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第6章 選択と未来
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朝の光は、魔王城にも平等に差し込む。
闇の神の加護が色濃く残る土地だというのに、今日の光はやけに穏やかだった。眩しさはなく、ただ温度だけを運んでくるような、静かな朝。
リュミエールは窓辺に立ち、外を見下ろしていた。
昨日の夜から、答えはずっと胸の中にあった。
悩んだ時間がなかったわけではない。けれど、迷い続けるほど複雑でもなかった。
誰かの一番になる。
誰かに選ばれ、同時に自分も選ぶ。
それは、聖女として生きてきた彼女が、ただ一度も許されなかった立場だ。
「……不思議ね」
誰に向けるでもなく呟く。
怖さよりも、温かさの方が勝っている。
それだけで、答えとしては十分だった。
扉を叩く音がする。
一度きり、控えめに。
「どうぞ」
入ってきたのはヴァルだった。
昨夜と同じように静かな顔をしているが、視線にはわずかな緊張が滲んでいる。
「……時間をもらえるか」
「ええ」
二人は、向かい合って立つ。
言葉は要らない。
昨夜の続きを、今ここで終わらせるだけだ。
リュミエールは、先に口を開いた。
「答え、決まったわ」
ヴァルの指先が、ほんの少しだけ強張る。
「私は……あなたに選ばれて、嬉しかった」
正直な言葉だった。
「誰かの一番になるなんて、考えたこともなかったから。
ふわふわして、現実感がなくて……でも」
一歩、距離を詰める。
「嫌じゃなかった。
それどころか、離したくないと思った」
それが、答えだった。
ヴァルは、ゆっくりと息を吐く。
「……ありがとう」
その声には、安堵と覚悟が混じっている。
「俺は、君を唯一として選ぶ」
魔族の言葉で、静かに、確かに告げる。
「生涯を通して、隣に立つ存在として」
儀式はない。
誓約文もない。
ただ、彼の手が伸び、リュミエールの首元に触れる。
闇の神の加護が、淡く形を成す。
それは支配の印ではなく、守護の証だった。
リュミエールは、驚くほど自然にそれを受け入れる。
「……私も」
今度は、彼女の番だった。
「私にも、唯一を選ぶ制度があるの」
静かに、しかし迷いなく。
「あなたを、私の聖配に選ぶ」
その瞬間、光が満ちる。
祈りでも、命令でもない。
聖女が誰かを選んだという事実に、光の女神の加護が応じただけだった。
柔らかな光が、ヴァルの身体を包む。
しばらくして、ヴァルは自分の手を見下ろし、眉を寄せる。
「……いいのか」
低い声で、率直に疑問を口にする。
「俺は、すでに闇の神の加護を受けている。
そこに光の女神の加護まで重なって……不具合はないのか?」
力の暴走。
神意の衝突。
王として、魔王として、当然の懸念だった。
リュミエールは、その言葉を聞いて――くすりと笑った。
「大丈夫よ」
そして、少しだけ肩をすくめる。
「神様はね」
その笑みは、聖女のものではなく、ひとりの女性のものだった。
「面白い間は、黙ってるでしょ」
ヴァルは一瞬、言葉を失い、やがて小さく息を吐いた。
「……君らしいな」
二人は並んで、窓の外を見る。
光と闇が混ざり合う未来は、まだ形を持たない。
問題も、困難も、きっと残っている。
それでも。
世界を救った聖女は、もう一人ではない。
魔王もまた、王としてではなく、一人の存在として選ばれた。
誰かに与えられた役割ではなく、
自分で選んだ隣。
リュミエールは、その場所に立ちながら、もう一度笑った。
これが――
彼女が選んだ、物語の続きだった。
ーーーーーーーーーーーーー
※作者コメント
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
冒頭に聖女を送り出した神官長視点の短編を公開しました。
