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ディアナを追い詰めるための準備は整いつつあった。リシャールから渡された契約書とシナリオ介入の証拠。それらをどう活用するかが、次の大きな課題だった。
その日の昼休み、レティシアは学園の庭園でアルフォンスと会っていた。彼もまた、ディアナを追い詰めるための協力を惜しまない姿勢を見せていた。
「これがディアナの計画の証拠よ」
レティシアは書類をアルフォンスに渡した。彼はそれを受け取り、慎重に目を通す。
「なるほど。彼女が演劇に影響を与え、平民の支持を集めているという証拠だな」
「でも、これだけじゃまだ弱いわ。このまま彼女に公表されても、彼女は“私はただの支援者に過ぎません”と逃げるだけよ」
アルフォンスは書類を机に置き、腕を組んだ。
「確かに。その通りだ。もっと決定的な証拠が必要だな」
「ええ。そして、彼女を追い詰める場も……」
そのとき、アルフォンスが小さく笑みを浮かべた。
「だったら、僕が場を用意しよう」
「どういうこと?」
「今度、宮廷で大規模な舞踏会が開かれる。そこに彼女も招待されている。それに僕の権限で、劇団の関係者たちを呼ぶこともできる」
「つまり……彼女を公の場で追及する?」
「そうだ。彼女が計画を進めるために必要な支持者たちも、そこに揃うだろう。そこで彼女を追い詰める」
アルフォンスの提案に、レティシアは少し考え込んだが、やがて静かに頷いた。
「わかったわ。その舞台を利用させてもらう」
「ただし、気をつけろ。彼女も必ず対抗してくるはずだ。君の動きを見ていないはずがない」
「ええ、覚悟はできているわ」
舞踏会当日。煌びやかな装飾で彩られた宮廷の大広間には、王国中の貴族たちが集まっていた。美しいドレスやタキシードに身を包んだ男女が舞い踊り、優雅な音楽が響いている。
レティシアもまた、豪奢な深紅のドレスに身を包み、会場の片隅で静かに情勢を見守っていた。その目は、ただの社交の場を楽しむ貴族令嬢のそれではない。
(この場で、彼女を追い詰める。そして、私の名誉を取り戻す)
一方、会場の中心で注目を集めていたのは、ディアナ・ローレンスだった。淡いパステルブルーのドレスをまとい、可憐な笑みを浮かべる彼女は、まさに“完璧な貴族令嬢”を体現していた。
「ディアナ様、今日は本当にお美しいですね」
「ありがとうございます。こうして皆さまにお会いできて光栄ですわ」
その姿は、まるで舞台上のヒロインそのものだった。だが、レティシアはその微笑みの奥に潜む策略の影を見逃さない。
アルフォンスが舞踏会の主催者として挨拶を終えると、彼は静かにレティシアの元へと歩み寄った。
「準備はいいか?」
「ええ、問題ないわ」
彼女の目に揺るぎない意志を見て、アルフォンスは短く頷いた。そして、ディアナに近づき、彼女に声をかける。
「ディアナ、少し話がしたい」
「もちろんですわ、アルフォンス殿下」
ディアナは柔らかく微笑みながら、アルフォンスの横に立つ。周囲の目を引くように二人が進むと、自然と注目が集まった。
そのタイミングを見計らって、アルフォンスが声を上げる。
「皆さん、今日はこの場をお借りして、私たちの国について一つ重要なお話をしたいと思います」
会場が静まり返り、全員の視線がアルフォンスに集中する。ディアナもまた、少し警戒した様子で彼を見つめていた。
「近頃、この国の平民と貴族の間で、微妙な緊張が広がっているのを感じています。その中で、ある人物がそれを煽り、計画的に国を揺るがそうとしている可能性がある」
その言葉に会場がざわつく。ディアナの表情もわずかに引き締まった。
「私はその証拠を持っています」
そう言いながら、アルフォンスが舞台上に置かれた机の上に契約書とシナリオ改変の証拠を広げた。
「この証拠は、ある演劇が貴族社会を揺るがすために計画的に利用されていることを示しています。そして、その支援を行っていたのが――」
「待ってください!」
ディアナが突如声を上げ、会場の視線を一身に浴びた。その目にはわずかな焦りが見えたが、すぐにいつもの柔らかな笑みを浮かべる。
「殿下、私にも話をさせていただけますか?」
「どうぞ」
アルフォンスは静かに頷いた。ディアナは一歩前に出て、会場中に響くような声で話し始めた。
「このような証拠が出されたこと、とても驚いています。ですが、それが本当に私に関係するものであるなら、ぜひ精査させていただきたいと思います」
その言葉に、会場の空気が微妙に変わった。彼女の毅然とした態度に、周囲は一瞬彼女を擁護するような視線を送る。
(そうはさせない)
レティシアは一歩前に進み、声を上げた。
「では、その証拠について直接聞かせていただきます。ディアナ様――この契約書に記された署名は、あなたのものではありませんか?」
