十八歳で必ず死ぬ令嬢ですが、今日もまた目を覚ましました【完結】

藤原遊

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午前の光が柔らかく揺れる中、私は母とともに教会へ向かった。

今日は季節ごとの慈善バザーの日。
教会が中心となって地元の産品や手仕事を販売し、その収益を孤児院や施療院へと送る恒例の行事だった。

これまで何度も参加してきた――そのはずだったのに、
門をくぐった瞬間、私の胸にはひとつ、かすかなひっかかりが生まれていた。

(……何かが違う?)

言葉にできない。
でも、肌で感じる。

神殿前に並ぶ若い神官たちの挨拶。
布地の陰から聞こえる信徒たちの声の調子。

「いらっしゃいませ、ノクターン様」

「ご慈悲に感謝を――」

敬意に満ちた言葉は、以前と変わらない。
けれど、その目の奥にあるものが――ほんのわずかに、異なるような気がした。

それは、敬遠でも、侮蔑でもない。
かといって、単なる丁寧さでもない。

……信仰、に似たもの。

「エルセリア?」

母の声に我に返る。

「ええ、大丈夫よ。少し、見慣れたはずの場所が違って見えただけ」

母は微笑みながら、並んだ草木染の布に手を伸ばした。
小さな会話をしながら、私たちは境内をゆっくり歩いていく。

出店の棚の間を抜け、回廊の奥へ差しかかったとき、
ふと視線を感じて顔を上げると、
向こうの柱陰にいた若い神官が、小さく会釈をしてから――
まるで、畏れるように、ひざを折った。

「……?」

私はその意味を測りかねて、何も言えなかった。
声をかけようとした瞬間には、彼はすでに立ち上がり、姿を消していた。

(私、何かしたかしら)

いいえ、していない。
少なくとも“この人生”では、何も。

でも、
何かが動き始めている。

目に見えるものではない。
でも確かに、空気が変わったのだ。

この教会で――私の、知らぬところで。

「……お母さま」

「なあに?」

「このバザー、今年は……ほんの少し、静かですね」

母は驚いたように眉を寄せ、それから微笑した。

「そう? 私はむしろ、落ち着いていて良いと思うけれど」

落ち着き。
そう、たしかにそう。
けれどその“落ち着き”には、何かが孕まれていた。

胎動のような。
土の下で芽吹く、まだ名もなき何かの気配。

私はそっと息をつき、胸元の十字に触れた。

(知らずに済むなら、それでもいい。
でももし――必要があるのなら、私は目を逸らさない)

教会の鐘が、昼の刻を告げていた。
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