世界を救った聖女ですが、浮気されたので魔王と手を組みます

藤原遊

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第6章 選択と未来

6-3

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朝の光は、魔王城にも平等に差し込む。

闇の神の加護が色濃く残る土地だというのに、今日の光はやけに穏やかだった。眩しさはなく、ただ温度だけを運んでくるような、静かな朝。

リュミエールは窓辺に立ち、外を見下ろしていた。

昨日の夜から、答えはずっと胸の中にあった。
悩んだ時間がなかったわけではない。けれど、迷い続けるほど複雑でもなかった。

誰かの一番になる。
誰かに選ばれ、同時に自分も選ぶ。

それは、聖女として生きてきた彼女が、ただ一度も許されなかった立場だ。

「……不思議ね」

誰に向けるでもなく呟く。

怖さよりも、温かさの方が勝っている。
それだけで、答えとしては十分だった。

扉を叩く音がする。

一度きり、控えめに。

「どうぞ」

入ってきたのはヴァルだった。
昨夜と同じように静かな顔をしているが、視線にはわずかな緊張が滲んでいる。

「……時間をもらえるか」

「ええ」

二人は、向かい合って立つ。

言葉は要らない。
昨夜の続きを、今ここで終わらせるだけだ。

リュミエールは、先に口を開いた。

「答え、決まったわ」

ヴァルの指先が、ほんの少しだけ強張る。

「私は……あなたに選ばれて、嬉しかった」

正直な言葉だった。

「誰かの一番になるなんて、考えたこともなかったから。
ふわふわして、現実感がなくて……でも」

一歩、距離を詰める。

「嫌じゃなかった。
それどころか、離したくないと思った」

それが、答えだった。

ヴァルは、ゆっくりと息を吐く。

「……ありがとう」

その声には、安堵と覚悟が混じっている。

「俺は、君を唯一として選ぶ」

魔族の言葉で、静かに、確かに告げる。

「生涯を通して、隣に立つ存在として」

儀式はない。
誓約文もない。

ただ、彼の手が伸び、リュミエールの首元に触れる。

闇の神の加護が、淡く形を成す。
それは支配の印ではなく、守護の証だった。

リュミエールは、驚くほど自然にそれを受け入れる。

「……私も」

今度は、彼女の番だった。

「私にも、唯一を選ぶ制度があるの」

静かに、しかし迷いなく。

「あなたを、私の聖配に選ぶ」

その瞬間、光が満ちる。

祈りでも、命令でもない。
聖女が誰かを選んだという事実に、光の女神の加護が応じただけだった。

柔らかな光が、ヴァルの身体を包む。

しばらくして、ヴァルは自分の手を見下ろし、眉を寄せる。

「……いいのか」

低い声で、率直に疑問を口にする。

「俺は、すでに闇の神の加護を受けている。
そこに光の女神の加護まで重なって……不具合はないのか?」

力の暴走。
神意の衝突。
王として、魔王として、当然の懸念だった。

リュミエールは、その言葉を聞いて――くすりと笑った。

「大丈夫よ」

そして、少しだけ肩をすくめる。

「神様はね」

その笑みは、聖女のものではなく、ひとりの女性のものだった。

「面白い間は、黙ってるでしょ」

ヴァルは一瞬、言葉を失い、やがて小さく息を吐いた。

「……君らしいな」

二人は並んで、窓の外を見る。

光と闇が混ざり合う未来は、まだ形を持たない。
問題も、困難も、きっと残っている。

それでも。

世界を救った聖女は、もう一人ではない。
魔王もまた、王としてではなく、一人の存在として選ばれた。

誰かに与えられた役割ではなく、
自分で選んだ隣。

リュミエールは、その場所に立ちながら、もう一度笑った。

これが――
彼女が選んだ、物語の続きだった。


ーーーーーーーーーーーーー

※作者コメント

最後までお読みくださり、ありがとうございました。
冒頭に聖女を送り出した神官長視点の短編を公開しました。

「聖女を追い出しても平気だと思っていた国の末路」

よろしければぜひ覗いてください。
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