「聖女を追い出しても平気だと思っていた国の末路」
よろしければぜひ覗いてください。
闇の神の加護が色濃く残る土地だというのに、今日の光はやけに穏やかだった。眩しさはなく、ただ温度だけを運んでくるような、静かな朝。
リュミエールは窓辺に立ち、外を見下ろしていた。
昨日の夜から、答えはずっと胸の中にあった。
悩んだ時間がなかったわけではない。けれど、迷い続けるほど複雑でもなかった。
誰かの一番になる。
誰かに選ばれ、同時に自分も選ぶ。
それは、聖女として生きてきた彼女が、ただ一度も許されなかった立場だ。
「……不思議ね」
誰に向けるでもなく呟く。
怖さよりも、温かさの方が勝っている。
それだけで、答えとしては十分だった。
扉を叩く音がする。
一度きり、控えめに。
「どうぞ」
入ってきたのはヴァルだった。
昨夜と同じように静かな顔をしているが、視線にはわずかな緊張が滲んでいる。
「……時間をもらえるか」
「ええ」
二人は、向かい合って立つ。
言葉は要らない。
昨夜の続きを、今ここで終わらせるだけだ。
リュミエールは、先に口を開いた。
「答え、決まったわ」
ヴァルの指先が、ほんの少しだけ強張る。
「私は……あなたに選ばれて、嬉しかった」
正直な言葉だった。
「誰かの一番になるなんて、考えたこともなかったから。
ふわふわして、現実感がなくて……でも」
一歩、距離を詰める。
「嫌じゃなかった。
それどころか、離したくないと思った」
それが、答えだった。
ヴァルは、ゆっくりと息を吐く。
「……ありがとう」
その声には、安堵と覚悟が混じっている。
「俺は、君を唯一として選ぶ」
魔族の言葉で、静かに、確かに告げる。
「生涯を通して、隣に立つ存在として」
儀式はない。
誓約文もない。
ただ、彼の手が伸び、リュミエールの首元に触れる。
闇の神の加護が、淡く形を成す。
それは支配の印ではなく、守護の証だった。
リュミエールは、驚くほど自然にそれを受け入れる。
「……私も」
今度は、彼女の番だった。
「私にも、唯一を選ぶ制度があるの」
静かに、しかし迷いなく。
「あなたを、私の聖配に選ぶ」
その瞬間、光が満ちる。
祈りでも、命令でもない。
聖女が誰かを選んだという事実に、光の女神の加護が応じただけだった。
柔らかな光が、ヴァルの身体を包む。
しばらくして、ヴァルは自分の手を見下ろし、眉を寄せる。
「……いいのか」
低い声で、率直に疑問を口にする。
「俺は、すでに闇の神の加護を受けている。
そこに光の女神の加護まで重なって……不具合はないのか?」
力の暴走。
神意の衝突。
王として、魔王として、当然の懸念だった。
リュミエールは、その言葉を聞いて――くすりと笑った。
「大丈夫よ」
そして、少しだけ肩をすくめる。
「神様はね」
その笑みは、聖女のものではなく、ひとりの女性のものだった。
「面白い間は、黙ってるでしょ」
ヴァルは一瞬、言葉を失い、やがて小さく息を吐いた。
「……君らしいな」
二人は並んで、窓の外を見る。
光と闇が混ざり合う未来は、まだ形を持たない。
問題も、困難も、きっと残っている。
それでも。
世界を救った聖女は、もう一人ではない。
魔王もまた、王としてではなく、一人の存在として選ばれた。
誰かに与えられた役割ではなく、
自分で選んだ隣。
リュミエールは、その場所に立ちながら、もう一度笑った。
これが――
彼女が選んだ、物語の続きだった。
ーーーーーーーーーーーーー
※作者コメント
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
冒頭に聖女を送り出した神官長視点の短編を公開しました。
「聖女を追い出しても平気だと思っていた国の末路」
よろしければぜひ覗いてください。
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