その言葉に、ディアナの微笑みがわずかに引きつった。
(ここからが本番ね……)
その日の昼休み、レティシアは学園の庭園でアルフォンスと会っていた。彼もまた、ディアナを追い詰めるための協力を惜しまない姿勢を見せていた。
「これがディアナの計画の証拠よ」
レティシアは書類をアルフォンスに渡した。彼はそれを受け取り、慎重に目を通す。
「なるほど。彼女が演劇に影響を与え、平民の支持を集めているという証拠だな」
「でも、これだけじゃまだ弱いわ。このまま彼女に公表されても、彼女は“私はただの支援者に過ぎません”と逃げるだけよ」
アルフォンスは書類を机に置き、腕を組んだ。
「確かに。その通りだ。もっと決定的な証拠が必要だな」
「ええ。そして、彼女を追い詰める場も……」
そのとき、アルフォンスが小さく笑みを浮かべた。
「だったら、僕が場を用意しよう」
「どういうこと?」
「今度、宮廷で大規模な舞踏会が開かれる。そこに彼女も招待されている。それに僕の権限で、劇団の関係者たちを呼ぶこともできる」
「つまり……彼女を公の場で追及する?」
「そうだ。彼女が計画を進めるために必要な支持者たちも、そこに揃うだろう。そこで彼女を追い詰める」
アルフォンスの提案に、レティシアは少し考え込んだが、やがて静かに頷いた。
「わかったわ。その舞台を利用させてもらう」
「ただし、気をつけろ。彼女も必ず対抗してくるはずだ。君の動きを見ていないはずがない」
「ええ、覚悟はできているわ」
舞踏会当日。煌びやかな装飾で彩られた宮廷の大広間には、王国中の貴族たちが集まっていた。美しいドレスやタキシードに身を包んだ男女が舞い踊り、優雅な音楽が響いている。
レティシアもまた、豪奢な深紅のドレスに身を包み、会場の片隅で静かに情勢を見守っていた。その目は、ただの社交の場を楽しむ貴族令嬢のそれではない。
(この場で、彼女を追い詰める。そして、私の名誉を取り戻す)
一方、会場の中心で注目を集めていたのは、ディアナ・ローレンスだった。淡いパステルブルーのドレスをまとい、可憐な笑みを浮かべる彼女は、まさに“完璧な貴族令嬢”を体現していた。
「ディアナ様、今日は本当にお美しいですね」
「ありがとうございます。こうして皆さまにお会いできて光栄ですわ」
その姿は、まるで舞台上のヒロインそのものだった。だが、レティシアはその微笑みの奥に潜む策略の影を見逃さない。
アルフォンスが舞踏会の主催者として挨拶を終えると、彼は静かにレティシアの元へと歩み寄った。
「準備はいいか?」
「ええ、問題ないわ」
彼女の目に揺るぎない意志を見て、アルフォンスは短く頷いた。そして、ディアナに近づき、彼女に声をかける。
「ディアナ、少し話がしたい」
「もちろんですわ、アルフォンス殿下」
ディアナは柔らかく微笑みながら、アルフォンスの横に立つ。周囲の目を引くように二人が進むと、自然と注目が集まった。
そのタイミングを見計らって、アルフォンスが声を上げる。
「皆さん、今日はこの場をお借りして、私たちの国について一つ重要なお話をしたいと思います」
会場が静まり返り、全員の視線がアルフォンスに集中する。ディアナもまた、少し警戒した様子で彼を見つめていた。
「近頃、この国の平民と貴族の間で、微妙な緊張が広がっているのを感じています。その中で、ある人物がそれを煽り、計画的に国を揺るがそうとしている可能性がある」
その言葉に会場がざわつく。ディアナの表情もわずかに引き締まった。
「私はその証拠を持っています」
そう言いながら、アルフォンスが舞台上に置かれた机の上に契約書とシナリオ改変の証拠を広げた。
「この証拠は、ある演劇が貴族社会を揺るがすために計画的に利用されていることを示しています。そして、その支援を行っていたのが――」
「待ってください!」
ディアナが突如声を上げ、会場の視線を一身に浴びた。その目にはわずかな焦りが見えたが、すぐにいつもの柔らかな笑みを浮かべる。
「殿下、私にも話をさせていただけますか?」
「どうぞ」
アルフォンスは静かに頷いた。ディアナは一歩前に出て、会場中に響くような声で話し始めた。
「このような証拠が出されたこと、とても驚いています。ですが、それが本当に私に関係するものであるなら、ぜひ精査させていただきたいと思います」
その言葉に、会場の空気が微妙に変わった。彼女の毅然とした態度に、周囲は一瞬彼女を擁護するような視線を送る。
(そうはさせない)
レティシアは一歩前に進み、声を上げた。
「では、その証拠について直接聞かせていただきます。ディアナ様――この契約書に記された署名は、あなたのものではありませんか?」
その言葉に、ディアナの微笑みがわずかに引きつった。
(ここからが本番ね……)
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