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第6章 選択と未来
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夜のお茶会は、いつの間にか習慣になっていた。
誰が決めたわけでもない。
時間を決めた覚えもない。
夕食が終わり、城の中が静まり始める頃。
どちらからともなく声をかけ、温かい茶を用意して、短い時間を過ごす。
それだけのことだ。
「今日は、少し香りを変えてみた」
ヴァルが差し出した茶は、ほのかに甘い香りがした。
「いい香りね」
リュミエールは素直にそう言い、カップを受け取る。
他愛のない会話。
農園の進捗、魔族たちの様子、城で起きた小さな出来事。
重い話はしない。
結論も求めない。
それでも、不思議と夜は満たされていく。
部屋を出る頃には、すっかり遅い時間になっていた。
「送ろう」
それも、いつもの流れだ。
回廊を並んで歩く。
足音が重なり、言葉は少ない。
扉の前で立ち止まり、リュミエールは礼を言おうとして――ふと、気づく。
ヴァルの瞳が、いつもと違う。
深く、静かで、けれど感情を押し隠しきれていない色。
「……どうしたの?」
問いかけると、ヴァルは一瞬だけ視線を逸らし、すぐに戻す。
「いや」
それだけだった。
胸の奥が、わずかに揺れる。
――まさか。
そんなはずはない。
彼は魔王で、私は聖女だった存在で。
今は対等な仲間で、信頼関係があるだけ。
それ以上の感情があるなんて、考えすぎだ。
「……おやすみなさい」
自分から、言葉を切る。
「ああ。おやすみ」
扉を閉めると、胸の高鳴りだけが残った。
リュミエールはベッドに腰を下ろし、小さく息を吐く。
「……考えすぎよ」
そう自分に言い聞かせ、
その夜は、それ以上考えないことにした。
翌日の夜も、同じ時間にお茶会は始まった。
けれど、空気は少し違っていた。
ヴァルは、いつもより口数が少ない。
茶の温度が下がっても、なかなか本題に入らない。
リュミエールが不思議に思い、視線を向けた時――
ヴァルは、意を決したように口を開いた。
「……話がある」
その声は、王のものでも、魔王のものでもない。
「俺たちの関係についてだ」
リュミエールは、カップを置く。
「……ええ」
ヴァルは、まっすぐに彼女を見る。
逃げも、誤魔化しもない。
「魔族には、特別な関係を結ぶ概念がある」
一拍、置く。
「生涯、ただ一人だけを選ぶものだ」
その言葉に、リュミエールの呼吸が止まる。
「……それを」
ヴァルは、静かに続けた。
「俺は、君に向けたいと思っている」
言葉は簡潔だった。
飾りも、誇張もない。
ただ、選択としての告白。
リュミエールは、すぐに返事ができなかった。
誰かの一番になる。
誰かに、唯一として選ばれる。
そんな経験は、これまで一度もなかった。
胸の奥が、ふわりと浮く。
嬉しいのに、現実感がなくて、足が地についていない感覚。
「……すぐに答えなくていい」
ヴァルが、先に言う。
「考えてからでいい。
時間は、いくらでもある」
その言葉に、押しつけは一切なかった。
リュミエールは、ゆっくりと頷く。
「……ありがとう」
それだけ言うのが、精一杯だった。
この夜、決着はつかない。
選択は、まだ先に委ねられる。
けれど――
確かに、関係は次の段階へ踏み出していた。
リュミエールは自室に戻り、静かに胸に手を当てる。
鼓動が、まだ少し速い。
「……考えなくちゃ」
その言葉は、不安よりも、期待を含んでいた。
夜は深く、静かに更けていく。
二人とも、もう戻れない場所に足を踏み入れたことを、
はっきりと自覚しながら。
誰が決めたわけでもない。
時間を決めた覚えもない。
夕食が終わり、城の中が静まり始める頃。
どちらからともなく声をかけ、温かい茶を用意して、短い時間を過ごす。
それだけのことだ。
「今日は、少し香りを変えてみた」
ヴァルが差し出した茶は、ほのかに甘い香りがした。
「いい香りね」
リュミエールは素直にそう言い、カップを受け取る。
他愛のない会話。
農園の進捗、魔族たちの様子、城で起きた小さな出来事。
重い話はしない。
結論も求めない。
それでも、不思議と夜は満たされていく。
部屋を出る頃には、すっかり遅い時間になっていた。
「送ろう」
それも、いつもの流れだ。
回廊を並んで歩く。
足音が重なり、言葉は少ない。
扉の前で立ち止まり、リュミエールは礼を言おうとして――ふと、気づく。
ヴァルの瞳が、いつもと違う。
深く、静かで、けれど感情を押し隠しきれていない色。
「……どうしたの?」
問いかけると、ヴァルは一瞬だけ視線を逸らし、すぐに戻す。
「いや」
それだけだった。
胸の奥が、わずかに揺れる。
――まさか。
そんなはずはない。
彼は魔王で、私は聖女だった存在で。
今は対等な仲間で、信頼関係があるだけ。
それ以上の感情があるなんて、考えすぎだ。
「……おやすみなさい」
自分から、言葉を切る。
「ああ。おやすみ」
扉を閉めると、胸の高鳴りだけが残った。
リュミエールはベッドに腰を下ろし、小さく息を吐く。
「……考えすぎよ」
そう自分に言い聞かせ、
その夜は、それ以上考えないことにした。
翌日の夜も、同じ時間にお茶会は始まった。
けれど、空気は少し違っていた。
ヴァルは、いつもより口数が少ない。
茶の温度が下がっても、なかなか本題に入らない。
リュミエールが不思議に思い、視線を向けた時――
ヴァルは、意を決したように口を開いた。
「……話がある」
その声は、王のものでも、魔王のものでもない。
「俺たちの関係についてだ」
リュミエールは、カップを置く。
「……ええ」
ヴァルは、まっすぐに彼女を見る。
逃げも、誤魔化しもない。
「魔族には、特別な関係を結ぶ概念がある」
一拍、置く。
「生涯、ただ一人だけを選ぶものだ」
その言葉に、リュミエールの呼吸が止まる。
「……それを」
ヴァルは、静かに続けた。
「俺は、君に向けたいと思っている」
言葉は簡潔だった。
飾りも、誇張もない。
ただ、選択としての告白。
リュミエールは、すぐに返事ができなかった。
誰かの一番になる。
誰かに、唯一として選ばれる。
そんな経験は、これまで一度もなかった。
胸の奥が、ふわりと浮く。
嬉しいのに、現実感がなくて、足が地についていない感覚。
「……すぐに答えなくていい」
ヴァルが、先に言う。
「考えてからでいい。
時間は、いくらでもある」
その言葉に、押しつけは一切なかった。
リュミエールは、ゆっくりと頷く。
「……ありがとう」
それだけ言うのが、精一杯だった。
この夜、決着はつかない。
選択は、まだ先に委ねられる。
けれど――
確かに、関係は次の段階へ踏み出していた。
リュミエールは自室に戻り、静かに胸に手を当てる。
鼓動が、まだ少し速い。
「……考えなくちゃ」
その言葉は、不安よりも、期待を含んでいた。
夜は深く、静かに更けていく。
二人とも、もう戻れない場所に足を踏み入れたことを、
はっきりと自覚しながら。
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