スターライトパレード

木風

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第三巻 Éternité

第10話「Éternité」①

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自宅に戻り、大慌てで出かける準備をする。

「まずはシャワー……浴びた方がいいよね。絶対汗すごいかいた……」

時計を見れば、もう19時半をまわっている。

セナ君からもらったキーリング。
ピアスの穴を開けるために準備していたピアッサーも、そっとカバンに入れる。

そして……
ハンガーにかけてあった、友達からプレゼントでもらったワンピースに手を伸ばす。

あ……なんだろう。
少し緊張してる。期待なのか、不安なのか。
それとも、その全部がぐるぐる混ざった、よくわからない感情。

タクシーに乗り込み、セナ君から教えてもらった住所へ向かう。

……本当に、いいのかな。

手に持つ鍵を見つめる。
ハートのキーリングに付いている、ドッグタグみたいなプレート。

この“鍵に見えない鍵”をかざすと、エントランスの自動ドアが音もなく開いた。

エレベーターに乗ると、すでに行き先の階が光っている。

「わ……さすが芸能人が住むマンションって、すご……」

指定された部屋の前に立つ。
けれど、なかなか勇気が出なくて、ドアを開けられない。

LINEの画面はずっと動かないまま。
中にいるのか、いないのか……わからない。

「ふーーっ……」

大きく息を吸い込んで、鍵を差し込む。
そっとドアノブを回して、中を覗き込むように開ける。

「お……お邪魔します……?」

人の気配がない。
だけど、部屋に足を踏み入れた瞬間……

ガチャン

閉まったドアの音に、胸の鼓動が跳ねる。

靴を揃えて、玄関にあがる。

さっきまでいたマンションの廊下は、少し冷たい印象だったのに。
この部屋に入った瞬間、空気がふわっと柔らかくなった気がした。

「……わぁ……」

広すぎるわけじゃない。だけど、必要なものしかない。
寒々しくもないのに、余計なものが何もない。

玄関から続く廊下には、やわらかな間接照明。
その明かりが、足元に淡く落ちている。

無機質なグレーの壁に、黒のドアとスチールの棚。
けれど、その棚には、きれいに並べられた香水の瓶や、小さな観葉植物。

“生活感がない”のに、不思議と“落ち着く”。

廊下を抜けると、広がっていたのはシンプルなリビングだった。

大きなソファとローテーブル。壁にはテレビ。
等間隔に並んだダウンライトが、部屋全体をやわらかく包んでいる。

間接照明とキャンドルライトの明かりが、夜景と溶け合うように静かに灯っていた。

床は濃い色の無垢材。踏むたびに、ほんのり音がする。
窓の外には、都心の夜景が静かに浮かんでいた。

ソファの端に置かれたブランケット。
ガラステーブルの上には、開いたままのノートと、閉じたMacBook。

まるでモデルルームみたいなのに、不思議と“人の温度”があった。

「セナ君……まだ帰ってない、よね……?」

息を殺すように、リビングの端にそっと腰を下ろす。

心臓の音が、まだ少しだけうるさい。

……なんだろう。今なら、セナ君の曲が作れそう。

頭の中でコードが浮かび、メロディが生まれていく……
そんな時だった。

玄関の鍵が回る音がして、少し落ち着いていた心臓がまた跳ねる。

扉が閉まる音がして、私はリビングから顔を出す。

「おかえりなさい」
「……た、だいま」
「先にお邪魔しちゃってた。……ライブ、お疲れ様」

そっと近づく私に、セナ君は目を逸らしながら言った。

「あーー、ちょいリビングで待ってて。顔洗ってくるわ」

やっぱり、疲れてるよね。
あんなライブのあとなんだもん。無理させちゃったかな……

「なんか飲む?」

洗面所から戻ってきたセナ君が、キッチンで飲み物を用意してくれる。

「色々あるんだね。……これ、お酒?」
「酒以外な。アイスティーでいいか?」
「うん。……20歳になったら、飲んでみたいな」
「ん、3年後な。どんなんがいいか考えとけよ」

……“3年後の約束”なんて、思ってなかった。
ちょっとだけ、口元がゆるんでしまう。

セナ君からアイスティーを受け取り、一口。

テーブルの上に、あのパステルカラーの緑の箱が置かれる。



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最終話第10話「Éternité」②は【本日夜】に更新予定です!

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