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第一巻 shooting stars
2話「今に続く出会い」
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思い出さないようにしていた、あの日の記憶がふとよみがえる。
「あれ?ひょっとしてスタライのセナ?」
すれ違いざまの声に、現実に引き戻された。
顔を上げると、彼はまっすぐこちらを見つめていた。
気づけば、同じように下校中だった女子たちが周りに集まりはじめている。
「ちょっと人、増えてきたな……また来るから、考えとけよ!」
そう言い残して、彼は嵐のようにその場を去っていった。
「すたーらいとぱれーど……っと」
帰宅後、彼が言っていたその名前をYouTubeで検索する。
PVがずらりと並び、彼らの歌声が流れ出す。
「……本物だったんだ」
デビューは3年前。
7人組のグループ名は「スターライトパレード」。
・椿 翔平(24歳)……最年長でリーダー
・御影 怜央(23歳)……CMや雑誌出演が最多
・井上 信(22歳)……現役の国公立大学生
・天野 蓮(18歳)……ハリウッド映画出演経験あり
・柊 真央(17歳)……元子役、ダンスが得意
・豊田 遊里(15歳)……最年少の中学生
そして……
私に声をかけてきたのは、諏訪セナ(20歳)。
デビュー前から人気を集めていた絶対的センター。しかもハーフ?……あ、金髪は地毛なのかも。
「セナ君って言うんだ……」
画面の中で輝く彼らの姿は、まるで別世界。
眩しすぎて、私なんかには無理だって気持ちだけが、どんどん膨らんでいく。
「また来るから、考えとけよ!」
彼の言葉が、頭の中で何度も反響する。
きっと、あれは気まぐれだ。もう彼が私に会いに来ることなんて、ない。
そう思いながらも、
“次に彼が歌う曲はどんな曲だろう”
そんな想像とともに、頭の中ではピアノの音が鳴り続けていた……私は、それに気づかないふりをして眠りについた。
予想通り……彼が来ることはなかった。
1週間が過ぎた頃。
私はまた、あの音楽堂でピアノを弾いていた。
初めてここに来た日より、ずいぶん気温が上がってきた。
年々、夏が早くなるな……なんて思いながら、あの日のように、気ままに鍵盤を叩く。
夏はもうすぐそこ。
今年の夏休みは、何をしよう。
クラシックをやめてから、毎日がとても長く感じる。
ご飯を食べて、学校へ行って、寝て起きて……
ピアノを手放す勇気もなくて、最低限の練習だけは毎日欠かさず……
それだけの繰り返しを、もう2年。
彼に会って、声をかけられたあの日……
ピアノをやめてぽっかり空いていた心の穴が、ほんの少し埋まった気がした。
でも、それも……気のせいだったのかもしれない。
日曜日の朝に似合わない、少し切ない旋律を奏でていると……
「みーっけ!!」
ピアノの音と正反対の、明るい声が響いた。
「1週間ぶり!今さ、ツアー中でさ。昨日、九州から帰ってきたんだ」
突然現れたセナ君に、思わず手を止める。
「やっぱ、いいわ!おまえの音!」
その屈託のない言葉に、さっきまでの湿気が嘘みたいに晴れていくのを感じた。
「あ……ツアー、お疲れ様です」
「ぶはっ!“ツアー”が何かわかってなさそうな顔してんなー」
「そ、そんなことないよ……!」
「福岡ドームって知ってる?多いときは5万人とか入るの。すっげーひれーの!」
彼は、福岡でのライブの話、メンバーと食べた美味しいご飯の話、観光できなかった悔しさ……
この一週間であったことを、まるで噴き出すように話してくれた。
私はうまく返事もできず、ただ相槌を打つばかり。
“さすが芸能人はおしゃべり上手なんだな”
“盛ってるんだろうけど、どこを盛っているのか全然わからない……”
そんなことを考えてたら、思わず笑ってしまった。
セナ君の口ぶりから伝わってくる熱量。
本当に、私に曲を作ってほしいと思ってくれてるんだ。
自分たちのことを、ちゃんと知ってほしいと……
そう思ったら、彼の時間を無駄にしたくなかった。
ちゃんと……断らなきゃ。
「セナ君って……呼んでいいのかな?なんで、私に曲を作ってって言ったの?」
本当に、疑問だった。
私なんかより上手い人は、たくさんいる。
なのに、ただピアノが弾けるだけの私に……どうして?
