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第1章:雪の町に帰る
ガタン、ゴトン。
列車の揺れに身をまかせながら、私は窓の外をぼんやりと眺めていた。
視界いっぱいに広がる雪。
田んぼも屋根も電柱も、まるで真綿をかぶせたように白く、やわらかく覆われていた。
冷たさより、静けさを感じる雪国の景色。
この感じ――東京では味わえない。
心の奥がじんわりと温まるような、懐かしい匂いがした。
車内のストーブが静かに唸り、小さなやかんから湯気が立っている。
誰かのコートについた雪がゆっくりと溶けて、床にしずくを落とした。
思えば、ここにいた頃は毎年こんな冬を過ごしていた。
学校帰りに雪玉をぶつけ合って、
白い息を吐きながら笑い転げたあの坂道。
駅まで迎えに来てくれた父の車の中で、ホカホカの肉まんを頬張った冬休みの始まり。
あの頃の私は、この世界を何の疑いもなく愛していた。
窓ガラスに映る自分の顔が、少しだけ柔らかく見えた。
口紅の色も、東京で選んだコートも、この景色には少しだけ浮いている気がする。
でも、それも悪くない。
あと少しで、駅に着く。
迎えに来てくれている母は、また大きな声で手を振るだろう。
寒いのに、「あんた、細くなったねぇ」なんて笑うに違いない。
雪国の冬は長い。
けれど、帰る場所がこんなにもあたたかいと思えるなら、
それは決して悪いことじゃない。
私はマフラーの端をきゅっと握って、ゆっくりと立ち上がった。
心に、ほんの少しだけ雪が積もっていく音がした。
ガタン、ゴトン。
列車の揺れに身をまかせながら、私は窓の外をぼんやりと眺めていた。
視界いっぱいに広がる雪。
田んぼも屋根も電柱も、まるで真綿をかぶせたように白く、やわらかく覆われていた。
冷たさより、静けさを感じる雪国の景色。
この感じ――東京では味わえない。
心の奥がじんわりと温まるような、懐かしい匂いがした。
車内のストーブが静かに唸り、小さなやかんから湯気が立っている。
誰かのコートについた雪がゆっくりと溶けて、床にしずくを落とした。
思えば、ここにいた頃は毎年こんな冬を過ごしていた。
学校帰りに雪玉をぶつけ合って、
白い息を吐きながら笑い転げたあの坂道。
駅まで迎えに来てくれた父の車の中で、ホカホカの肉まんを頬張った冬休みの始まり。
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でも、それも悪くない。
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寒いのに、「あんた、細くなったねぇ」なんて笑うに違いない。
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けれど、帰る場所がこんなにもあたたかいと思えるなら、
それは決して悪いことじゃない。
私はマフラーの端をきゅっと握って、ゆっくりと立ち上がった。
心に、ほんの少しだけ雪が積もっていく音がした。
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