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レティシアは、リシャールと名乗る謎の男との会話が頭に残るまま、学園の廊下を進んでいた。軽口を叩くような態度だったが、その目にはどこか底知れないものを感じる。彼のような人物がなぜ学園にいるのか、それを知る必要があると直感した。
だが、それに気を取られている場合でもない。今日の授業に向かう途中、彼女は再び冷たい視線に晒される。
「まったく、どの面下げて歩いているのかしらね」
「破棄されたくせに、まだ学園に通うなんて図太いわ」
背後で囁かれる声は、いつもと同じ。レティシアはその言葉に表情を崩すことなく、まっすぐに前を向いた。
(これくらいで動揺していたら、破滅フラグなんて回避できない)
そう自分に言い聞かせながら、講義室へ足を踏み入れる。
講義が終わり、昼休みの鐘が響いた。レティシアは人気のない学園の裏庭へと向かう。今日は一人で静かに昼食をとるつもりだった。
ところが、その裏庭で待っていたのは、彼女にとって予想外の人物だった。
「ここにいると思ったよ」
声の主は、王太子アルフォンス・グレイストーン。かつての婚約者であり、レティシアの破滅フラグの元凶だ。
「……何のご用ですか?」
冷たく言い放つと、アルフォンスはわずかに眉をひそめた。彼の端整な顔立ちは、誰もが認める王太子らしい威厳を帯びている。だが、その表情の奥にはどこか陰りが見えた。
「お前、最近何をしている?」
唐突な問いかけに、レティシアはわずかに目を見開いた。
「何を、とはどういう意味です?」
「お前が何か企んでいるのではないかと、噂が立っている。自分では気づいていないのか?」
その言葉に、レティシアの心が冷える。もちろん、何も企んでいない。だが、彼の言う「噂」が彼女をさらに追い詰める可能性があることは容易に想像できた。
「噂とは、具体的に何です?」
「お前が裏で……誰かを操っているのではないか、という話だ」
アルフォンスは慎重に言葉を選んでいるようだった。その目には警戒が宿っている。
「馬鹿馬鹿しい」
レティシアはため息をつき、冷ややかに言い放った。
「それが本当に私の仕業だとお思いなら、証拠でもお持ちですか? そうでないなら、どうぞお引き取りください」
「……」
アルフォンスは言葉を失い、しばらく彼女を見つめたまま立ち尽くしていた。
(何を迷っているのかしら)
その沈黙が意味するものを探ろうとしたそのとき、突如、背後から声がかかった。
「おやおや、これは珍しい組み合わせだ」
レティシアが振り返ると、そこには黒いコートを羽織ったリシャールの姿があった。相変わらず余裕のある微笑みを浮かべている。
「王太子殿下と“悪役令嬢”が裏庭で密談とは、これはどんな噂が立つかわからないね」
「お前は……誰だ?」
アルフォンスが眉を寄せてリシャールを睨む。だが、リシャールは怯むことなく、その鋭い青い瞳をまっすぐに受け止めた。
「ただの旅人だよ。君たちの“噂”に興味が湧いて、少し聞き耳を立てさせてもらった」
「聞き耳……!」
アルフォンスが一歩詰め寄ると、リシャールは軽く手を挙げた。
「落ち着いてくれ。僕は争いが好きじゃないんだ。それに、彼女――いや、レティシアさんには助けが必要そうだからね」
「助け……?」
アルフォンスは眉をひそめ、リシャールからレティシアへと視線を移した。
「レティシア、お前は一体何を隠している?」
「私は何も隠してなどいません」
レティシアはきっぱりとそう言い放ち、アルフォンスを睨み返した。その瞳の奥には、揺るぎない意志が宿っている。
「ただ、この方と違って“暇”ではないので、そろそろ失礼します」
そう言って立ち去ろうとする彼女の背中に、リシャールが小さく笑い声を上げた。
「気の強いお嬢さんだ。王太子殿下も、なかなか大変そうだね」
アルフォンスが振り返り、怒りのこもった声で問い詰める。
「お前の目的は何だ?」
「目的? それは――」
リシャールは唇を緩め、少しだけ目を細めた。
「“真実”を暴くことさ。それ以上でも、それ以下でもない」
その答えに、アルフォンスの表情が硬直した。
一方、レティシアは足早にその場を離れながら、心の中で新たな不安が芽生えるのを感じていた。この男、リシャールの存在が、今後の運命をどう変えるのか――その答えを知るには、まだ時間が必要だった。
だが、それに気を取られている場合でもない。今日の授業に向かう途中、彼女は再び冷たい視線に晒される。
「まったく、どの面下げて歩いているのかしらね」
「破棄されたくせに、まだ学園に通うなんて図太いわ」
背後で囁かれる声は、いつもと同じ。レティシアはその言葉に表情を崩すことなく、まっすぐに前を向いた。
(これくらいで動揺していたら、破滅フラグなんて回避できない)
そう自分に言い聞かせながら、講義室へ足を踏み入れる。
講義が終わり、昼休みの鐘が響いた。レティシアは人気のない学園の裏庭へと向かう。今日は一人で静かに昼食をとるつもりだった。
ところが、その裏庭で待っていたのは、彼女にとって予想外の人物だった。
「ここにいると思ったよ」
声の主は、王太子アルフォンス・グレイストーン。かつての婚約者であり、レティシアの破滅フラグの元凶だ。
「……何のご用ですか?」
冷たく言い放つと、アルフォンスはわずかに眉をひそめた。彼の端整な顔立ちは、誰もが認める王太子らしい威厳を帯びている。だが、その表情の奥にはどこか陰りが見えた。
「お前、最近何をしている?」
唐突な問いかけに、レティシアはわずかに目を見開いた。
「何を、とはどういう意味です?」
「お前が何か企んでいるのではないかと、噂が立っている。自分では気づいていないのか?」
その言葉に、レティシアの心が冷える。もちろん、何も企んでいない。だが、彼の言う「噂」が彼女をさらに追い詰める可能性があることは容易に想像できた。
「噂とは、具体的に何です?」
「お前が裏で……誰かを操っているのではないか、という話だ」
アルフォンスは慎重に言葉を選んでいるようだった。その目には警戒が宿っている。
「馬鹿馬鹿しい」
レティシアはため息をつき、冷ややかに言い放った。
「それが本当に私の仕業だとお思いなら、証拠でもお持ちですか? そうでないなら、どうぞお引き取りください」
「……」
アルフォンスは言葉を失い、しばらく彼女を見つめたまま立ち尽くしていた。
(何を迷っているのかしら)
その沈黙が意味するものを探ろうとしたそのとき、突如、背後から声がかかった。
「おやおや、これは珍しい組み合わせだ」
レティシアが振り返ると、そこには黒いコートを羽織ったリシャールの姿があった。相変わらず余裕のある微笑みを浮かべている。
「王太子殿下と“悪役令嬢”が裏庭で密談とは、これはどんな噂が立つかわからないね」
「お前は……誰だ?」
アルフォンスが眉を寄せてリシャールを睨む。だが、リシャールは怯むことなく、その鋭い青い瞳をまっすぐに受け止めた。
「ただの旅人だよ。君たちの“噂”に興味が湧いて、少し聞き耳を立てさせてもらった」
「聞き耳……!」
アルフォンスが一歩詰め寄ると、リシャールは軽く手を挙げた。
「落ち着いてくれ。僕は争いが好きじゃないんだ。それに、彼女――いや、レティシアさんには助けが必要そうだからね」
「助け……?」
アルフォンスは眉をひそめ、リシャールからレティシアへと視線を移した。
「レティシア、お前は一体何を隠している?」
「私は何も隠してなどいません」
レティシアはきっぱりとそう言い放ち、アルフォンスを睨み返した。その瞳の奥には、揺るぎない意志が宿っている。
「ただ、この方と違って“暇”ではないので、そろそろ失礼します」
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「お前の目的は何だ?」
「目的? それは――」
リシャールは唇を緩め、少しだけ目を細めた。
「“真実”を暴くことさ。それ以上でも、それ以下でもない」
その答えに、アルフォンスの表情が硬直した。
一方、レティシアは足早にその場を離れながら、心の中で新たな不安が芽生えるのを感じていた。この男、リシャールの存在が、今後の運命をどう変えるのか――その答えを知るには、まだ時間が必要だった。
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