「オレさ、たしか5年前くらいかな。まだ研究生で、全然デビューの気配もなくて。
腐ってたんだ、いろんなこと」
「……腐ってた?」
「親に誘われて、従妹のピアノコンクール見に行ったんだ。トリで出てたのがおまえでさ。
いろんな大会で優勝してて、優勝候補だって聞いてたんだけど……オレより5歳も下の小学生が?って思った」
「コンクール……」
「でもさ、演奏始まった瞬間、全然ちげーの。
同じピアノなのに、なんでこんなに音が違うんだって思った。
輝いて見えたんだよ、音が」
……あの頃の記憶がよみがえる。
ピアノを弾くのが、楽しくてたまらなかった。
昨日より少しでもうまく弾けたら、飛び跳ねるほど嬉しくて。
時間を忘れて、夢中で鍵盤に向かっていた。
「“この子、どれだけ練習してきたんだろう”って思った。オレなんかの想像が及ばない毎日を積み重ねてきたんだろうなって」
「……」
「そんな演奏、聴いたらさ。
腐ってる自分が、めちゃくちゃダサイって気が付いた。
レッスンがしんどいとき、よく思い出してた。今でも、頭の中でおまえのピアノが鳴ってる。
あのときのおまえに、オレは何度も救われたんだ」
……私の演奏で、救われた人がいたんだ。
「いつか会えたら、お礼を言いたかった。
だから、ここでピアノ弾くおまえを見つけて……これは運命だって思った。
おまえが作る曲を、聴いてみたい。絶対に歌いたくなる」
……ありがとう。
その気持ちは、本当に嬉しい。
彼は、自分たちの音楽を、私に託そうとしてくれている。
でも……
「セナ君の気持ちは、本当にうれしい。だけど、ダメなんだよ。私、もう弾けない…」
「なんでだよ!作曲やったことないってだけなら、やってみりゃいいだろ!」
「わからないの!?クラシックでコンクールまで出てた私が、なんでアイドルの曲なんか作らなきゃいけないのよ!!」
……言った瞬間、後悔した。
セナ君が、一瞬だけ、見たことない表情を浮かべる。
その顔にハッとして、自分の言葉のひどさに気づいた。
彼の想いに応えられない自分が、悔しくて。
その苛立ちを、ぶつけてしまった。
……謝らなきゃ。
そう思った、そのとき……
「ひょっとして、奏……?」
「あれ?ひょっとしてスタライのセナ?」
すれ違いざまの声に、現実に引き戻された。
顔を上げると、彼はまっすぐこちらを見つめていた。
気づけば、同じように下校中だった女子たちが周りに集まりはじめている。
「ちょっと人、増えてきたな……また来るから、考えとけよ!」
そう言い残して、彼は嵐のようにその場を去っていった。
「すたーらいとぱれーど……っと」
帰宅後、彼が言っていたその名前をYouTubeで検索する。
PVがずらりと並び、彼らの歌声が流れ出す。
「……本物だったんだ」
デビューは3年前。
7人組のグループ名は「スターライトパレード」。
・椿 翔平(24歳)……最年長でリーダー
・御影 怜央(23歳)……CMや雑誌出演が最多
・井上 信(22歳)……現役の国公立大学生
・天野 蓮(18歳)……ハリウッド映画出演経験あり
・柊 真央(17歳)……元子役、ダンスが得意
・豊田 遊里(15歳)……最年少の中学生
そして……
私に声をかけてきたのは、諏訪セナ(20歳)。
デビュー前から人気を集めていた絶対的センター。しかもハーフ?……あ、金髪は地毛なのかも。
「セナ君って言うんだ……」
画面の中で輝く彼らの姿は、まるで別世界。
眩しすぎて、私なんかには無理だって気持ちだけが、どんどん膨らんでいく。
「また来るから、考えとけよ!」
彼の言葉が、頭の中で何度も反響する。
きっと、あれは気まぐれだ。もう彼が私に会いに来ることなんて、ない。
そう思いながらも、
“次に彼が歌う曲はどんな曲だろう”
そんな想像とともに、頭の中ではピアノの音が鳴り続けていた……私は、それに気づかないふりをして眠りについた。
予想通り……彼が来ることはなかった。
1週間が過ぎた頃。
私はまた、あの音楽堂でピアノを弾いていた。
初めてここに来た日より、ずいぶん気温が上がってきた。
年々、夏が早くなるな……なんて思いながら、あの日のように、気ままに鍵盤を叩く。
夏はもうすぐそこ。
今年の夏休みは、何をしよう。
