届かない声のそばで ― 元自衛官カウンセラー・篠原梓の傾聴録

藤原遊

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第45話(後半)

信じるって、どこまでですか

「“信じること”って、
 相手のことを全面的に許す、みたいなことだと思ってたんです。
 でも、それって……無防備になるってことですよね」

「無防備なまま、裏切られるのが怖い」

「はい。
 信じて、裏切られて、また信じて……
 その繰り返しが、自分の中の“信じる価値”みたいなものをどんどん削っていく感じで」


梓は少しだけ目を伏せた。
“信じる”という言葉に、過去の任務がふっと重なる。

命を預け合うということ。
背中を任せるということ。
信じなければ成り立たなかった世界で、
信じた結果、失った命もあった。

「……私も、かつて“信じたのに”と思ったことがあります」

梓は自分の中にある、まだ言葉になりきらない感情を選ぶように、静かに言葉を続けた。

「でも、そのとき、“信じたからこそ、あの人は最後まで踏ん張れた”とも思えたんです。
 たとえ結果が望んだ形にならなくても、
 “信じたことそのもの”が、誰かを支えることもある。
 だから私は、“信じたこと”を後悔しないようにしようと決めました」


広瀬は、梓の言葉を静かに聞いていた。
目を伏せたまま、何かをかみしめるように。

「……信じたことを後悔しない、か……」

「信じるって、“委ねる”ことじゃなくて、
 “選ぶこと”なんだと思います。
 “この人を信じる”と自分で決めること。
 その結果に、どんな結末が来たとしても、
 “私はそう選んだ”と自分にだけは言えるようにしておく」


しばらくの沈黙のあと、広瀬はぽつりとつぶやいた。

「……“選ぶ”って考えると、少しだけ、楽になる気がします。
 “信じてしまった”って、どこか無力に聞こえていたけど、
 “信じた”なら、自分で選んだことになりますもんね」


たしかに、選ぶことには責任が伴う。
けれど同時に、それは“誰かに与えられた期待”ではなく、
“自分自身が持った希望”でもある。

「また傷つくかもしれません。
 でも、“信じることができる自分”まで手放さないでください。
 それは、あなたの優しさのかたちだから」

広瀬は、小さく頷いた。

「……ありがとうございます。
 次は、“自分が選んで信じた”って、ちゃんと覚えておきます。
 たとえ失敗しても、
 それを“自分が悪かった”って結末にしないように、したいです」


梓はその姿に、少しだけ安堵を覚えた。

“信じたことを否定しない”という選択は、
かつての自分がなかなかできなかったものだった。

けれどいま、こうして誰かの前で語れたことで、
自分もまた、ほんの少し先に進めた気がしていた
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