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第5章:雪の町にさよならを
朝、駅のホームにはまだ誰の足跡もなかった。
昨夜の雪がそのまま積もり、世界をすっかりリセットしてしまったみたいだった。
私は切符を握りしめて、ホームの端に立った。
空気は透きとおっていて、吐いた息が白く長く伸びていく。
胸の奥まで、冷たさが届く。けれど、それも嫌いじゃなかった。
遠くから列車の音が近づいてくる。
雪を巻き上げながら入ってくる姿が、まるで過去を引き連れてやってくるようだった。
ふと振り返ると、母が改札の向こうで小さく手を振っていた。
隣には父もいて、雪を払うように軽く手を上げている。
見送る人がいることの温かさに、少しだけ胸が詰まった。
私は、あの家で育てられた。
あの町で、あの人たちに囲まれて、たくさんの優しさを知った。
だからこそ、今の私がある。
その事実に、感謝している。
けれど、あの世界には戻れない。
誰かの娘や、誰かの妻として存在するのではなく、
“私”という名前だけで立つ場所を、私は選んだ。
列車のドアが開く。
私が一歩乗り込むと、冷たい空気が背中を押してくれた気がした。
席に座り、静かに町を見つめる。
白くて、静かで、やさしい町。
でもその優しさは、もう今の私には少しだけ、遠い。
雪が、ゆっくりと窓に舞い落ちる。
それは、最後の別れのようにも、静かな祝福のようにも思えた。
やがて列車が動き出す。
音もなく、ゆっくりと、雪の町が遠ざかっていく。
私は目を閉じた。
ありがとう、と心の中でつぶやく。
そして、もう一度、前を向いた。
朝、駅のホームにはまだ誰の足跡もなかった。
昨夜の雪がそのまま積もり、世界をすっかりリセットしてしまったみたいだった。
私は切符を握りしめて、ホームの端に立った。
空気は透きとおっていて、吐いた息が白く長く伸びていく。
胸の奥まで、冷たさが届く。けれど、それも嫌いじゃなかった。
遠くから列車の音が近づいてくる。
雪を巻き上げながら入ってくる姿が、まるで過去を引き連れてやってくるようだった。
ふと振り返ると、母が改札の向こうで小さく手を振っていた。
隣には父もいて、雪を払うように軽く手を上げている。
見送る人がいることの温かさに、少しだけ胸が詰まった。
私は、あの家で育てられた。
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だからこそ、今の私がある。
その事実に、感謝している。
けれど、あの世界には戻れない。
誰かの娘や、誰かの妻として存在するのではなく、
“私”という名前だけで立つ場所を、私は選んだ。
列車のドアが開く。
私が一歩乗り込むと、冷たい空気が背中を押してくれた気がした。
席に座り、静かに町を見つめる。
白くて、静かで、やさしい町。
でもその優しさは、もう今の私には少しだけ、遠い。
雪が、ゆっくりと窓に舞い落ちる。
それは、最後の別れのようにも、静かな祝福のようにも思えた。
やがて列車が動き出す。
音もなく、ゆっくりと、雪の町が遠ざかっていく。
私は目を閉じた。
ありがとう、と心の中でつぶやく。
そして、もう一度、前を向いた。
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