クラシックをやめてから、毎日がとても長く感じる。
ご飯を食べて、学校へ行って、寝て起きて……
ピアノを手放す勇気もなくて、最低限の練習だけは毎日欠かさず……
それだけの繰り返しを、もう2年。
彼に会って、声をかけられたあの日……
ピアノをやめてぽっかり空いていた心の穴が、ほんの少し埋まった気がした。
でも、それも……気のせいだったのかもしれない。
日曜日の朝に似合わない、少し切ない旋律を奏でていると……
「みーっけ!!」
ピアノの音と正反対の、明るい声が響いた。
「1週間ぶり!今さ、ツアー中でさ。昨日、九州から帰ってきたんだ」
突然現れたセナ君に、思わず手を止める。
「やっぱ、いいわ!おまえの音!」
その屈託のない言葉に、さっきまでの湿気が嘘みたいに晴れていくのを感じた。
「あ……ツアー、お疲れ様です」
「ぶはっ!“ツアー”が何かわかってなさそうな顔してんなー」
「そ、そんなことないよ……!」
「福岡ドームって知ってる?多いときは5万人とか入るの。すっげーひれーの!」
彼は、福岡でのライブの話、メンバーと食べた美味しいご飯の話、観光できなかった悔しさ……
この一週間であったことを、まるで噴き出すように話してくれた。
私はうまく返事もできず、ただ相槌を打つばかり。
“さすが芸能人はおしゃべり上手なんだな”
“盛ってるんだろうけど、どこを盛っているのか全然わからない……”
そんなことを考えてたら、思わず笑ってしまった。
セナ君の口ぶりから伝わってくる熱量。
本当に、私に曲を作ってほしいと思ってくれてるんだ。
自分たちのことを、ちゃんと知ってほしいと……
そう思ったら、彼の時間を無駄にしたくなかった。
ちゃんと……断らなきゃ。
「セナ君って……呼んでいいのかな?なんで、私に曲を作ってって言ったの?」
本当に、疑問だった。
私なんかより上手い人は、たくさんいる。
なのに、ただピアノが弾けるだけの私に……どうして?
「オレさ、たしか5年前くらいかな。まだ研究生で、全然デビューの気配もなくて。
腐ってたんだ、いろんなこと」
「……腐ってた?」
「親に誘われて、従妹のピアノコンクール見に行ったんだ。トリで出てたのがおまえでさ。
いろんな大会で優勝してて、優勝候補だって聞いてたんだけど……オレより5歳も下の小学生が?って思った」
「コンクール……」
「でもさ、演奏始まった瞬間、全然ちげーの。
同じピアノなのに、なんでこんなに音が違うんだって思った。
輝いて見えたんだよ、音が」
……あの頃の記憶がよみがえる。
ピアノを弾くのが、楽しくてたまらなかった。
昨日より少しでもうまく弾けたら、飛び跳ねるほど嬉しくて。
時間を忘れて、夢中で鍵盤に向かっていた。
「“この子、どれだけ練習してきたんだろう”って思った。オレなんかの想像が及ばない毎日を積み重ねてきたんだろうなって」
「……」
「そんな演奏、聴いたらさ。
腐ってる自分が、めちゃくちゃダサイって気が付いた。
レッスンがしんどいとき、よく思い出してた。今でも、頭の中でおまえのピアノが鳴ってる。
あのときのおまえに、オレは何度も救われたんだ」
……私の演奏で、救われた人がいたんだ。
「いつか会えたら、お礼を言いたかった。
だから、ここでピアノ弾くおまえを見つけて……これは運命だって思った。
おまえが作る曲を、聴いてみたい。絶対に歌いたくなる」
……ありがとう。
その気持ちは、本当に嬉しい。
彼は、自分たちの音楽を、私に託そうとしてくれている。
でも……
「セナ君の気持ちは、本当にうれしい。だけど、ダメなんだよ。私、もう弾けない…」
「なんでだよ!作曲やったことないってだけなら、やってみりゃいいだろ!」
「わからないの!?クラシックでコンクールまで出てた私が、なんでアイドルの曲なんか作らなきゃいけないのよ!!」
……言った瞬間、後悔した。
セナ君が、一瞬だけ、見たことない表情を浮かべる。
その顔にハッとして、自分の言葉のひどさに気づいた。
彼の想いに応えられない自分が、悔しくて。
その苛立ちを、ぶつけてしまった。
……謝らなきゃ。
そう思った、そのとき……
「ひょっとして、奏……?」
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