずかしさも、情けなさも、全部まだ胸の奥で燻っている。
でもそれ以上に、セナ君の言葉が……ただ、嬉しかった。
「お前の曲で見返してやれ」
そんなふうに、私を“信じる”って言ってくれた。
深呼吸して、指を鍵盤に置く。
ひとつ、音を鳴らす。
……この音に、私は何を足したい?
……このメロディに、私は何を伝えたい?
南條さんに褒められたくて作った音じゃない。
“すごい”って言われたくて詰め込んだ構成でもない。
ただ、今の私が……
いちばん「かっこいい」って思える音を、探してみる。
リバーブを1段浅くして、ベースラインを手打ちで刻む。
ブラスは一度外して、代わりにシンセパッドで空間を広げてみた。
「……こっちの方が、好きかも」
ふと、セナ君の声が蘇る。
「……でも、これはお前の音じゃない」
じゃあ、私の音って?
誰の真似でもない、自分だけの“好き”だけを信じた音って?
もう一度、コードを削る。
空白が怖くて詰め込んでた場所を、あえて“間”で魅せてみる。
キラキラしすぎたシンセは抑えて、ピアノを前に出す。
手癖で入れてたフィルインも思い切って外す。
音数は減ったのに、なぜか広く感じた。
……あ。これ、かも。
気がついたら、自然と手が動いていた。
南條さんがアレンジした『shooting stars』や『Dear You』あの音に感動した気持ちは、本物だった。
でも……
今度は、今の私の音で描いてみる。
気づけば、空がうっすら明るくなっていた。
目の前のMacのタイムラインには……
どこか懐かしくて、でもちゃんと“今”の私の音が、流れていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最後まで読んでいただきありがとうございました!
もし少しでも気になってもらえたら、フォローやお気に入りしていただけると励みになります。
第5話「模倣と創造」③は【本日夜】に更新予定です!
ぜひまた覗きに来てくださいね!
「奏!送ろうか?」
「ありがと!でも、ちょっと南條さんと話をしてから帰りたくて」
今まで教わったこと、ちゃんとお礼を言って改めて自分なりのアレンジに向き合いたいと思った。
「おい……ちょっと待てよ……」
「何?」
セナ君の言葉を聞かずにエレベーターに乗り、スタジオの階に移動する。
「マジであの女子高生、Aether-Mini持って来てくれたの!?」
「マジマジ。NovaTone Inc.の令嬢っぱないわ」
エレベーターを降りたとたん、奥の喫煙所から笑い声が聞こえた。
「で、どうなの?アレンジまだ教えてんの?」
「は?教えるわけねーし」
「ぶはっ、Aether-Mini持って来てくれたのに酷くね?」
「あんなガチの天才に職場荒らされたら迷惑以外の何者でもねーよ」
……え?それって……
私の、こと……?
「……あのヤロ……っ!」
怒りに任せて飛び出そうとするセナ君に、思わず抱き着いて止める……
「さっきのアレンジも、俺の丸パクリ。あれじゃ俺に頼むのと変わんねーよ。絶対OK出ねーって」
「お嬢様はおとなしく作曲ごっこしてりゃいいんだって」
「ちっとはNovaToneとコネ作れたらと思ったけど、期待できそうにねーし」
聞こえてくるのは、私を貶す言葉ばかりだった。
セナ君が、小さく、でも確かに言った。
「……お前、悔しくねーのかよ?」
悔しい?
……うん。悔しい。
でも、それはあんな人たちに悪く言われたことよりも、一瞬でも南條さんを“尊敬”してしまったこと。
アレンジの能力は尊敬していた……でも……人として……これはあんまりだ……
その勢いで、これが初恋かも……なんて、浮かれてた自分が恥ずかしい……
気づけば、セナ君に抱きしめられていた。
涙を我慢していたはずなのに、その腕の中で、気持ちが溢れていく。
「奏……あんなやつ、お前の曲で見返してやれ」
「……!」
……その一言が、胸に深く刺さった。
セナ君はまだ私を信じてくれるんだ……あんなアレンジをしてしまった私を……
ちゃんとこの人の期待に応えなければ……セナ君は、まだ私を信じてくれるんだから……
頷いた私の肩を、そっと抱きしめ直してくれた。
帰宅後。
キーボードの前に座っても、心の中にはまだいろんな感情が渦巻いていた。
さっきまでの悔しさも、恥ずかしさも、情けなさも、全部まだ胸の奥で燻っている。
でもそれ以上に、セナ君の言葉が……ただ、嬉しかった。
「お前の曲で見返してやれ」
そんなふうに、私を“信じる”って言ってくれた。
深呼吸して、指を鍵盤に置く。
ひとつ、音を鳴らす。
……この音に、私は何を足したい?
……このメロディに、私は何を伝えたい?
南條さんに褒められたくて作った音じゃない。
“すごい”って言われたくて詰め込んだ構成でもない。
ただ、今の私が……
いちばん「かっこいい」って思える音を、探してみる。
リバーブを1段浅くして、ベースラインを手打ちで刻む。
ブラスは一度外して、代わりにシンセパッドで空間を広げてみた。
「……こっちの方が、好きかも」
ふと、セナ君の声が蘇る。
「……でも、これはお前の音じゃない」
じゃあ、私の音って?
誰の真似でもない、自分だけの“好き”だけを信じた音って?
もう一度、コードを削る。
空白が怖くて詰め込んでた場所を、あえて“間”で魅せてみる。
キラキラしすぎたシンセは抑えて、ピアノを前に出す。
手癖で入れてたフィルインも思い切って外す。
音数は減ったのに、なぜか広く感じた。
……あ。これ、かも。
気がついたら、自然と手が動いていた。
南條さんがアレンジした『shooting stars』や『Dear You』あの音に感動した気持ちは、本物だった。
でも……
今度は、今の私の音で描いてみる。
気づけば、空がうっすら明るくなっていた。
目の前のMacのタイムラインには……
どこか懐かしくて、でもちゃんと“今”の私の音が、流れていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最後まで読んでいただきありがとうございました!
もし少しでも気になってもらえたら、フォローやお気に入りしていただけると励みになります。
第5話「模倣と創造」③は【本日夜】に更新予定です!
ぜひまた覗きに来てくださいね!
3
あなたにおすすめの小説
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない
彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。
酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。
「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」
そんなことを、言い出した。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
皇宮女官小蘭(シャオラン)は溺愛され過ぎて頭を抱えているようです!?
akechi
恋愛
建国して三百年の歴史がある陽蘭(ヤンラン)国。
今年16歳になる小蘭(シャオラン)はとある目的の為、皇宮の女官になる事を決めた。
家族に置き手紙を残して、いざ魑魅魍魎の世界へ足を踏み入れた。
だが、この小蘭という少女には信じられない秘密が隠されていた!?
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす
小木楓
恋愛
完結しました✨
タグ&あらすじ変更しました。
略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。
「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」
「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」
大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。
しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。
強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。
夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。
恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……?
「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。
それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる