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翌朝、レティシアは学園の自室でリシャールから渡された契約書を広げ、再び目を通していた。夜通し考え抜いた末、この書類がディアナの計画の鍵を握ると確信した。
書類には、ディアナがある劇団に多額の資金を援助し、その見返りとして特定のストーリーライン――貴族への反発を煽る筋書きを舞台に組み込むよう要求していた証拠が記されている。
(これがあれば、彼女の裏を暴ける。でも、まだ弱い……)
レティシアは書類を慎重に折りたたみ、机の引き出しにしまった。これだけではディアナを直接追い詰めるには不十分だったが、次に進む足がかりにはなる。
(この契約書を見たのが私だと知られたら、今度こそ“悪役令嬢”の罪を押し付けられる。慎重に動かないと)
そう思いながら、彼女はカーテンを開けて朝の光を浴びた。今日が、ディアナとの対決に向けた重要な一日になると直感していた。
昼休み、レティシアは学園の図書室に向かった。そこは、ディアナがよく訪れる場所でもあった。
予想通り、奥の席でディアナが何かの本を読んでいる姿が目に入る。彼女の華やかな笑顔と落ち着いた雰囲気は、周囲から羨望の目で見られていた。
(見た目だけなら、誰もが彼女を“ヒロイン”だと思うでしょうね……)
レティシアは静かに歩み寄り、ディアナの向かい側の席に腰を下ろした。驚いた様子のディアナが顔を上げる。
「まあ、レティシア様。どうなさったのですか?」
その柔らかい声に、レティシアは薄く微笑みながら答えた。
「少しお話ししたいと思って。いいかしら?」
「もちろんです。どうぞ」
ディアナは本を閉じ、穏やかな視線を向けた。その目の奥に隠された意図を探りながら、レティシアは切り出した。
「最近の“誇り高きヒロイン”の演劇、とても話題になっていますね」
「ええ。素晴らしい作品ですよね。平民の方々にも夢と勇気を与える物語ですもの」
「そうね。でも、その物語が貴族社会を揺るがす力を持っているとは思わない?」
ディアナの微笑みが一瞬だけ固まった。だが、それを気取られないよう、すぐに穏やかな表情を取り戻す。
「揺るがす、ですか? それは少し大げさではありませんか?」
「そうかしら?」
レティシアは視線を逸らさず、さらに言葉を重ねた。
「例えば、その物語の影響で貴族への反発が強まったら? 平民と貴族の間で争いが起きる可能性だってある」
「そんなこと、私にはわかりませんわ」
ディアナは静かに笑ったが、その声にはかすかな緊張が滲んでいた。それを見逃さず、レティシアはさらに問いを投げかけた。
「……あなたは、この国をどうしたいの?」
その直球の問いに、ディアナの表情が一瞬だけ揺らいだ。だが、彼女はすぐに微笑みを浮かべて言った。
「この国を、もっと素晴らしい場所にしたい――それだけです」
「素晴らしい場所、ね……」
レティシアはその言葉を噛みしめながら、次の一手を考えた。
その夜、リシャールがレティシアの自室を訪ねてきた。彼は彼女の机に視線を向け、軽く微笑む。
「で、どうだった?」
「彼女は何かを隠しているわ。でも、核心には触れさせてもらえなかった」
「まあ、それは予想通りだね。彼女は自分が舞台の“演出家”であることを絶対に明かさないだろう」
リシャールはレティシアの机に腰を下ろし、懐からもう一枚の書類を取り出した。
「君の助けになると思って、もう一つ見つけてきたよ」
それは、ディアナが演劇のシナリオに介入した証拠――彼女が“悪役令嬢”の描写を変更させるよう指示した文書だった。
「これが……」
「これで、彼女が物語そのものを操作している証拠が揃った。君はどう動く?」
リシャールの問いに、レティシアは静かに立ち上がった。
「これを使って、彼女を追い詰めるわ。彼女の計画を壊す――そのためなら、どんな手でも使う」
その目には、確固たる決意が宿っていた。リシャールは満足げに微笑み、彼女に言った。
「その覚悟、嫌いじゃないよ。次の舞台で、君がどう輝くのか楽しみだ」
レティシアの中で、新たな歯車が音を立てて回り始めた。ディアナを追い詰めるための舞台は整いつつある。だが、それは同時にさらなる危険を招くことを意味していた。
(私は絶対に負けない。私の破滅フラグを回避するためにも――この国の未来のためにも)
月明かりが窓から差し込む中、彼女は静かにその思いを胸に刻んだ。
書類には、ディアナがある劇団に多額の資金を援助し、その見返りとして特定のストーリーライン――貴族への反発を煽る筋書きを舞台に組み込むよう要求していた証拠が記されている。
(これがあれば、彼女の裏を暴ける。でも、まだ弱い……)
レティシアは書類を慎重に折りたたみ、机の引き出しにしまった。これだけではディアナを直接追い詰めるには不十分だったが、次に進む足がかりにはなる。
(この契約書を見たのが私だと知られたら、今度こそ“悪役令嬢”の罪を押し付けられる。慎重に動かないと)
そう思いながら、彼女はカーテンを開けて朝の光を浴びた。今日が、ディアナとの対決に向けた重要な一日になると直感していた。
昼休み、レティシアは学園の図書室に向かった。そこは、ディアナがよく訪れる場所でもあった。
予想通り、奥の席でディアナが何かの本を読んでいる姿が目に入る。彼女の華やかな笑顔と落ち着いた雰囲気は、周囲から羨望の目で見られていた。
(見た目だけなら、誰もが彼女を“ヒロイン”だと思うでしょうね……)
レティシアは静かに歩み寄り、ディアナの向かい側の席に腰を下ろした。驚いた様子のディアナが顔を上げる。
「まあ、レティシア様。どうなさったのですか?」
その柔らかい声に、レティシアは薄く微笑みながら答えた。
「少しお話ししたいと思って。いいかしら?」
「もちろんです。どうぞ」
ディアナは本を閉じ、穏やかな視線を向けた。その目の奥に隠された意図を探りながら、レティシアは切り出した。
「最近の“誇り高きヒロイン”の演劇、とても話題になっていますね」
「ええ。素晴らしい作品ですよね。平民の方々にも夢と勇気を与える物語ですもの」
「そうね。でも、その物語が貴族社会を揺るがす力を持っているとは思わない?」
ディアナの微笑みが一瞬だけ固まった。だが、それを気取られないよう、すぐに穏やかな表情を取り戻す。
「揺るがす、ですか? それは少し大げさではありませんか?」
「そうかしら?」
レティシアは視線を逸らさず、さらに言葉を重ねた。
「例えば、その物語の影響で貴族への反発が強まったら? 平民と貴族の間で争いが起きる可能性だってある」
「そんなこと、私にはわかりませんわ」
ディアナは静かに笑ったが、その声にはかすかな緊張が滲んでいた。それを見逃さず、レティシアはさらに問いを投げかけた。
「……あなたは、この国をどうしたいの?」
その直球の問いに、ディアナの表情が一瞬だけ揺らいだ。だが、彼女はすぐに微笑みを浮かべて言った。
「この国を、もっと素晴らしい場所にしたい――それだけです」
「素晴らしい場所、ね……」
レティシアはその言葉を噛みしめながら、次の一手を考えた。
その夜、リシャールがレティシアの自室を訪ねてきた。彼は彼女の机に視線を向け、軽く微笑む。
「で、どうだった?」
「彼女は何かを隠しているわ。でも、核心には触れさせてもらえなかった」
「まあ、それは予想通りだね。彼女は自分が舞台の“演出家”であることを絶対に明かさないだろう」
リシャールはレティシアの机に腰を下ろし、懐からもう一枚の書類を取り出した。
「君の助けになると思って、もう一つ見つけてきたよ」
それは、ディアナが演劇のシナリオに介入した証拠――彼女が“悪役令嬢”の描写を変更させるよう指示した文書だった。
「これが……」
「これで、彼女が物語そのものを操作している証拠が揃った。君はどう動く?」
リシャールの問いに、レティシアは静かに立ち上がった。
「これを使って、彼女を追い詰めるわ。彼女の計画を壊す――そのためなら、どんな手でも使う」
その目には、確固たる決意が宿っていた。リシャールは満足げに微笑み、彼女に言った。
「その覚悟、嫌いじゃないよ。次の舞台で、君がどう輝くのか楽しみだ」
レティシアの中で、新たな歯車が音を立てて回り始めた。ディアナを追い詰めるための舞台は整いつつある。だが、それは同時にさらなる危険を招くことを意味していた。
(私は絶対に負けない。私の破滅フラグを回避するためにも――この国の未来のためにも)
月明かりが窓から差し込む中、彼女は静かにその思いを胸に刻んだ。
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