聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした

藤原遊

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第6話 国の行方

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私が国を離れたあとも、
しばらくの間、表向きの平穏は保たれていた。

神殿では祈祷が続けられ、
聖女の不在は「一時的な混乱」として扱われた。
人々もまた、そう信じたがっていたのだろう。

神官たちはすぐに、新しい対策を打ち出した。

祈祷の回数を増やし、
供物の量を倍にし、
儀式の手順を見直す。

聖女に頼らずとも、
神殿だけで国を守れるのだと示すために。

井戸の水が濁った件は、
そうした対策の一環として処理された。

供物を増やし、
神官たちが総出で祈祷を行うと、
水は一時的に澄んだ。

「神はまだ我らを見放していない」

神官たちはそう宣言し、
民もそれに安堵した。

追放の判断は正しかった。
聖女は、もはや必要なかった。
そう思いたい空気が、国全体を包んでいた。

けれど、邪気は消えていなかった。

それは目に見えない形で、
確実に土地に沈んでいった。

最初に変わったのは、収穫量だった。

種をまいても、芽が揃わない。
育ったとしても、実りが少ない。
病でも虫害でもないため、
原因は分からなかった。

「天候が悪かったのだろう」
「今年は運が悪い」

そう言って、人々は深く考えないようにした。

次に変わったのは、人の心だった。

以前なら流されていた小さな不満が、
口に出されるようになる。
些細なことで言い争いが起こり、
互いを疑う空気が広がった。

神殿は、さらに祈りを強めた。

祈祷の回数は増え、
儀式はより厳かになり、
供物の量も増えた。

それでも、手応えは戻らない。

「邪気が濃い」
「土地が応えていない」

そう言いながら、
誰も“なぜ邪気が生まれたのか”には触れなかった。

やがて、森に異変が起きる。

魔物が増え、
討伐の報告が日常になる。
兵は疲弊し、
街道は荒れ、行商は減った。

物資が滞り始め、
人々の生活に、はっきりと影が差す。

それでも国は、まだ滅びてはいなかった。

人は「まだ大丈夫だ」と思えるうちは、
状況を深刻だとは認めない。

神殿は声明を出し、
王は民を安心させる言葉を並べた。

だが、限界は確実に近づいていた。

作物が育たず、
人心が荒れ、
魔物が増え続ける中で、
国は少しずつ、守るべきものを失っていく。

治安は悪化し、
小さな町が切り捨てられ、
支援は届かなくなった。

それでも最後まで、
誰も気づこうとしなかった。

邪気が、
誰かを切り捨てた結果として生まれていたこと。
それを、かつて一人の聖女が引き受けていたこと。

聖女がいなくなったのではない。
聖女が、祈らなくなったのだ。

けれどその理由を、
国は必要としなかった。

やがて国は、
「かつて豊かだった場所」と呼ばれるようになる。

それが滅びと呼ばれるまでに、
そう長い時間はかからなかった。
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